真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
長くなって、二つに分けて描いてたら予想以上に時間がかかりました。
「ここは······」
目が覚めたら微妙に見慣れた天井があった。
というより普通に高専の医務室だった。
はて何で旅行中の自分がここにいるのかと首を傾げていると────
「ん······」
何故かアイがいた。高専にアイがいた。どういう状況だこれ?
すぅすぅ、と寝息をたてる彼女の頭を撫でながらぼんやりと考えていると、少しずつ認識が追い付き始める。
「あー·········あの後意識失ったんだっけ······?」
朧気な記憶を辿り、一番最新の記憶を引っ張り上げる。
そうだ、あのクソほど僕と相性の悪い行動をしでかした呪霊を祓うためにかなり無理をしたんだった。
それを思い出して顔をしかめていると、入口のドアが開く。
「────あれ、夕先輩起きてたんすか?」
「家入がいるとなるとやっぱここ高専かー······わかってたけど」
うわー絶対説明すんのダルい奴ー、などと思った。
何に対してだって? 色々だよ。
「はぁ······僕が倒れてからどうなったかわかる?」
「車飛ばして高専に直行したみたいですよ? 私もそれで起こされて、運ばれてきた先輩の治療をしました。といっても治すところなんてほとんどありませんでしたけど」
この後のことを考えて重いため息をつきながら、あの後のことを尋ねる。
どうやら僕が倒れたせいで色々と迷惑をかけたらしい。
意識を失ったのは単なる疲労みたいなものだから、家入からすると起こされ損だったかもしれない。
「······一応聞くけど何日も寝てたとかはないよね?」
「普通に運ばれてきたのが今日の夜中で、今は昼くらいですね。あっ、ちなみに先輩のご家族は別室で休んでます。仮眠とるって言ってましたけど、もう起きてるかもしれませんね」
「姉さんと周のことだね? わかった、僕の方で確認しに······いけないねこれだと」
ベッドから降りようにもアイが腕に抱きついているため、動くに動けない。
「ずっと心配そうに付き添ってましたからね~。彼女さん、ですよね? 前に話してくれた」
「その話をした時は付き合ってなかったよ······」
「でも今は付き合ってるんでしょ? というかそれで違うって言ったら驚きです」
「······」
まじまじと腕を拘束している彼女を見ながら家入はそう言ってくる。
別にアイとの関係については今さらだが、改めて言われると居たたまれないというか何と言うか、とにかくそれに僕は渋い顔を浮かべる。
「家入·········ちなみに、あの二人は今どこに?」
「どっちも朝イチで任務にいきましたよー」
ある意味これが一番重要なことなので覚悟を決めて聞くと、意外なことに二人とも高専にいないらしい。
正に不幸中の幸いと言えるだろう。天は僕に味方────
「────まあ、そんなに時間かからない任務みたいなんでそろそろ帰ってくると思いますよ?」
しなかった。
一転して僕の頭の中で見えないタイムリミットが動くのを感じる。
「くっ······! 家入! 車の手配を頼む! 僕はその間に彼女と、別室の二人を起こしにいく!」
「必死ですね。普通に諦めたらどうですか?」
「······家入から見て僕の家族はどう感じた?」
「まあ、普通ですね。良くも悪くも一般人って感じでした。まだ最低限の会話しかしてないんでそれしか言えませんけど」
「あの二人と会わせたらどうなると思う?」
「ロクなことにならないと思います」
「うん、わかってくれて何より。そんなわけだ家入、後生だから手を貸し────」
貸してくれ、そう言おうとした。
しかし、部屋の外からドタバタとした足音と、騒がしい声が聞こえてきた。
「────センパ~イ! 起きてる~?」
勢いよくドアを開き、五条が入ってくる。その後ろには柔和な笑み────の下に隠しきれない好奇心を見せる夏油と、同情的な七海、僕が起きてるのを見て嬉しそうな顔をする灰原がいた。
