真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
第五十六話●
その日、椎名家には幾人かの人間が集まっていた。
「······お前らもう少し緊張感を持ってくれよ」
俺だけこれだと場違いじゃねーか、とぼやくのは苺プロダクション社長の斎藤壱護。
わざわざ持ち込んだホワイトボードには『いちごプロ会議』という題の下に『アイ復帰』『子どもの扱い』と箇条書きで書かれていた。
「もともと佐藤社長は場違い感凄いと思うけど? ねー、ルビー、アクア?」
「だぁ!」「ばぶぅ」
「こ、こいつら······それに俺は斎藤だ」
顔をひくつかせながらも何だかんだいつものやりとりをするあたり斎藤も慣れたものだ。
まあここで彼が怒鳴ろうものならルビーあたりが泣き始め(確信犯)、完全に孤立無援になるから正解だろう。
「どうぞミヤコさん」
「ええ、ありがとう椎名くん」
他方、疲れた様子のミヤコ(ホワイトボードを運んだため)は夕から差し出されたお茶に手をつけていた。
「······まあいい、話戻すぞ? まず復帰第一弾は今夜の歌番組の生返事だ。いけるなアイ?」
「もちろん! しかも夕も出るんでしょ?」
「そうだね」
何だかんだでなかなか機会のなかった共演が曲がりなりにもできるとあってご機嫌そうにアイは答える。
だが一方で斎藤の方はやや不安があった。
「頼むからお前らの表向きの関係を忘れるなよ?」
「はい」「わかってるよ~」
「······椎名君の方は心配ないがアイ、お前はホント気をつけてくれよ?」
なおも念を押す斎藤。彼から、いや、彼と苺プロの人間からしたら文字通りの死活問題だから無理もないだろう。
もっとも────
「まあ大丈夫ですよ────」
そんな斎藤に夕は言う。
「────最悪バレても俺のツテを使って苺プロ全員の次の就職先を確保するので」
「いや普通に安心できないんだが······?」
呪術師のツテ万歳、などと宣う夕に斎藤は頭痛を耐えるように頭に手を当てた。
「とにかくだ! 何度も言うがそこら辺は二人とも気をつけてくれ。────んで、次は子どもの扱いだが······」
「できる限りスケジュールを調整して俺かアイのどっちかで見るプラス姉さんと周の手を借りるって感じですね」
とはいえ真昼も周も大学を筆頭に二人の生活がある。
そのため────
「椎名君の姉と藤宮君が無理な場合はミヤコが子どもの面倒を見る」
「すみませんがお願いしますミヤコさん。お礼の方は
「ええ! 任せて!」
白羽の矢を立てられたミヤコこと斎藤ミヤコはやけにやる気の満ちた顔で頷く。
その理由は夕が口にした
今日に至るまでちょくちょくとそれを施されていたミヤコは既に
なおここに(未来の美)魔女が誕生してしまったことを彼らはまだ知らない。
ちなみにここまでの流れからわかる通り、ミヤコにも呪術の存在は打ち明けている。
とはいえ、そこまで詳細に教えたわけではなく、彼女は自分が受けているそれがどれだけ貴重なものなのか知らない。
現時点で、少なくとも日本では表向き一人、そこに夕を加えて二人しかできない技術の恩恵を受けていると知ったら果たして彼女はどんな反応をするのだろうか?
