真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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久しぶりに一週間以内に投稿です。
ようやくリアルの方が落ち着いてきました。


次回も一週間以内にはいけると思います。


第五十九話○

 石畳の階段を上っていく。

 階段と共に上へと続いていく鳥居と、薄紅色のシャワーを降らせる桜の木のアーチをくぐっていく。

 ふと思えばこの景色を見るのは多分一年の時以来だ。

 二年、三年とどちらも事情は違えどこの時期の高専にいなかったからか、やけに懐かしく感じた。

 

 

 だからか、この四年間の日々が蘇ってきた。

 

 

 

 

 ────思い出すのは、懐かしい数々の思い出。

 

 

 

「一年目────任務で過労死しかけた日々。灰色の青春がスタートした」

 

 

 役者との両立は大変だった。

 あと芸能界に普通に呪いが溢れてて引いた。

 俺だけなら何とかなるが、アイも芸能界の人間のため手を抜くことはできずにひたすら色々な場所の呪いを祓いまくってたな。

 

 

「二年目────「ねぇ」······どした二人とも?」

 

 

 昔を思い出して回想に浸っていた俺を愛久愛海と瑠美衣が引き戻した。

 

 

「いやどうしたじゃないよ」

「仮にも母校に来てるのに、昔を思い出そうとすればするほど目が死んでいってたな」

 

 

 そうは言うけどね······

 

 

「だって一年目は今言った通りだし、二年目は問題児二人が入学してきて、三年目に至ってはゴリラにしこたま殴られたり、呪術師だということがアイたちにバレたり、海外で死にかけたりしたからね」

 

 

 それを聞いて二人とも「うわぁ······」と同情の目を向けてくる。

 

 

 まさしく灰色の青春············という訳でもなかった。

 

 

 大変だったことと同時に去来する、たくさんの良き思い出たち。

 それらを思い出し、そっと頬を綻ばせる。

 

 

「────それに、ぶっちゃけると俺の収入って役者より呪術師としての稼ぎの方が多いんだよね」

「そうなの?」

「どれくらいなのパパ?」

 

 

 お陰で貯蓄はかなり余裕があるよ~、と言うと二人とも食いついてきた。それに「ふふふ」と笑いながらセルフドラムロール(術式で再現)をし────

 

 

「実は俺もわからない!」

「「何でよ!?」」

 

 

 胸を張り、盛大に宣言すると当然の如くツッコミが入った。

 

 

「いやー、実際のところ俺自身も自分の総資産がどれくらいかわからないんだよね。不動産とか株も含めると結構いくと思うけど今は興味ないし」

「今は?」

 

 

 その部分に気づいた愛久愛海は首を傾げた。

 

 

「そ、今は興味ないよ。まあもともと俺個人はそこまで金に頓着はしてなかったよ? ただ前にも言ったけど、もしかしたら日本は何年か後に滅びる可能性があったじゃん? 最悪の場合親しい人たちを海外に逃がす予定だったからその資金をね?」

 

 

 ちなみにだが株や不動産に関しては冥さんに色々と教えてもらった。授業料として結構な金額を払ったが、日本がもし滅びた場合、現金だけだと不安なため主に海外の方の株と不動産を中心に確保していた。

 

 

「まあでも、今の自宅を用意する時······つまり一年ぐらい前だね。その時点で五十億以上はあったよ。あ、株と不動産に関しては面倒だから換算してないよ」

「ご、五十億······」

「······高専って中学卒業してから入ったんだよね? そうなると···」

「まあ単純計算で一年で十億以上だね。貯金の八割ぐらいが術師としてのもので、その内の六割弱は最初の一、二年で稼いだね」

 

 

 ついでに言うなら色々と暗躍していた頃だから支出の方もその頃が一番多かった。何ならそれがなければ今の貯金残高は数倍になっていたかもしれない。もちろん未来のための必要経費だから惜しんでないし、そもそも未来の件が無ければそこまで稼ごうとも思わなかったけど。

 

 

