真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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四十話のデータが消えていた······だと?

マッジですみません! 頑張って記憶を頼りに描き直して、何とか明日の内には投稿します!

一先ず今日のところはこちらを投稿します。

高専にアイたち三人ともう一泊した翌朝の話です。


第三十五話裏●

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 朝、藤宮周は起床した。

 といっても起きたのは見慣れた自分の部屋ではないし、何なら寝ていたのは床の上だ。

 

 

(あー············そういえば昨日は寝落ちしたのか········)

 

 

 固くなった身体に顔をしかめながら周は身体を起こす。

 昨夜は男女に分かれて修学旅行のような状態になったのだが、夜遅くまでゲームで盛り上がり、そのまま床で寝る羽目になったのだ。

 

 

「ふわぁ······あれ? 傑もセンパイもいないじゃん。周、何か知ってる?」

「いや俺も今起きたところだから知らん」

 

 

 そんなことを振り返っていると、五条もあくびをしながら起きるが、彼の言う通り夕と夏油の姿が見当たらない。

 

 

「·········なあ、五条」

「んー?」

「夕ってどれくらい強いんだ?」

 

 

 呪いに対抗する呪いを扱う者────呪術師と明かされたはいいが、周にはそれらについて判断することはできない。本来なら昨夜それを少し深掘りして聞くつもりだったのだが、最強二人と夕がはっちゃけだし、それに対して危機を察した七海は退散、灰原は残ったがかなり早く寝落ちしたため自室に運ばれ、残ったのは周含む四人だが、内三人があれなのでお察しだろう。

 

 

(というか元気過ぎだろ。夕に至っては一応病み上がりなのに······)

 

 

 と、昨夜を思い出して若干げんなりしつつ、答えを待っていると────

 

 

「わからん」

「へっ?」

「俺も知らないしわからん」

 

 

 意外な答えが返ってきた。

 

 

「えっ······でも、五条は最強って夕は言ってたけど·········」

 

 

 そう周が言うと、五条も若干しかめっ面しながらガシガシと頭をかく。

 

 

「·········ぶっちゃけセンパイがどんくらい強いのかは俺にもわからん。強いのは確かだけど、センパイ全然底を見せないっつーか······とにかく具体的にどれくらいって言えねーんだよ。多分だけど誰もセンパイの全力は知らねーんじゃない?」

「······あいつそういうとこまで秘密主義なのかよ」

 

 

 友人兼未来の義弟のある意味らしいところに呆れながらも、何となくのらりくらりとしている夕の姿が浮かんだ。

 

 

「それよか周。二人のこと探しに行かね?」

「まあ、別にいいけど······」

 

 

 どの道やることないし、あっても結構な広さのある高専内を一人で歩くのはいささか不安なため、五条と一緒に周は部屋を出る。

 そのまましばらく歩き回っていると────

 

 

「周くん?」

「真昼か。おはよう。アイさんと家入さんも」

 

 

 女性陣三人と合流した。

 軽く挨拶を済ませると、三人ともここにいない二人に対して首を傾げる。

 

 

「お兄ちゃん、夕は?」

「それに夏油もいないな。五条、二人はどうした?」

「さぁ? 丁度俺たちも今探してるところだけ────」

 

 

 五条の声は最後まで音になることはなかった。

 突如として響いた轟音にかき消されたからだ。

 

 

 

 

「このッ······! 夏油! お前マジでいい加減にしろ!」

 

 

「先輩があることないこと好き勝手言うからでしょ!」

 

 

「知るか! この両刀使い! それは五条辺りに向けてろ! 僕に向けるな!」

 

 

「だから人の性癖を捏造しないでください!」

 

 

 音の正体は探していた二人だった。

 

 

 

 

「······何あれ?」

「夕······だよね?」

「もう一人は傑だな。何やってんだ?」

「見ればわかる、と言いたいところだけど、夏油の方はともかく、先輩がああなるって何があったんだ?」

「あの······止めなくていいんですか······?」

 

 

 夕はもちろん、夏油もしっかり術式を使っており、呪術師ではない三人には見えないが、それでも夏油の出す呪霊による周囲の破壊や、それを躱す夕の人間離れした動きを見て呆然としている。

 

 

「おい五条、お前止めてこいよ」

「えー······何かメンド臭そうなんだけど······」

 

 

 普段は自分があちら側の立場なのに、渋った様子を五条は見せる。すると────

 

 

「·········これは一体、どういう状況だ」

 

 

 ドスの効いた声、その持ち主たる高専教師、夜蛾が戦闘音を聞きつけやってきた。

 

 

「────悟」

「はっ? おい、夜蛾、今回は俺関係ねーぞ」

「······」

「いやマジだからなぁ!」

 

 

 日頃の行いか、目の前に動かぬ事実があるのに、それでも胡乱な眼差しを五条に向ける夜蛾。

 

 

「·········まあ、今回はマジで五条は無関係ですよ······多分」

「硝子、そこは言い切れよ」

「······そうか」

「おい夜蛾テメェ······」

「······まあいい。とりあえずあの二人を止める」

 

 

 そう言って夜蛾は怒声を出して叱りつけると、一瞬動きが止まった二人に鉄拳制裁をするのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

「────それで、一体何がどうしてこうなった?」

 

 

 正座をさせた二人の前に仁王立ちした夜蛾は説明を求める。

 

 

「監禁されそうになりました。夏油が自室に連れ込んで僕を部屋から出そうとしなかったんです。呪霊を使ってまで」

「だから語弊のある言い方はやめてください! 言葉選びに悪意しかないじゃないですか!」

 

 

 本人はそう言って否定するがしかし────

 

 

