真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
いずれこの作品も月一投稿になってしまうのではないかとガクガク震えてます。
ようやく帰ってこれた。
けど────
(······アイの様子がおかしい)
高専でさらにもう一泊し、昼過ぎに帰路についた。
途中で真昼と周とは分かれ、こうして隣り合う部屋の内の僕の方の部屋に帰ってきた。
既にアイの方の部屋はほとんど物置となっており、日用品の類いはすべてこっちの部屋にある状態だ。
帰る道中に買った食材を冷蔵庫に移している時や夕食の準備をしている間は、リビングのソファー越しにこっちを見ていた。
夕食を食べている時も何かを考え込むようにして食の進みが遅かったり、その後の洗いものの時もどこかぼんやりとしていた。
かと思えば切り替えるようにしてついさっきお風呂場へと直行した。
(まあ、色々とあったからね。こうして帰ってきて、改めて考えることがあったんだろうな······)
そういう意味では悪いことをしてしまったのだろう。せっかくの旅行なのに倒れてしまい、挙げ句の果てには呪いという世間一般の理から外れた存在について知る羽目になったのだから。
それでも彼女は僕を愛してくれている。
変わらぬ想いを僕に向けてくれて、人の温もりを教えてくれる。
拒絶の可能性も少しは覚悟していたが、むしろそれを見抜かれて昨日は逆にお小言をもらったくらいだ。
(あれ? そういえば······)
そうやって振り返って考えていると、ふとあることに気づいた。
(アイ······着替え持っていってた······?)
洗いものをしてすぐに「お風呂入ってくる!」と向かっていったが、思えば着替えの類いを彼女は持っていったようには見えなかった。
すると────
『夕~着替え忘れちゃったから持ってきてー!』
と、案の定な彼女の声が聞こえてくる。
それに返事をして、寝室へと向かう。
部屋に入ると、二年前に比べ大分様相が異なっている。
ベッドは二人で寝ても十分な広さの物に買い替えられ、その周りには可愛らしい小物などアイの私物が置かれている。
「さて······着替えは────あった」
少しだけ以前のことを思い出しつつ、無事に着替えの入ったバッグを手に取る。アイはズボラなところがあるため、着替えとスキンケア用品一式を一つにまとめさせているのだ。
分けてしまうと時々そこら辺で手を抜くからなーと苦笑し、それを持ってお風呂場へと向かうおうとした瞬間────
「っ······!?」
僕はベッドに突き飛ばされていた。
「────アイ······?」
○ ●
突き飛ばされていた、というより押し倒された言うべきか、僕はバスタオル姿のアイと一緒にベッドに倒れ込んでいた。
件のアイはというと、僕の胸に顔を押し当てるように埋めて、何も言わずにいる。
「えっと、アイ······? 着替えは今持っていこうと────ッ!?」
したんだけど、と言おうとした。
しかし、それは声になる前にアイの唇によって止められた。
強く押しつけられる唇。
唇だけではない。まるで強くこちらを求めるように彼女は僕に身体を寄せてくる。
隙間なく密着しているのにも関わらず、なおも足りないとばかりに、もっと深くとばかりに彼女は縋りついてくる。
雑に巻かれたバスタオルはそれによってはだけ、アイの柔肌が覗く。
まるで寂しさのあまり泣いて親を引き留めるような、いや、それ以上の感情がアイから伝わってくる。
「·········」
「·········落ち着いた?」
そのまましばらく、されるがままにそれを受け入れた。
ようやく唇が離れると、乱れる呼吸を落ち着けるように優しく抱きしめ、後頭部あたりを撫でる。
「············うん····································ごめんね························」
「······具体的に何に謝ってるのかわからないけど、気にしないでいいよ······今のアイをそうさせたのは僕の責任だ。もっと早く、伝えておくべきだった。けど、何だかんだと理由をつけて話さず、あんな形で知る羽目にさせてしまった。だから謝るのは僕だよ」