加えて────
「「何事だ(ですか)!?」」
騒ぎを聞きつけたのか、そこに真昼と周まで来る始末だ。
アイはこんな状況なのに未だに寝ており、家入は「一気にカオスになったウケる~」などと言っていて、事態の収拾がつきそうにない。
「帰りてー·········」
僕はそれしか言えなかった。
○ ●
「悟~、結果的に起きてたとは言え、そんな大声出しながら部屋に入るのはどうなんだい?」
「はぁー? 傑だって止めなかったじゃねぇか。そもそも『六眼』でセンパイ起きてるのはわかってたし」
「だとしても、せめてノックするのはマナーだと思うよ。先輩のご家族もいるかもしれないのに」
「あー、はいはい、正論正論────」
「······まったくこの人たちは」
「あはは······」
「ゆ、夕······? あの、大丈夫ですか······?」
「······大丈夫じゃないかも······マジで頭痛ぇ······」
一気に増した部屋の人口密度に遠い目をしていると真昼が声をかけてくる。
真昼も頭痛の種が何となくこの状況だと察しているのか、何とも言えない顔をする。
というかこいつら病人の部屋に来といて騒ぐなよ······
未だにあれこれ言い合ってるのを横目に、僕はいつの間にかそばにやってきた真昼と周に対して口を開く。
「────ごめん、黙ってて······心配もかけた······」
「······そうですね、心配しました。私も、周くんも、アイちゃんだって」
「うん·········」
「でも────頑張りましたね」
「······」
「あの後、少しですが聞きました。呪術や呪霊と呼ばれるものについて、そして夕がその中で頑張ってきたことも」
「······別に僕なりの道を歩むために必要だっただけだよ」
少なくともこうして高専に通うつもりなど最初はなかった。
たまたま自分が呪術師だとバレてしまい、このまま立場が定まらぬまま呪術を使うのは色々な意味で危ないと言われ、なし崩し的に入学した。
役者を続けるためにと必要以上に柵を抱えたり、それらと他の要因が重なったりして一度は倒れたこともあった。
それでも、欲しい未来のためにと走り続けた。
そう思えたのは、ここで出会った人たちの日々と、そして何より────
「んん······────夕?」
「ああ、アイ、起きた?」
「夕っ······!!!」
「おっと······!」
目を覚まし、僕の胸に飛び込んでくるアイ。
それを受け止め、彼女の背中をさする。
────そう、アイがいたからだ。
僕を支えてくれたアイが、そのアイが未来を語る時の目があまりに綺麗で、思わず自分もと、そんな風に考えてしまったから────この場にいる全員とそんな未来を迎えたいと思ったんだ。
『────私は欲張りだから全部欲しい』
いつかの彼女のセリフが蘇る。
その言葉を実現するために僕は────
「······私は、夕がやってきたことを、それが具体的にどんなものなのかも知りません。でも────」
すると、真昼が先ほどの続きと思われる言葉をかけてくる。
そしてアイや駆けつけた五条たちを一瞥し、さらに続ける。
「これだけの人に慕われているあなたを誇りに思います。まあ確かに私たちに黙っていたことに対して言いたいことはありますが、それでも負い目を感じる必要はありませんよ。夕、あなたはたくさんの人を助けてきたのでしょう?」
「······別に善意からの行動じゃないよ。さっきも言ったけどそれは僕のためだ。僕なりの思惑があってやってきたし、これからもそうすると思う」
「だとしても、です。それに、本当に打算でしか動いてなかったのなら、こんなに人は集まりませんよ。夕が倒れた時、そしてここに運ばれた時、皆さん本当に心配してましたからね」
「······」
「はぁ······まだ納得しませんか? アイちゃんから聞いてましたが、本当にこういう時は強情ですね。まったく────」
「······何で頭撫でるの?」
そう質問すると────
「夕の自分に対する評価が低いからです。普段はあんな感じなのに」
