真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
────あの時のことは、今でも思い出せる。
『さと······る······?』
地面のそこかしこが抉れ、周囲の木も建物も薙ぎ払われたその場所────そこには
『────·········ああ、傑か······』
いくつもの刺された跡、足元にすら広がった鮮血、その上で佇む
『ッ······』
私はこの瞬間、悟ってしまった。
『······あの男は?』
『あ、ああ······椎名先輩が···』
もはや動転してそれ以上言葉にはならなかったが、悟はそれで理解したらしく、僅かの間私たちが来た方向へ目をやった。そして────
────いってくる。
こちらの返事を待たず、私の横を悟が通り抜けた。
止められなかった。
振り向いた時には無下限呪術を利用した高速移動によって、その背中は手の届かない場所だった。
よしんば届いたとしても、私がかけられる言葉なんてなかった。
『────』
呆然となっている間にも時折聞こえてくる轟音。
しかし、今の私にはそれがどこか遠く感じられた。
悟が向かった後に戻ってきた椎名先輩のことは認識していたが、やはり私はどこか心ここにあらずだった。
だが────
『お前はお前、五条は五条だよ。お前たちはお互いに、お互いになれない。でもそれでいい。お前にできないことは五条が、五条にできないことはお前がやればいい。────お前たちは、
······本当に敵わない。
こちらの内心を知ってか知らずか、しかしその言葉がどれほどあの時の私にとって救いだったか、どれほど心を軽くしてくれたかあの人は知らないだろう。
『────きっと一人は寂しいから、かな』
それは先輩になぜ自分を気にかけてくれるのかと尋ねた時の答えだった。
『人はね夏油、自分を追いかけてくれる存在がいるだけでも救われるんだ』
『やけに実感が籠ってますね。実体験ですか?』
『うん、それがアイへの恋心を自覚したきっかけ』
『······誰が惚気ろと』
思わぬ返答に呆れたのを今でも覚えてる。けれど────
『でも実際そうだよ? 俺は一人で突き進んで一度失敗した。お前だって一人であれこれ悩んでもろくな答えは出せなかっただろ?』
······否定はできない。実際にそうだっただけに耳が痛かった。
『────お前ならあいつに並べる。実は内心『俺は孤独だ』なーんて思ってるあいつに追いついて、そんなこと考えてたあいつを笑って······そしてその後に一緒に笑ってやれると思った』
それだけの才能がお前にあるよと言われたが、今思えばこれ結構な嫌味ではとも思う。
なんせこれを言った本人が悟に追いつくどころかそのさらに前を歩いているのだから。
『そこはほら、俺も先輩としての意地があるしまあ、経験の差だね。俺はもう伸び代があんまりないけど、お前ら二人はまだまだ天井知らずだし』
特に呪霊操術にはまだまだ可能性があるよー、と言われ聞いてみると────
『呪術とは才能が八割って言われる世界。そしてその才能は基本術式のことを指す。その
あくまでもヒントだけでそれ以上は煙に巻かれ、色々と誤魔化された気がしなくもないが、少なくとも現時点で私や悟よりも前を歩く人のお墨付き。
確かに先輩も術式の解釈や理解についてはかなりしていたし、それに結界術などを併せて工夫したりと余念がなかった。
私や悟とも異なる高みにいる人だが、同時にその方向性は多分悟よりも私に近い。
だからこそ参考にできることがあるし、私自身もさらに術式を理解しなければならない。
(────それに、いつまでも追いかける側なのは性に合わないしね)
悟にも、先輩にもいずれ追いついて、そして追い越して見せる。
○ ●
────兄貴がいたらこんな感じなのかな。
······あの日、人生で初めての敗北を経験した時、俺の世界はひっくり返った。
傑だけだと思ってた。いや、その傑ですら俺には届かないと心のどこかで思ってたと今では思う。
傑と初めて会った時、そこで初めてぶつかった時、俺はようやく自分をぶつけられる奴を見つけられたと思った。
今まで周りにいなかった奴。だからそれだけで俺は嬉しかった。
······けど、それでも俺には届かない。
俺が一方的にぶつかりに行けても、ぶつかり合うことはできなかった。
どれだけ近づけても決して届かない。
それだけのものが俺の
だけど十分だった。
傑がいて、そこに時々硝子とか他の奴も混ざって馬鹿をやるのは楽しかった。
皆でいられるのは幸せだったと思う。そんな皆であの人のメシを食うのはかけがえのないものだった。
そう思おうとした。
────孤独。
だけど、いつもそんな考えが影を差した。
そしてそんな影を世界ごとひっくり返して祓ったのがセンパイだった。