「違う·········違うよ······夕は悪くない。ちゃんと、守ってくれたもん·········帰ってくるって約束、ちゃんと守ってくれた。でも、私は·········私はそれを甘く見てた······」
「そんなことはない。呪いなんてものがあるって普通思わない。心配させたのは僕が弱くて臆病だったから·········ただそれだけだ」
それでも尚、アイは納得しない。
僕の服を強く握って、彼女は震える。
「それに······私はいつも夕に頼りきりで、ううん、頼るどころか迷惑かけてる。今回の旅行だって元々私の我が儘だもん。夕はそんな我が儘をいつも聞いてくれて、それができるように手を尽くしてくれて······なのに、私は······!」
「·········」
術式を使ったスキャンダル対策のことを言ってるのだろう。もちろんそれ以外のことも含まれているだろうが、それをやっていたことを聞いた時はとくに気にする素振りを見せなかったのに、今はそれで自責の念を覚えているらしい。
そして彼女にとっての懺悔はまだ続く。
「今日も帰ってきて、いつも通りの夕との時間があったけど、怖かった·········。これが何かの拍子になくなっちゃうんじゃないかって、また一人になるんじゃないかって!」
それはあの夜も漏らしたアイの、彼女の原初にある恐怖。
「でも────!!! でも······その時、私思ったの······それは私にとっての怖いもので、死んじゃうかもしれない夕からすればちっぽけなもの······。なのに、私はそんなことしか! 自分のことしか最初に考えなかったッ!!!」
そんな自分が醜いと、嫌になると、彼女は語る。
それは何もおかしいことではない。誰だって一人になるのは怖い。僕だって同じだ。
でも、きっと今のアイにそれを言っても届かない。
「アイ」
「────んんっ······!」
だから僕はそうした。
アイの肩を押し身体を少し離すと、改めて彼女との距離をゼロにする。
しかし、今度は僕からその唇を塞ぐ。
今にも壊れてしまうそうなアイを抱きしめ、彼女を安心させるように。
「·········愛してる··········愛してるよ、アイ」
決壊し、溢れる何かを埋めるように僕は愛を注ぐ。
「信じてくれてありがとう。不安にさせてごめん。それでも、僕はきっとこうすることしかできない······今の自分を変えられない」
もう一度唇を重ねる。
それは結局のところ僕のエゴなのだろう。
だから僕はこうして彼女に『愛』を伝える。『愛』を込めて、それを表現して、ただ注ぎ続ける。
今できるのはそれだけだから。
「────ごめんねこんな彼女で······」
幾度となく口づけを交わし合い、何度目かで離れた拍子にアイはまた謝ってくる。
「いいよ、それで。そんなアイが好きだ」
「でも、やっぱり重くて·········面倒臭い女でしょ、私って······」
「面倒臭いかどうかは人それぞれだし、僕は少なくとも面倒なんて思わない。重いことに関しては、きっとそれぐらいが僕には丁度いいんだよ。そうでもしないと······いや、そうしても多分、僕はどっかに行っちゃうからね。帰ってくるためのいい目印だよそれは」
治せたらいいんだけどね、と苦笑する。
「·········うん、信じてる。ちゃんと帰ってきてくれるって······」
でも、と彼女は続ける。
「夕······やっぱりまだ怖い。身体がね······震えるの······んっ────」
また唇を奪う。
しかし、今度はあまり長くはせずに離れる。
「······これじゃ足りない?」
息をゆっくりと吐き出しながら問いかける。
本当はわかっている。求めているものがこの先にあるものだって。
だから、最後の確認の意味でそうした。
「────うん············きて」
「·········わかった」
改めてアイに覆い被さり、そっと彼女の頬に手を当てる。
「······夕」
少し身体が離れただけなのに、アイは寂しそうにこちらに手を伸ばしてくる。
「愛してる」
応えるように口づけをする。
啄むようなキスを繰り返しながら、アイの肌に手を滑らせていく。
そのまま僕たちは溶け合うように身体を重ねていった。
●●●「遂に────」
●●●「来たね────」
二人「「出演オファー」」
作者「ごめん。多分この章では出番ないわ」
二人「ッ!?」
悪いな星の子たちよ。
もうしばらくはお眠りなさい。