真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
ママがアイドルに復帰して数ヵ月が経った。
ちなみにその復帰第一弾だった生放送の後のママとパパは────
『アイさーん、そろそろ離れない?』
『······やっ』
『うん、可愛い。でも一回離れようか? ほら、斎藤さんが何か言いたそうにしてる』
『私がこうなってるのは夕のせいなんだから責任とって。今日は絶対離さないもん』
って感じでママはずっとパパに抱きついて離れようとしなかった。
正直あの場にいたのが私とかだけだったら間違いなくそのままやり始める雰囲気だったね。
ちなみにその後あった社長とのやりとりはというと。
『椎名君······とりあえず今度からああいうのは事前に言ってくれ。心臓に悪いなんてもんじゃなかったぞ俺は······』
『何かマズイとこありましたっけ?』
『いやおもいっきり歌詞の中でアイの名前言ってただろッ!? それもフルネーム!』
『斎藤さん、それは違います。“星野アイ”じゃなくて“星の
『知ってるわ!! 俺が言いたいのはだな!? アイの名前『私の名前は椎名アイだよってことでしょ~?』違ぇぇぇぇよッッッ!!』
『斎藤さん、とりあえず愛久愛海と瑠美衣が驚くので大声はやめてください』
『だぁぁぁぁっっ!!』
······憐れ、社長。
まあそんなこんなで社長以外は問題なかった生放送を終え、いよいよアイドルに復帰したママ。
当然、今日までの数ヵ月ですっかりママは引っ張りだこ────
「う~ん······」
という訳じゃなかった。
通帳にある数字はこう言ってはあれだけどなかなかに渋い。少なくとも今のママ、そしてB小町の人気を考えると明らかに少ない。
同じことを思ったママもミヤコさんに愚痴を溢している。
「────それに夕に頼りっきりってわけにもいかないしね。夫婦としても、この子たちの母親としても」
「······そう。まあ言いたいことはわかったわ。でも椎名くんと同じくらい稼ぐっていうのはかなり難しいと思うわよ?」
「あー、やっぱり? というか夕がどれくらい稼いでるかってミヤコさんは知ってるの?」
「さあ? ただベビーシッター代ってことで結構な額が振り込まれていたから相当稼いでるのは間違いないんじゃない? というかその様子だと貴女は知らないのかしら?」
「そういえばとくに聞いたことなかったかも?」
確かにパパってどれくらい稼いでるんだろう?
今やテレビで見ないことの方が少ないパパは今日も仕事で家にいない。
あの生放送で歌った新曲は話題を呼ぶし、その後も演技に熱が入りすぎて崖から飛び降りたり、それがきっかけでアクション映画の出演が決まったりと何かと話題に事欠かなかった。
歌って踊って戦える役者と本人が言った通り、ドラマ、そしてその度に発揮される超人エピソードが理由となりバラエティにもよく呼ばれるようになったけど────
────ただいま。ロケ先でお土産買ってきたよ~。
────愛久愛海、瑠美衣、近くの紅葉が見頃だから夕飯の買い物ついでに見に行こうか。
────二人とも、今度のアイの誕生日の祝い方を一緒に考えてくれない?
うちのパパは家だと基本こんな感じだ。
遠くのロケに行っても日帰りで帰れるなら意地でもその日のうちに帰ってくるし、休みの日は私やアクアが退屈しないように外に連れていってもくれる。
そしてママの誕生日は自分でケーキまで作る始末だ。それもかなり本格的に。
······って、話が逸れちゃったね。
でもぶっちゃけパパって見てる感じ物欲があんまりないし、お金をかけるものもほとんどが実用的なものだったりするからあんまり稼いでるって感じにくいんだよね。もちろんこの家含め、必要なものには惜しまずお金を使うくらい稼いでるのは間違いないんだろうけど。
「────あーあ、CMとか映画の仕事こないかなぁ~」
とはいえママは言った通りパパに頼りきりなのは嫌らしい。
どこか落ち込んでる顔とその声がやけに頭に残った。
(むぅぅぅ······)
これは由々しき事態だね。
そんな訳で────
○ ●
「────ということなんだけど何とかならないの?」
「随分唐突だね~」
久しぶりの一日オフの日、瑠美衣からそんなことを聞かれた。
「だってママ、落ち込んでたもん」
「愛久愛海もそうだけど、瑠美衣もアイのことが好きだね~」
ちなみにその愛久愛海は今寝ている。今日はアイが仕事でいないから赤ん坊の演技をする必要もなく、堂々と読書に興じていたため眠くなったのだろう。
「······まあアイドルってのもなかなか難しいからね。月百万とか聞くかもしれないけどそれは一握りなんだよね」
「あっ、それアクアも言ってた」
「愛久愛海が?」
苦笑気味にアイドルのお金のあれこれを教えようとしたがどうやらそれは既に知っていたらしい。
そして瑠美衣は瑠美衣で肝臓が云々と世も末なことを口にし始めたので軽く窘めておく。
「────まあでも、あんまり心配しなくていいと思うよ?」
「······パパは心配じゃないの?」
「う~ん······」
少し拗ねたような瑠美衣の問いかけに俺は少し唸った。そして────
「瑠美衣はさ、“天才”ってどんな人を指すって思ってる?」
「ママ」
「即答······まああながち間違いじゃないけど」
そう答えると当の瑠美衣が「えっ?」と困惑するが、俺は構わず続けた。
「あくまでも持論だけど、世に言う天才のほとんどは
「才能があるのに?」
辞書などで天才と調べれば『才能がある人』とでも出てくるのだろうが、才能があるということと天才であるということは必ずしもイコールではない。少なくとも俺はそう思う。