「いや、だからって·········アイ、何で君も便乗してくるの?」
「撫でたいと思ったから······?」
何故か起きたばかりで話の内容を掴めてないはずのアイまで頭を撫でてきた。
「────それに······これでも安心したんですよ? 夕は人付き合いを大事にしてはいますが、特定の人以外にはかなり割り切ってますし、その人のことに関しても何かと一人で背負い込みますからね。だから私たちとは違う意味で、気の置けない関係を築けていてほっとしました」
「なるほど······周、これが前に言っていた姉さんのオカンな部分?」
「何でそこで俺に振るんだよ······」
「ずっと空気になってたから······?」
「······」
「? 何で何も言わないの?」
「······最近思ったけど、お前が時々ズレたこと言うのって照れ隠しだったんだな」
「······何のこと?」
「いや、アイさんとのやりとりを何度か見てて、お前が結構そういうやり方で煙に巻いてたから、そうなんだなって思った」
「夕?」「そうなんですか?」
二人が首を傾げながらこちらを見てくる。
「·········」
思わず僕はスッと目を逸らしてしまう。
しかしその反応が悪かったのか、二人は笑ってより頭を撫でてくる。
「······そろそろやめてくれな────何でお前も撫でてくんの周?」
「普段はからかわれることが多いからな、つい珍しくて。あと、まだ言ってなかったから、労いの意味も含めてる」
「絶対最初の理由の比重が大きいでしょ······」
「はいはい」
くっ、周め、ここぞとばかりに······。
思わずジト目気味に睨むが、柳に風だった。
両側にアイと真昼もいるせいで、振り払うに振り払えない。
「────夕」
「······何?」
「おつかれ」
周が改めて労ってくる。
それに続いてアイと真昼の二人も同様の言葉をかけてくる。
「·········ん」
結局僕は何も言えず、そんな風に応えた。
とはいえ、こうして三人に呪術師としての自分が受け入れられたのは素直に嬉しく、ほっとした。
やっぱり実際に話すのは不安も少しはあったからだ。
だが、一つ僕は大事なことを忘れていた。
「·········」
ふと視線に気づき目を向けると、そこにはいい笑顔をした後輩たちがいた。
正確にはいい笑顔(本来の意味)を浮かべているのは灰原だけだ。
七海は相変わらず同情とやや居ずらさを含んだ顔で、家入は珍しいものを見たような顔。
物凄くいい笑顔(滅茶苦茶腹立つ)をしているのは、どこぞの最強二人だ。
「······五条に夏油、今すぐその顔やめろ。あと、動画撮ってるのもわかってるからね。即刻それ消そうか?」
「「何のことだかわかんない(わかりませんね)」」
まあ、予想通りの反応だ。
言い方といい顔といい、とにかくウザイが、落ち着け僕。
「そっかー······じゃあしょうがないねー······────ところで二人とも、僕の術式は何だったけ?」
そっちがその気になら僕も手段は選ばない!
「このまま心当たりはないって知らんぷりするなら、二人の姿に化けた僕が何をするかわからないよ?」
「「······チッ」」
二人仲良く舌打ちした。
残念ながらこの手のことに限るなら術式も含めて僕の方が上だ。
もし動画を消さなければ、二人の評判を地の底まで落としてやった。
·········あれ? でもこの二人、割と周囲からの評価はもともとアレじゃね?
そんなことを思っていると、動画を消した五条が話しかけてくる。
「にしてもセンパイ、そんなに厄介な呪霊だったの? 七海と灰原から聞いた感じ、センパイなら余裕で祓えたと思うんだけど?」
「そうだね······まあ、そこら辺含めて色々話そうか。でもその前に────」
全員の自己紹介をしようか、そう言おうとしたが────
「······」
改めてこの場にいる全員を見回す。
(············このメンツの自己紹介を取り持たないといけないの? 僕が·····?)
その事実に僕は頭を抱えるのだった。