真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
うちの父親は······ちょっと変だ。
『────は~い、ご紹介に与りました『どんな人が好みかな?』でお馴染み、どうも椎名夕で~す』
······訂正、かなり変だ。
いやこの挨拶? に関しては前世で既にされたこともあるからいい。
俺が気になるのは────
「ふと思えばあいつの師匠ってもしかして呪術師?」
「そういえばあれは師匠の真似って言ってましたもんね」
今俺はアイやルビー、そして伯母である真昼さんと伯父の周さんと共に件の父親が出演する番組を見ている。
まあまず一つ────呪術師って何だ?
うちは当たり前のようにその単語が会話の中に出てくることがある。最初は芸能界の隠語のようなものなのかとも思ったが、どうも違う気がしてならない。
しかし意外にもそれについてわかったことがある。
具体的にはつい先ほどまでこの家にいた父の後輩らしい人によって。
呪術────どうやらそう呼ばれる超能力的なものがこの世には存在するらしい。
そして会話から察するに父もその呪術とやらを使える人のようだ。
正直かなり懐疑的だった。
確かに自分も転生という科学では説明できない現象によって二度目の人生を現在進行形で送っているが、それとこれとは別だ。到底すぐには受け入れられない。
だから昼間、呪術云々の話をしていた時は精神の異常を疑った。
そう────疑ったが、夕方に白髪でグラサンをつけた人物が突如として現れた時は度肝を抜かれた。
まるで瞬間移動でもしたように何の前触れもなく現れた彼────五条さんは父の後輩らしく、父もそれを当たり前のように受け入れ·········いや普通に頭をはたいていたから受け入れている訳ではなさそうだが、とにかくその不可解な現象については父はもちろんアイも驚いた様子はなかった。
·····もしかしてとんでもない家に生まれた?
いやそもそも父にしろ母にしろ俺たち双子にしろ、どれか一人でも普通じゃないのにそれが集まるってどんな確率だ?
それとどうやら俺たち双子には呪術師の才能はないらしい。
昼間口にしていたが父はそれに落ち込むことなくむしろほっとしていた。どうやら想像以上に呪術関連は危ないもののようだ。
······でもちょっとだけ残念と思ったのは内緒だ。まあ俺も男だしな?
(······そういえば────)
ふと前世のやりとりを思い出した。
思えば五条さんとは少しだけ前世で顔を合わせていた。
確かその時に彼を紹介した椎名くんは······
『────彼は僕の後輩です。時々アイのお見舞いに来ることもあるので一応紹介しておきます』
『えっ、大丈夫かって? 大丈······夫、じゃないかもしれませんね、あいつ意外と口軽いし······』
『······まあでも、もしもの時いてくれれば物理的にあいつをどうこうできる人はいませんからね。アイの安全のためにそこは目を瞑ります』
『どういう意味か、ですか? そのままの意味です。例えこの場が突如日本海溝クラスの環境に変わろうとも問題ない奴ですから』
·········もしかしてあの会話冗談じゃない?
いやまあ流石にそれはないか。
どちらにしても才能がないらしいし、仮にあっても今の俺は赤子だ。できることはほとんどない。
(·········本当に身体が赤ん坊なのは不便だ······)
そう、俺は今日その事実を突きつけられた。
許すまじ五条悟······
珍しく来客があった今日はいつにも増して父はその料理の腕を奮った。
実のところ父の料理は地味に俺の悩みの種だ。
けして作る料理はおかしなものでなく、むしろこちらの食指をこれ以上ないほど動かす。
実際前世で一度ご相伴に与ったが、その料理は物凄く美味かった。
そんな料理を現在は食べることもできずに、その匂いや食する両親を見ているだけ。なまじ前世の経験があるせいで一種の拷問になっているのだ。
そして今日、そんな料理を五条さんはしこたま口にしたのだ。まるで見せつけるように。
しかもッッ!!!
