真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
第四十五話○
俺は何と愚かなのだろう。
これで何度目だろうか。
かつての過ちから自分は何一つ学べてない。
(すまない·········すまない、我が子たち······)
どうか不甲斐ない父を許してくれ。
肝心な時にそばにいてやれなくて、そして仮にいてやれたとしても弱くて何もできない、そんな父親を。
○ ●
アイの出産から半月。
俺こと椎名夕は項垂れるように椅子に座っていた。
その手には一枚の紙がある。
────
我が家の
そして────
────
こっちが双子の妹の名前だ。
(なぜこうなった······?)
百歩譲って瑠美衣はいい。
無理に漢字をあてないでカタカナならとも思うがそれもまだいい。
だが、愛久愛海はなくないか? 特に
せめて普通に
アイの出産から今日までの間、俺は俺で忙しかった。
海外での任務の報告をしたら呪物が見つからなかった(ということにした)ことで腐った蜜柑から小言を聞かされたり、そんな中でしばらくの休みを勝ち取るために舌戦を繰り広げたりした。
あの老害共、海外での公演を理由に役者業の方をそこそこの間休むことを知ったことと、繁忙期だという理由でさらに任務を寄越そうとしやがった。
まあそれも今は自分たちの権力を広げる醜い蹴落とし合いをさせることで忙しくしてやったから、無事に俺は休みをもぎ取れたんだけどね。
何したかって?
別に大したことはしてない。
ただちょっと上層部の面々一人一人に羂索の姿に幻術で化けて訪問して、その中であいつと内通していた人間をしらみ潰しに探しただけだ。
あとは簡単で、その内通者から知る限りの情報を羂索のフリをしたまま聞き出し、用済みになったそいつのあれやこれやを敵対している人間に証拠付きで流してやればあら不思議、こっちをそっちのけで勝手に内輪揉めをするじゃないですか。
といっても今は立場を追われたその内通者も大した情報を持ってなかったんだけどね。それにしても────
(雨宮先生の死についてはあの老害共は関与してない、か······)
正直羂索あたりがアイとかのことを吹き込んでそうなったと思っていたから少しアテが外れた。そっちに関しては改めて調べ直さないといけない。
(まあそれよりも────)
「夕? 聞いてるの?」
「聞いてるよ······何だっけ?」
「もう、聞いてないじゃん」
ごめんごめん、とアイに謝る。
彼女には、そして真昼や周にも雨宮先生のことはまだ話してない。
正確には失踪ということにして話しているが、彼の死を知っているのは俺と五条に死体を発見した夏油、そして検死を行った家入だけだ。
「二人の名前のことだよ。ね? いい名前でしょ?」
凄くいい笑顔を浮かべる我が最愛の嫁であるが、正直滅茶苦茶答えづらい。
だが悲しきかな、既にその名前で手続きも済んでしまっている。
俺がこの二週間、泣く泣くアイや子どもたちの時間を削って後処理その他諸々をしている内に、アイたちもアイたちで病院を退院し、今いる新居に戻ってきた。
そして何とか出生届を出す期日に間に合うように時間を作り、一緒に名前を考えようとしていたのだが────
·········結論から言えば過労で倒れた。
海外公演にそこからの呪物回収に赴いた先で勃発した羂索との遭遇戦。
辛くもその戦いで勝利し、帰国から今しがた語った今日までの出来事。
倒れるのはある意味当然だったし、倒れない方がおかしいとも言われた。
(────羂索許すまじ······)
そう、つまりは奴がすべて悪い。
(「────夕······すまん」)
(「······あの笑顔には勝てませんでした」)
(「気にしないで二人とも······」)
そんなことを考えていると、周と真昼が目で謝罪してくる。二人は名付けの際にその場にいたからだろう。
それに首を振って気にするなと伝える。何せ────
「?」
コテリ、と首を傾げるアイ。なのにその顔はやはりとても魅力的な────無敵な笑顔だった。
(······仮に俺がそこにいても、この笑顔には多分勝てなかったよねー·········)
だからこそ、俺は内心で謝罪する。
(すまない二人とも。特に愛久愛海)
過去から学ばずに肝心な時にぶっ倒れて、仮に倒れてなくても
だけどこれだけは言える。
本当に二人が生まれてきてくれて良かった、と。
────椎名愛久愛海。
────椎名瑠美衣。
こうして、我が家に新しい家族が増えた。
○ ●
「────ところで夕、お前その口調どうした? 一人称も俺になってるし」
そんな訳でようやくしばらくの休みを勝ち取り、こうして集まってるけど、不意に周がそんなことを聞いてくる。
「ん? あー······」
真昼が救われたと同時に一度自分自身を蝕んだ俺の
アイに救われてもう一度歩きだした時に夢見た未来はここに実現した。
絶望の未来の元凶はもうこの世にはいない。
それを乗り越えるまでという誓いの意味で今一度手にした
だからからか、今の自分は昔のようなしゃべり方になっている。
「······変か?」
「変、というより違和感? が、あるな」
改めて今の俺を振り返りつつ、周に聞き返すとそんな答えが返ってくる。
「まあ、周はそうか。こういう俺見るのは初めてだろうし」
もちろん演技の範疇やちょっとしたノリでそういうしゃべり方に変えることはあっても、素の姿でそうなるのは恐らくあの時以来だろう。
嗚呼、でもそうなると······
「────真昼············うん、今となってはこっちの方が違和感あるな」
「······そうですね。私もちょっと違和感あります」
久しぶりに姉さんではなく名前で真昼を呼んでみるが違和感がすごい。真昼も同じなのか、最初に目をパチクリとさせ、その後に苦笑を浮かべた。
「·········本当はもうそうやって呼ぶ必要はないんだろうね」
だって
もっとも────
「────私も夕のこと見てるよ?」
それは俺も同じだが。
「······何でわかったの?」
だけど見抜かれたことに思わず苦笑する。
「夕のことだから。夕だって私のことならわかるでしょ?」
「······そうだね」
あの日アイが迷子になった俺を見つけてくれて、そして今も見ていてくれた。
そしてそんな彼女を俺もまた見ている。
·········というより、魅入られてしまってい目が離せないという方が正確かな?
