真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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ふと思ったが、このままいくと三章のボリュームがかなりヤバそう。
まだまだ描きたいこと、描かなければならないことが結構あるのに······


第三十二話○

 

「·········」

 

 

 目が覚めた。

 見慣れない部屋を見回し、旅行中であることを思い出す。

 いつもとはちょっと違った朝。

 でも隣に彼女がいるのだけは変わらない。

 幸せそうに眠るアイを見て、自然と顔がほころぶのを感じる。

 

 

「────おはよう、アイ」

 

 

 まだ夢の中の彼女に声をかけ、軽くおでこに唇を落とす。

 どうやら旅行とあって僕は僕でそれなりにテンションが上がってるらしい。

 最後にアイの頭を撫でると僕は布団から出る。

 

 

 旅行二日目はこうして始まった。

 

 

  ○ ●

 

 

 とはいえ、まだ誰も起きてないからちょっと手持ち無沙汰だ。

 そんなわけで書き置きを残して僕は朝の散歩に出かけた。

 

 

 僕たちが訪れた旅館、というよりその周辺は良く言えば長閑とした落ち着いた場所、悪く言うなら閑散とした何もない場所で、特出したものはなく、観光地とさえ言えるか怪しいところだ。

 強いて言うなら温泉とかがあるのが特徴と言えるだろうが、正直日本だとそう珍しいものではない。

 

 

「まっ、だから僕とかはそこまで気兼ねなく過ごせるんだけどね」

 

 

 人も少なく、そこに住む人間も全体的に年齢が高いとあって僕やアイに気づく様子はない。

 もちろんもしもに備えてアイといる時には術式を使ってはいるが、そこまで気を張る必要がないから結構安心して羽を伸ばせる。

 そんなことを思いながら澄みきった朝の空気を楽しんでいると────

 

 

「ねぇ、聞いた? 伊藤さんの話」

「聞いたわ。この前は江口さんもだったわよね?」

「ええ、最近多いわよね。他にも最近は倒れたり······不幸なことにそのまま亡くなったって話も聞くけど······」

「ほとんどはかなり高齢だし、たまたま時期が重なったって言ったらそれまでだけど······」

「······やっぱりあの噂は本当なのかしら?」

 

 

(噂······?)

 

 

 ちょっと聞き耳を立てていると、気になる話題が出てきた。

 

 

「そうだったりしたら怖いわよね······何せ────」

 

 

 そのまま次の言葉を待っていたがしかし、それは遮られた。

 

 

「貴女たち、何を話しているのですか?」

 

 

「お、女将······」

「いえ、その······」

 

 

 姿を見せた女将に動揺する旅館の従業員二人。

 

 

「────あの噂のことですか?」

「······はい」

「すみません······」

 

 

 謝る二人に仕方ないとため息をつきながら女将は言う。

 

 

「確かに噂が気になるのはわかります。仮にそれと最近の出来事とどう関連していたとしても、その出来事自体は実際に起きていますし、不安になる気持ちもわかります。────ですが、お客様をおもてなしする私たちがそれに踊らされ、それらを疎かにするようなことはあってはなりません。ましてそれを聞かれてお客様に不安を与えるなど以ての他ですよ」

 

 

「申し訳ありません」

「まだ朝早い時間とはいえ軽率でした」

「わかればいいのです」

 

 

 さあ、仕事に戻りなさい、という女将の言葉に二人は頭を下げてその場を立ち去っていく。

 

 

「······」

 

 

 それを見て、これ以上は何も知れないと判断した僕は、そろそろ三人が起きる頃だろうという思いもあり、部屋へと戻った。

 

 

  ○ ●

 

 

「────あ、これ美味しい。ほら、夕も」

「ありがとうアイ······うん、いけるね」

「でしょでしょ」

 

 

 あの後、部屋に戻ると起きていた三人が話していて、そのまま僕もそれに加わって今日の予定を話し合った。

 ちなみにアイは一人で散歩に行ったことを少し不満そうにしていた。

 

 

「······旅館で出た料理もだけど、意外とここら辺の食べ物うまいよな」

「そうですね······一部のものに関しては再現できそうですし、帰ってみたら作ってみましょうか?」

「いいのか?」

「はい」

「ん、ありがとう真昼。いつもありがとな」

「ふふ、私が好きでしていることですから」

 

 

 二日目の今日は観光ということで食べ歩きになった。

 朝食を軽めにとり、少し休んだ後にこうして歩いて店を回っているが、周の言う通り意外と当たりが多い。

 温泉街とでも言うべきか、その雰囲気とも相まって色々と味があった。

 

 