「────そうなるといいの? 呪術師を辞めちゃって?」

「そっちの方が稼げるってこと? 別に興味ないよ。俺がそんな金に興味あるように見える?」

 

 

 別に役者の稼ぎだけでも毎年億単位いけそうだし、今の生活を維持し続けるのならそれだけでも十分以上に事足りる。

 

 

「それに、家族皆で過ごす方が俺にとってはよっぽど重要だよ」

「······何というか、相変わらずだね」

「うん。でもパパらしいね」

「お父さんだからね」

 

 

 胸を張る。他に張れるものがなかったとしても、これだけは胸を張って貫くものだから。

 

 

 

 

 

 

「────さて、あんまりゆっくりしてると時間に遅れそうだし、ちょっと急ごうか」

 

 

 季節は春。

 今日この日、俺、椎名夕は高専を卒業する。

 

 

  ○ ●

 

 

「────それにしてもこの学校に卒業という概念はともかく、卒業()って概念があったんですね」

 

 

 そう、それが今日俺が高専を訪れた理由。

 言った通りこの学校に卒業式があると思ってなかった。

 精々やることと言えば、フリーの術師になるか、それとも原作の七海のように術師をやめるか、はたまたこのまま高専所属の術師としてやっていくか表明して、その手続きが終われば卒業扱いになると思っていただけに、連絡がきたときは驚いた。

 ちなみにそのせいで今この場にアイはいない。俺はたまたま今日が休みで愛久愛海と瑠美衣と一緒に過ごすつもりだったから二人をここに連れてきたが、アイに関しては仕事だった。

 

 

「でもおかしいですね。それなら歌姫先輩の卒業式もあったはずなのに参加どころか話を聞いた覚えもないんですけど?」

「────それに関しては歌姫自身がお前に伝えるなと言ったからだ。当時のお前は丁度映画の撮影で忙しかったからな」

 

 

 気を利かせたのだろう、と俺の質問に夜蛾先生────いよいよ今年の四月から学長になるらしい────が答える。

 なお愛久愛海と瑠美衣が「ヤクザっ!?」って感じの顔をして驚き、目を合わせようとしないため、本人は地味にショックを受けている様子だった。

 

 

「なるほど、それは知りませんでした。遅いかもしれないですけど今度お礼を言っておきましょう」

「ああ、そうしておけ」

 

 

 そんな他愛ない会話をしていたが、ふとした拍子にそれが途切れた。

 

 

「······」

「···」

 

 

 そのまましばらく沈黙の時間は続く。

 

 

「······呪術師に悔いのない死はない」

「そうですね」

 

 

 ようやく口を開いた夜蛾先生のその言葉を静かに受け止める。

 

 

「なのに······それがわかっていながら、あの日俺は······お前をこちら側の世界に引き込んだ···」

「ええ」

 

 

 重々しく吐き出されていくその言葉とは裏腹に、夜蛾先生は震えていた。本当によく見なければわからないほどであるが、それは大きな身体をとても小さく見せた。

 

 

「気が気ではなかった。半ば強引に引き込んでおいて何を今さらと思うかもしれないがな······」

 

 

 自嘲するように語るその顔には、大きな後悔が見てとれた。だけど────

 

 

「俺は後悔してませんよ」

 

 

 今ここにあるものは当初俺が思い描いていた未来とは大分異なる。

 

 

 きっと夜蛾さんに見つからず、高専のスカウトを受けていなければ、俺は入学の道を選ばず、渋谷事変の起きるタイミングでの羂索暗殺を以て本来の未来を変えようと動いていただろう。

 まあ高専に入学した当初も多少の路線変更をしつつ同様の計画で動くつもりだったが、気づけばそこでの日々にも愛着を持つようになり、このままでいいのかと悩むようになった。

 そして、タイミングを重ねるように色々とあって、道を見失いかけ、最後にはアイに救われた。

 

 

 そんな日々の積み重ねがあったから、今を······当初描いた未来よりも遥かにいい未来を歩めている。

 

 

 多くの縁を生み出すきっかけとなったこの場所(高専)は、紛れもなく俺の青春を象徴するものの一つだ。

 