きっとこれから先も隣にはアイがいる。
アイだけじゃない。
俺の周りには多くの人たちがいてくれる。
だからこれからも、皆と一緒に未来を歩んでいきたい。
「────ぅ、ぁ······っ······」
そんなことを考えていると、眠っていた瑠美衣がもぞもぞと身じろぎをする。そしてそれに引っ張られるように愛久愛海の方も目を覚ます。
「────」
その姿を目にしながら四人で顔を綻ばせる。
今はただ、この幸せを噛み締めよう。
そう思いながら、俺は二人の頭を撫で────
「「······! ウゥゥゥゥゥウウウ······!!!」」
撫でられなかった。何故だ。
どういう訳か俺は二人からの反応があまりよろしくない。
······見栄を張った。ぶっちゃけ多分嫌われてる。
あれだろうか?
この二週間くらいほとんど顔を出さなかったのがダメだったのだろうか?
確かにいくら真昼や周たちがいるとはいえ、出産を終えたばかりのアイのそばにいられないのは減点か。
·········いやだとしてもこれは嫌われ過ぎじゃね?
アイ、何だその顔? ちょっと面白がってない?
真昼、笑顔が引きつってるぞ?
周、その同情の目は止めろ。逆に傷つく。
解せぬ······何故俺だけ?
真昼も周も大丈夫で、斎藤さんやその奥さんのミヤコさんも問題ない。
となるとやっぱり接した時間か? ならしばらく時間があるから大丈夫のはず。
······大丈夫だよね?
クソ、これも全部羂索のせいだ。
あの野郎、とんだ置き土産を置いていきやがって。
(とっとと地獄に落ちてろ、クソ野郎が······)
まだあいつの四十九日には遠いが、そう切に願う。
·········あと瑠美衣、そろそろ威嚇するのやめてね? お兄ちゃんの方はもうやめてるよ? このままやめないと俺多分泣くから。いや本当に······
椎名夕
忙しかった人。この後やっぱり泣いた。羂索は絶対に許さない。(奴の置き土産という名の後始末がなくても多分二人からはしばらく威嚇されるのは変わらない)
ちなみに口調に関してはこれからは多分一人称含めてこんな感じで、僕と言っていた頃より少ししゃべり方は崩れたものとなる。ただしそれは親しい人間の前だけで、テレビか何かに出ているときはこれまで通りの僕口調のまま。
また真昼の呼び方も姉さん呼びのまま。(真昼呼びが原因で世間から変な勘繰りをされるのが面倒そうだから)
椎名(星野)アイ
幸せの絶頂期にいる人。なおそれは今後も更新し続ける模様。
久しぶりに旦那との時間を過ごせて嬉しい。口調とかが変わっても夕は夕だと思っている。
子どもに懐かれずに落ち込む夕の姿に苦笑。でも普段はなかなか見せないその姿は新鮮であり、ちょっと可愛いとも思っている。
藤宮周・真昼
甥と姪を可愛がってる人たち。
真昼に関してはアクアもルビーも特に抵抗はなく、周に関してはアクアが普通でルビーは真昼ほど懐いてない。
どちらにしても弟よりは懐かれているため、夕のダメージはデカイ。
椎名愛久愛海・瑠美衣
滅茶苦茶父親を威嚇した双子。
遂に出演を果たした。
次回はもう少し二人のことを掘り下げていきたいと思う。