真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
今回はまるまるアクアとルビーの二人に焦点を当ててみました。
俺こと椎名愛久愛海には前世の記憶がある。
生まれ変わる前は雨宮吾郎という名の産婦人科医だった。
詳しいことは割愛するが、推しのアイドルの出産予定日に俺は殺された。
しかし死んだと思って次に目を覚ました時、そこは天国だった。
なぜなら件の推しのアイドルの子どもとして生まれ変わっていたからだ。
鏡を見れば小さくも両親譲りの整った顔立ちで、我ながら将来は美形になることが窺える。
といっても髪色は金髪に近い亜麻色で、これは自分の伯母にあたる人と同じであり、全体的な顔立ちもそちらに近いが、唯一目元あたりは父親とそっくりと言われる。
ちなみに髪色に関しては双子の妹も自分と同じだが、そちらの顔立ちは母親であるアイそっくりだ。
(────もし芸能人の子どもに生まれていたら、か······)
考えたこともなかったし、少なくともその時はそれを一蹴した。
けど、こうして現実として起こっている以上受け入れるしかない。
(ただ······)
────できれば二人には普通の子どもを生ませてあげたかった。
アイにも、そして椎名くんにも正直申し訳なく思っている。
二人とも生まれてくる子どもをとても楽しみにしていたのは知っている。
初めて受診に訪れた時はもちろん、アイからは入院中の間に何度もそのことを聞いたし、椎名くんもそのことを語る時は決まって表情を綻ばせていた。
特に椎名くん······基本的には滅多に感情を高ぶらせない彼がアイが出産を終えたばかりの時────つまり、俺が今の自分に生まれ変わった時に、泣き腫らした顔をさらに涙で染めながら「ありがとう」と何度も繰り返したことは今でも覚えている。
────綺麗だった。
いやもちろん俺には別にそういう気はない。
だけど思わずそう感じてしまったのだ。
まるで救われたようなその顔は、とても美しく見えた。
その顔は元産婦人科医としてはこれ以上ない報酬であるだろうし、できればそれを医者として見たかった気持ちもある。
だからこそ罪悪感がある。
本来それを向けられるのは自分ではなく、この身体本来の持ち主のはずなのに。
しかしそれを受けた俺自身が同時にそれによって込み上げてくる何かがあった。
未知の感覚だった。
だがそれはとても温かくて、暖かかった。
いつまでも浸っていたいと思えた。
······これがもしかして······いや、やめよう······。
それはそうと一つだけ不満がある。
思わず普通の赤子のように癇癪を起こしてしまうほどだ。
けど正直こればっかりは許して欲しいと思う。
何だよ愛久愛海って!?!?
せめて双子の妹のような瑠美衣ならよかった。だってこっちは漢字として見るならともかく、普通に呼ぶ分にはそこまで違和感もダメージもない。
でも愛久愛海はカタカナにしても『アクアマリン』だぞ?
いやわかってる。彼が付けた名前ではないのはわかっている!
出産後、苦渋の表情と共にしばらくアイに会える時間が少ないって語っていたのを見ている。
実際に忙しかったのか、ようやく帰ってきた昨日、過労で倒れたのも見ている。
だから彼が名付けの場にいなかったのも、俺の名前を知って申し訳ない顔をしたのも見ている!
それでもだッ!!
それでも、ああいう態度をとってしまうのは仕方ないと思うんだ······。
久しぶりに帰ってこれて、ようやく家族で過ごせる時間を楽しみにしていた彼に理不尽な思いをぶつけた。
冷静になって思えば本当にすまないと思う。
だって生前の俺のイメージと思いっきり解離したように沈んだ顔をしていたから。
ただそれを見てアイが彼を慰めて、そこからイチャイチャし出すのはどうにかならないか?
既に前世で何度も見て複雑ながらもその関係を応援していた身であり、それには慣れたと思っていたが、それは間違いだった。
恐らく一応自分たちの立場やらを考慮して入院時にはセーブしていたのか、こうしてそれらを気にする必要のない自宅ではもう遠慮がなかった。
何度ものたうち回った二人のストレートはしかし、実際にはジャブ程度のものだったのだ。
それにすっかり慣れさせられ、こうして本物のストレートを浴びた俺の顔は正直赤ん坊がしていていい顔ではなかったと思う。
ちなみに俺と
うん、まあ前世の俺みたいにその内慣れるよ? その間のダメージは計り知れないけどな。
あれだな、苦楽を共にできる仲間がいるのは意外とありがたいな。
一緒に乗り越えような、妹よ。
○ ●
私には前世の記憶がある。
前世の名前は天童寺さりな。
転生を果たした今世の名前は椎名瑠美衣。
あの日、せんせに看取られて死んだはずの私は再び目を覚ました。
そしたら何と天国にいたのだ!
