真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
私たちのことがバレてしまった。
だけど······
────愛してる。
────生まれてきてくれてありがとう。
抱きしめられ、向けられたその
向けられたすべてが暖かくて、気づけば縋るようにして泣いていた。
あやすように頭を撫でるその手から伝わる確かな愛が私を慈しみ、私がここにいていいということを教えてくれる。
「落ち着いた?」
「······うん」
ようやく涙が抑まった。
変わらず私はパパの腕の中にいるけど、冷静になったら無性に恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまう。
逃げた視線の先には同じくパパに抱きしめられている
······そしてもう一つ、冷静になって気づいたことがあった。
「「────ねぇ、もしかして······」」
開いた口は偶然にもアクアと同時だった。だけど二人揃ってその先は言葉にできなかった。
────同じなの?
明らかにパパの口ぶりは実際に自分も経験してきたようなものだった。
それでもそう聞くことに私たちは躊躇いを持った。けど────
「そう────俺も二人と同じだよ」
私たちの言いたいことを理解したパパは何の気負いもなく頷いた。
やっぱり。
そう思うと同時に気になった。
パパが······この人が、一体どういう思いで今日まで生きてきたのかを。
「────」
どこか遠くに想いを馳せるように虚空を見つめるパパ。
そしてその口がとうとう開く。
語られるその軌跡は────
○ ●
「────そうだね······二人はさ、『お隣の天使様』、『呪術廻戦』、『推しの子』、このどれかに聞き覚えはある?」
何から話そうか、と口を開いたパパだけど、最初に私たちにそんなことを聞いてきた。
質問の意図もその意味もよくわからなくてアクアと顔を見合わせるけど、二人ともやっぱりわからない。
いや三つ目の『推しの子』ならわかるけど······
「一応聞くけど三つ目の『推しの子』って言うのは、アイドルを推す時に使う推しの子じゃないよね?」
アクアも同じことを考えたのかパパに聞き返した。
それにパパの方も頷き「そうだよ」と答える。
そうなると残りは『お隣の天使様』と『呪術カイセン』? だけど、少なくとも私は知らない。
というか呪術と付いているんだからそれに関してはパパの方が詳しいのでは? と思った。
とりあえず、どれも心当たりがないことを伝える。
「······そっか」
目を閉じ、少し俯きながらパパは相槌を打つ。
「────同じ転生者だけど意外と違うものだね。少なくとも俺と二人では明確に異なる点があるみたいだ」
「どういうこと?」
少し考えるようにしてパパは続きを口にする。
「さっき言った三つだけど、実のところその意味は俺も
言葉を選ぶように語られるその事実に私たちは耳を疑った。
────俺はね、未来を知っているんだよ。
「いや、未来って······」
「まあそうなるよね」
苦笑いしながらパパは頷いた。
「別に何でもかんでもわかる訳じゃないけどね。わかるのはごくごく断片的なものだし、今となっては役に立たないものだって結構ある」
どうやらパパは転生を自覚したと同時に未来で起きることの一部を何故か知識として持っていたらしい。私たちに聞いた言葉はその際に知ったもののようで、パパもその意味を知ろうと調べたみたいだけど、結局わからなかったようだ。
「なら未来でママがどうなってるとかもわかるの?」
「いや、アイの未来についてはとくに何もないね。後にも先にも未来のことを知れたのは生まれ落ちた瞬間の一度きりだったし」
「ならその時どういう未来を見たの?」
むぅ、ママのことはわからないのか。
残念、と私が思っていると今度はアクアが未来について質問した。
「日本が終わる······かもしれない未来だね」
え?
「どどどどど、どういうこと······!?」
さらっと語られたとんでもない未来に私もアクアも食ってかかるように問いただした。
「大丈夫だよ二人とも。だから落ち着いて」
いや落ち着けないよぉ!?
