真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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第五十一話●

 

 あの後の話をしよう。

 カミキヒカルは死に、雨宮五郎殺害の一件は裏向きには終息。夏油傑は彼なりの答えを見つけられた。

 といっても夏油に関してはその答えをまだ明確に自覚できていないようだが、遠からず彼は自分なりの『戦う理由』を持つことだろう。

 

 

「────そういえば椎名先輩。ふと気になったんですが、あの男があそこにいるってどうやって知ったんですか?」

 

 

 そんな一件を終え帰路へと着き、いざ別れようとしたところで夏油が尋ねてくる。

 

 

「天元から聞き出した」

「はい······?」

「天元にナビらせた」

「いや、天元って·········」

「もちろん薨星宮にお住まいの天元さんだよ」

「呪術界の要に何をさせてるんですかあなたは······」

 

 

 などと夏油が顔を引きつらせる一方────

 

 

「気にすることはないよ夏油君。あんなのに様付けする必要はない。むしろクソジジイで十分だ」

「ク、クソジジイって······」

 

 

 まさかの酷評に夏油はまたも言葉を詰まらせる。

 

 

「九十九さん、流石にそれはどうかと思いますよ?」

「ほう、それはどういうことだい? 夕」

 

 

 しかし、意外なことにそれを夕が窘める。

 

 

 

 

「────天元の性別は女です。だからクソジジイではなくババアです」

 

 

 もっとも、内容は全然窘めてなかったが。

 

 

「些末なことだろうそんなもの」

「いやそういうのをあんまり軽視しない方がいいですよ今の時代。現に俺もどんな『女』が好みかじゃなくて、どんな『人』が好みって言うようにしてますし」

 

 

(論点がズレてる······)

 

 

 明らかにそういう問題ではないのに、なぜかそれで議論を白熱させてる師弟コンビに夏油は困惑した。

 

 

 閑話休題。

 

 

「────で、話は変わるが雨宮先生とは誰だい? 聞く限り夕がここまで積極的に動いた理由みたいだが、高専にそんな名前の人間がいた記憶はないんだが」

 

 

 先ほどのことを思い出して九十九がそんな質問をしてくるが────

 

 

「·········椎名先輩」

「何だい夏油?」

 

 

 それを聞いた夏油が信じられない目を夕に向けた。

 

 

「言ってなかったんですか?」

「聞かれなかったからね」

「普通は聞かないでしょそんなこと······」

 

 

 すまし顔で肩をすくめる夕に呆れた様子を夏油は見せた。

 

 

「何だ、夏油君は知ってるのかい?」

「ええ、まあ······」

 

 

 頷きつつ、内容が内容なだけに自分が話していいのかと悩み夏油は言い淀んだ。

 

 

「────九十九さん」

 

 

 しかし、夕も流石にここまで来て言わないということはないようで、少しだけ居住まいを正し────

 

 

「この度、結婚しました。先日には双子の子どもも生まれて、二児の父になりました」

 

 

 

 

 

「···············は?」

 

 

 その報告に当然九十九はあんぐり口を開けたのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

「────なるほどな」

 

 

 結婚と子どもが生まれたこと、そしてそこに付随したゴタゴタから今に至る一連の経緯を聞いた九十九は納得の顔を浮かべた。

 

 

「で、私に言わなかった理由は?」

「面倒だったので」

「おい」

 

 

 とはいえ普通に言わなかったことに対して九十九は不満を露にする。

 

 

「だって九十九さん海外にいるせいか連絡つかないこと多いし、何度もそのために連絡するのが面倒だったんですよ。今回の一件やその他にも色々とありましたしね。あと何より家族との時間を優先したかったので」

「まったくお前は······」

 

 

 本音を隠す気もない弟子の様子に九十九は毒気を抜かれた。

 

 

 

 

 

「·········夏油君のことをそこまでして止めたのはそれが理由かい?」

 

 

 先ほど別れた夏油のことを九十九は話題に上げた。

 

 

「それがなくたって止めますよ普通。嫌ですよ俺は。特級の呪詛師を相手にするなんて」

「戦うこと前提か」

「良くも悪くも真面目ですからねあいつは。十中八九そっち(・・・)に振り切ったら、最初に親しかった非術師を手にかけるでしょうしね」

 

 

 そうなったら当然戦うことになりますよ。

 そう言いながら、夕はその未来を想像して顔をしかめた。

 

 

「───まあでも、示しておいて言うのはあれですけど、それがあいつにとって本当に最良だったのかは正直断言はできませんけどね······」

 

 

 それでも、と夕は思う。

 

 

「けど······少なくとも夏油が心から笑ってるその横には、五条がいて欲しいと思うんですよ。だから二人が肩を並べ続けられる未来を俺は提示しただけですよ」

 

 

 第一に自分の家族のためということもあったが、それと同じくらいそうあって欲しいという夕の願望だった。

 

 

「······まあ少なくとも終わりの見えない道を歩き続けるよりはよっぽどマシでしょ?」

「言ってくれるね」

「そりゃあ言いますよ」

 

 

 苦笑を浮かべる九十九に即座にそう言い返す夕。

 

