真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
それにしても何故だろう? そのつもりはないのに着々と死亡フラグを立たせていってる気がする······
完全個室制の部屋がある店に夕は足を運んでいた。
「────それで、何かありましたかね? 斎藤さん?」
現在彼が席を共にしているのは、隣に住む少女ではなく、その彼女の所属する事務所の社長だった。
何故か呼び出しを受け、いざこうして待ち合わせの店に来てみると、既に彼────苺プロダクション社長こと斎藤壱護は到着しており、案内された個室にて夕を出迎えた。
しかし、呼び出した張本人は最初に軽い挨拶を交わすと、黙りこくってしまった。
代金は向こう持ちのため、思う存分普段なら頼むところだが、この後のことを考えて控えめな注文をし、運ばれてきた食事を口にした。
大分食事も進み、テーブルの上が寂しくなったタイミングで彼は切り出した。
「······そう、だな。単刀直入に聞く────椎名君、何をした?」
「はてはて、流石にそれだと何を聞いているのかわかりませんよ?」
「······B小町内の確執、いや······アイとそれ以外のメンバーの確執が最近少しずつ改善されてきている」
「それは良かったじゃないですか」
「はぁ······いい加減はぐらかさないでくれ。それに君が関与したのは把握してるし、本来なら俺がやらないといけないことをしてくれて感謝もしている。でも、俺にはその行動の意味がわからない。君は何がしたいんだ?」
「別に大したことではないですよ。少なからず背中を押した責任もありますし、僕なりにアイへのフォローをしただけです。それと、最初の質問と今の質問、微妙にズレてません?」
「······」
なおもどこか煙に巻いたように振る舞う夕に、斎藤は口を噤む。
だが、未だに彼は夕の真意をはかることを諦めてない。
「────アイと他のメンバーとの確執、それを作った最たるものはアイツらにくる仕事の差だった」
「·········」
「関係改善の兆候が見え始めた時、丁度アイ以外のメンバーに仕事が回ってきた。明らかにタイミングが良すぎる」
だから斎藤は調べた。その仕事がどういう経緯で回ってきたかを。
結局経緯を掴むことができなかった。しかし、それを調べる上で小耳にしたのは────
「椎名君、君の名前だった」
それも、それ以降に定期的に回ってくる仕事も、調べるとどこかしらで椎名夕という名前を耳にした。
ありえない、そう思いつつも斎藤は一つの答えに行き着いた。
「アイツらに仕事が行くようにしたのは君だな、椎名君」
それを黙って聞き届けた夕は────
(僕とアイとかとの関わりやらを知る位置にいたからこそ、その答えに行き着けたか············)
呪術師として築いた芸能界のコネクション、それがどの程度機能するかの試験的な意味合いでアイに、ひいてはB小町、苺プロ周りで色々と動いた。
結果として想像以上にそれはうまくいった。
それと同時に夕は今の芸能界がどれくらい呪いというものを重く見ているのかも知ることができた。
そんなここ最近の動きの結果を反芻しながら夕は頷く。
「まあ、そうですね·····」
「············」
「警戒するのは最もですけど、これといって警戒するようなことはありませんよ? 目的はその一連の芸能界の動き自体でしたから」
「······どういうことだ?」
「秘密です。ただそれをやる上でたまたまアイを取り巻く状況がおあつらえ向きだっただけですよ」
関与は認めるが呪術のことを話せないため、どうやってバーターしたかも話せない。
とはいえせめてもという意味を込めて、とりあえず害意はないことは伝えておく。
「·········信じられませんか?」
「·········少なくとも何もかも鵜呑みにできる立場じゃないからな」
視線を受け止めながらそう言うが、斎藤はやはり納得しきれてない。
それに夕は「まあそうですよね······」とぼやきつつ、理解を示す。
「────もしも僕が死んだらどうします?」
「はっ··········?」
突然の一言。
呆けた声を出す斎藤を尻目に夕は語り出す。
「自惚れかもしれないですが、アイは僕を慕ってくれている。そしてそれはやや依存的なものです。もしも僕が死ぬようなことがあった時、彼女を支える存在が必要でしょう」
「······何を、言って······?」
滔々としゃべる夕に斎藤は何とか乾いた声を絞り出す。
「そのままの意味ですよ。青二才の分際で何を言うかと思うかもしれないですが、人って案外簡単に死ぬんですよ? 少なくとも僕はこの数年でそれを何度も痛感してきました。つい最近に至っては運悪く、つい数分前まで話していた人が死ぬところに遭遇もしましたしね」
死体を見たのはいつだっただろうか。
