真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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急・展・開!!!


過ぎましたかね?


けどあれだけバラ撒いたフラグ······回収せねば無作法というもの。


第四十二話●

 

 出産予定日まで十日を切った。

 

 

「来てくれてありがとうお姉ちゃん、お兄ちゃん。でも大学は大丈夫なの?」

「気にしないでください。アイちゃんの方が大切ですし、一週間程度ならそこまで問題ないですから」

「だな。それに夕からも頼まれたし」

「夕から?」

「ああ。あいつの帰国が遅くなるって話は聞いているだろ? だからアイさんを少しでも安心させるためにそばにいってやってくれってな」

 

 

 それを聞いたアイは苦笑する。自分が妊娠して以降本当に夕は過保護になり、それは時間を経るごとに落ち着くどころかよりその度合いを増していった。

 

 

「にしても海外かー」

 

 

 ぽつりと、アイは呟いた。

 

 

「俺も最初は驚いたな」

「ですね。何でも海外の劇団関係者が日本に来た時に夕の演技を観て、是非自分のところの劇団の公演に出てほしいと熱望したそうですよ?」

 

 

 とはいえ、最初はアイの出産時期が時期なだけに断ろうとしたが、どんな形でも海外での実績を積めること、またお世話になっている金田一、ひいてはララライ側からの強い勧めもあり、夕も少々断りづらかった。

 最終的には帰国を含めた日程がアイの出産予定日に余裕をもって間に合うため、その仕事を受けたのだが────

 

 

「呪術師の任務もそこに加わったからな······」

 

 

 その周辺で呪い案件が確認され、丁度夕が役者としてそこに赴くとあってこれ幸いとばかりにその任務を押しつけられたのだ。

 

 

「しかもトラブルで公演の方もスケジュールが延びちゃったみたいだしね」

 

 

 そして極めつけにはアイの言う通りだった。

 そのため、冒頭の会話で触れられたが夕の帰国が遅くなる事態となった。

 

 

「電話越しでもあいつの絶望感が伝わってきたな」

 

 

 周は直近の連絡でその知らせを伝えてきて時の夕の声を思い出す。

 

 

「あはは······まあそれだけ夕にとってアイちゃんが大切なんでしょう。言わずもがなですが」

 

 

 周と一緒にその連絡を受けていた真昼が思い出すように言う。その視線はアイの左手薬指に向いている。

 

 

「────本当に良かった······夕にも大切な人ができて」

 

 

 そうして改めて思ったことを漏らした。

 心の底から真昼は嬉しく思う。

 幼き頃より一緒に過ごしてきた弟はいつも何かを見据えていた。今思えばそれは呪いに関わる何かなのだろう。そしてそれはまだ夕の中では終わってないもの。今なお椎名夕を縛りつける呪い。

 いつからか思った。自分の弟はそのためにどこかに消えてしまうのではないかと。

 周に恋して、過去を乗り越えた(呪いを解いた)真昼は、その頃から漠然と夕の危うさをどこかで感じていた。

 しかしそれも今は何の心配もなくなった。

 自分と同様に愛する人を見つけた夕にはアイがいる。

 きっとそれが彼の楔となってくれる確信があった。

 

 

「ありがとうございますアイちゃん。夕を愛してくれて。改めてお礼を言わせてください」

「ううん、私がしたかったことだから」

 

 

 それにアイはそっと首を振る。

 

 

「······そうですね。それにお礼を言うのは聞きようによっては等価的なものにも聞こえますね」

 

 

 愛は見返りを求めるものではない。少なくとも真昼にとってそれはそういうものだ。

 だから自分の言葉にやや苦笑する。それでも────

 

 

「けどやっぱり嬉しいんです。夕がアイちゃんと接する時は昔のあの子が顔を出しているように思うので」

「昔の夕?」

「本人は言うほど昔も今も変わってないって言ってたぞ?」

「確かに昔も今もあんまり変わってませんね。強いて言うなら自分のことを『僕』ではなく『俺』って呼んでいたくらいでしょうか? ですが────」

 

 

 うまく言語化できないかつての夕のこと、それをどうにか言葉にしようとする真昼。

 

 

「何と言うか昔の夕はこう······もっと余裕があったんですよ。でもいつからかそれがなくなりました。表面的にはいつも通りですし、やろうとしている何かが変わったわけでもない。けどとにかくあの頃の夕はひたすらに邁進してました。一切脇目も振らずに」

 

 

 他に目も向けずに目標に向かう。それだけ聞くなら素晴らしいことかもしれないが、こと夕に限って言えばあまりにもそれが病的だった。

 自らが傷つくことすら、否、もしかしたら死ぬことすら厭わないその姿勢はとても危うい。

 