「え、傑お前······」

「待て悟、何故離れる······誤解だ」

「てっきり五条とそういう仲だと思ってたんだけど、まさか先輩にまで手を出すとは·········でも先輩にはちゃんと彼女がいるんだし、諦めろよ夏油」

「だからッ! 誤解だと言っているだろ硝子!」

「そうだぞ硝子」

「悟······」

「────俺だって普通に迫られるなら女がいい。いくら傑でもノーセンキューだ」

 

 

 などと、同期二人から徹底的に弄られる夏油。

 

 

「こいつらは······」

 

 

 それを聞いて頭痛そうに夜蛾は呟く。

 

 

「その······何というか弟が申し訳ありません」

「······君は、夕の姉か」

「はい。椎名真昼です」

「夜蛾正道だ。ここの教師をやっている」

 

 

 真昼と対面する夜蛾。しかしその顔はどこか後ろめたそうにしている。

 

 

「·········すまない」

「えっと······何の謝罪でしょう?」

「·········夕を、君の弟をこちらに引き込んだのは私だ。言いたいことがあるのなら甘んじて受けよう」

「······」

 

 

 真昼は少しだけ何かを考えるような顔をすると、口を開いた。

 

 

「夕は······弟は、ここではいつもあのような感じなのですか」

 

 

 そこには五条と家入と共に夏油をからかう姿があった。その光景は呪術師とか関係なく、ただ友人と戯れる学生そのものだった。

 

 

「······ああ。思えば今の高専の中心は夕だ。役者をやる傍らで呪術師をやっているから高専にいる時間は限られるが、それでもここにいる時はあんな風に誰かと笑っている」

「そうですか」

 

 

 何度か頷き、真昼は頭を下げる。

 

 

「夕のこと、お願いします」

「·········」

「ああやって夕が笑えているのなら、少なくともここの生活は夕にとって悪いものではないんだと思います。ですが私は呪術のことはわかりません。なので夜蛾さん、どうか弟のことをお願いします」

「······任された」

 

 

 ただ一言夜蛾は答えた。

 

 

「あの────!」

「君は?」

「夕の彼女の、星野アイ、です」

「!······そうか、君が······」

 

 

 夜蛾は何か思い至ったようにアイの顔を見る。

 

 

「私が······?」

「夕が以前少しだけ君のことを話していた。あの時の夕を支えたのは君だったんだな」

「あの時?」

「ああ、丁度一年ほど前、夕が少し無茶をしていた時期があってな。しかしある時それがピタリと止んだ。その時夕は自分を支えてくれた人がいたと言っていてな」

「そう、なんだ······」

「それで、何か聞きたいことがあるのか?」

 

 

 それにアイは頷くと、夜蛾に向け切り出す。

 

 

「夕は、大丈夫······なんですか?」

「·········」

 

 

 抽象的な質問だった。けれど何を言いたいのかを夜蛾は察した。

 

 

「······正直言うと、この業界に絶対はない。だが、夕なら恐らく大丈夫だと私は思っている」

 

 

 呪術師に悔いのない死はない。

 夜蛾は経験上、それをよく知っている。しかし────

 

 

「夕は呪術師であるが、それへの拘りがない。あくまでも手段としてしか呪術師を見ていない。実際あいつは呪術師をやるのを役者をするついでと思っているからな」

 

 

 もちろんだからといって夕はそれを軽く見てない。しっかりとそこら辺を理解した上で呪術師をやっており、それ故に引き際も弁えている。

 加えて、少なくとも特級呪霊を、それも高専入学前に祓ったことすらあり、それを知る数少ない一人である夜蛾は、ほぼほぼ夕は死ぬことはないと思っている。

 

 

「────そして何より君だ」

 

 

 夜蛾はアイを見て言う。

 

 

「確かに夕は自分の立ち位置を見れる人間だが、同時に目的のために自らの命を軽んじる傾向があった」

 

 

 けれど、と夜蛾は続ける。

 

 

「それもいつからか改善した。ある時期から夕には何としてでも生きるという意志がより強く見られるようになった。あいつをそうしたのは君だ。·········いや少し言葉足らずか」

 

 

 アイを、真昼を、周を見て、改めて付け足す。

 

 

「君たちがいるから、夕は何としてでも生きようとするだろう」

 

 

 そう、夜蛾は締めくくった。

 

 

「────もっとも、相変わらず無茶をすることはあるがな」

 

 

「そうでした。それについて詳しく教えていただけませんか?」

「私も知りたいかな」

 

 

 と、夕のこれまでの行動を夜蛾から聞き出す二人。

 夜蛾もとくに断ることなく、それを話した。

 それは、何食わぬ顔で説教を逃れた夕へのお灸と言えるのだろう。

 一通り聞き終えた二人は、未だに夏油をからかう夕の方へと向かう。

 その二人の背中を見た周は────

 

 

「ご愁傷様、夕」

 

 

 合掌していた。

 やはり女性は怒ると怖い。自分はそうならないように気をつけようと夕の冥福を祈りながら周は自分の心に誓った。

 

 

「────夕、ちょっと話があるんだけど?」

「えっ、アイ? ちょっと顔が怖いんだけど?」

「夕、私からもお話があります」

「·········二人とも、何で僕の腕を掴むの? えっ? ちょっ? 本当に何?」

「聞きましたよ? 随分と私たちの知らないところで無茶したとか」

「そんな危ないことを夕がしてるって私知らなかったなー。彼女なのに」

「·········ちなみに黙秘権や拒否権は?」

 

 

 当然なかった。

 夕はそのまま二人に引きずられていく。その途中、夜蛾と目があった彼は────

 

 

「お前か夜蛾ぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 と、叫ぶがこの後の運命はとくに変わらなかった。

 

 

 

 

 

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