確か自己鍛練の一環で赴いた先、そこで見たのが一番最初だったかと夕は振り返る。
最初は当然動揺した。何せ近くに呪霊がいて、原型など留めていなかったからだ。
きっと術式で精神を強化してなければその場で吐いて蹲っていただろう。
でもいつしかそれをする必要はなくなった。
むごたらしい人の最期を見ても、ただあるがままにそれを受け止められるようになった。
高専に入学してから受けた任務で、何度か話した知り合いが亡くなった時は少し思うところがあったが、逆に言えばそれ以上は特に何もなかった。
転生して約十六年。既に夕の中の前世の価値観はほぼ塗り替えられた。
それでも、普通の価値観を理解はしている。
それらに基づいた判断能力も持ち、自らを含めた呪術師のあり方を客観視できるから、椎名夕は呪術界でも異色として映るのだろう。
「何をしたい、何を考えているかって言うのなら答えはこれです。困ったことに自分のこれまでの経験上、どうしても最悪を想像してしまうんですよ。だからもしもに備えた。言ったでしょう? アイの背中を押した責任があるって? 周りに人がいれば、きっと僕が死んでも乗り越えられるでしょうから」
「······君は······死ぬつもりなのか?」
「勘違いしないでください。少なくとも死ぬつもりは毛頭もありませんよ。まあそれは謂わば保険ですよ」
「·········そうか」
すっかり夕の雰囲気に呑まれた斎藤は何とか相槌を打つ。
そんな中、夕は席を立つ。
「────さて、そろそろ僕は行きます。この後予定があるので」
「ああ······来てくれてありがとう。突然呼び出してすまなかったな」
「いえ、お気になさらず」
「······そう言ってもらえるとありがたい。ところで予定って?」
斎藤も立ち上がり、お礼を言いながら話の流れでそんなことを聞く。
「今日、近くで花火大会があるじゃないですか」
「花火大会······ああ、あれか────って、待て待て待て!! もしかしてアイと行く気か!?」
「誘われはしましたよ。でも流石に無理があるって言って、せめてもの妥協案として一緒に部屋から花火を見ることになりました」
「そうか。ならいい·········いや、良くはないが、まあ大分マシか······」
一先ず安堵するが、それでも複雑な顔をする斎藤。
「·········そんな顔をするのに、そもそも何でアイが僕の隣に住むのを認めたんですか? 普通に僕もいつの間にか隣に越してきていて驚いたんですけど」
「·········止めたが押しきられた」
「えー·········」
娘のお願いに弱い父親かよと思いながら斎藤を見ると、その視線から逃れるように彼は顔を逸らした。
「······椎名君頼む。スキャンダルには気を付けてくれ······アイにはそれを期待できない」
「せめてこっちを見ながら言ってくださいよ······まあ、気をつけますけど」
そうして夕と斎藤は店の前で別れた。
少なくとも、この時はまだ、椎名夕にとって星野アイとは世話を焼く後輩や妹分という認識だった。
しかし、二人の関係はその一年後大きく変わる。
そしてさらに一年後────
「·········どうしてこうなった?」
斎藤壱護は頭を抱えていた。
彼はこの後、より強くなって襲いかかってくるであろう胃痛に遠い目をしていた。
○ ●
「────マジでどうしてこうなった?」
現実逃避気味にいつかを振り返りながら斎藤は何度目かのセリフを口にする。
(というか、あの時の言葉って······)
斎藤は今日ようやくあの日の夕の言葉を理解した。
「呪術ねぇ······」
今日斎藤は夕とアイに話し合いの場を設けて欲しいと言われ、嫌な予感と胃痛を抱えながらその場に赴いた。
そして聞かされたのはアイの妊娠。
付き合い出したのは知っていたが、まさか予想を遥かに上回る現実に数秒意識を飛ばした。
そこら辺のリスクの管理は夕がいるから問題ないと思っていたため、青天の霹靂だった。
思わず掴みかかりそうなのを何とか自制し、どうしてそこに至ったのかを斎藤は尋ねた。
そうして聞かされたのは呪術、ひいては呪いという存在と、夕がそれに対処する呪術師で、それを知ったアイが不安から突っ走って致したということだった。
「待てよ······? 椎名君、もしかしてうちの事務所に仕事を回した方法って······」
「呪術師としてのコネですね。バーターと言ってもいい。案外芸能界には呪いが原因とされる事案があったので、それを請け負う代わりに融通をきかせてもらったりしてましたね」
「そう、か······」
少し落ち込んだような声を出す斎藤に夕は声をかける。
「一応言っておきますけど僕が手を回したのは最初だけで、それ以降に来た仕事は彼女たちが自分の力で掴みとったものですよ」
「······そうなのか?」
