真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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う~~~ん······難産でした。
お陰で思ったより投稿が遅くなりました。


第三十八話○

 

 朝っぱらから間抜けをかまし、シャワーを浴び直した僕ら。ざっと汗を流すだけのためそこまで長く浴室にいなかったが、リビングに戻るとさっきの暑さとは無縁の快適な空間が出来上がっていた。

 

 

「涼し~い♪」

「······とか言いつつ僕の首に抱きついてるのはなぜ?」

 

 

 別にいいでしょ~、とくぐもった返事をするアイは今、僕に横向きで抱き抱えられていた。

 

 

「·········降ろせないんだけど?」

「もう少しだけ~♪」

「······」

 

 

 むぎゅーと首元へさらに顔を寄せる彼女に僕は仕方ないと思いつつ、しばらくの間それを受け入れる。

 

 

「·········そろそろいい?」

「うん、ありがとう夕。でもちょっと過保護過ぎじゃない?」

「あんなぎこちない歩き方しといて何言ってるの? いや、原因が僕にあるから強くは言えないんだけどさ·········」

「まあ私としては夕に抱き抱えられて運ばれるのは役得だからいいんだけどね~♪」

 

 

 抱き抱えていたアイをソファーへと座らせる。昨夜のせいで傍目から歩くのがかなりぎこちなかった彼女の移動は、本日朝より僕が抱き抱えて行っている。

 だけどまあ······

 

 

「────別に理由なんてなくてもいつでも抱き抱えて運ぶよ?」

「······」

「? どうしたアイ?」

「······お兄ちゃんの言ってたことが少しわかる気がするって」

「周が?」

 

 

 神妙そうな顔になるアイに何かと聞くと、どうやら周に何か吹き込まれたらしい。

 

 

「うん、夕がいない時にお姉ちゃんも入れて三人で話してたんだけどさ、家での夕の話をしたらお兄ちゃんが『これが椎名家の血。駄目人間製造機だ』って。確かに夕に駄目人間にされてるよね私」

「······姉さんはともかく僕は駄目人間製造機になった覚えはないけど。というかアイはナチュラルに駄目人間扱いされてるけどいいの?」

「まあ割と事実だしね~。それに、それならそれでいいかなって。ふふ────私を駄目にした責任はとってね?」

「そうだね、責任はしっかりとらないとね。じゃあ────一生かけて、駄目にしていくよ?」

「·········っ」

「顔赤いよ、アイ?」

「うぅ······わかってて言ってるでしょ·········?」

 

 

 もちろん、と答えつつ僕はアイの隣に座る。

 するとアイはもたれるように身体をこちらに傾けてきた。

 照れ隠しか頭をぐりぐりと腕に押しつけてくるのに苦笑した。

 

 

「ハイハイ悪かったから、そんなに頭押しつけないで。髪とか乱れるよ?」

 

 

 宥めるように頭を撫でると少しずつ脱力していった。

 

 

「·····もっと」

「仰せのままに」

 

 

 そうしてまた、僕はアイを愛で続けた。

 

 

  ○ ●

 

 

 あの日から一ヶ月といくらかの時が流れた。

 

 その間、アイという彼女の存在を知った五条たち高専組にからかわれたり、呪術のことを知って気を揉んだ真昼や周から頻繁に連絡が来るようになったり、また家ではアイが甘え求めてきたりなど、日々刺激的で騒がしく、それでいて幸せな楽しい日々を送っていた。

 

 

「────」

 

 

 が、そんな僕にたった今アイからこんなものが届いた。

 

 

 

 

 

 

 ────デキたかも

 

 

 

 

 スマホにはその一言だけ表示されていた。

 しばらくの間それを眺めていたが、そっと僕は目を閉じる。

 色々なものが駆け巡っていく。

 

 

「············ふぅ────」

 

 

 そうして僕は最も見慣れた番号に電話をかけた。

 何度かの電子音、それが切れ、聞き慣れた声が僕の耳朶を打つ。

 

 

『────もしもし夕·········見た?』

 

 

「うん······本当なの?」

 

 

『まだ検査薬を使って調べただけだけど、陽性だったよ』

 