あっさりとだった。
追いつかれて並ばれることがあっても、追い抜かれることなんてないと思ってた俺の前に突然あの人は現れた。
願ってやまなかったその現実をセンパイはこうも簡単に実現してきた。
それからは怒涛の連続だった。
反転術式の習得とそれに伴った鍛練。その少し後にあった星漿体護衛任務······そこで味わった二度目の敗北。
けれどお陰で完全に掴んだ。センパイに教えられ掴みかけていた呪力の核心を完全に掴んでたぐり寄せ、術式反転『赫』と虚式『茈』の会得······
────多分、この時俺は最強になったんだと思う。
それからはしばらくは何もなかった。
いや、実際にはセンパイに恋人がいたり、その恋人が妊娠したりとか他にも色々あったけど······そんな日々をあの人は楽しそうに生きて、嬉しそうに笑っていた。
俺も、そんな人並みの幸せってやつを噛み締めるセンパイを祝福した。
その頃あたりからセンパイは少し変わった。まるで憑き物が落ちたように穏やかに。
もともと雰囲気的には穏やかだったけど、あの人はその裏に俺すら触れるのを躊躇う何かを持っていた。
少し意識するだけでヒリヒリとするそれをいつか見れるのを密かに楽しみにしていたけど、それは叶わなかった。
ある日突然────いや、多分センパイが海外に行った時······多分その時、センパイは何かを果たしたんだ。
それが何かわからないけど、センパイが本当の意味で本気になることはもうないのかもしれない。
それでも良かった────なーんて言いたいとこだけど······人間ってのはどこまで欲深いものだ。
だって満たされれば満たされるほどその先を求めてしまう。
今を噛み締めれば噛み締めれるほど、それで満足しようと思うほど、それを期待する自分がいるのだから。
前を歩いていたと思ったら、気づけば横で一緒に肩を並べてくれて、かと思えば後ろからその背中を押してくれて、また何食わぬ顔で前を歩いて道標になってくれて────そうして歩きだした俺を見守ってくれる。
俺にとってセンパイは、そんな期待に応えてくれる人だった。
そして多分、俺だけじゃなくて傑もそんなセンパイに変えられた。
なーんか少し前まで二人でコソコソやってたけど、それ以降傑は一気に強くなっていった。きっと俺に反転術式を教えた時みたいなことをあいつにもしたんだろう。
そうしてセンパイの卒業の日、傑もまた俺に並ぶ
その後の俺とセンパイの領域の勝負。
当たり前とも言える生得領域を具現化する際の空間の分断、それをすることなく領域を展開して、外郭から俺の領域を破壊してきた。
そして、だからこそ思った。
────俺に、俺たちに並べる奴らは他にもいるんじゃないか、と。
傑もセンパイも生まれは一般の家系。なら他にもいるんじゃないか?
それこそ呪術界のクソみたいな環境のせいで埋もれてしまった奴らは大勢いるはずだ。
それを育てることができれば······
(いいね、楽しくなってきた)
けど同時に一つだけ問題がある。
それをするための手段だ。
(人を育てる······教育────教師かぁ······)
自分で言ってて似合わないと思うし、何よりお世辞にも自分がそれを得意とする人間とは言えない。
だけど────
「······ま、何とかなるっしょ」
それくらいの苦労は受け入れよう。それだけの価値がきっとある。
○ ●
「────あ、おかえり夕」
「ただいまアイ」
「だぁ!」「ばぶぅ」
「ふふ、ルビーもアクアもおかえり。パパの卒業式はどうだった~?」
「「······」」
「あれ?」
「うん、まあ······卒業式とは名ばかりのことをして······色々とあって最強になった」
「······どういうこと?」
思いつきで描いてみたけど、渋谷事変で羂索が夕ボディで五条の前に現れても青い春を脳内に溢れさせられたんじゃね?
Qあなたにとって椎名夕とは?
灰原「凄い先輩です!」
七海「お世話になっている人ですね。ただ強いのは知っていましたが、まさかあれほどとは······」
歌姫「えっ? そりゃあいい後輩よ。変わってるっちゃ変わってるけど、呪術師としてはまともな方だし、何よりあの馬鹿共に比べれば全然マシ!」
夜蛾「······正直こちら側に引き込んでしまったことにすまないと思っていた。だからこそ······幸せになって欲しいと願っている」
家入「時々術式で私に化けて仕事を代わってくれるから本当に助かってるよ~」
夏油「私たち二人とはまた違う高みにいる人と言ったところかな」
五条「期待に応えてくれる人だな。いて欲しい時、いて欲しい場所にいてくれる」
九十九「弟子さ。といってもあいつのことだから私も知らない手札をいくつも持ってるんだろうね。────だからもしかすれば、夕は五条君たちすら超えた······」
『最強』