『五条、お前は何愛久愛海に食わせようとしてんだよ』
『いやー何かスゲー物欲しそうな顔をしてたからさ。でも大丈夫。無下限を使ってるから食べられることはないよ』
『······赤ん坊相手に術式使って何してるんだお前は』
どうやら呪術を使われたらしく、差し出された料理と口との距離が後一歩のところから決して近づくことはなかった。
(······お腹減ったな)
そんなことを考えたせいか身体が空腹を訴えているように思える。
しかし父は今五条さんを途中まで見送りにいっており不在。代わりに父が出演する番組を一緒に見ようと訪ねてきた真昼さんと周さんがいる。
······アイに頼ると授乳をしてきそうだから周さんにここは頼るか。
「? どうかしたか愛久愛?」
「ば、ばぶぅ······」
多少の羞恥心を呑み込み、訴えかける。
「アクアどうしたの?」
「オムツですかね? それともお腹でも空いたのでしょうか?」
俺の様子にアイや真昼さんも気づく。
「オムツは違うっぽいぞ」
「じゃあおっぱい飲────えー、いやなの······?」
「······話しには聞いてましたけどずっとこんな感じ何ですかアイちゃん?」
「そうなんだよねー。夕が帰ってきてからは夕がアクアにミルクをやってるし」
アイには悪いがこれは譲れない。
それを示すように必死に俺は周さんにしがみついた。
「この分だと周くんがやった方がよさそうですね。ちょっとキッチン借りますね」
「うん······ごめんねお姉ちゃん」
「気にしないでください」
俺のミルクを用意しに真昼さんがキッチンに向かっていった。
「お兄ちゃんもごめんね」
「気にするな、大したことじゃないしな」
シュンとなりながら周さんにも謝るアイにますます罪悪感を抱く。それが居たたまれなく、俺は早くミルクがこないかと願った。
しばらくすると真昼さんが哺乳瓶を手に戻ってきた。
現実逃避も兼ねて思いっきりそれに吸い付いてミルクを呷る。
しかし数秒後それを後悔した。
ブーーーッ!!!!
口にしていたミルクを勢いよく吹き出した。
(な、何やってんの!?)
居たたまれなくて目も向けず、聞き流していたテレビ。
何がどうなってそうなったかはわからない。
────そこには何故か『サインはB』を歌い踊る父の姿があった。
○ ●
今日一日、私はどこか緊張していたと思う。
どうやら私のパパは普通ではなかったらしい。
パパは呪術? という超能力みたいなものを使えて、今日家に来た男の人も呪術師と言ってパパの後輩らしい。
そんなものが本当にあるのかとも思ったけど、私がこうして生まれ変わったことも考えれば案外ありえるかもとも思えた。
そうして夕方、とんでもないほどイケメンなお兄さんが突然家に現れた。
そしてその人────五条さんは言った。
『────うん、ないね。この二人に術師の才能はないよ。呪力もそこら辺のパンピーと変わらないし、多分見えることもないと思うよ』
最初私は不安だった。
昼間は才能を受け継いでなくていいってパパは言ってたけど、実はやっぱり期待してるんじゃないかって、それがない私はいらない子って思われるのかなって思った。
でもそれを聞いたパパはほっとした顔をしていた。穏やかに笑いながら「これで二人とも好きな道を目指せるね」って私たちに言った。
(好きな道か······)
そんなの言うまでもなくアイドルだ。ママと、アイと同じアイドル、私はそれをしたいし、ママもパパもそれを応援してくれるみたいだから凄い嬉しかった。
ちなみにだけどそんな私の思いをよそに五条さんはパパの料理を堪能していた。
前世はほとんど病院で過ごしたとはいえ、私にだって人並みの食欲があって美味しいものを食べたいとも思う。
パパは料理が凄い上手くて、ママも幸せそうな顔をして食べているが、間近で見せられるのは結構つらい。
それは双子の兄であるアクアも同じらしく、羨ましそうにしていたところ五条さんが料理を差し出したかと思ったら何故か食べられなくて凄い形相で睨んでいた。うん、私もあれにはちょっと腹が立った。
夕食の後、五条さんは帰った。パパは途中まで見送ってくるらしいが意外と時間がかかってるらしく、皆で観ようってなっていた番組が始まってもしばらく戻らなかった。代わりにパパのお姉さんとその旦那さんの真昼さんと周さんが家に来て一緒にパパの出演する番組を観ていたのだが······
······うん、何というか家にいる時と全然違った。
今さらだがパパは役者らしい。それもかなりの売れっ子のようだ。
普段と違うパパに困惑しながら観ていると、出演者の一人がパパにあることを尋ねた。
『椎名さんの挨拶ってどういう経緯であんな風になったんですか?』
パパの挨拶とは初対面の人に好みのタイプを尋ねることだ。······いやそれ挨拶なの?
