真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
「夕」
「どうしたアイ······って、何持ってるの?」
「スーパーの福引きで当たった」
星漿体の件が無事に解決し、夏油についても一先ず大丈夫と結論を下した僕は、久しぶりの長期間芸能界に戻り、先日夏の舞台公演の千秋楽を迎えた。
その間も何度か連絡をして確認した限りでは何の問題もなく、拍子抜けするほどの平穏が続いていた。
そんなわけでまたアイが隣にいる日々に癒されていたところ、彼女が何やら持ってきた。
「無料の宿泊券かな······? 名前の語感からして旅館だと思うけど、聞いたことないな······」
まあ、スーパーの福引きの景品なんだし、少なくとも悪いものではないだろう。
それより今優先して考えるのは隣で期待するように僕を見てくる彼女だ。
身長差があるから必然的に僕を見上げ、上目遣いになるアイの瞳に心臓が跳ねるのを感じる。
「·········いきたいの?」
「うん!」
「そっか······まあ、僕もしばらくオフにしようと思えばオフにできるから大丈夫だけど、アイは今後のスケジュールとかどうなの?」
元気よく答える彼女に尋ねる。
B小町も大分メディアへの露出が増えてきたから、それ次第になるだろう。
「え~と······ここら辺は空いてるよ!」
「結構空いてるね······」
「なんか売り出しの戦略上······? とにかく、そのお陰でしばらく休みなんだ。そんな時にこれが当たったから、これはいかないと!って、なったの」
可愛らしいデザインのスケジュール帳を僕に見せながらアイは朗らかに笑う。
「なるほどね······じゃあ、そこら辺で予定を組もうか······うーん」
「どうしたの夕?」
「いや、この券、最大四人までいけるみたいだからさ······」
「そうなの?」
「そうみたい」
「残り二人、夕は誰か誘いたいの?」
「うん、結構いきなりだからダメ元だけど······」
スマホを取り出し、電話をかける。その相手は────
「あっ、姉さん? 今大丈夫?」
○ ●
「────まさか本当に予定が合うとは······」
かなり急な話だったのに、真昼と周の両名とも、二つ返事を返してきた。
「ふんふんふ~ん♪」
「ご機嫌だね、アイ」
「だって夕の家族とようやく会えるんだもん♪」
二人の参加が決まってからのアイはとにかくご機嫌だった。
当日を迎えた今日、先に顔合わせということで僕とアイは二人の住むマンションに足を運んでいた。
「お~、ここが夕が生まれ育った家か~」
「どこにでもあるマンションの一室だけどね······」
何やら期待が凄いアイに苦笑しながら大したことないと伝えつつ、二人の待つ部屋に向かう。
「────さて、心の準備は大丈夫そうかい?」
「うん」
「じゃあ────ただいまー!」
「お邪魔しまーす!」
見慣れたようで懐かしくもある玄関の鍵を開け、中に入る。
興味深そうに家の中を見回すアイを横目にスリッパを出そうとしたが、既に自分のも含めて出されていた。
こっちに向かう前に連絡を入れたから真昼が出したのだろうと考えていると、リビングから二人が顔を覗かせた。
「おかえりなさい、夕」
「久しぶり」
「ただいま、姉さん。周はおかえりって言ってくれないの?」
「いや、ここは俺の家じゃないし······」
「僕にとって二人のいる場所が実家なんだけどな~」
「······おかえり」
「ただいま! お父さん、お母さん」
「「誰が父親(母親)だ(ですか)!」」
「だって彼女のことを聞いてくる二人は完全に親みたいだったじゃん」
そんなやりとりをしてると、真昼がハッ、としたような表情になる。
「ご、ごめんなさい······私たちだけで話してしまって······」
「あ、いや、大丈夫······です」
「そんなに畏まらなくて大丈夫ですからね?」
「そうそう、どっちかと言えばそれは姉さんの方だから。固くならないでいつも通りにしな? 年上だけど姉さんも周もそんなの気にしないから」
「う、うん······」
家に上がった時は大丈夫だったが、やはり実際に対面してぎこちない様子のアイ。
「初めまして、私は椎名真昼と申します。ご存知かと思いますが夕の姉です。こちらは藤宮周くん、私の恋人です」
「よろしく」
「恋人? 夫婦の間違いじゃない?」
「······いちいち茶化すなよ」
それを見て少し緊張が解けたのか、変装として被っていた大きめの帽子をとり、挨拶をする。
「夕の彼女の星野アイです。その······アイドルやってます」
「アイ······」
「ドル······?」
思わぬ情報に顔を見合せる二人を見て僕は────
「というわけでこちらが今僕が付き合ってる彼女で現役アイドル、B小町のセンターを務める星野アイでーす!」
○ ●
「まさか弟の恋人がアイドルだとは······」
あの後、いつまでも玄関で立ち話もあれだと、リビングに移動した。
僕とアイの対面に座る二人、特に真昼の方は未だに驚きが色濃い。
「その······夕のお姉さん?」
「あっ! べ、別に駄目とかはないんですよ! ただちょっと驚いただけで!」
慌てたように手をわちゃわちゃさせる真昼。
「いや~予想以上にいい反応~」
「······いい性格してんなお前は」