 

「でも夕は変わりました。いえ、戻ったという方が正しいかもしれませんね。少しずつ余裕を取り戻して、辿る道程を、そこに至るまでにある他のことにもまた目を向けて、それを楽しもうとするようになりました」

「────」

 

 

 それを聞いてアイは思い出す。

 あの夜の公園で聞いた、夕が背負った(被った)という呪い(仮面)

 それはきっと真昼のためなのだろう。

 でも今の夕は違う。それだけじゃない。

 背負った分だけ彼の描く未来は輝く。

 当然その未来では、自分も幸せになっている。そうアイは確信している。

 

 

 

 

 しかし、しばらくして夕からの連絡が途絶えることを彼女らはまだ知らない。

 

 

  ○ ●

 

 

 夕から連絡が途絶える少し前、彼は海外でのスケジュールを消化し、呪物回収の任務にあたっていた。

 

 

「なぁぁにぃがっ! 任務地に近いからついでに呪物回収してこいだぁーーっ!? 確かに公演の場所は同じだよ······。ただし!! 国という意味ではねッ!!!」

 

 

 任務地は思いっきりド田舎というか、辺境というか、公演を行った都市部とは雲泥の差だった。

 そういう訳でその場所は交通網など発達してなく、到着した時には頂点を太陽が過ぎ去っていた。

 

 

「············まあいいや。とっとと済ませよ。今日の内···いや、できれば日が暮れる前には終わらせたいし」

 

 

 気持ちを切り替え、夕は呪物の回収に向かう。

 鬱蒼と生い茂る木々の下を歩いていくと、それらが途切れ開けた場所に出る。

 

 

「何だ、ここ······?」

 

 

 しかし、そこは妙に不自然だった。

 恐ろしく綺麗な円の形でその場所は縁取られ、周辺の樹木と見事に境界を作っている。

 

 

 

 

 ────闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 帳が降りる。

 まるでこのためにこうなっていたのではないかと思うほど、それはピッタリと森とこの場所を分断した。

 

 

「────初めましてというべきかな、椎名夕くん?」

 

 

「······どちら様かな? 僕は忙し────ッッッ!?!?」

 

 

 突然の乱入者。無駄だろうが皮肉と軽口と悪口の三点セットを言おうとした。

 

 

(何で、こいつが······)

 

 

 けれど、相手にこちらの動揺が伝わるのを一切気にすることなく夕はそれ(・・)から距離をとった。

 

 

「おや、随分と警戒されているね」

 

 

 友好そうな口調でこちらに語りかけてくる謎の人物。

 いや、夕はそれが誰かを知っている。

 

 

(羂索ッ!!!)

 

 

 顔は知らない。しかし額にある縫い目と、降ろされた帳の精度から察せられる結界術の技量、それが示す人物を少なくとも彼は羂索以外知らない。

 

 

「······警戒も何も、任務先で突然顔も知らない第三者の帳に閉じ込められれば警戒してこうなるのは当然でしょ」

 

 

「それもそうか。でも私の顔を見てから跳び退いたのは何故だい?」

 

 

「別に? ただ顔を見たら何となく嫌な予感がしただけだよ。これでも役者なものでね。厄介そうな人間は顔を見ればわかる」

 

 

「はは、遠回しな自慢か何かかな? それにしても役者と呪術師の二足の草鞋だなんて大変そうじゃないか。そのせいでこんな辺鄙な場所に来る羽目になったんだろう? どちらか片方にしたらどうだい?」

 

 

「ご忠告どうも。僕としても高専を卒業したら役者業で生きていくつもりだからご心配なく。そういう訳でこの帳を解いてくれない? 早く目的の呪物回収しに行きたいんだけど」

 

 

 交わされる会話。しかし夕の方は先ほどからいくつもの冷や汗が背中を伝うのを感じていた。

 

 

「ああ、その呪物ならもうここにはない。私が回収したからね」

 

 

「それはそれはどうもありがとう。ちなみにその呪物は?」

 

 

「もうここにはないさ。既に別の人間の手に渡っている。それにしても······君は随分と人に好かれているね?」

 

 

「はは、嬉しい反面として面倒なこともあるよ? こうして正体不明の人間に帳と共に待ち伏せされるあたりとかね。それより任務の報告のためにその呪物渡した人間の名前を教えてくれないかな?」

 

 

 それに羂索は「そうだね~」と言って笑みを深めている。

 

 

「────君が呪術師でなく役者を辞めるなら考えなくもないよ?」

 