逆に何でパパはそんな落ち着いてるの!? と思っていると────
「その未来はもう訪れない」
「そう、なの······?」
「うん、その原因となるものを取り除いたからね」
「原因?」
「そう。二人は呪術については俺たちの話を聞いてたからある程度知ってるよね? 今から大体十年後、渋谷である呪術テロが起きる。それが俺が知る本来の······ここでは便宜上本来の未来と言うけど、とにかく本来はそうなるはずだった」
パパはその未来について教えてくれた。
だけど正直テロって言われても前世含めてそれは縁遠いものだったからいまいちピンとこない。
「────東京二十三区は壊滅、閣僚は軒並み安否不明で政治的空白が生まれる。その他にもまあ色々あるけど、被害としては大体そんな感じだね」
「ッ······」
アクアが息を呑んだ。
私もそこまで言われればそれがどれだけのものなのか何となくはわかる。
「······呪術っていうのはそこまでのものなの?」
「誰でも彼でもそういうことができる訳ではないけどね。まあどっちにしろ、当時の俺からすれば本当に勘弁してくれって思ったけど······」
どこか疲れたようにアクアに答えるパパは珍しく顔をげんなりとさせていた。
だけどパパとしては既に終わったことだからなのか「まあそれは置いといて」とその話題をあっさりと終わらせて、私たちの顔を改めて見てくる。
「ここまで俺の話をしたけど、二人はどう? 俺と似たようなものを背負ったりしていない?」
揃って私たちは首を振る。
けど、また思ってしまった。
一体何のために生まれ変わったのかと。
前世の記憶を持っているけど、パパのように特別な何かは私にはない。
なのにどうして自分がここにいるのか、そう思ってしまった。
だからからか、パパが与えてくれる愛に罪悪感を覚えてしまう。
大丈夫だって言われたばかりなのに恐いと思ってしまう。
「────いいんだよ」
······パパ?
「いいんだよ、意味とか理由とか別にそんなものなくたっていいんだ」
静かに、それでいて力強く断言した。
「生まれ背負ったその記憶は多分呪いなんだろうね。俺の場合そこに未来の
それが自分の首を絞めつけるとは知らずにね、そうパパは苦笑していた。
「だから一度は壊れそうになったよ。まあ独り善がりに進んだ結果、勝手に板挟みになって俺が自滅しただけなんだけど」
当時を振り返ったようにパパは語っていく。
だからからか、少しだけ雰囲気が変わってきたような······
「でも当時の
「っ······!」
「だから
「······それでどうなったの?」
「駄目だったよ?」
さっきまでの雰囲気が嘘のように消え、軽い調子でパパは答える。
「駄目駄目で、結局すべてうまくいかなくて、でも助けてなんて言えなかった。そりゃあそうだ。周りの人間を、自分に笑顔を向けてくれた人たちを欺いてたんだからね」
「······」
それは私にも言えることなのかもしれない。
「でもつくづくそういう時って反対のことが起きるんだよね。知られる訳にはいかないって思ってたら一番知られたくない人にバレちゃったし」
だけど、とパパは言う。
────だから救われたよ。
「彼女は昔、愛がわからないと言っていた女の子だった。そんな彼女が『愛がわかる時が来たらその時は俺と一緒にいたい』って言ってくれた」
それは······
「眼前のことを投げ捨てて、未来にばかり目を向けて、そこに意味を見出だしてたけど······今を生きながら、そして誰かと一緒に、わからないまま未来を目指してもいいんだって思えた。そうやって生きて、歩んだ日々に後から確かな意味が付けばいいんだって思えた」
────だから二人も意味とかそういうのは気にしないでいい。その意味が付くその時まで無事に
「······
「! ······そうかもしれないね。でも俺にできるのはそれだけだから」
思わず出てしまった言葉をパパは否定しなかった。
本当に酷い······酷いほど優しい
────だから二人も、全力で
······うん、やってみるよ────パパ。
椎名瑠美衣
救われた人。
夕が前世と
果たしてこれから先、前世から続く長き旅路で彼女はどんな答えを見つけ、そこにどんな意味を見出だすのか。
······いやマジで何を見出だすんだろ? 当の作者もわかりません。何せノリで描いてたら何故かこうなったので。
明らかに前話のアクアと比べてシリアス成分が多い気がする······
多分本誌の方を見た影響でしょうが、バランスを取るためにもどっかでアクアの方に焦点を当てた話にシリアス成分をぶち込む必要があるかを考えている今日この頃。