 

 

 だから────

 

 

 

 

「俺は後悔していません。ここに来たから俺はたくさんのものを得ることができました。その結果の一つは────ここにいるでしょ?」

 

 

 そう言って腕の中にいる愛久愛海と瑠美衣(未来の象徴)を見せる。

 そして改めてもう一度同じ言葉を恩師に伝えた。

 

 

「俺は後悔していません」

 

 

「············そうか」

 

 

 

 目を細め、眩しそうなものを見るように夜蛾先生は笑う。

 先生には悪いが、本当に珍しく、その顔は穏やかなものだった。

 

 

(これもまた俺が変えられたものなのかね······)

 

 

 胸中でそんなことを考えながらも、俺は立ち上がった。

 

 

 

 そして────

 

 

 

「夜蛾先生、本当に────」

 

 

 

 

 ────お世話になりました。

 

 

 

 できる限りの感謝を込め、俺は頭を下げた。

 

 

「······っ、ああ······本当に苦労をかけさせられたものだ。だが───」

 

 

 床しか見えない視界。紡がれる言葉の合間に僅かながら鼻をすする音が聞こえた気がした。

 

 

「夕、俺はお前を誇りに思う」

 

 

  ○ ●

 

 

「────って、さっきまでいい感じだったのになぁ······」

 

 

 恩師とのやりとりを思い出し、そんな呟きが漏れた。

 

 

(おかしい······俺の知ってる卒業式はもっとこう······)

 

 

 目の前の光景に俺はそれ以上の言葉が出てこなかった。

 

 

 数十分前、夜蛾先生に挨拶を済ませると、ある場所に向かうことを告げられた。

 

 

 結論から言えばそこは高専が保有する土地にある森であった。

 

 

 もっとわかりやすく言うなら交流会でも使われるあの森だ。

 

 

(────そういえば交流会も結局俺は一度も参加しなかったなー······)

 

 

 現実逃避をするが、やはりこの後のことは避けられないだろう。

 

 

「まったく······」

 

 

 一体いつから高専の卒業式は武道系の部活の追い出し稽古みたいになったのだろうか?

 

 

 万全の準備を終えた後輩たち、それを見てため息が出る一方で不思議と少しだけ笑っている自分もいた。

 

 

「······仕方ないな」

 

 

 するとタイミング良く唯一とくに何も準備してない後輩こと、家入硝子がこちらに近づいてきた。

 

 

「────御愁傷様です、夕先輩」

「悪いね家入。ちょっと二人のことお願い」

「了解です。それと先輩」

「ん?」

 

 

 愛久愛海と瑠美衣を家入に任せ、軽いストレッチをしていると彼女が声をかけてきた。

 

 

「卒業おめでとうございます。今言うのはあれかもしれないですけど先に言っときます」

「はは、ありがとう家入」

 

 

 そんな短いやりとりをして家入は離れていく。

 

 

(さて······)

 

 

 

 まずは────

 

 

 

「お前たちか────七海、灰原」

 

 

 

 

 

 




夕の資産については適当です。冥冥が十年後くらいに五百億ですからとりあえずその十分の一くらいにしときました。
まあ、必要があれば修正します。
 

椎名夕
青い春を思い出した人。
次回、後輩四人と戦う。

椎名アイ
旦那の卒業式に仕事でいけない人。もっともやるのは卒業式とは名ばかりの呪術合戦。

椎名愛久愛海・瑠美衣
後半は空気だった人たち。
父親の資産額を知り、ヤクザみたいな父親の恩師と顔を合わせた。
次回、彼らの常識は崩壊するが多分そこは描かないと思う。

五条悟・夏油傑・七海建人・灰原雄
スタンバってる人たち。発案者は当然ながら最強二人。

家入硝子
観戦する人。
何気に夕が本気を出さないか楽しみにしてる。

夜蛾正道
学長になる人。実は夕を呪術界に引き込んでたことをかなり気にしてたが、今回で胸のつかえはなくなった。
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