何はともあれそんなこんなで話しはまとまり、『いちごプロ会議』は終了した。
「─────じゃあ俺は一足先に出るよ」
話し合いが終わると、生放送の前に入った仕事に向かう自分を見送るアイに夕はそう言う。
「いってらっしゃい。頑張ってね?」
「うん」
かけられた言葉に応えながらそっと頭を撫でると、アイは気持ち良さそうに目を細めた。
すると何を思ったか彼女は前方に身体を倒し夕にもたれかかる。
「どうした?」
「夕成分の補給」
まだ時間には余裕があるため預けられた身体を優しく受け止める。
しかし玄関の高低差の関係で普段よりも高い位置、つまり首元に顔を押し付ける形となるため夕も少しくすぐったそうにしており、そのせいか背中に回した腕に力が入ってより密着感を高めている。
「······満足した?」
「多分一生満足できないかな」
「それは困った」
「むふふ、責任取ってね?」
「もちろん一生かけて取りますよ」
クスクスと笑いながら言い合う。その距離は依然としてお互いの背中に腕が回る距離であり、言葉を交わす顔の距離は息づかいも聞こえるほどで────
「······」
「······」
ふいに言葉が途切れ無言で見つめ合う二人。
やがてその距離は当たり前のようにゼロになる。
「ん······いってらっしゃいのキスかな?」
「そうだよ。それより夕からはしてくれないの? いってらっしゃいのキス」
「今したのじゃ駄目なの?」
「それは夕のいってらっしゃいに対するやつ。私が言ってるのは私が行くときの」
「アイが家出るのはまだ先だよ?」
「いつ出るとかはいいの。ほーら」
そうして再び唇が重ねられる。
先ほどよりも長い時間に渡って行われたが、やがて静かに二人は離れる。
「いってきます、アイ」
「うん、いってらっしゃい、夕」
ちなみにその光景はやけに見送りに時間がかかるなと気になって様子を見に来たアクア、ルビー、斎藤夫妻にバッチリ見られていた。
○ ●
────某テレビ局。
スケジュールを消化した夕は本日最後の予定にして、アイの復帰の場にもなる歌番組のスタジオに足を運んでいた。
「おや、椎名くん久しぶり······でもないか」
「そうですね。今日はよろしくお願いします」
「うん、よろしくね。肝心の調子はどう?」
「問題ないですよ」
「それは良かった。それに聞いてるよ? 何でも新曲を披露するって」
(それを狙って俺に声をかけたんでしょあんた)
以前別の仕事でぽろっと新曲ができたって漏らしたことがあった。
今回アイと奇しくも共演することとなったのはそれが理由だ。
もっとも別にそれを隠していた訳ではないし、仕事が貰えるならいいやくらいしか思ってないが、当時の夕の発言を覚えていて声をかけるあたりなかなかどうして強かと言える。
「以前の『青の●みか』も凄かったからね、期待してるよ?」
最後にそう言って去っていく番組関係者。
(まあ仕事を貰えるのはありがたいし、何より
そんなことを考えながら夕は他のスタッフなどにも挨拶をしていく。
それが終わると台本を見直しながら今日歌う
(······愛久愛海、瑠美衣、そしてアイ────)
これは百パーセント三人のために歌う。
多分斎藤さんあたりから後で小言ぐらいありそうだが今回は私情を優先させてもらう。
そのために夕はこの曲を作った。
「────椎名さんそろそろ」
スタッフから声がかかる。
既に夕以外は揃っており、後は夕が登場するのを待つのみ。
「劇団ララライ所属、俳優の椎名夕さんで~す!」
スタジオに足を踏み入れる。
頭の中でカチンコの音が響く。
既に半ば入りかけていたスイッチが完全に入り、その顔に不敵な笑みと胡散臭さが現れる。
口火となるセリフは当然
「やあ皆さん─────」
─────どんな人が好みかな?
○ ●
夕の登場と共に番組は本格的に始まる······ということはなく最初に軽いフリートークから入る。
「─────そうそうB小町のアイさんがまた活動再開したんだけど椎名くんは知ってた?」
「ええ、知っていましたよ。この場をお借りして言わせてもらいます。おめでとうございます」
やはり今日復帰したアイは話題にされやすく、振られたそれに無難に夕は応える。
「そういえば同世代だけど話したこととかはあるの?」
「いえ、これといっては。僕は役者でアイさんたちB小町はアイドルなのであまり顔を合わせません。局とかですれ違った時に軽い挨拶と世間話をするぐらいですね」
「へー意外ですね。てっきりそこそこ交流があるのかと思ってました?」
司会は意外そうな表情をした。その理由は────
「もしかして僕がいつだか『サインはB』を歌って踊ったからですか?」
「そうそう! あれは凄かったよ。一時期ちょっと話題にもなったし。実はB小町のファンなんじゃないの?」