 

「そっか·········アイ────いや、電話じゃなくて直接話そうか。今はどこ?」

 

 

『家にいるよ』

 

 

「わかった。すぐにそっち行く」

 

 

 アイの返事を聞き、通話を終える。

 

 

「子ども·········」

 

 

 ただ一言呟く。けれどその言葉に内包されてるものは多い。

 

 

(僕は·········いや────)

 

 

 また色んなものが頭の中をよぎる。

 しかし、今優先するのはそれではない。

 

 

「行こう」

 

 

  ○ ●

 

 

「ただいま」

 

 

「おかえり」

 

 

「·········」

 

 

「······」

 

 

 家に帰り、いつも通りの挨拶を交わす。しかし、その後の会話は続かない。ただ無言の時間がしばらく続く。

 それでも、やがて僕は切り出した。

 

 

「アイ、君はどうし────いや·········産みたいんだね?」

 

 

「えっ······? いや、夕の意見もちゃんと────! ·········夕?」

 

 

 大事な話だからと対面に座っていたが、僕はアイの隣に移動してそっと抱きしめた。

 

 

「·········アイ、正直に言っていい。もしもできていたら────産みたい?」

 

 

「···························うん」

 

 

 長い沈黙の後、アイは頷いた。

 

 

「────どうして産みたいってわかったの?」

 

 

「顔を見れば一目瞭然だったよ」

 

 

 アイの問いにそう答える。最初にどうしたいかと言おうとした時──いや、きっと僕が帰ってくる前から既に決めていたのだろう──彼女は産みたいという顔をしていた。

 そして、それを見て僕も踏ん切りがついた。

 今抱えていること、これから訪れること、将来のこと、様々なリスクがここに来るまで常に頭の中を巡っていた。

 それでも、僕自身がどうしたいかを考えた時、答えは一瞬で出た。

 

 

「────僕も同じだよ。産みたい、産んでほしいと思う。僕の、僕たち(・・・)の子どもを」

 

 

「·········いいの?」

 

 

「もちろん」

 

 

「で、でも·········迷惑とかじゃない? 私、絶対迷惑かけるよ·········?」

 

 

 珍しく弱気な彼女。けれど、一つだけその発言を訂正しなければならない。

 

 

「アイ、迷惑とかは気にしなくていい。というよりは迷惑とも思ってないよ。············それにさ、普通の家族ってやつに憧れているのはアイだけじゃない。僕だって同じだ」

 

 

 そして何より────

 

 

「あの時アイを抱いたことを僕は後悔していない。あの瞬間に君を求めたのは他ならぬ僕自身の意思で、それを間違いだとも思わない」

 

 

 腕の中のアイの顔を覗き込む。

 

 

「アイはあの時のこと、後悔してる? 間違いだったと思う?」

 

 

「違う······間違いなんかじゃない」

 

 

 フルフルと首を振る。

 

 

「うん────でも······でも、きっと多くの人はそう思わない。多分堕ろすのが普通で、賢い選択なんだと思う。けどさ────」

 

 

 

 

 ────それって何か腹立たしくない?

 

 

「腹立たしい······?」

 

 

 首を傾げるアイに僕は頷く。

 

 

「そう。だから証明する」

 

 

 それは少なからず意地というか、子どものような我が儘かもしれない。自分勝手で利己的な考えかもしれないが────

 

 

「一夜の過ちなんて言わせないし言わせたくない。宿った命は愛し愛された結果なんだって、確かに望まれたものなんだって」

 

 

 そのエゴは『愛』故のもの。ただただ自分と彼女の愛の結晶が欲しい。それを否定されるのは我慢ならない。

 まあつまり、言いたいのは一つ。

 

 

「────だからアイ、僕との子ども産んでくれない?」

 

 

「っ······うん·········うん······! 私も······産みたい······夕との子どもが、欲しいッ!!」

 

 

 涙ぐみつつ彼女は胸に飛び込んでくる。それを受け止め、僕は強く抱きしめる。

 

 

「ぁ······っ、ぅ······ごめっ! これは違うの······ただ嬉しくて······!」

 

 

「うん、わかってる。いいよ? ちゃんと受け止めるから」

 

