真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
(これは想像以上だね)
出番が次に控えているが特に気負う理由もないため、至って自然体のまま俺はその光景を目に焼き付けていた。
復帰明けとは思えないキレのあるダンスと、際限なく溢れる
否応なしに放たれる引力はすべての視線を我が物にせんと、なおも彼女は愛を振り撒く。
そしてそこに追従するニノ、ナベ、高峰の三人。
アイがいなかった間も彼女たちなりに積み重ねてきたもの、その自負と正史においては持ち得なかったそれぞれの想いを胸に、三人もアイへと食らいつく。
時折交わされる視線。しかしアイは止まることなくさらにギアを上げ、「ついてこれるでしょ?」と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた。
既に限界ギリギリまで引き出された三人のパフォーマンス。それがアイに引っ張り上げられるようにしてもう一段跳ね上がる。
そこに余裕などないはずだが、三人の顔に浮かぶのは充足感のような何か。
「見てよ! 見てよ! 何か始まる! 君との物語が♪」
「「「嗚呼 なんて素晴らしい景色だぁ♪」」」
そして曲もまたクライマックスへ────
────アナタが味方でいてくれるなら。
────爆レスをあげる。
(! ······まったく······)
最後も最後のこの瞬間、向けられたアイの視線に気づいた。
本当に一瞬だが重なった視線、そこに込められた意図は至ってシンプル────
「ア・ナ・タのアイドル────サインはB!」
チュッ♪
してやったり、そんな顔でアイは歌いきった。
(さて、次は俺だね)
やることはシンプル、さあ行こう。
○ ●
────三十秒前。
そんなカンペが出された。
既に準備を終え静まり返ったスタジオはその時を待っている。
目を閉じ、軽く深呼吸を入れる。
難しいことはいらない。
────愛の証明をここに。
瞬間、静寂を切り裂くように俺は歌い出す。
「
突きつけられる
そして生まれた僕の
火を吹くように流れ出す重低音のBGM。
それは静止した世界が動き出すように物語を奏で始めた。
「ありふれた会話すらどこか
浮かべた愛想笑い
大切な日々が遠く感じる
足りないものばかりだから
求める未来に必要だから
背を向けて走り始めた
そんな道の最中で雨に濡れた君を見つけた
嘘で始まったその縁そんな過去が────」
────僕を呪う
再び世界から音が無くなる。
しかしそれはほんの一瞬────
「だから僕は壊れていく!
笑い演じた呪いの日々が!」
サビへと入りさらにボルテージが上がる。
呪力を込めてないのに言霊が宿りそうな勢いで熱を吐き出す。
かと思えば────
「僕の心から
だけど笑う
それは愛
僕が描く最上の
誰も彼も
······それでも、過去と未来の呪いは
────流れる時間は止まらないキナ臭い未来期待持てやしない
────決して
────
────認める未来はハッピーエンドだけ
語っているようにも、ただの独り言にも捉えられるそれは、
けれど────
「だけど僕はそこにいない
いつか消える夕日と共に
そう決めつけてた僕に星が微笑んだ」
────知られる訳にいかない
────それは唯一やれること
────だからお願い
「
あの時俺は知った。
自分を見ていてくれる人の大切さを。
その人たちが俺に未来をくれるということを。
────嘘にまみれていた日々が
────本物になったのはいつからか
「星の
その日
そしていよいよ曲はクライマックスへ。
「流れた涙に熱が戻り、沈む夕日は明日を創る
嗚呼、だから謳う
それは愛の証明
その
これはきっと嘘じゃない!
僕が紡ぐ君への愛
今日もその先でも
君と歩む旅路で何度も口にする
四文字の言葉」
────仰ぐ夜空、君がいたから見れた
────だから言うよ······
それは
彼女がくれた『愛』が
だから愛久愛海と瑠美衣には改めて生まれてきてくれたことに対して。
そしてアイには伝えても伝えきれない
「愛してる」
○ ●
気づいたら放送は終了していた。
トリを飾った夕の歌を聴いてから私はずっと心あらずだったと思う。
だって少し聴いてればわかったから、その歌が何を意味してるのかを。
笑顔もあれば憂いもあって、諦めた顔の裏には決意が見えて、悟った顔をしているのにどこか苦しそうで、抑えきれない激情もそこにはあって······
常に笑顔を浮かべるアイドルとは違う、ぐちゃぐちゃの感情を夕は一切偽ることをしなかった。
私の知らなかった、私と出会う前の夕の顔もそこにはあって、彼の背負ってきたものの重さが感じられて、だけど私がそんな夕の救いになれていたことに嬉しさを覚えたりもした。
それに最後の方なんてほとんど告白······というよりプロポーズみたいだったね。
正直生放送中だということを忘れて夕に駆け寄りたい気持ちを抑えるのが必死だったなぁ。
(······会いたい)
今すぐ会いに行きたかった。
会って抱きしめて、キスをして、彼が最後に言った言葉と同じ言葉を伝えたい。
この胸に残る熱をすべてぶつけてしまいたい。
(っ······我慢我慢······)
だけど私は何とかそれを抑えた。
迂闊に外で会えないのはわかっている。それをしてしまえば周りの人たちの協力が全部水の泡になるかもしれない。
そうなってもきっと夕はどうにかしちゃうんだと思う。
何てことない顔をして、私たちのためにまた彼は何もかも背負ってしまう。
(それは駄目······)
それは、それだけは一緒に背負いたい。
呪術師じゃない私が夕と一緒に背負えるものは、
せめてその二つくらいは一緒に背負っていきたい。
そうやって私は自分に言い聞かせて理性を保つ。
(────うぅ······でもやっぱり会いたい)
そんな考えが顔に出ていたからか────
「歌ってる時の椎名さんみたいだね~」
「確かにすごい百面相してる」
「でも何考えてるかはすぐにわかるね」
と、ニノたちから言われる始末だった。
でも仕方ないじゃん······
家に帰るまでの辛抱ってわかっていても、この想いは止められない!