 

「そもそも夏油に話した呪霊の発生のメカニズムだってまだまだ研究途中じゃないですか。日本よりも人口や人口密度のある国の呪霊の発生頻度はどうなってるんですか? 宗教・文化による違いは? 地形的な要因は? 他にも挙げればキリがないですけど、それら全部調べられたんですか?」

「······痛いとこつくな本当に。わかったわかった、今回は私が悪かったよ」

 

 

 両手を上げて白旗を九十九は上げた。

 

 

「まあ何にしろ夏油に関しては大丈夫そうなんでいいんですけど」

「ならボロクソに言わなくても良かっただろうに。こんな美女に向かって酷いじゃないか夕」

「はは、ウケる」

「おいコラどういう意味だ」

 

 

 ドスの聞いた声で凄む九十九。それこそそこらの一般人ならそれだけで萎縮して余りある。

 もっともこの師弟にとってはいつも通りのやりとりというかじゃれ合いというか、そんな程度のものなのだが。

 

 

「生憎と愛する妻子がいますからね。美女(笑)と言われても正直······」

 

 

 カラカラと笑い夕は嘯いた。

 

 

「······」

「あれ? どうしたんすか九十九さん」

 

 

 そんな夕を見て九十九は無言となった。

 

 

「······変わったなお前は」

「? そりゃあまあ色々とありましたから」

 

 

 かと思えば突然そう言われ夕は困惑し、九十九は苦笑した。

 

 

「微妙に噛み合ってない気がするがまあいい」

「はぁ······って、何すんですか?」

 

 

 一歩歩み寄り九十九はぐしゃっと頭を撫でてくる。

 

 

「······まあ何だ、頑張れ。それと、あんまり背負いすぎて前みたいになるなよ」

 

 

 それだけ言って九十九は歩き去っていった。

 

 

「······うす」

 

 

 その背中を眺めながら夕は頷いた。

 それを下ろせる場所はあるし、倒れそうになっても支えてくれる人がいる。

 心の中で九十九にそう言い、彼は歩き出した。

 

 

  ○ ●

 

 

 家に帰るといつも通りの日常がそこにあった。

 まだ二ヶ月程度しか経っていないが、そう思える程それが当たり前のものとなっていた。

 

 

「あ、おかえり夕」

 

 

 リビングに入ると丁度アイが洗い物を終えたところだった。

 夕に気づいた彼女は笑顔で出迎えをするが────

 

 

「······」

「夕?」

「あ、うん······ただいま」

「どしたの? 洗い物してたのもあるけど随分静かに帰ってきたから気づかなかったよ」

「······うん、ちょっとね。愛久愛海と瑠美衣は?」

「ついさっき寝ちゃった」

「そっか。ごめん今日は突然色々任せちゃって」

「それは大丈夫だけど······何かあったの?」

「何もなかったって言ったら嘘になるね」

 

 

 ふーん、とアイはその答えに相槌を打ちつつ、ソファーの方へと移動する。当然それは夕も一緒で、そのまま流れるように二人揃って腰かけた。

 

 

 

「────それで? 何があったの?」

 

 

 密着した身体を更に寄せながらアイは夕を見上げる。

 そんな彼女の様子に苦笑しながら夕は口を開いた。

 

 

「大したことじゃないよ。夏油と、あと師匠が一緒にいてね。そのまま成り行きで話してたんだよ」

「師匠って、前言ってた呪術の?」

「うん。普段は海外をフラフラしてるんだけどこっちに戻ってきてたみたいで驚いたよ。まああっちも俺が結婚して子どももいることを知ったら驚いてたけど」

 

 

 そのまましばらくソファーに身を預け他愛ない話をしていた二人だったが────

 

 

「さて、ちょっとシャワー浴びてくるよ」

「あれ、いつもより早いね。どうしたの?」

「今日はちょっと疲れたからね。主に精神的に。だからシャワー浴びて早く寝ようかなって」

「夕がそんなこと言うなんて珍しいね」

「俺のこと何だと思ってるの?」

「そう言うならもっと休むべきだと思いま~す」

 

 

 器用にも唇を尖らせながらアイは笑って言った。

 

 

「そうだ! 背中流してあげようか?」

「アイはもうお風呂入ったんでしょ?」

「入ったよ。でももう一回入る!」

「馬鹿言わない。その間に愛久愛海と瑠美衣が起きたらどうするの? それにどの道今日はシャワーだけのつもりだからそんなに時間もかけないよ」

「ぶぅー」

「拗ねない拗ねない」

 

 

 そうして不満気なアイの頭を一撫でして夕は浴室へと向かうのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

 夕が風呂からあがり、寝室にいくとアイはまだ起きていた。

 

 

「先に寝てても良かったんだよ?」

 

 

 眠るルビーを抱いて揺らすアイにそう言う。

 

 

「いいの。一緒に寝たかったんだから」

 

 

 ルビーをベビーベットに寝かせ、隣で眠るアクア共々最後に優しく頭を撫でると、アイは一足先にベットに向かう。

 

 

「······何してんの?」

 

 

