真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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第四十四話○●

 

 それはきっと、彼にとっての愛の証明。

 

 

 今日まで未来を描き続けた一人の男の物語にしてその集大成。

 

 

 この瞬間────嘘は本物へと変わる。

 

 

 

  ○ ●

 

 

 姿を見せたのは湿原の広がる窪地。

 

 

 周囲を岩場で囲まれているが、斜面を下った先には緑が一面に広がり、中心部には小さな池とそこから伸びる小川もある。

 

 

 それでいて爽やかな空気を感じないのは、見上げた視界を彩る空の色にある。

 

 

 茜色と紺色。

 

 

 日が沈み、夜へと移り変わっていく二種のグラデーション。

 

 

 夕日によって燃えるようなオレンジに染まる空。

 

 

 反対に星を引き立てる紺碧の空。

 

 

 混ざりあったその空模様は天のキャンパスだけでなく地上のキャンパスにも欲張りなことに影響を与え、幻想的な空間を作り出していた。

 

 

「────」

 

 

 それを目にしながら、俺はふと一年前のことを思い出す。

 

 

 それは星漿体騒動の際の天元との会話。

 

 

  ○ ●

 

 

『────領域展開の時に空間を区切る必要があるか、だと?』

 

 

 五条と夏油が星漿体・天内理子の護衛任務を受け、沖縄へと向かった二日目のこと。

 前日にその一件に関わるなと言われた俺だが、翌日も天元の下に訪れ、とあることについて質問した。

 

 

『うん。それってやらずに出来たりしない? 出来るんならコツとか教えて』

 

 

『椎名夕、それがどれだけ途方のないことなのかわかっているのか? 君のやろうとしていることは、キャンパスを用いずに空に絵を描くことと同義、それは正しく神業の域にある』

 

 

『でも不可能ではなく、神業って言うあたり出来た人間がいたんでしょ?』

 

 

『······確かに君の言う通り空間を区切らない領域······閉じない領域は可能だ。ただし、それが出来たのは私の知る限り一人だけだ』

 

 

『その一人は誰?』

 

 

『宿儺だ。かの呪いの王、両面宿儺はその領域展開を可能にした』

 

 

 もちろん知っている。

 

 

『ふーん』

 

 

『その様子、諦める気はなさそうだな』

 

 

『うん。そりゃあね』

 

 

『何故そこまでその領域に拘る? 領域を閉じない縛りで生まれる足し引き、それによる領域効果の底上げ狙いか?』

 

 

『それもある』

 

 

 確かにそれもある。俺の領域は自分で言うのは何だがぶっ飛んだ効果をしている。ただそのせいで呪力消費が激しく領域の展開時間が限られる。だからこそ原作で領域の範囲を広げた宿儺とは少し違うが、その縛りによって領域の範囲を変えるのではなく領域の展開時間を引き延ばそうしている。

 けど、それだけじゃない。

 

 

『────あとは、こだわり? みたいなものかな』

 

 

『はっ?』

 

 

『どうしたの天元?』

 

 

 あの時の天元は中々に間抜けな顔をしていた。今思い出すとちょっと笑うな。

 

 

『────僕の領域はね現世と異界、現実と空想、嘘と真の境界を世界から無くすんだ。その中で生み出される僕の幻術()はすべてが現実()になる』

 

 

 

 嘘を本物へ。

 

 

 貫き続けた嘘は時として真実にもなる。

 

 

 幻術を生み出す力(順転)現実を消し去る力(反転)

 

 

 夢幻呪法の根幹はそこにあった。

 

 

 幻術を作り出しつつ現実を消去をすることで、嘘が真実に取って変わる。

 

 

 極ノ番の『白昼夢』を嘘の極致(・・)とするなら、領域展開である『斜陽無境』は嘘の超越(・・)

 

 

 

『僕にとってその領域は証明みたいなものだから。そしてどうせなら閉じた世界(自己完結)じゃなくて、この世界に全身全霊で証明したいだけ』

 

 

『······言いたいことはわかったが、そう簡単なものではないぞ?』

 

 

『かもね。でもやるよ。だって────』

 

 

 

 

 ────必ずしも空間を区切る(舞台である)必要はない。いつだって世界がそこにあるなら演じてた。

 

 

 

『僕は演じる(描く)よ、その時まで。僕の求める最上の(未来)を』

 

 

 ······そう言えばこの後のセリフは半分冗談だったんだよな。現実になっちゃったけど。

 

 

『その証明ついでに羂索もぶっ殺すから見ててよ天元』

 

 

『っ······なぜ君が羂索の名を······』

 

 

『秘密~』

 

 

  ○ ●

 

 

「ッ────!!!」

 

 

 領域を空振りした羂索を夕が出迎える。

 

 

 剣が、炎が、水が、氷が、風が、雷が、岩が、羂索に殺到する。

 

 

「自分の術式に不満がある訳じゃないけど、個人的にはオンリーワンの何かより、こういう手数のあるものの方が好みなんだよね~」

 

 

 少しだけおどけたような口調で夕がそんなことを言う。

 しかしその目はどこまでも冷淡に羂索を捉え、その肉体に現実のダメージを与えることのできる幻術を向けた。

 

 

「簡易領域ッッッ!!!」

 

 

 術式が焼き切れた羂索は何とかそれに対抗するも─────

 

 

 

 バリッバリッバリッバリッバリッ!!!