○ ●
暗闇に慣れた目で天井を見つめる。
普段ならすぐに疲れて眠くなるこの身体は何故か今はそうならず、無為のまま時間は過ぎていく。
しかし、だからといって何かをする気にもなれない。
定期的に様子を見に来る伯父と伯母たちを寝たふりをしてやり過ごしつつ、俺は起きたままぼんやりとし続けた。
「────ねぇ、起きてる?」
すると、すぐ横にいる双子の妹が話しかけてきた。
「どうした? 流石にネットサーフィンに飽きたのか?」
そうは言いつつも彼女が何を話したいかは大体察しがついていた。
俺たちの正体がバレた日に渡されたスマホは握られているが、その電源は付いていない。
多分俺と同じ理由で先ほどから眠れずにいるのだろう。
その予想通り、少し間を開けて彼女は口を開く。
「······アクアはどう思った?」
「いい歌······パフォーマンスだったよ。二人ともな」
「わかってて言ってるでしょ? 私が聞きたいのはそうじゃなくて······」
そこでルビーは言葉に詰まる。
だが言いたいことはわかる。わかるがそれをうまく言語化できないのだ。
だからそう答えるしかなかった。
でもわかるのは────
「あれはアイに······それと多分、俺たちに歌われたんだろうな」
「······うん」
再び沈黙が流れる。
アイの復帰とあって楽しみにしていた番組の放送。
始まる前からテレビにかじりつくようにしていて、周さんと真昼さんに苦笑い混じりに見られながら待った。
そして始まった番組、回ってきたアイたちB小町のパフォーマンスは圧巻だった。
復帰明けとは思えないアイと、そんな彼女に引き上げられるように他の三人もいつも以上のパフォーマンスを見せ、否、魅せた。
しかし、その後の彼はそれとはまた別種。
淡々と歌う部分が比較的多い曲だったが、そこには確かな感情を見え隠れさせ、心の動きを余すことなく表現し、『椎名夕』の歩みをありありとに伝えてきた。
「────私たちもパパみたいになれるかな?」
「どうだろうな······」
俺たちよりもよっぽど多くのものを生まれながらに背負っていた彼は、今は幸せの中で笑っている。
いつか言っていた後から人生に意味を持たせればいいという言葉。
彼はそれを自分のこれまでの
だからこそルビーは思ったのだろう。自分たちはどうなのかと。
俺自身その答えは未だに出ない。
だが同時に言えることがある。
「······正直どうなるかはわからない。でもあの人も言ってただろ? 後から意味を持たせればいいって。今はそれでいいんじゃないか?」
「そう、だね······うん、きっとそうだ」
納得したような顔でルビーは何度も頷いていた。
(······俺は────)
その横で俺もまた考える。
ひょんなことから始まった第二の人生の行く末、二回目だというのにまったく答えが見出だせないあたり人生というのは本当に難儀なものだ。
まあ、でも······
(少なくとも悪いものにはならないだろう)
何となく、そんな気がした。
本当は『アイドル』を夕目線にした替え歌を作ってやろうと思ってたけど、一応規約を確認したら替え歌はダメっぽいことが判明。てっきり替え歌なら問題ないと思ってただけにこの話は描く段階で躓きました。
まあ結局替え歌を作る時に使いたいと思っていたフレーズを補完して、それっぽい感じで並べて最終的にこうなりました。
結論、遅れてマジですみません。
諸々の事情があれこれとあり、多分二月の終わりくらいまでは週一どころか十日に一回のペースで投稿できるかすら怪しいです。
まあそんなわけで気長にお付き合いしていただけると幸いです。