真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
またしばらくの時が流れた。
季節はいよいよ夏本番となり、身体中から蛆が湧くかの如き不快感を与えてくる。
だが、そんな夏も悪いものではない。
ある者は友と更なる絆を深め、ある者は気になる異性を遊びに誘い、またある者は日頃の疲れを癒す。
そんな例に漏れず俺、椎名夕も家族との時間を過ごすつもりだった。
────そう············
「────は~い、ご紹介に与りました『どんな人が好みかな?』でお馴染み、どうも椎名夕で~す」
俺は今あるスタジオにいる。
────つまるところ仕事である。
世間は夏休みの時期で、大学に通う真昼や周も試験を終えて休みを満喫している今日この頃、俺はバラエティー番組にゲストとして呼ばれていた。
ちなみに当然ながらアイはまだ休業中で、子どもたちに関しては言わずもがな。
本来はもう少し休むつもりだった。だがそうも言ってられない。
高専卒業後は一応フリーの呪術師になるつもりだがあくまで本業はこちら。
だという以上あまり休んではられなかった。
売れる時に売るのがこの芸能界の鉄則と言えるのだ。
そんなわけで海外公演(とその後の死線)を終えた俺は休み明け早々こうして一家の大黒柱として仕事を受けた訳だ。
(······まあ放送されたらアイたちも観るだろうし頑張るか)
正直微妙に今になってこのバラエティーの出演オファーを受けたことを後悔しているが、そう自分を鼓舞して何とか気持ちを切り替える。まあ表情はいつも通り愛想笑いをしてるんだけど。
「いや~椎名さん、まずは改めて海外公演お疲れ様です」
「ありがとうございます」
自己紹介は終わったが、司会の方が軽くこちらに話を振ってくるので無難に返す。
「実際のところどうでした? よその劇団、それも海外の方での活動は」
「そうですね······とてもあちらの方たちは良くしてくれましたよ。僕としてもとても有意義な時間でした」
「なるほど。何か印象に残ってることはありますか?」
「······ええ、もちろん」
それは? とさらに尋ねてくる司会。それに僕はニヤリと笑い────
「向こうの人たちは僕の挨拶にいい反応をしてくれましたね。やはり文化の違いですかね? 結構な人が気前良く答えてくれました」
「ええと······挨拶って椎名さんのあれですよね? 向こうの人たちに初対面から好みを尋ねたんですか?」
「もちろん」
「な、なるほど······」
何を当たり前のことを。そんな意味を込めてと頷くと司会者は少しどもっていた。
多少なら大丈夫だろうが、あくまで今はゲストの紹介。俺ばかりに時間をかけられないため、その後は他のゲストの紹介に移っていった。
そうしてゲスト紹介が終わると番組は始まる。
内容は世界中で撮影された様々な映像の特集だった。
いくつか映像がVTRとして流れ、それに出演者たちは各々様々な反応を見せ、時にその感想を共有し合う。
視聴者の興味をかきたてるために各ジャンルの映像ごとにランキング形式にし、それぞれ低い順位のものから少しずつ開示していく。
「────ここで問題です! このシマウマはこの後ある悲劇に見舞われます。それを当ててください」
するとVTRが途中で静止し、司会者がそう呼びかける。
俺を含む出演者たちは回答用のホワイトボードに答えを書いていく。
(······────これでよし)
サバンナにいるシマウマ。ならば答えはこれしかあるまい。
全員が答えを書いた後、司会の合図と共にホワイトボードを反転させる。
俺の答えは······
────パンダに殴られる。
○ ●
そうして番組は恙無く進んでいく。
なお夕の答えは当然ながら出演者たちを困惑させた。
そもそも何でサバンナにパンダがいるのかという話だ。百歩譲って場所が動物園ならともかく······いや動物園でもありえない。
もっとも彼としてはいつか本当にそういう映像が撮られるのではないかと密かに思っていたりもする。具体的には数年後に生まれるパンダの手によって。