からかい交じりにそう言ってくる司会者に夕は肩をすくめて答える。
「ファンなのは僕の身内ですね」
「身内?」
「ええ、実は訳あって今親戚の子どもを預かっているんですよ」
「そうなん? というか仕事とかもあるのに大丈夫なの?」
「預かっていると言った手前ですがご指摘の通り普段は姉夫婦や周りの人の手を借りて何とかって感じですね」
「ほーん、でもその年で大したもんだわ。やっぱり子どもの面倒は大変なの?」
「僕はそこまで大変とは感じてませんよ。身内贔屓かもしれませんが二人とも聡い子で可愛いですよ。特にB小町のことになると目を輝かせていて────正直アイさんが復帰してくれて助かりましたよ。ライブ映像とかもほとんど見せてしまったので」
「滅茶苦茶B小町のファンっぽいな」
「そうなんですよね。そのお陰で一緒に見てた僕もすっかり歌も踊りも覚えてしまいました」
苦笑いする夕。その視界にやや強張った顔をする斎藤がいた。
彼は今のやりとりや夕がいない時にあったアイと司会のトークのやりとりもあって既に疲れた表情をしていた。
そんな胃の痛くなる時間(斎藤だけ)も終わり、この番組のメインである歌の披露が始まり、次はいよいよB小町の番となった。
という訳では新章もとい第五章であり、最終章のスタートでした。
色々考えましたが、この章でこの作品は完結です。
理由といたしましては単純に作者の都合です。
最近は忙しさもあってなかなか投稿ができず、週一ギリギリか、それより過ぎることも増えてきているのもありますが、何より明らかに投稿初期と比べ作者のモチベーションという熱が冷めてきてます。
そのためこのままダラダラ描き続けるより、ここで終わらせるのがベストと勝手ながら判断いたしました。
実際のところ、まだまだ描きたいことは結構あるんですが、作者的に思うそこそこ綺麗な着地点は多分この章を逃すと描けそうにないんですよね。
一応呪術だと宿儺復活ルートとそれにおけるクライマックスとなる決戦のイメージも最初と最後だけですが頭に浮かんでいたんですよね。
推しの子の方でもアクアとルビーが高校生になった話しとか、真昼と周の結婚式とか二人の子どもの話しとか、やりたいことはあったんですけど無念です。不甲斐ない作者の実力不足が露呈しましたね。
そんな訳で誠に勝手ながら『真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様』はこの章で完結です。
許せ、愛すべき読者たち「本当にそれでいいのか?」······よ?
突如、作者の脳内に溢れ出す、存在しない─────
「本当にそれでいいのか?」
「何を、言って······?」
「お前はそれで満足か?」
「それは······」
「ふむ─────思うにお前は話の過程をいささか重視し過ぎてる」
「······それの何が悪い?」
「いいや悪くないさ。しかしそれを理由に自分の熱に蓋をするなど愚者の極みだ」
「っ、さっきから聞いてれ────」
「お前こそ読者を舐めすぎだ!!!」
「ッ!?」
「いいか? ここは二次創作の場なのだ! ここに集まる者はみな、想像力を止めなかった者たちだ! 元となる作品へのリスペクトを持ちつつその世界の外側を目指し! 想像力という翼をはためかせた! そんな求道者なのだ!」
「······」
「過程が何だ? 確かにそれは大切なものかもしれない。それでも、確かな熱と共に描かれたそれは必ず読者に伝わる。例えそこに至るまでの道があやふやでも、仮にそれが無くとも、読者という生き物はその熱を頼りに、お前のところへやってくる。彼らは間違いなくお前の想像力に追いついてみせるさ」
「······そんなんでいいのかな?」
「ふっ、むしろ俺が同じ立場なら歓迎さえするさ。小説に限らず創作物、アートというものは作り手からの挑戦状。芸術の真髄とはそんな作り手の想像を想像することにある。お前にも覚えがあるはずだ」
「······そうだね、その通りだ」
「故に今一度言おう。お前は満足できるか? これを聞いてなお、お前の中に抱えた熱に蓋をするのか? 否! さあ、さらけ出せ! お前に付いてきた読者を信じろ!」
「うん、大事なことを思い出せた。ありがとう────東堂」
「礼など不要だ。お前が描く未来の断片に生きるものとして当然のことをしたまでだ」
そんな訳でこの章で本編を完結させた後、短編~中編の未来のあれこれをアフターストーリーとして描きます。
本編とは異なり前後の繋がりが曖昧だったり、その話に至る部分が不透明で矛盾などがあったりするかもしれませんが、作者のイメージが途切れぬ限り本編完結後も頑張りたいと思います。
まあ何はともあれ本編が先ですね。時間はかかるかもしれませんがお付き合いいただけると幸いです。