真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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ゼェ······ゼェ······


リ、リアルが作者を殺しにきてやがる······っ!?


というわけで遅れました。
その分いつもより長いです。
数えてませんが文字数的には過去最高かも?
もしかしたらこれからは投稿頻度が今回みたいになる代わりにこれくらいの長さの話を投稿する感じになるかもしれません。
まあなかなか投稿しなかったら作者はリアルに殺されそうになってると思ってください。

ではちょっと作者はコンビニに行ってきます(唐突)
理由? 多分本編見ればわかりますよ?


第五十二話○

 

 

 

 

 随分早く目が覚めた。

 別に寝心地が悪かった訳でも夢見が悪かった訳でもない。むしろそのどちらも最高の環境にいると言ってもいい。

 

 

 まだ夢見心地の身体を起こし寝室を見渡す。

 まず隣には彼が、そして少し離れたベビーベッドにはそんな彼との間に生まれた子どもたちが眠っている。

 それだけで私の胸は温かくなり、自然と笑顔になるのを感じる。

 今となってはそれを意識することすら少なくなった。偽りじゃない笑顔を浮かべられたことに気づいて驚いていたのが今となっては遠い昔に感じられる。

 

 

 ふと窓を見ると、カーテンの隙間から日の光が差しこんでいた。今日も暑くなりそうだなぁ、と起ききってない頭で考える。まあ今はあんまり外出できないからそんなに関係ないんだけど。

 

 

「くしゅん────っ!」

 

 

 そんなことを考えていたらくしゃみが出て、身体がぶるりと震えた。

 今さら遅いのだが反射的に口に手をやる。今ので起こしてしまわなかったかとちょっと焦った。けど薄暗い部屋に耳を澄ましても聞こえてくるのは安らかな寝息だけだった。良かった良かった。

 

 

 夏とはいえ、朝に冷房のよく効いた部屋は少し肌寒かったかな。

 温もりを求めて私は彼の腕の中に潜り込む。冷えてしまった身体がじわじわと体温を取り戻していく。

 

 

(······起きてないよね?)

 

 

 そっと彼の顔を覗き込む。さっきと変わらず眠っている。

 だけど油断してはいけない。彼は眠りが浅い。だからちょっとのことで起きてしまいかねないのだ。

 ただでさえ休むことが少ないのに睡眠もそれで体力は持つのかと前に聞いたが、反転術式? があるから大丈夫らしい。

 

 

 しばらく様子を見て、眠っているのを確認。細心の注意を払いながら身体の位置を調整。

 慎重に探り続けて見つけたベストポジションで私はほっと息を吐く。

 次に彼の胸に顔を埋め、脈打つ鼓動に意識を向けた。

 規則的なリズムを刻む心臓の音に安心感を覚え、ここが安らげる場所だと教えてくれる。

 

 

(······やっぱり起きない)

 

 

 別に起こしたい訳ではないが、普段の彼ならばここまでやると起きなくても何かしら反応をする。けれど今日は何の反応も見せず、その意識が夢の中から浮き上がって来ることはなかった。

 

 

 ······正確には今日も、と言うべきか。

 

 

 最近────具体的には一週間前くらいから彼は深く眠ることが増えた。

 またそれに引っ張られるように最近は休む時間が増え、四人で過ごす時間が長くなっている。

 忙しいのが落ち着いたと彼は言っていたが、それは多分ちょっと違う。半分くらいは合っていると思うけど、きっとそれだけじゃない。少し前まで時々憂うような顔をしていたのが無くなって、肩の荷を下ろせたような彼を見れば何かがあったのは想像できる。

 実際一週間前くらいに夏油くんと呪術のお師匠様らしい人と会っていたと言った日に帰ってきた彼はわかりやすかった。

 本人は隠してるつもりみたいだったけどあれで誤魔化せると思ったのだろうか?