 しかしベットに腰かけるわけでも寝そべるわけでもなく、中央に足を崩して座ったアイに夕は尋ねる。もっとも彼は彼女が何を求めているのか既に察してはいる。

 

 

「ほーら夕。こっちこっち」

 

 

 何故か自分のももをぽんぽんと叩くアイに夕は戸惑った。

 とはいえどの道ベットに行くのは変わりないためとりあえずそこまで近づくが────

 

 

(······圧が凄い)

 

 

 ニコニコと無言の笑顔を浮かべるアイに夕は折れた。

 

 

「はい、よくできました」

「······どうしたんだ今日は?」

 

 

 頭をももに預け、下からアイの顔を見上げる。

 しかし夫婦とはいえ何となく今は気恥ずかしさを感じ目を逸らしつつ、気を紛らわせようと夕は上のように尋ねた。

 

 

「それはどっちかと言えば夕の方だと思うけどなー」

「······」

 

 

 が、返ってきた答えに夕は口を噤む。

 

 

「ま、私は何となく(・・・・)夕に膝枕をしたかっただけだから気にしないけど~」

 

 

(······気遣われてるな)

 

 

 それ以上は何も言わずに頭を撫で、時折髪を弄ってくるアイにされるがままになりながら夕はぼんやりとそう思った。

 頭に感じる程よい柔らかさとほんのり香るアイの匂いも合わさってその心地よさに力が抜けていくのを感じる。

 意識が微睡んでくるが、髪を通るアイの指先にどこかくすぐったさも覚える。

 正直このままずるずるとこの時間を過ごしたいと夕は感じた。

 

 

「────あ! ちょっと夕、まだ途中······」

「それ多分俺が寝るまで続くやつだよね? 流石に一晩中アイの膝を借りるわけにはいかないよ」

 

 

 身体を起こしつつ、そう指摘するが当のアイは「別にそれでもいいのに」と不満を露にする。

 

 

「もう十分だよ。さ、そろそろ寝よう───ッ!?」

「全然十分には見えないよ?」

「何、を······?」

 

 

 気づけば夕の頬にはアイの手が添えられていた。

 

 

「夕は素敵な旦那様だけど、これに関しては駄目だね。駄目駄目の駄目」

「こ、酷評するね······」

「だって全然直そうとしないんだもん。改善の要求をします」

「······わかったからとりあえず離してくれない?」

「駄目。それとは別にこれは罰だよ?」

「ッ────!?」

 

 

 そうして、アイはその手を夕の後頭部へと走らせ、思い切り引き寄せた。

 強く引き寄せ過ぎたのか、勢いそのまま二人はベットにもつれるようにして沈む。

 

 

「······」

「·········」

 

 

 無言の時間が流れる。

 正直顔を完全にアイの胸に埋めるように引き寄せられたため今すぐにでもどくべきなのだが、夕には今その気力がなかった。

 膝枕をされていた時に香っていた匂いはより強く感じ、アイの鼓動と体温が夕の抵抗を奪った。

 そのせいか胸の疼きが大きくなり、それをかき消そうとさらに夕はアイを求めてしまう。

 

 

 

 

 ────わかっていたのだ。

 

 

 呪術師として生きる以上、いつかそんな日が来ることは理解していた。

 あの時は割り切っていると言った。

 確かにそれくらいでは今さら夕の心は折れることはない。

 しかし揺らがないかと言われれば違い、非情になれてもなり切れるかと言われればまたそれも違った。

 ましてそれが、自分が原因となって何の罪もない人間が亡くなることとなってしまったのなら尚更。

 雨宮吾郎は確かに夕とアイのために尽力してくれた。それについては感謝もしている。

 しかしそれでも一線は引いていた。だが同時に無関心と割り切れる線の向こうに彼がいたわけではない。

 故に、椎名夕はその死に鈍感になり切れなかった。

 

 

 けれど────

 

 

(見失うな)

 

 

 人によっては薄情と言うかもしれない。死者が語らないことをいいことに都合良く考えていると言われても否定できない。

 それでも────夕は幸せを追い求める。

 アイが、アクアが、ルビーが、真昼や周、五条や夏油、他にも多くの人と過ごした日々が間違っていたとは思わないから。

 

 

 だから────

 

 

(お前もちゃんと帰ってこいよ────夏油(最強)······)

 

 

 微睡みの向こうへと意識と落ちる直前、夕はそんなことを思う。

 

 

 

 

 それから約一ヶ月後、夏油はとある任務へと赴いた。

 予定より少し時間はかかったが、彼は無事に高専に帰ってきた(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり────夏油(ロリコン)。何か言うことは?」

 

 

「誤解ですッッッ!!!」

 

 

 なおその際、こんな会話があったことを記しておく。

 その傍らには双子の姉妹がいたとか。

 




イチャつかせなきゃ! 

と使命感に駆られ、

オチを付けなきゃ!

と遊び心にも駆られました。どうも作者です。
 

投稿の仕方

  • つべこべするな! 描けたらとにかく投稿
  • モヤモヤしたくない! まとめて投稿
  • お前を信じる! これまで通り作者に一任
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