では、何をもって天才は天才と呼ばれるかというと────
「天才とはどんな環境でもその才を示す人のことだよ」
「?」
「あー、やっぱりちょっとわかりづらいか。例えば何かの才能のある人······じゃあ歌の才能にしよう。もしこの人が生まれたのが明日の生活もままならない発展途上の国だったらどうなる? そこまでいかなくてもその才能を伸ばせないような環境で生まれ育ったらどう?」
「その才能は開花しない?」
「そうだね。でもそれは才能があるだけの人の場合だ」
それが天才なら────
「でも天才は違う。どんな生まれ、どんな環境でも、必ずその才能を開花させる。それこそまるで天からの導きでも受けたようにね」
それはさながら出来の良い······まあ人によっては悪いと思うかもしれないが、まるで脚本でもあるように、見えざる手、見えない力に後押しされたような一種のご都合主義。
本人の意思に関わらず、いずれ天才は
「────天に導かれ世界にその才を示す、それが俺の思う天才だよ。そして多分、アイはそれにあたる類の人間だ」
「······パパは違うの?」
「うーん、俺は天才って言うよりは···············バグ?」
「いやバグって······」
「残念ながら千年以上を生きてるババアからお墨付きをもらってるからね。天に導かれるんじゃなくてその導きを下手すれば滅茶苦茶にしてしまう世界の異物が俺らしいよ?」
以前の天元とのやりとりを思い出してそんなことを言うが当然瑠美衣はどういうことかと首を傾げる。
それに苦笑いしつつポンっと瑠美衣の頭に手を乗せる。
「まあとにかく、アイの方はきっと問題ないよ。アイならいずれ誰かしらの目に止まるだろうからそうすれば勝ちさ。それに俺もそうだけど、子どものためなら親は最強だからね」
その言葉に瑠美衣は一先ずはといった感じで頷いた。
その後は昼寝から起きた愛久愛海も含めアイのライブ映像を観ながら過ごし、家族の時間を満喫した。
○ ●
それからまたしばらくの時が経ち、順風満帆な日々を過ごしながら今日も今日とて仕事をこなしていた。
「ふぅ」
無事に今日もスケジュールを消化し終え一息つく。
この業界は何かしらの理由でスケジュールがコロコロ変わるのは割とあるが、幸いにも今日はとくにトラブルも起きず終了したため、いつも通りかそれよりは早く帰宅できる。
(······酒が飲める歳になったらまた変わってくるのかねー)
あと一年もせず二十歳になり、そういう席に呼ばれた時の断る言い訳が減るかと思うと少し憂鬱だ。今だって時々そういうのに呼ばれることがあるのだから確実に増えるのは想像に難くない。仕事上の付き合いのためにも必要だが、正直そんなことより家族を優先したい。
「────ん?」
アルコールの耐性とかも把握しとかないとなぁとか歩きながら考えていると、前方で今日の仕事の共演者たちが何やら盛り上がっている。
「あ、椎名くんお疲れ様」
「お疲れ様です。ところで盛り上がっていたようですが何かあったんですか?」
「そうそう凄いんだよ! ほら、椎名くんも見て見て」
そう言って差し出されたスマホの画面には────
『バブバブバブバブバブバブッ!』
「······」
キレッキレッのオタ芸を決める見覚えしかない赤ん坊────紛うことなき自分とアイの子である愛久愛海と瑠美衣の動画だった。
「椎名くん?」
「······いえ、凄いですねこの子たち。良いものを見れました」
そうでしょという相手にスマホを返しつつお礼を言う。
普段通りの振る舞いを心がけつつそのまま手早く話を終わらせると、控え室へと向かう。
道中、俺の頭の中にあるのは少し前に話した瑠美衣との会話。
天才とは必ずその才能と共に表舞台へと上がるもの。
つまりある意味では────
「────」
控え室に入り、即座に俺は結界を張る。
そこまでやって遂に我慢の限界が来た。
「くっ······くくく······くはっ! もう駄目だ······っ! いひっ! あはははははははっっっ!!! 凄ッッいね! うちの子最高ッ!!! 駄目だ、笑いが······! ふ······いひゃはははははっっっ!!」
────結論、うちの子は多分天才。
椎名夕
腹筋が崩壊した人。この後すぐに家に帰って子ども二人を抱きしめた。
“天才”がどんな環境に限らず、そして本人の意思を問わずに表舞台へと出てくる者と定義するなら彼にとってアクアとルビーは間違いなく天才。実際アクルビは仮に誰の下に生まれても今回のようなオタ芸をするだろうから間違いではない。
椎名アイ
うちの子の可愛さは世界一! と思ってる人。
今回を契機としてこれからどんどん仕事が舞い込んでくる。
家に関しては光熱費含めて夕が払っているため、これからかかるアクアとルビーに関するお金は自分がと思っている。
藤宮周・真昼
実は原作とは異なりアイのライブにアクアとルビーを連れていったのはこの二人。
既に周囲の人間を振り回す片鱗を垣間見せた甥と姪に遠い目をしたとか。
斎藤ミヤコ
原作よりも労働環境がいい人。
双子の世話もそんなに多くないし、それに見合った金額が夕のボケットマネーから支払われ、何なら二人の世話の後帰ってきた椎名家の面々と普通に食卓を共にしており、苺プロで事務仕事をするよりもよっぽど健康的な生活を送れている。
ただし双子オタ芸案件に関しては知った直後コーヒーを気管に詰まらせ、その後はろくに仕事が手につかなかったらしい。
斎藤壱護
胃薬を切らした人。多分一番被害が大きい。
椎名愛久愛海・瑠美衣
原作通りエンジョイした人たち。その日の夜は帰ってきた両親共々に抱きしめられた。
しっかりと今回の動画が夕の手で保存されたことはまだ知らない。