 まあそれは置いておいて、あの日からだろう、夕のどこか張り詰めた感じが無くなったのは。

 

 

(もっと頼ってくれていいのに······)

 

 

 以前お姉ちゃんとお兄ちゃんにそのことで相談した。お姉ちゃんは凄く覚えがあるって共感して、逆にお兄ちゃんはそれに少し気まずそうな顔をしていた。

 お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに夕に共感できるみたいで、バツの悪そうな苦笑いを浮かべながら夕のことをフォローしていた。簡単に言えば男の意地のようなものらしい。

 まあ夕の場合、それプラス呪術関係のことということもあるんだろう。あまりそれについての話を夕は私たちにはしない。できる限り私たちをそっちに巻き込みたくないから。

 だけど、私も別にそれについて話して欲しい訳じゃない。何も言わなくたっていいし、何も聞かない。ただつらい時に寄りかかってくるだけで十分なのに······

 

 

 

 ────まあ、それならそれで勝手に寄りかからせるんだけどね☆

 

 

 最近の夕はいつもより甘えてくれるし、ここはお姉ちゃんから教わった甘やかしの極意の出番かな。ルビーとアクアの二人に試してみた時は効果あったし、きっと夕にも効くはず。

 

 

 それにしてもそんなこと考えてたからか眠気が覚めちゃったね。夕と抱き合いながら二度寝しようと思ったのに。

 

 

 仕方ない······寝るのは諦めて夕の寝顔を観察しよ♪

 

 

  ○ ●

 

 

 最近は目が覚めると既に彼女が起きていることが多い。

 

 

「あ、起きた?」

 

 

 これまた最近妙に重い瞼を持ち上げると、そこには案の定彼女がいた。

 こちらの顔を覗き込んでくる彼女に対して、俺は起き抜けの心地よい気怠さに身を委ねたままでいた。

 そんな俺にクスリと彼女は微笑んだ。起きる前から撫でていた手は変わらず俺の髪を優しくさらい続けている。

 まだ眠そうだね~、と言う彼女の声をどこか他人事のように耳にしながら、ぼんやりと俺はここしばらくのことを振り返った。

 

 

(······自分が思っていた以上に疲れてたんだなー)

 

 

 今年に入ってから役者と呪術師としての仕事をこなしつつ、春頃には新居に引っ越し、海外に公演と任務に赴いたら羂索と殺し合って、帰ってきたらその羂索関連の後始末に終われ、ようやく一週間ほど前に奴の置き土産であったカミキヒカルを始末。あとその過程で夏油の呪詛師堕ち回避のためにうまく立ち回ったりもしたな。

 

 

 ······うん、ほんと疲れたな。ようやく色々と肩の荷も下ろせて、大分精神的に余裕ができた気がする。

 まあそのせいでこの一週間は結構アイに甘やかされるというかお世話されるというか、そういうことが多かった。

 

 

(────とはいえそろそろその辺を戻していかないとなー)

 

 

 この一週間の生活は悪くなかったしむしろ幸せ過ぎたが、それはそれだ。与えられるばっかりは性分に合わないし、いつまでも甘えすぎるのは良くない。

 

 

 だけど────

 

 

「?」

 

 

 視線を動かし、傍らのアイの顔を見る。

 アイも俺が見ていることに気づいてどうしたのかと首を傾げていた。

 

 

(もう少しだけ、いいよな?)

 

 

 

 そう心の中で言い訳をし、俺はアイのことを引きずり込むようにして強引に抱き寄せた。

 突然のことに「わわっ······!」と声を上げる彼女を抱きしめる。

 

 

「夕? どうしたの?」

「······」

 

 

 アイの問いかけには答えず、俺はさらに強くその身体を引き寄せる。

 顔を彼女の首元に埋めるように押し付けると花のような香りが鼻腔をくすぐった。

 大胆だね、と微笑むアイもその腕を背中に回してくる。

 言葉はいらず、ただお互いの存在を確かめ合う。

 だけどそれだけで幸せだった。

 

 

 

 

 ガタッ!