 

「······話にならないね。それに何? 僕が呪術師辞めるのに何の不都合があんの?」

 

 

「いや、どちらかと言えば呪術師を辞めてくれた方がありがたいんだけどね。何せ君のせいでこちらのやろうとしていることに少々影響が出てるからね」

 

 

「影響ねぇ······」

 

 

 心当たりは······ある。とはいえここまで直接的に来るとは夕も誤算だった。

 

 

「昨年の星漿体関連のことから始まり、君は随分と精力的に動いたみたいじゃないか? こっちがやろうとしていることを君が潰してくれるせいか、方針を変えてさらに回りくどく動いたというのに、それもご破算になったよ」

 

 

「何のこと?」

 

 

「産土神信仰から産まれた厄介な呪霊がいただろう?」

 

 

「······なるほど。七海と灰原にあの任務がいくようにしたのはお前か。でも何のために?」

 

 

(まあ、大体予想はできるけど)

 

 

 もしもあの二人のいずれかでも死んでいたら────

 

 

 

 

「夏油傑」

 

 

 

 

 それによって影響を受けた人物の名前が出る。

 

 

「彼の肉体────そこに刻まれた呪霊操術が欲しいのさ」

 

 

「一応聞くけど、後輩が死んで傷心中のあいつを誑かして婿入りさせようとかの意味じゃないよね?」

 

 

「もちろん。私は彼の肉体丸々欲しい。けれどどうにもそれがうまくいかなくてね。だから────」

 

 

 

 

 ────君の肉体を先に奪うことにした。

 

 

 

 

「何がどうしたらその『だから』に行きついた······?」

 

 

 思わず少し素でツッコミを入れる。

 

 

「君だろう? 夏油傑に行くはずだった特定の任務(・・・・・)のみこっそり捌いていたのは?」

 

 

「······」

 

 

「随分後輩思いじゃないか? 彼の性格上、それらの任務を受けていれば少なからず心が揺らいだはずだ」

 

 

 それがないのは夕がそれらの任務を受け持ったから。

 

 

「しかし過保護だね。君がいなくなったらどうするつもりだい?」

 

 

「あいつは一人じゃない。隣には五条がいる。ならあとは時間が解決する。お互いの足りないものを二人で少しずつ知っていって、それを埋めていく」

 

 

 自分がアイとの何気ない日々の中で変わっていったように、夏油も、そして五条だって変わっていく。

 夕がしているのはそのための時間作りだ。

 

 

「けれど今すぐ君がいなくなれば話は変わるだろう? 手に入れた君の術式をうまく使えばこれまでの遅れを取り戻せるだろうしね」

 

 

 夢幻呪法で非術師憎しと思考と行動を誘導していく気か、そう夕はあたりをつける。

 

 

「させるとでも?」

 

 

 しかし当然夕はこんなのに身体をやるつもりはない。

 だから夏油も呪詛師にならないし、それで五条に殺されることも、そのせいで未来の悲劇に繋がることもない。

 そう────

 

 

 

 

(こいつを殺せば全部終わる)

 

 

 

 

 腹の底から沸き上がるそれが全身を巡り、目に見えぬプレッシャーが周囲を満たす。

 

 

「まあ、そうなるか」

 

 

 やれやれとばかりに首を振りつつ、臨戦態勢に移行する羂索。

 

 

「取り繕う必要はもうないな」

 

 

 いつもの笑みはいらない。

 結果的に多くの救いに繋がるかもしれないが、これはどこまでもいっても椎名夕にとってのエゴ。

 けどそれでいい。

 できることはただ呪うことだけ。

 どこまでも自分勝手にそれを押し通してみせよう。

 

 

「────()は呪術師」

 

 

 

 

 すべてをかなぐり捨てるように、一歩を踏み出す。

 

 

 

 その一歩で彼は分岐点に立つ。

 

 

 

 未来を決める次なる一歩はこの勝敗で決まる。

 

 

 

 

 ────千年の時間を越えた呪術師・羂索。

 

 

 ────世界を越えた呪術師・椎名夕。

 

 

 

 

 日本から離れた遠い異国の地にて、静かにその戦いは始まる。




作者は思った。

夏油の闇堕ち? その後の未来?
そんなもの元凶を排除すれば終わるのではないかと。


まあこの章の始まりあたりからこの展開は何となく頭にあったんですよね。
いい加減呪術路線の問題をとっとと終わらせて、推しの子に集中するべきかと思ったんです。だって一応この作品、原作推しの子だし。


そういう訳で三章もクライマックス。
次回は早めに投稿できるように頑張ります!
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