前世の頃からの最推しと言えるアイの子どもに生まれ変わった。
正直それだけでまた天に昇りそうになった。
けれど母親がいるということは当然父親もいる。
処女受胎の可能性も考えたけど、それは一瞬で否定された。
正直認めたくなかった。
こうして私が生まれてる以上父親という存在が必要なのはわかる。
だが、とてもじゃないが私はそれを受け入れられなかった。
まずそもそも私たちが生まれた後ほとんど顔を見せないって何!? そこは一応私たちの父親で、認めたくないけどママの夫でもあるんだからそばにいるのが普通でしょ!?
なのに当の本人はまったく姿を見せず、私の伯母と伯父────どうやら父親の姉とその旦那さんらしい人たちの方が顔を出していたくらいだ。
伯母さんは凄い綺麗な人で、ママはお姉ちゃんなんて呼んで仲良さそうにしてたし、実際いい人だった。
伯父さんの方も私はあまり近寄らなかったけど、私の双子の兄の方の相手をしたり、奥さんやママのことを凄い気遣ってた。
(なのにあの父親は······!)
けどママも伯母さんも伯父さんも、あの人のことを話す時は皆笑顔だった。
なかなか顔を見せないことに仕方なさそうな顔を浮かべながら、私たちにあの人のことを色々と話してくれた。
(むぅ······)
その内容を聞くにあの人がとても忙しいのはわかった。
そして、どれだけママたち家族を大事にしているのかも聞いた。そのために色々頑張って、今暮らしている家はあの人が用意して、私たちの誕生を心待ちにしていたのも知った。
けど、やっぱりダメだ。だって肝心のママに寂しい思いをさせてるからだ。
あの人のことを話すママは嬉しそうだが、同時に寂しそうな顔をしていた。
ふとした時にあの人の名前を呼んだり、連絡がこないかと期待したり、夜寝る前にはいつもあの人の写真を見ていた。
あんな寂しそうな顔をママにさせる以上、やっぱりあの人は認められない。
しかも帰ってきたらきたらで倒れて余計にママを心配させてるし。
ううぅ······なのにあの人が帰ってきたらママは凄い幸せそうだ。
普段通りのはずなのにこう···空気が凄い違うというか、とにかくその時のママはいつもの何倍も可愛かった。
(けど────)
認めたくないし、受け入れたくないけど······それでも────あの人は私たちの父親なんだって感じている自分がどこかにいる。
(······あんな泣いて喜ばれることなんて前世であったっけ······?)
思い出すのは私たちが生まれた時。
生まれたばかりの私たちを腕に抱くママに駆け寄り、涙を流すあの人の姿が、ただ純粋に生まれてくれたことに感謝するあの人の顔が妙に頭に残るし引っかかる。
今も胸に残るそれは思い出すと心を温かくすると同時に、なおのことそのしこりのようなものが際立たせた。
(もしかして私は────! 違う······そんなこと、ない······)
胸に渦巻くそれを私はそれ以上考えなかった。
────とりあえずもうちょっとだけ広い心であの人のことを見てみよう。
あくまでママに免じてだ。それ次第で今後のことを決める。精々ママに感謝するといい!
あー! ちょっとあんた何どさくさに紛れてママとイチャついてんの!
慰められながらママに甘えてんじゃないわよ!
くっ! この身体は全然動けないからあっちまでいけない······。
気づいてママ! そして私も甘えさせてー!
ちょっ何? 私今忙しいの! というかあんたもママのファンならあれを止めるの手伝ってよ!
はっ? 無駄? というか何その悟った顔? いいから手を貸しなさい!
結局、この後私たちに気づいた二人はすぐにこっちに来てくれた。
けど、対抗意識からあの人のことをガン無視したらまた落ち込んで、それをママが慰めてもう一度さっきみたいになった。
しかも今度は私たちを腕に抱いたまま。
昼間は私と一緒に威嚇した双子の兄は、今はおとなしくあの人の腕に抱かれながらこっちを見てくる。
その目は「ほらな?」と言っていた。
くっ! やっぱり今のママは凄い可愛い······。邪魔したいけど、これを間近で見てもいたい······!私はどうすれば······!?
椎名愛久愛海
名前のことで最初は威嚇したが、冷静になった後は抱っこされるくらいは普通に受け入れた。
前世の経験をいかし、二人がイチャつく時はさながら悟りを開こうと苦行に身を投じる修行僧になりきり、心の平穏を保っている。(なおたまに心の準備が遅れたり、不意を打たれてライフを削られる模様)
椎名瑠美衣
とりあえずもう少し観察してから答えを出すことにした。ただしいまだに父親に対する警戒心は強い。
あんまり父親を邪険にすると、それが原因で母親とイチャつき出すことに気づき、不承不承ながらこちらも抱っこなどを受け入れるようになった。
こちらは兄のように耐性がないため、ダメージはいつもデカイが、幸せな母親を見て何とかライフを保っている。