 

 

 そんな中、部屋に突如として何かがぶつかるような物音が響く。

 

 

「「ば、ばぶぅ······」」

 

 

 視線の先に目を覚ました二人の愛し子────愛久愛海と瑠美衣がいた。

 何やら気まずそうな顔をしている二人にアイと顔を見合せ笑い合う。

 

 

「起きるか」

「ふふ、そうだね」

 

 

 そうしてアイと揃って二人の方へと行く。

 今日もまた、幸せな一日になりそうだ。

 

 

  ○ ●

 

 

「────久しぶりにデートでもする?」

 

 

 いつも通り朝ごはんを食べて、みんなでゆっくりとしていたら夕がそんなことを言ってきた。

 デートかぁ······

 

 

「いいの?」

 

 

 最近ほとんど外出してない私を気遣ってくれてるんだろうけど、思わずそう聞き返す。

 私としてはもちろん行きたいけど、ルビーやアクアのこともあるしね。流石にまだ二人を外に連れていくのは色々と難しいだろうし。

 

 

「まあ言っておいてあれだけど、そこは姉さんと周次第だね。愛久愛海と瑠美衣のこともあるし、二人に頼んでみてからになるね」

 

 

 さっそくお姉ちゃんに連絡する夕。

 しばらくして返事が返ってきたけど、二人とも明日なら大丈夫らしい。

 私は二人に感謝しながら明日に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、ルビーとアクアを預けるために何部屋か離れたお姉ちゃんたちの部屋に来ていた。

 

 

「ありがとねお姉ちゃん。それにお兄ちゃんも」

「いいですよこれくらい。偶には夕もアイちゃんも羽を休めるべきですし、私も周くんも二人のことなら歓迎です」

 

 

 そうやって言ってくれるお姉ちゃんの腕にはルビーが、お兄ちゃんの方にはアクアがいる。

 

 

 ······うん、凄い絵になるね。

 

 髪色がお姉ちゃんに近いということもあるけど、お姉ちゃんとお兄ちゃんが持つ夫婦感? 的なものが余計にそう思わせる。

 

 

「そろそろ行こうか」

 

 

 そんなこと考えてたらお兄ちゃんと話してた夕がこっちに来た。

 

 

「姉さんも周も今日はありがとね。二人のことよろしく」

「気にすんな」

「はい。夕も楽しんできてくださいね」

「逆に二人はいい予行練習になるね。頑張れ」

 

 

 だけど夕の言った言葉にお姉ちゃんとお兄ちゃんが今度は初々しい反応を見せていた。

 それをスルーして夕は二人に抱っこされてるルビーとアクアの頭を撫でながら「二人の言うことちゃんと聞くんだぞ?」って言い聞かせてた。

 

 

「じゃ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

「気を付けてな」

 

 

 玄関までわざわざ見送りに来てくれた二人に手を振り、私と夕はいよいよデートに向かう。

 

 

「ん」

 

 

 そっと差し出してきた夕の手に自分の手を重ねる。もう当たり前になったはずのことなのにこれだけで心がポカポカする。

 繋いだ手を離して今度は抱きつくように夕の腕をとった。

 

 

「······どうした?」

「ううん、何でも♪」

「そっか」

「そうそ。さ、行こ夕?」

 

 

 踊り出した心そのまま夕を引っ張るようにして私は歩き出す。

 こうして私たちのデートは始まった。

 

 

 ○ ●

 

 

「あ! ねぇねぇ夕、これ可愛くない?」

 

 

 繋いだ手を引っ張りながらアイが尋ねてくる。彼女が指差していたのはフードがウサ耳になっているベビー服だった。

 

 

「双子用なのかな? ペアで色違いのもあるね」

 

 

 気になって手にとってみるけど、肌触りもかなり良いものだった。

 既にアイはこれを愛久愛海と瑠美衣に着せたことを想像しているのか目を輝かせている。

 

 

「······買う?」

「買う!」

 

 

 素早い即決っぷりに思わず苦笑いがこぼれ出る。

  

 

 

「────でもこの服もすぐに着れなくなるんだよな」

 

 

 レジに向かう途中ふとそんなことを思った。赤ん坊の成長というのはそれだけ早い。

 

 