「周の方はどうなの? 驚いた? それとも予想通りの人物だった?」
「全然予想外だよ······それよりも────」
と、周が口火を切る
「夕と······星野さんも大丈夫なのか? 俺も別に反対する訳じゃないけど、こう······色々あるだろ?」
「うん、ぶっちゃけあんまり大丈夫じゃないね。バレたら普通にアウト。────でもまあ······」
三人の視線を受けながら僕は自分の気持ちを正直に言葉にする。
「それでも、アイと一緒にいたいと思ったから、この先の人生、全部かけても惜しくないって思ったから······それぐらい、彼女のことを愛しているから、だから────大丈夫」
そうやって笑って、僕は言い切った。
「けど、それで二人には迷惑をかけるかもしれない。そこに関しては本当にごめん」
そう頭を下げると、隣に座るアイもそれにならった。
「いや、頭を上げてくれマジで······これじゃ俺が悪いみたいじゃねぇか。別に反対はしないって言っただろ? それにお前のあんな顔見て反対したら罪悪感で死ぬ」
「······僕の顔?」
「気づいてないのか? 少なくとも俺が今までで見たことないくらい、スゲーいい笑顔で星野さんのことを話してたぞ?」
えっ、何それ、なんか恥ず······。
真昼もなんか滅茶苦茶頷いてるし。
そんなことを思っていると────
「あの!」
アイが声を上げた。
「その······」
元来彼女は人付き合いが得意とは言えないが、それでも必死に言葉を探す。
僕の家族とはいえ、初対面の相手と言っていい二人に嘘ではなく、本心で話すために。
「────私は、夕みたいに頭は良くないし、抜けてて、不器用で、無責任な人間で、きっと夕に助けられてばかりだけど······」
そんなことはない。
そう言うのは簡単だけど、あえてここで僕は見守った。
ただ、手を握るだけに留める。
もう彼女は自分の心をしっかり口にできる。
あの日僕を引っ張り上げたように、アイは既に誰かの心に寄り添えることもできる人間なのだから。
────頑張れ、アイ。
「!────」
それが伝わったのか、それともただ握った手に反応したのかはわからないが、アイはこちらを向いて少し驚き、そして微笑む。
「そんな私だけど······嘘ばかりの私だけど、この気持ちは嘘じゃない。私は夕のことを愛してる」
胸に手を当ててアイは一つ一つ想いを言葉にしていく。
「────夕と一緒にいて初めて知った『愛』。そうやって見つけた『愛』を、私も夕にあげたいし、私は欲張りだからもっと夕からの『愛』も欲しい」
────だから私に夕をください。
○ ●
うん、まさか本当にそれを言うとはね。前にそう言ってたけど、本当に言ったよ······。
愛されてる自覚はあったし、対価によって左右されるものではないけど、それに見合った愛を僕も彼女に注いできたと思う。
(報いないとね······ちゃんと)
このまま行けば恐らく夏油が呪詛師に堕ちることはないし、そうなれば当面は平穏な日々となるはずだ。
となると、いよいよ呪術師としての椎名夕のことについても話すべきかと思った。
死ぬつもりはないが、やはり何が起きるかはわからないし、来る未来に対して動くとしても、いつまでも呪術のことを黙ってるのは流石に不義理だろう。
そんなことを考えていると────
「星野さん······いえ、アイさんと呼んでも?」
「え? あ、はい······」
「ではアイさんと······。────改めてありがとうございます。夕のことを支えてくれたこと、本当に感謝します。そしてこの子のことを愛してくれる人がいることを姉として、家族として本当に嬉しく思います」
真昼は嬉しそうに笑っていた。そんな彼女の様子に自分は本当に恵まれているのだと強く思う。
「当然、交際については反対もしません。迷惑についても気にしないでください。そんなこと思いませんし、それを支え合うのが家族ですから」
「家族······」
「はい、家族です。だからアイさん、夕のことをお任せします。そして────これからよろしくお願いしますね」
すべてを受け入れ、包み込むような笑顔を浮かべ、真昼は手を差し出す。
それにアイは慌てたように手を伸ばし────
「はい······えっと、不束者?ですが、お願いします」
そう言って頭を改めて下げた。
「はい、お願いしますねアイさん。それと敬語とかも無理せず使わないで大丈夫ですよ?」
「わかりま·····わかった。えっと······真昼、さん?」
「少し呼びづらそうですね。呼び方についてもアイさんの好きな様に呼んでもらって構いませんよ」
「えっと·········じゃあ、その······」
「はい」
「────お姉、ちゃん······?」
「────」
何か真昼が静止した。
「あ、あれ? その······ダメ、かな?」
「······」
「姉さん·········? 周、ちょっと姉さん揺すって」
「お、おう······。真昼·········真昼?」
「はっ!」
「あ、やっと気づいた」
そういえば真昼、子どもの頃······それこそ小学校入学前くらいまでは双子とはいえ結構僕を強く弟扱いしてたな。
僕がこんなんであんまり姉みたいなことができなかったし、もしかして『お姉ちゃん』呼びが刺さったのかな?