 

 

 

 物凄い速度で彼の簡易領域は引き剥がされていく。

 

 

(この領域は私と同じ······!?)

 

 

 即座にそれを理解する羂索だが、今の彼に打つ手はない。

 

 

「死んでくれ羂索。俺の安寧のために」 

 

 

 それと同時に必中の中和が失われ、真実となった幻術が羂索を襲う。

 

 

「グ······ガァッ······!! っ······! ゴフッ────!!」

 

 

 命中した必中の攻撃。加えてそれに乗じて夕も羂索に接近し、掌底を食らわせる。

 

 

「無駄」

 

 

「ぐっ······!」

 

 

 再び簡易領域を使う羂索だが、それならそれと手に出現させた剣で夕は直接斬りつける。

 それによって呪力制御の乱れた簡易領域は即座に領域の餌食となる。

 さらに────

 

 

(ッ────!? 重力まで!?)

 

 

 簡易領域が剥がれたタイミングで彼に何倍もの重力が襲う。かと思えば────

 

 

「返すよ────術式」

 

 

「何、を······!?」

 

 

「親切心だ」

 

 

 もちろん違う。

 重力に押し潰されてたと思いきや、突如それらがゼロになる。当然その身体は星の引力から見放され、致命的な隙をさらす。

 重力を操っていた羂索にとってこれ以上の皮肉はない。

 

 

「黒閃」

 

 

 そこに重ねられる夕渾身のストレート。

 

 

(ここで終わらせる)

 

 

 世界からの後押しを受けながら、吹き飛ばされた羂索向けて夕は駆ける。

 

 

「っ────」

 

 

「────」

 

 

 地面を転がりながらも何とか体勢を整える羂索。しかし、その時にはあと一歩の距離にまで夕が迫る。

 交錯する視線は一瞬。次の瞬間には簡易領域を剥がすために攻撃を加えにいく夕。

 

 

「?────ッ!?」

 

 

 だが、羂索は向けられた剣に対し手をかざしてくる。その手には反転させた正の呪力が一点集中されており、呪力で作られた剣は消滅する。

 そして羂索は勢いそのまま、剣を消し去った手を手刀の形にして真下に振り下ろす。

 

 

「っ────」

 

 

(片腕を奪った! これで先ほどより接近戦の精度は落ちるし、焼き切れた術式もそろそろ戻る! もう少し時間を稼げ────)

 

 

「バァッ!?」

 

 

 目論み外れ羂索は裏拳を食らう。それも斬り落としたはず(・・・・・・・・)の方の腕によって。

 

 

「腕を再生できないと思った? この領域内ならそんなものいくらでも治せる」

 

 

 文字通りこの領域での夕は創造者だ。

 彼の想像が及ぶ範囲ならすべてが真実として現実に上書きされる。

 ならば慣れ親しんだ自らの肉体の一部の修復などわけもない。

 

 

 そしてだからこそ可能なこともある。

 

 

「────」

 

 

(······冗談だろ!?)

 

 

 夕焼けの赤よりも空へと広がった夜の青。

 

 

 そこで輝いていた星が落ちてくる(・・・・・)

 

 

「────星よ」

 

 

 合図はそれだけだった。

 

 

 空より迫る光の軌跡は羂索に向けて加速していく。

 

 

 そして────

 

 

「────ッッッッ!!!!」

 

 

 衝突。

 

 

 その一瞬前に羂索の術式が復活したため、彼は全力で防御を展開。

 

 

(これを······防げばッ······!!)

 

 

 歯を食いしばり、羂索は星を逸らす。

 

 

「あ、あああああぁぁぁぁっっっっ!!!」

 

 

 星は羂索の横の池に落ち、大きな水しぶきを立てる。

 

 

(耐えた······! 私の勝ちだ!)

 

 

 

 

「────星は堕ちない。仮に堕ちてもまた俺が空へ連れていく」

 

 

 

 

「·········はっ?」

 

 

 瞬間、落ちた星は再浮上し、羂索を貫いた。

 

 

 

 

「────」

 

 

 さらにそこに夕が剣を突き立てる。

 

 

「が、は·········」

 

 

 心臓を穿つに留まらず、夕はもう一本剣を手にし────

 

 

「終わりだ」

 

 

 その首を斬り飛ばす。

 

 

 宙を舞う羂索の首。

 

 

「消えてくれ。お前の目指す世界に俺は興味ないし、俺の目指す未来にお前はいらない」

 

 

 最後に首と残った胴体を火にくべる。

 

 

「············」

 

 

 燃え盛る炎を夕はジッと見つめる。

 

 

 今日までずっと囚われていた。

 

 

 でもそれが終わる。

 

 

(嗚呼、これでやっと────)

 

 

 空を見上げる。

 そこには変わらず、煌々と輝く一つの星があった。

 