「そうだね。だから一杯写真とか撮って残そ? 将来アルバムをみんなで見てみたりして色んな思い出を語りたいし」

「アイ、さては既に二人を着せかえ人形にする気満々だな?」

「もちろん! 逆に夕は見たくないの? 可愛い服を着た二人のこと」

「見たいに決まってるだろ」

 

 

 そうじゃなきゃそもそもこれを買おうとしない。

 レジで会計を済ませると、俺たちは店を後にする。

 

 

 デートと言うことでショッピングモールに来た俺たちは最初色々な場所を回っていたが、アイの提案で最初に入った店が先ほどのベビー用品を扱う店だった。

 

 

(でも普通に考えてなかなかないよね。デートでベビー服を見るなんて)

 

 

 正確には今の俺たちの年齢ではというべきか。まあ別にこのデートに不満はない。愛久愛海と瑠美衣にいいお土産が買えたし、ある意味これはこれで貴重な経験で楽しいとも思う。

 

 

「────ねぇ夕、次はここがいいかな」

「水着?」

 

 

 そう、と頷くアイの顔を見て俺は尋ねる。

 

 

「······一応聞くけど、俺も一緒に入る感じ?」

「え? そうだけど?」

 

 

 何でそんなことを聞くのと首を傾げるアイ。

 さっきとは一転してベタな? デートになったなーと思いながら店の中へと足を進めるのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

「でも水を差す訳じゃないけど、時期的に今買っても使わなくない? まあ室内プールとかに行くなら別だけど」

 

 

 店に入った夕がそう言ってくる。まあもうすぐ九月だしね。

 

 

「でも結構色んな水着があるからね。せっかくだし来年に向けて夕の好みを知っておこうかなって」

「また随分気が早いね」

「だって付き合う前に海とか誘っても夕断ってたじゃん」

 

 

 私がアイドルになってから一緒に出かける時はいつも呪術を使っていたのは前に聞いている。それなら海とかだって別に変わらないのに昔の夕は断るんだから。

 

 

「あー······」

 

 

 だけどそれを聞いた夕が何とも言えない顔をした。どうしたのだろうか?

 実際に聞いてみると、夕は苦笑いしながらその理由を教えてくれる。

 

 

「夏場の海って人もそうだけど、呪霊も多いんだよねー······」

 

 

 まさかの答えだった。どうやら呪術師共通の悩みらしい。何というか嫌なあるあるだね······

 

 

「でもアイの水着が見れるなら安いものだね。来年はどうにか時間を作って行こうか」

「うん!」

 

 

 よし! じゃあ気を取り直して水着を選ぼう! 目標は夕の悩殺!

 気合を入れて私は水着を見て回る。いいなって思ったものは手にとって後で試着室に持っていく。

 途中夕の意見も取り入れつつ厳選していき、いよいよ試着してみることに。

 

 

 最初は花柄のビキニで、下はパレオを巻いた南国のビーチをイメージさせる水着。

 

 

「うん、似合ってるよ。今から来年の夏が楽しみに感じるデザインだね」

 

 

 む、ちゃんと褒めてくれるけどこれじゃ好みが掴めない。次はこの白を基調に赤いフリルがあしらわれたビキニにしてみよう。

 

 

「フリルがいいアクセントだね。肌がより綺麗に見えるよ」

 

 

 まあ時々夕が反転術式を使ってケアを手伝ってくれるからね。お陰でB小町の皆から色々と聞かれたりするけど。次は────

 

 

「シンプルだけど個人的には今までで一番似合ってると思うよ? アイのイメージにピッタリだ」

 

 

 今度はシンプルに白一色のオフショルダータイプのビキニを選択した。どうやらこれは夕の好みに近いらしい。

 一つ前の水着もフリルについて触れてたから夕ってそういう系が好きなのかな?

 

 ······ちょっと試してみよう。

 

 

「·········アイ」

 

 

 あ、あれ······? 何か急に夕が黙っちゃった。これは······どういう反応なんだろう?

 

 

「アイ、選んでる時に少し思ったけどそれはダメだ」

「な、何で·····?」

 

 

 まさかのダメ出しに私はたじろぐ。そんなに駄目かなこれ?