「────もしかしてその呼び方気に入ったの?」
「え! いや、その······まあ······」
「気に入ったんだね。良かったねアイ?」
「う、うん······本当にいいのかな?」
さっきの反応を思い出してかアイが聞いてくる。
「いんじゃない? でも────ふむ······」
「何で俺の方見てくんだよ······」
「いや、姉さんが『お姉ちゃん』なら、周は『お兄ちゃん』かなと思って」
「はっ? お前何言っ「お兄ちゃん?」·········その呼び方結構くるな······」
「良かったね二人とも。可愛い妹が出来て」
未知の感覚に戸惑う二人を見て、僕はケラケラ笑った。
もちろん普通に嬉しい気持ちはある。
大切な彼女が家族に受け入れられるのは、本人だけでなく僕自身も安心する。
(いつまでもこれが続いて欲しいなあ······)
幸せな景色がさらに幸せなものとなるのを見て、僕はそう強く思った。
○ ●
「────本当にお前は愛されてるな······」
「そだね~」
あの後、少しずつ打ち解け、談笑し始めたアイと真昼。
それを見ながら僕と周も話していた。
「······かれこれ一時間近くお前のことを話してるよな。本人としてはいいのか?」
「いいって、何が?」
「いや、丁度昔の夕のことを真昼が話してるけど、何か思うとこはないのかなって······」
「ああ、そういうこと」
気づけば真昼のアイに対する呼び方は『アイさん』から『アイちゃん』に変わり、姉妹のように話す二人は、絶賛共通の話題になりやすい僕のことを語っている。
「うーん······自分で言うのもあれだけど、ぶっちゃけ僕って、昔も今もあんまり変わってないと思うよ。口調とかは多少変わってるけど」
「あー······何だろう、滅茶苦茶想像できるなそれ」
そう、今も昔も結局のところ僕の目指すものは変わってない。
だから必然的に僕自身も実はそう変わってないのだ。
でも────
(欲しいものが増えたりはしたね······。誰かさんみたいに欲張りになっちゃったからかな?)
困ったことに、彼女に僕はすっかり絆され、ついでに毒されもした。
まあ、きっとそれは惚れた弱みみたいなものなのだろう。
そう思いながら僕は立ち上がった。
顔合わせは無事に終わった。
もちろんこれは大事なことであったが、今回のメインはそれではない。
そんな訳で可愛いお姫様のご要望のために、そろそろここを出ないといけない。
「────アイ、姉さん、周、そろそろ行こうか。楽しい楽しい旅行の始まりだよ」
椎名夕
この度貰われた人。
改めて彼女の想いに報いないとなと決意を新たにした。
この旅行が終わったら呪術師のことを話す予定。
星野アイ
恋人の家族に男らしい挨拶をした人。
無事に受け入れられて安心した。
夕と真昼の似てなささ(色んな意味で)に驚いたし、実は緊張した原因の三割くらいはそれ。
椎名真昼
弟の彼女がアイドルと知り驚いた人。
でもしっかり夕のことを見てくれて、愛してくれてもいるようなので安心。
お姉ちゃんと呼ばれて凄く嬉しい。
藤宮周
この度アイドル(にお兄ちゃんと呼ばれた)が妹になった人。
バレたらある意味一部の層からは夕よりもヘイトを買う可能性あり。
アイのことを知ったら自身の母親がどうなるかとか考えた。