もはやそれが当たり前でスルーしていたが、やっぱりちゃんとおかしかった。
そんなことを考えていると、画面の向こうのパパが質問に答える。
『────もともとは役者として顔を覚えてもらうために始めたんですよね。インパクトのある挨拶って考えた時に真っ先に思い浮かんだのが師匠がしていた挨拶だったのでそれを真似した形です』
意外にもあのあれは別の人の真似だったらしい。
『へー、師匠っていうのは役者としての師匠ですか?』
『いえ武術の師匠です』
スタジオにいる全員が「?」といった感じの顔になった。
『────歌って踊って戦える役者っていうキャッチコピーでこれからは行こうと思います』
気づいていないのか気づいて無視しているのかわからないがパパはそんなことをのたまった。
『······歌については知ってますが、踊りもできるんですか?』
『もちろん。────時間があるようなら今ここで踊ってもいいですよ』
自信満々で頷くパパ。······というかパパって歌もいけるんだ。あ、丁度紹介のテロップが出た。『青●すみか』っていう曲みたい。今度聴いてみよう。
何か今日は随分とパパの情報が多いなって思う私をとんでもない衝撃が襲う。
(な······!?)
宣言通り踊りを披露し出すパパ。そのチョイスはまさかの『サインはB』だった。しかもただ踊るのでなく、歌いながらだ。
踊り始めるときのポージングを見てまさかとは思ったけど、実際に始まってからは圧巻だった。
(何て完成度······っ!)
何度も何度もママのライブ映像を見てきた私すら唸るほど、パパのそれは完璧だった。
ちょっとした腕や顔の角度さえ記憶に焼き付いたそれと一切のズレがない、まさに完全再現だ。
(私はまだ侮っていたというの······?)
何やら横でアクアがミルクを吹き出していたが、そんなものは気にならなかった。
ママへの愛については認めていたが、まさかここまでとは······! いや、そもそもパパの上限は一体どこに······。
思わずそんなことを考えるが、答えは出ない。
そうこうしている内にパパは踊りきった。もちろん最初から最後まで一切パフォーマンスは崩れていなかった。
拍手されながら用意された席にパパは戻る。その後は軽く感想を挟みつつも番組は本来の進行で進んでいく。けど正直あのまま語り合ってた方がおもしろいのにとか思ったのは私だけじゃないはず。そういう見る人を惹き込むところまで再現されていた。
「────ただいま」
パパが帰ってきた。
「おかえり夕」
「うん、ただいまアイ」
ちょっとの外出から帰ってきただけなのにうちのママとパパは相変わらずだ。ママの腕の中にいる私としては少しおもしろくないけど────
「······だぁ」
「! もしかしておかえりって言ったのかな? ただいま瑠美衣」
もはや認めざるを得ない。いや、結構前から認めていたけど改めてそう思ったのだ。
だから私もパパにおかえりって言った。
そんな程度のことで本当に嬉しそうにパパは笑う。
······でもやっぱりテレビに出てる時と別人過ぎない?
あるいはそれにもまた理由があるのかもしれない。いつかそれも知れるのかな?
(────眠い······)
そんなことを考えていると眠気が襲ってきた。
本当に今日は色んなことを知ったからね。ちょっと疲れたかも。
だから私はそれに逆らわずに目を閉じる。
最後におやすみって聞こえた気がした。
椎名愛久愛海
飯テロされた人。五条は許さない?
ルビー同様、今日は色々と情報量が多くて疲れたらしく、あの後熟睡······できる訳なく、悶々とした夜を過ごした。果たしてその理由は呪術に関してなのか、それとも何故か『サインはB』を歌って踊った父親に対してなのか。
椎名瑠美衣
こちらも飯テロされたが、兄ほど根には持ってない。呪術に関してもアクアと違って割とあっさり受け入れた。どちらにしても自分はアイドルを目指すのだから関係ないと多分思ってる。
今回の件で父親の愛を再認識した。
遅くなりましたね。はい。
思ったよりリアルの方が長引きました。まだ微妙にその余波のようなものが残ってます。
時間が随分空いたのもあり、結構ブランクも感じてます。しばらくは週一くらいの投稿で、少しずつ以前のペースに戻していきたいと思います。
投稿の仕方
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つべこべするな! 描けたらとにかく投稿
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モヤモヤしたくない! まとめて投稿
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お前を信じる! これまで通り作者に一任