 色は蛍光色の紫で紐で留めるタイプのビキニだけど······

 

 

「······露出が多い。あんまり他の人······少なくとも男には見せたくない」

「確かに今まで一番布の面積が少ないけど······」

 

 

 もしかして夕······

 

 

「独占欲?」

 

 

 思わず頭に浮かんだ言葉そのままを口にする。

 

 

「···············悪いか」

 

 

 それに夕はちょっとバツが悪そうな顔をしてそう言った。

 

 

 ······待って────私の旦那様可愛い過ぎない?

 

 

 普段はあんまりそういうの見せないのに、珍しくそんなことを言う夕が可愛い過ぎるんだけど。

 でもそれなら······

 

 

「じゃあこれと、一つ前に着たやつにするね?」

「······まあ最終的に決めるのはアイだからね。······そこは任せるよ」

 

 

 あー、ちょっと拗ねてるね。

 だけどね夕、そんな心配いらないよ?

 

 

「────大丈夫だよ。最後のは夕にしか見せないから。ね?」

 

 

 着替えるために試着室のカーテンを閉める前にそう夕の耳元で囁いておく。

 最後に、顔を手で覆う夕の姿が閉めるカーテンの隙間から見えた。

 

 

  ○ ●

 

 

 視線を感じる。

 

 

「♪~~」

 

 

 まるで鼻歌を歌うよう······いや既に歌っている彼女は俺の腕をとりつつ、時折見上げるようにこちらの顔を覗き込んでくる。

 目が合えばクスリと微笑み、ご機嫌そうに俺の腕に顔をこすりつけてきて、また時々視線を送ってくる。

 

 

 ······水着選びを終えて店を出てからずっとこれの繰り返しだった。

 

 

(そこまで嫉妬深いつもりはなかったんだけどな······)

 

 

 まさか先のことを想像して······所謂やきもちを焼くとは思わなかった。自分のことながらわからないものだ。

 いや────

 

 

(アイと関わる時の自分の心はいつもわからないものばかりで、手探りで、だけどそれが何よりも楽しく、心を踊らせるものだったな)

 

 

 それに幾度となく心を救われた。

 

 

「?」

 

 

 だからからか、気づけばアイの顔を見つめていた。

 コテリと首を傾げる仕草すら愛おしい。

 そんな彼女に顔を綻ばせながらこの後に俺は想いを馳せた。

 

 

 

 

 ······とは言ったものの、次に俺たちが入った店は昼時を過ぎたカフェだった。

 時間帯的に二人とも小腹が空いたのと、結構な時間色々な店を見て回っていたのもあって小休止を入れたかったからだ。

 

 

「久しぶりの外出はどう?」

「外出じゃなくてデートでしょ?」

「それ、わざわざ訂正するくらい重要?」

 

 

 重要! と小さく叫ぶ彼女。

 まあこうやって他愛もないやりとりは家でもするが、どこでそしてどういう状況でするかによっても変わるか。

 景色なんてその時その時でいくらでも変わる。

 そしてそんな小さな違いに気づけるのは、彼女と過ごす日々がそれだけ満ち満ちて、色づいているからこそなのだろう。

 

 

「────それにしても夕があんなにやきもち焼くなんて意外だったな~」

 

 

 

 うぐっ······

 

 

「······まだそれに触れるの?」

「だってあんな『きゃわあああっ!』な夕なかなかないもん」

 

 

 それに最近は甘えることも増えたよねー、と彼女は少し探るように言ってきた。

 

 

「まあそうだね」

「あれ? 誤魔化さないんだ?」

「別に誤魔化す理由はないからね」

 

 

 きっとそうなったのは色々と問題が片付いてようやく肩の荷の大半を下ろせたからだろう。

 やはりどうしても先のことを想像して、どこか張り詰め続けながら人生を送ってきたからね。

 

 

「ふーん?」

「どうした?」

「ううん。夕、凄いい顔してるなって」

「何だそれ·····?」

 

 

 考え込む俺を見たアイはしかし嬉しそうにそう教えてくれた。

 でもその時のアイの表情はどこか大人びていて────

 