 

(アイがいなければ、この景色は描けなかった)

 

 

 だから────

 

 

「······会いたいな」

 

 

 話したい、手を握りたい、抱き締めたい、『愛』を伝えたい。

 

 

「帰ろう」

 

 

 アイが、みんなが待っている。

 

 

  ○ ●

 

 

 ────駆ける。

 

 

 空港内を必死に走った。ようやく帰ってこれた。

 

 

 それでも、これで終わりではない。

 

 

 本当に長い旅路だった。

 

 

 けれどそれは終着点じゃない。

 

 

「! センパイ!!!」

 

 

「五条!」

 

 

 空港の外に出ると五条が待っていた。

 

 

「認識の干渉は済ませてる! 『跳べ』!」

 

 

「あいよ!」

 

 

 視界が切り替わる。まだ完璧ではないのか、いくつかの中継点を経由して、そこにたどり着いた。

 

 

「姉さん! 周!」

 

 

 ここがどこかを忘れてアイに付き添っていたであろう二人の名前を叫ぶ。

 

 

「アイは!? どうなった!?」

 

 

「落ち着いてください夕」

 

 

「っ······ごめん······」

 

 

 ほとんど食ってかかるように詰めよったが、ようやく少し冷静さを取り戻す。

 

 

「ほらこれ」

 

 

「ありがと周」

 

  

 差し出された水を受けとるが、とても口にする気が起きない。緊張で口の中は渇いているのに、だ。

 

 

「·········」

 

 

 そこからは長かった。

 どこまでも時間が引き延ばされたような感覚に陥る。

 しかし永遠とも思えた時間が終わり、とうとうその時が来た。

 

 

「·········アイ」

 

 

 その腕には二人の赤子が抱かれている。

 

 

「おかえり夕」

 

 

 自分が一番大変だったはずなのに、彼女はいつも通りに迎えてくれた。

 

 

「私······ママに、なれたよ······」

 

 

「······ああ」

 

 

 こみ上がってくる何かをかみ殺すように返事をする。

 

 

「夕もパパに、なれたね······」

 

 

「! ああ······っ!」

 

 

 けど駄目だった。それは結局止まらない。

 それでも、これだけは伝えないといけない。

 

 

「────アイ······ありがと······本当に、ありがとう······!!」

 

 

「うん······! 私もありがとう······っ!」

 

 

 お互い涙が頬を伝っていく。

 溢れるそれを拭うことも忘れ、双子を抱くアイを抱きしめる。

 三つの温もりを感じる。

 それがまた新たな涙を作っていく。

 

 

 ······そうだ。これも言わないと。

 

 

 ────生まれてきてくれてありがとう。

 

 

 まったく同じタイミングでアイも同じことを言った。

 それに泣き腫らした顔して笑い合った。

 

 

「「────」」

 

 

 するとアイに抱かれた二人がこちらを見上げてきた。

 まだ見えてないはずの目が合うのを感じる。

 それが嬉しくてまた泣いたし、何回言ったか忘れるほどありがとうを繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 今日という日を、俺は一生忘れない。

 

 

 

 




伏線(で、いいのかなこれ?)
実はちゃっかり星漿体騒動の際に天元の下を訪れ、閉じない領域について相談。結界術を教わりつつ、天元と共に閉じない領域を試行錯誤してました。
五条たちが「めんそーれ」している時も夕はせっせと頑張っていた。


領域展開・『斜陽無境』
領域内で生み出す幻術がすべて本物に変わる。
イメージビジュアルとしては『君の名は』で黄昏時に瀧と三葉が再会した場所。
『斜陽』は妖怪や魔物と出会いやすいと言われる逢魔が時を現す。また『斜』には幻術を本物にして本来の世界を傾けるという意味を作者は含めた。
『無境』は境を無くす、つまり嘘と真の境界を無くして、術者である夕が真実を作り出すという意味を込めた。
嘘を本当にというアイの言葉がこの領域のコンセプトであり、この作品において一番最初に作られた設定は実はこの領域展開。そこから夢幻呪法という術式が生まれ、夕という名前も領域が黄昏時だからという理由で付けられた。


渋谷事変や死滅回遊を残したまま推しの子を描いて行ける気がしないから、

「死んでくれ羂索。俺(作者)の安寧のために」 

世界(作品)のために羂索を殺しに行った作者。

 

「消えてくれ。お前の目指す世界に俺は興味ないし、俺の目指す未来にお前はいらない」という理由で、

「死んでくれ羂索。俺の安寧のために」 

愛する者たちとの未来のために羂索を殺しに行った夕。


これにて三章は終わり(まだ幕間があるけど)
四章ではこの章で描かれなかった部分(羂索戦後から戻ってくるまでの軽い流れや、アクアがどうなるのか、そして夏油の完全なる闇堕ち回避)を序盤に挟みつつ、推しの子の一巻を描いていきたいと思います。
······描けるだろうか?←原作推しの子にしといて今さら


次の投稿はまた時間がかかると思います。
それでも頑張ってやっていこうとは思うので応援よろしくお願いいたします。
それでは今日はここで。
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