「────ん? へぇ~······」

「どうしたの夕?」

「ほらこれ、ちょっと気にならない?」

「甘味処?」

「うん。でもただの甘味処じゃなくて足湯しながら食べられるみたい。姉さん、周も良かったらここ入らない?」

 

 

 二人も反対せずに了承してくれたので、そのまま中に入る。

 

 

「夕はどれにするの?」

「意外と色んな味があるね······二人はどうする?」

「俺は抹茶」

「私はイチゴですかね」

 

 

 ソフトクリームの味で悩みつつ、各々で違うものを選んだ。

 ちなみに僕はコーヒーで、アイはシンプルにバニラだった。

 

 

「うん、中々に新鮮だ」

「足湯だけでも気持ちいいね~」

 

 

 足をぬるま湯に浸けながらソフトクリームを食べる体感温度の変化を楽しみつつ、少しずつ食べ進めていく。

 

 

「周、ちょっとそれちょうだい」

「別にいいけど、コーヒーからの抹茶って合うのか······?」

「さあ······?」

 

 

 そう言いつつ、周はスプーンで掬ってソフトクリームを差し出してくるので、ありがたく口にする。

 

 

「ん、流石周」

「何で俺を褒める?」

「周の顔見てたら満足そうだったから。周ってかき氷とかも宇治金時あるなら頼むし、こういう抹茶系ので周がそうなるなら外れはないって思ったから。実際うまかった。────僕のも食べる?」

「ん」

 

 

 そんなやりとりをしてると、アイと真昼が何やらひそひそ話していた。

 

 

「? どうしたの二人とも?」

「いえ、随分と自然にシェアしてるなと······」

「夕も、お兄ちゃんも、まったく抵抗なかったよね」

 

 

 再び自分のソフトクリームを口にしながら周と顔を見合わせる。

 ふむ、これは······

 

 

「「食べる(か)?」」

 

 

 どうやら正解だったらしく、破顔しながらシンクロしたように二人はパクッとソフトクリームを食べた。

 それを見て周と少し笑い合った。

 

 

「······二人とも何がおかしいんですか? そもそもこういうのは普通最初は恋人にやるものでは?」

「言われてるよ周?」

「お前が最初に俺のを欲しいつったんだろ······」

「それを断って最初に姉さんにあげないとそこは」

「地味に理不尽なこと言ってる自覚あるか?」

 

 

 ひでぇ責任転嫁だと周は嘆いた。解せぬ······。

 それにしてもまさか同性なのに嫉妬されるとは······。

 まあ、そんな二人も可愛いと僕は思います!

 

 

「······お姉ちゃん。もしかして私たちに恋敵が現れた時に可能性が一番高いのってさ······」

「ありえますね·····」

「「いや、それはない」」

 

 

 否定するが、何故か二人はよりジトーとした目で見てくる。

 

 

「夕は付き合う前は私に食べさせられるの渋ってたくせに······」

「付き合う前ならそれが普通じゃない?」

 

 

「周くんはまだ時々恥ずかしがったりしますよね?」

「いや、それは······って、何笑ってんだ夕」

 

 

 アイの方を躱しつつ、詰め寄られる周を見て笑ってたら、目敏くそれに気づいて睨んでくる。

 そのまま四人であーだこーだ言い合いながら、ゆっくりと時間を溶かしていった。

 

 

  ○ ●

 

 

 それからまたしばらく色々と歩き、僕たちは束の間の時間を楽しんだ。

 あまり目を惹くものはない場所だが、意外と過ごしてみると時間はあっという間に流れた。

 

 

「────うん、お土産はこれくらいかな」

 

 

 ちょくちょく休みを挟みつつ一通り見て回ると、僕たちは各々の知り合いに買って帰るお土産を見繕っていた。

 ちなみに今回の旅行は二泊三日で、明日の午前には帰る。

 初日は顔合わせと移動だったため、実質的な観光は今日だけだ。

 

 

「······温泉饅頭とか、他にもお菓子の詰め合わせは定番だけど、何でそんなコーヒーを買ってるんだ? 明らかに一人······仮にアイさんを含めたとしても二人だからすぐには消費できなくないか?」 

「何か甘いものより、こっちの方が喜ばれんだよね~」

「そうそう。うちの事務所皆コーヒーが好きなんだよお兄ちゃん」

 

 

 そういうもんか、と首を傾げる周に肩をすくめつつ、僕たちはどんなお土産を選んだかを話し合う。

 

 

(そういえば······いくつか臨時休業の店があったな······)

 

 

 お土産のことを話していたからか、ふとそんなことを思う。

 色々と店を見て回る中で、臨時休業の張り紙がされた店がそこそこの頻度で目についたからだ。

 もしかして今朝言ってた倒れた人の店かなと思いながら、旅館への帰路を歩く。

 何となく、もやもやとするのを感じながら、顔に差す西日に少し顔をしかめた。

 