 

「綺麗だな」

「っ·····きゅ、急にどうしたの?」

「何でもないよ」

 

 

 けれどそんな一言ですぐに崩れて霧散したのがおかしくてクスリと笑った。

 そのせいかアイは納得いっていなささそうな顔を浮かべてるけど。

 

 

「別に思ったことを言っただけだよ。綺麗で、大人の女性みたいにね」

「! ふふん♪ なら夕も私の大人の魅力にメロメロだね!」

「それはどうだろ?」

 

 

 ちょっとそれどういう意味ー! と詰めよってくる彼女を受け流していると、注文した品が届いた。

 

 

 

「夕、それ一口ちょうだい?」

「別にいいよ────ほら」

 

 

 ありがとー、と言い、幸せそうに俺が差し出したパスタを頬張るアイ。

 その様子を眺めていると────

 

 

「······ん?」

「ほら、夕も」

 

 

 別に物欲しそうな顔をしていた覚えはなかったけど、貰えるものは貰っておこう。

 俺もまたアイから差し出したパンケーキを口にする。

 その後もしばらくは幸せの味を噛み締め、堪能するのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

「んー! 遊んだねー!」

 

 

 ショッピングモールを後にし、ぐっと伸びをするアイ。

 あの後も俺たちは色々と見て回り、久しぶりのデートを楽しんだ。

 今は手を繋ぎながら駅へと向かっている。

 

 

「────あと一ヶ月くらいでいよいよ復帰だけど大丈夫そう」

「うん、大丈夫だよ」

「ならいいけど無理はしないようにね」

「もー、心配症だね夕は。むしろ三ヶ月も休んだから元気有り余ってるよ?」

 

 

 なんなら今からでもいけるよー、と言って何故か力こぶを作る。

 

 

「気合入ってるな」

「二人にも私がお仕事してるとこ見て貰いたいからね」

「愛久愛海も瑠美衣もアイのこと大好きだからね。テレビとかに出てたらずっと観てそうだなー」

「むふふ。お母さんですから」

 

 

 ふんす! と胸を張り自信に溢れた様子のアイ。だけど────

 

 

「でもうっかり口を滑らさないようにね」

「は~い」

 

 

 と、言うがやはりそれに関してはちょっと心配だ。

 まあそこは斎藤さんと他のB小町メンバーがいれば多分大丈夫だろう。

 ご機嫌そうに隣を歩く彼女に水を差すのはどうかと思い、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 そのまましばらく、まだまだ暑さ厳しい空の下を歩く。

 しかし途中から少しずつアイの口数が減ってきて、握る手に力が入ってきている。

 

 

「アイ、もしかして気分悪い?」 

「え? あ、うん、大丈夫だよ」

「ならいいけど······」

 

 

 一度手を離し、顔を覗きこみながら問いかける。

 

 

(熱中症とかではなさそうだね。久しぶりに長時間外出したから疲れたのかな?)

 

 

 観察してみた範囲では熱中症の症状も見られないため、とりあえず問題ないと判断する。

 だけどどこか緊張した面持ちのアイは何か逡巡した様子でグッと俺の服の裾を掴んできた。

 

 

「アイ?」

「えっとね夕······最後に寄りたいところがあるんだけど······」

 

 

 言葉を選ぶように伏し目がちだった顔が俺を見上げる。

 

 

「っ······」

 

 

 それで俺は察した。

 その瞳の奥には隠しきれない熱があった。

 さっきまであれほど感じていた暑さが今は気にならない。

 そういったものとはまた異なる熱を帯びた眼差しを向けられ────

 

 

「駄目······?」

 

 

 こう言われてしまったらもうお手上げだ。

 

 

「······駄目じゃない」

 

 

 こうして最後の行き先は決まった。

 

 




果たしてどこに行ったんでしょうねー笑(すっとぼけ)
なおちゃんと夕食が終わるくらいの時間には帰った模様。



初めてアイ視点を描いてみました。
次かその次あたりの投稿は会話集の方を出すかもしれません。


あ、コーヒーがなくなった······
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