「流石にそう何度も仕事を回すのは不都合がありますからね。だから最初の一回で結果が出せるようにアイ経由で会ってアレコレと教えました。そしてそんな彼女たちB小町のメンバーを正しくマネジメントしたあなたの手腕でもありますよ、斎藤社長」
だから、と夕は続けて言う。
「────そしてそんな手塩をかけて育てたアイドルの一人を妊娠させてしまったことは、本当に申し訳なく思います。それでもどうか······無理を押して、お願いします。アイの出産に手を貸してください」
深々と頭を下げる。それを見て斎藤は────
「ハァ~~~············────顔を上げてくれ」
「────」
ゆっくりと頭の位置を戻す夕。そんな彼ともう目を合わせた後、今度は隣に座るアイに目をやる。
「アイ、お前も椎名君と同じ気持ちか? 産みたいんだな?」
「うん、産みたい。夕との子どもを」
そうか、と呟くと斎藤は目を瞑り天井を仰いだ。そしてもう一度息を長く吐き出し、口を開いた。
「わかった············俺も腹括ろう」
「·········ありがとうございます、斎藤さん」
「ありがとう社長」
その言葉に少しだけ頬を緩め、二人はもう一度頭を下げた。
「·········まあ、椎名君には色々と恩があるしな」
「······すみません。何というか恩を着せてどうこうするつもりはなかったんですが·········」
「着せるも何も実際に恩と言えるだろ? 以前にも言ったが君がやったことは本来は俺がやるべきことだった·········結果的に君にさせてしまったけどな。それがなければあいつらは今でも燻って、アイとの関係も悪いまま最悪そのままB小町の分解だってあり得た」
「いやそれは······今はちゃんとそれぞれの個性をいかして仕事をもらってますし、僕がいなくても······」
「現場を用意して、それを引き出す手伝いを、あいつらがチャンスをものにして掴んでくるように指導もしたんだろ? なら立派に君の功績だろ」
それにアイもその通りだと頷いていた。
「それに────ある意味競争だったのかもなぁ······」
「競争?」
斎藤のそんな表現に首を傾げる。
「ああ······『愛』を見つける足がかりになるんじゃないかつってアイをアイドルにスカウトした訳だが······」
そこで一度区切って彼はアイを見る。もっとも彼女の方も先程の発言の要領を得ていないからか、ちょっとキョトンとした顔をしている。
「────アイが君と過ごす間に『愛』を見つけるか、それよりも早く俺のドームの夢が叶うか、どっちが早いかの競争だったってことだよ」
つまり俺の負けだ、と斎藤は言う。しかしすぐに切り替えたように彼は声を上げる。
「あー、やめだやめ······。さっ、これから色々と動かなきゃならなねぇ。まずは······病院か。世間にバレないように地方あたりのを探すか······」
ガシガシと頭を掻きつつ、ぼやく斎藤。
「────あっ、それならもういくつか目星はつけてます。これがその資料です」
「お、おう······手際いいな······」
「こっちでももう少し探して見ますが、斎藤さんの方でもお願いできますか? 病院に付き添うことも踏まえて後日改めて調べた病院の中から選定しましょう」
「······わかった」
簡潔にまとめられた資料を流し見ながら斎藤は頷く。内心では夕の手際に「こいつ本当に十代か?」と首を傾げていた。
「────佐藤社長~、私ここの病院がいい。そこで見える星がすごく綺麗なんだって~」
「俺の名前は斎藤だクソアイドル!」
「·········」
いつものやりとり。だが、突然アイは黙りこくった。
「? おい、どうしたアイ?」
「ありがとね」
「あっ?」
「私が『愛』を知れたのは夕のお陰。でもそれだけじゃない。アイドルになったのもきっかけの一つだから。だからありがとね
「!·········ッ、そうかよ······」
こうして数日後、暫定的ではあるが受診する病院が決まった。
そしてとうとう、夕の知らない物語が動き出す。
ただし────確実にそれは正史からは外れてきていることを、彼はもとより他の誰も知らない。
いくつかのズレから生じた歪み。
果たしてそれが何をもたらすか·········
おまけ
「────それと、アイは子どもを産んでもアイドル続けるみたいですよ。だから斎藤さんの夢は終わってない」
「は?」
「続けるよ。それが社長や応援してくれた人たちへの恩返しになるだろうしさ」
「·········公表しないってことか。まあ当然ちゃ当然だが······わかってるのか? 相当険しい道だぞ?」
「覚悟はあります。何より一生かけて支えていくつもりですよもとから」
「そういうことだよ社長。それにさ······」
「それに?」
「えへへ、せっかくだから引退する前に一回くらいは夕とも共演したいかなって」
「······最後に自分の欲望ダダ漏れじゃねーかたくっ·············ありがとよ」