 

「────夕?」

「······何でもないよ。それによりどうかした?」

「うん、あのね────」

 

 

 アイに声をかけられ、それに応じる。

 そうやって話す内に、胸のもやもやは消えていった。

 

 

  ○ ●

 

 

「蛍?」

 

 

 旅館に戻り、夕食を終えて休んでいると、周と散歩してきた真昼がある提案をしてきた。

 

 

「はい。まだここら辺では見れるそうですし、お風呂入る前に行ってみませんか?」

「いいんじゃない?」

「うん、私もいいと思うよ」

 

 

 というわけですっかり日の落ちた空の下を僕たちは今歩いている。

 

 

「昨日の夜は旅館にいたから気づかなかったけど、やっぱり東京とは違うね。街灯とか全然なくて暗いや」

「まあ、だから蛍が見られるんだろうけどな」

「僕はどっちかといえばこっちの方が好きだったりするけどね~」

「何でですか?」

「えっ、だって東京だと色々と集まってくるじゃん」

「ええと······街灯とかに虫が集まってくるっていいたいんですか?」

 

 

 そうそう~、と僕は相槌を打っておく。

 他にも呪霊とか呪霊とかねー。

 まあ、アレは人の負の感情の集積だから、厳密にはあそこで生まれてるって言う方が正しいかもしれないけど。

 

 

「────そういえばこの先で蛍が見られるの?」

「ああ、旅館の人が教えてくれたが、この先に神社があって、そこで見られるらしいぞ」

「へぇ~、蛍って川とかの近くにいると思った」

「確かにそういうイメージはありますね」

 

 

 

 

「·········」

「夕? どうしたの?」

「······いや、何でもないよ」

「そう?」

「うん。ちょっと今回の旅行を振り返ってボーッとしてただけだから」

 

 

 いけないいけない、神社と聞いてどうしても呪い関連に思考が行ってしまった。

 それを隠すように笑いながらかぶりを振ると、幸い特に何も言われず納得してくれた。

 

 

(職業病だね······)

 

 

 内心で苦笑しつつ、今を楽しもうと切り替える。

 

 

「────ねぇ、あそこ、車が停まってない?」

「本当ですね······」

 

 

 しばらく歩いていると、神社に続く階段前に車があった。

 それを三人は場所を考えると珍しいなと思っているようだ。

 

 

(あのナンバーは······)

 

 

 見覚えのあるそのナンバーを記憶の中のそれと照合していく。

 

 

「すみません、失礼ですがあなた方はこの上の神社に何かご用で?」

「はい、そうですけど······何かあったんですか?」

 

 

 すると、車から顔見知りの補助監督が降りてきて話しかけてくる。

 周が代表して話すが、ある意味お互い少し警戒してるせいか顔が固い。

 

 

「ええ、実は野生のイノシシが出たみたいで、それの対応にあたっているんですよ。なので申し訳ないのですが、立ち入りの方はさせられないのです」

「そうなんですか······わかりました。残念ですが引き返します」

 

 

 正直いささか首を傾げる言い分だが、呪い関連は意外とこの辺結構ガバガバで、表の権力で押し通すことも多々ある。

 三人も少しおかしいと思ってるかもしれないが、別にここでリスクを犯す理由はないため、おとなしく帰る姿勢をとる。

 

 

「申し訳ありません。どうぞお気をつけ────ッ!!!」

 

 

 しかし、事態は急変する。

 明らかに異常とわかる轟音が上から聞こえてきた。

 それと同時に強まる呪いの気配。

 

 

「これはイノシシ云々じゃ誤魔化せませんね。少なくとも当事者として居合わせた人間には無理でしょう」

 

 

 もともと近い内に言うつもりだったのだ。

 だから僕は介入を決め、術式で誤魔化していた認識への干渉を止める。

 

 

「ッ!? し、椎名準一級術師ッ!?」

 

 

 幸い補助監督の方も僕の顔を覚えていたらしく、驚きの声を上げつつ、こちらを正しく認識した。

 アイ、真昼、周も事態の急変を察しつつも、動揺している中で呼ばれた僕の名前に困惑する。

 

 

「とりあえずこの件について簡潔に教えてください」

「は、はい······ええとですね────」

 

 

 三人には悪いが、今はこちらを優先するためにそのまま補助監督に問いかける。

 だが、任務内容と派遣された術師の名前を聞いて────

 

 

「ッ!? 三人をお願いします!」

 

 

 僕は駆け出した。

 後ろから誰かが名前を呼ぶ。

 しかし僕はそれを振り切り、さらに加速していくのだった。

 

 

 

 




駆けた先、そこにあるものは······
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