だがそんなことは出演者はもちろん、生みの親となる夜蛾正道でさえわからないのは自明だろう。
とはいえ椎名夕がこの手の番組に出演するようになって久しい。
基本的には意図的にボケているが、偶にガチの天然ボケが入ることがあり、今となってはそういうキャラとして彼は受け入れられていた。
······果たしてその答えがどっちのボケだったかは疑問だが。
そういう訳でその後の夕もある意味絶好調で、成り行きでなぜか『サインはB』を歌って踊ったりと、結構はっちゃっけていた。
ちなみに放送後地味にそれは反響を呼び話題となったことをここに記しておく。
「────お久しぶりです鏑木さん」
「ああ、久しぶりだね夕君。それと海外公演もお疲れ様」
番組の収録後、バッタリ顔を合わせた鏑木と夕は話していた。
鏑木────鏑木勝也は芸能界に多方面のツテを持ち、各方面からタレントなどを集められることで界隈からは評価されているプロデューサー。
「そういえばゲストとして僕を推薦してくれたのは鏑木さんだそうですね。ありがとうございます」
「構わないよ。それが僕の仕事でもあるしね」
「それでもお礼は言わせてもらいます。長期の休み明けの仕事って何かアウェー感みたいなものがあるんで、こうやって呼んでもらえるのは素直にありがたかったですよ」
芸能界は貸し借りの世界。鏑木のツテとはすなわち相手に対する貸しとも言える。そういう意味では夕に貸しを作れたのは彼にとって十分目的を果たせたのかもしれないが────
「けれど君なら別に僕が何かしなくても仕事を得られたんじゃないかな?」
「はは、鏑木さんも面白いことを言いますね。名前が知られてる自覚はありますが僕はちょっと演技ができるだけの小僧ですよ?」
何やら鏑木がそんなことを言ってくるが、夕はそれを笑って否定する。
だが鏑木の考えたことは決して間違いではない。
────椎名夕に深入りするな。
それは芸能界、それもそのかなり上にいる人間の間で共有されていることだ。
仕事の範疇で関わるならともかく、踏み込み過ぎた場合は火傷ではすまないとされ、一度それを無視した者は文字通り手痛過ぎるしっぺ返しを食らったと言われている。
そんな噂は夕が活動の幅を舞台からカメラ方面に移し始めた頃から少しずつ広がり、鏑木の耳にもその話は入っていた。
実際それを証明するかのように椎名夕は上の人間から配慮されている節がある。
なお彼は呪術師側としての立場を踏まえ線引きをしつつも、極めて常識的な対応している。
ただ一度そこを勘違いした人間が呪いを軽んじたことがあり、その際に夕がとった措置が再発防止の意味合いを込めたため、些か強いお灸になってしまったのだ。
本人としては似たようなことをしない限りとくに思うところはないのだが、それ以降夕と芸能界の重鎮たちとの関係は先に説明したような関係となった。
「────さて、では僕はこの辺で」
「ああ、君のこれからの活躍を願ってるよ」
興味本位かどうかは知らないが探るようなことをしてきた鏑木を適当に躱し、話を切り上げる。鏑木の方もこれ以上話すのは世間話の範疇を越えるのを理解して引き下がる。
「そういえばヒカル君のことは聞いているかい?」
「······ええ、金田一さんの方から聞いています」
「そうかい······。彼はよく君のことを話していたし、君なら何か知っていると思ったんだが······」
「残念ながら僕の方もとくに何も······。せめて無事でいてくれるならありがたいんですけどね」
「そうだね。引き止めてすまなかった」
そう言って鏑木は去っていく。
「·········本当に────何事もなければいいんだけどね······」
できれば杞憂であって欲しいと夕も思っている。
────カミキヒカル。
劇団ララライ所属の役者。
今から二ヶ月ほど前に失踪し、今日に至るまで音信不通で、その所在は当然ながら不明。
現在まで彼に関するめぼしい情報も特になし。
ちなみに作者は全然テレビを観ません。
なのでこれからちょくちょくテレビなどに出演する夕やアイを描くと思いますが、かなり拙いものとなると思うのでご了承を!