 

「! っ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁあん!!!」

 

 

 とうとう決壊したように彼女は泣き出した。嗚咽混じりに「ありがとう」と繰り返すアイをあやすように僕は頭を撫でた。

 

 

(お礼を言うのは僕の方だよ·········)

 

 

 本当はいつか消えるつもりだった。大切な人の涙を見たくないから。

 でもアイと出会ってそれは変わった、いや、変えられたというべきか。

 彼女に救われて、恋をして、愛し合った。

 見たくないと言ったが、きっと自分がいなくなれば泣いてくれた人がいただろう。それでもそこから目を背け、その涙を見て見ぬふりをして、あの頃の自分なら突き進んだ。

 けれど、それはもうできない。もう戻れない。

 だって、自分とのことでこんな風に泣いて喜んでくれる人がいるのだから。

 それを改めて自覚し、僕の内から何かがこみ上げてくる。

 それらを抑えるようにまた一段と腕の力を強める。

 嬉し涙を流す愛する人を胸に抱き、ただ僕は今を噛みしめた。

 

 

  ○ ●

 

 

「まったく······これじゃいつかの焼き回しだね」

「一年前のこと?」

 

 

 苦笑しながら呟くと、アイがそう言ってくる。どうやら彼女も一年前の告白の時のことを思い出したらしい。

 

 

「うん·········泣かせてばっかりで、僕はダメな彼氏だね」

「それは違うよ」

「そうかな?」

「うん、そう」

「······そっか」

 

 

 アイの目元をそっと指で拭い、僕は静かに相槌を打つ。

 

 

「────そういえば、アイドルの方はどうする? 産むのは決定として」

 

 

 それにアイは少し考えるそぶりを見せるも、はっきりとこう言った。

 

 

「続けるよ」

 

 

 彼女は続けて────

 

 

「私はもう、本物の『愛』を見つけられた。絶対に嘘じゃないって言える『愛』を······」

 

 

 星野アイという少女がずっと求めてきたものはもう見つかっている。しかし彼女には思うところがあるようだ。

 

 

「────だけど、私は欲張りだから」

 

 

 それは付き合うようになってからよく口にするようになった言葉だ。

 

 

「アイドルをやるのは楽しい。B小町のみんなと一緒に頑張って、ライブをやって、オフの日とかは集まって過ごしたり······それはアイドルにならないとできないことだった。それに────ありのままの私を、ファンの人にも見せたい。応援してくれた人たちにも、『愛してる』って伝えたい」

 

 

 星野アイの物語を知ってもらいたいと彼女は言う。

 

 

「女の子として幸せ、お母さんとしての幸せ、そしてアイドルとしての幸せ、全部欲しい」

 

 

 

 

「────多分それじゃ足りないよ」

「えっ?」

 

 

 どういうことだと言う顔をする彼女に僕は笑いながら答える。

 

 

「きっと、欲しいものはもっと増えていくよ。子どもが生まれて、成長して大きくなって、その様子を見ていくうちにもっと幸せを求めるよ。それ以外のものでもね」

 

 

 そんな未来を語ると、アイも瞳の中の星をより輝かせた。

 

 

「うん! それも全部叶えるの! 生まれてきた子たちとやりたいこと一杯して、一緒に笑ったり喜んだり!」

「そうだね。きっと賑やかになるね」

 

 

 ······ああ、でも────

 

 

「けどとりあえず斎藤さんには謝らないとね。殴られるぐらいはされそう。·········あと、B小町のメンバーにもね。こっちもビンタあたりが飛んでくるかな?」

「どうだろ? あっ、お姉ちゃんとお兄ちゃんは?」

「あはは······紹介して一ヶ月ぐらいで妊娠とか二人とも滅茶苦茶驚きそう·········姉さんからは説教かな?」

「大丈夫。みんなわかってくれるよ」

「とりあえず説明しないとね。手伝ってくれる?」

「もちろん!」

 

 

 大きくアイは頷いた。

 

 

「────頑張らないとね」

「うん! 一緒に頑張ろ夕」

 

 

 そうやってまた僕たちは笑い合った。

 

 

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