真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
最近、ママは何かに悩んでいる。
ほら今も、ソファーでクッションを抱きしめながら横になったり起き上がったりと落ち着きがない。
他にも話の途中とかで物思いに耽って心ここにあらずになることもここ最近は多かった。
「由々しき事態だよお兄ちゃん」
「ああ、由々しき事態だな妹よ」
そんなママを少し離れたところから観察していた私たちは頷き合う。
今この瞬間における目的は同じ。言葉にせずともお互いにそれを理解した。
ならばやることは一つ!
(いざ······)
突撃────
「おーよしよし、ルビーはいい子だね~」
(······
気づけば甘やかされていた。
(恐るべしママの甘やかしッ!?)
もはや完全に当初の目的を忘れていた。ふと視界の端ではアクアが「あ、危なかった······」って呟いていた。どうやら何とかあちらは逃れられたらしい。
「────それより二人とも私に何か用があったんじゃないの?」
「ええと······」
「まあ······」
どう切り出そうか迷っていたところにママ本人から尋ねられ、何となく言葉を濁してしまう。
だけど、こうなればと思い直し、直球で聞いてみることにした。
「あの、ね······」
「うん」
「何かあったのかなって······」
「どうしてそう思ったの?」
もったいぶるような言い回しにも笑顔で続きを促してくれたママだったけど、質問が抽象的だったせいか首を傾げた。
「だってママ、最近悩んでるみたいだったから······」
そう答えるとママは目をパチクリとさせたけど······
「···そんなに顔に出てたか」
意外なことにあっさりとそれを認めて苦笑していた。
「ルビーもアクアもありがとね。でもそんな深刻なものではないから安心していいよ。────それよりも······」
なぜかママの目が妖しく光り、それにアクアは危険を感じて逃げようとしたけどあっさりと捕まった。
「二人とも可愛いんだからもう!!」
「わぷっ!」
「~~っ! ア、アイ······離して······っ!?」
「ダ~メ♪ ぎゅーっ!」
アクア共々抱きしめられ、そのままこれでもかというほど愛でられた。
「────それで結局何に悩んでたの?」
名残惜しくも解放され、話を戻すとママは悩ましげな顔をした。
「···この前夕からラブレターもらったでしょ?」
私たちは「ああ······」って頷いた。でもそれがどうしたんだろう? ママ嬉しそうにしてたのに。
「それでその······返事を書きたいんだけど私ラブレターなんて書いたことないから······」
(うっ······!)
か、可愛いぃぃぃっっ!! うちのママが可愛い過ぎるッッ!!!
ちょっと言いづらそうに、最後の方は恥ずかしいのかぼそぼそって小さな声だったけどそれがまたいい!
正直思いっきり胸を撃ち抜かれました!
とはいえ────
「改めて両親の初々しい場面に遭遇するのってどんな気持ち?」
「······複雑だな」
しかも片や前世からの推しのアイドルだ。
少し離れてアクアと話している今も頭を悩ませて、ついでに結構な頻度で頬を赤らめながらも返事の手紙を書こうとしているママの顔は生まれ変わってから何度も目にしてきたけどやはり慣れない。
「······」
「······何? さっきからこっち見て?」
「······いや、お前も変わったなって」
「······?」
「生まれ変わったばかりのお前がこの場面にいたらって考えてただけだよ。まあそれでいくならお見合い云々の話がきていたことに憤慨しそうだけど」
「······昔はともかく今は別に認めてるし。パパのこと」
何を考えてるのかと思えば。
······まあ確かにあの頃ならきっと噛みつくぐらいしたと思うけどさ。
「それに死んだ目をしながら断りの手紙を書いてるパパを見たらあの頃の私でも流石に同情すると思うけど?」
どうだかな、って流すアクアを少し睨みつつ私はもう一度手紙を書くママの方を見る。変わらずいい返事が思い浮かばないのか手に持つペンは止まっていた。
「何かママを手伝えないかな?」
「そうは言っても基本的にあの人のことは俺たちよりアイの方が詳しいからな。それに···」
「それに?」
「お前前世でラブレターなんて書いたことあんの?」
「······ない」
せんせにラブコールならいつも送ってたけどね!
「なら俺たちにできることなんて······あ」
「? どうしたの?」
「俺たちが無理でもできそうな人はいるじゃん」
○ ●
「────なるほど。事情はわかりました」
そう言って対面に座った私の伯母────真昼さんは苦笑を浮かべた。
「ごめんね? こんなことで呼び出して」
「大丈夫ですよ。むしろ仲が良さそうで安心しました」
ふわりと笑うその様子はママとは違う意味で魅力的だ。ママが元気をくれるような笑顔なら、真昼さんは安心を与えるような笑顔とでも言えばいいのかな?
「······話はわかったがこれ俺いる?」
一方で少し居心地が悪そうな様子でそう口にしたのが周さん。私の伯父にあたる人だ。
美形かそうでないかで言えば美形だけど、ママたちと比べるとどうしても見劣りしてしまう容姿の一方、その性格は最上の部類だと思う。
単純に凄い気遣い上手だし、男の人なのに包容力? が凄い。
パパは包容力というか······いや、もちろんないわけじゃないんだけど────
何があってもすべてを受け止めてくれそうなのが周さんなら、その何かが起こる前に手を打ってそうなのがパパなんだよね。
「男の人である周くんの意見も必要だと思いますよ?」
「うん、お兄ちゃんの意見も欲しいかな」
「いやまあ···求められれば俺の意見も言うけどあんまり参考にはならないと思うぞ? そもそもラブレターなんて書く以前にもらったことすらないし」
「それを言うなら私だって書いたことはありませんよ」
書いたことはってことはもらったことはあるんだね真昼さん······。まあモテそうだもんね。
でも何度か預けられた時に二人のことを見てたけど、こっちもこっちでママとパパに負けないくらいアツアツだったんだよね。
「────なら今度真昼に書こうか?」
「······はい、是非」
最初驚いたように目を瞬かせた真昼さんだったけど、嬉しそうにはにかみながら頷いていた。
······あれ? ママの話だったよね? 何でこんな空気になってんの?
そんな考えが届いたか知らないけど、二人ともすぐに今の状況を思い出して顔を赤くしてママに謝っていた。
薄々わかってたけどこの二人凄いピュアだよね。パパが以前「ピュアピュア天然記念物カップル」なんて言ってたのがよくわかる。
本題に戻って今はママと一緒に返事の内容を考えてるけど、当たり前のように惚気が飛び出す始末。
「う~ん······」
「いまいちピンとこないって感じですか? アイちゃん」
「うん、ごめんね······せっかく意見言ってもらってるのに······」
「気にしないでいいですよ」
「そうだな。······少し休憩するか?」
そうやってお茶のお代わりを用意し始める周さんだけど────
「······」
「どうしたのお兄ちゃん?」
周さんが見ていたのは観葉植物としておいてある花。確か名前は······カランコエだっけ?
ママもそれに気づいたのか口を開く。
「ああ、それ? 結構前から夕が置いてるんだよね」
「······いや、さっきから難しく考えてたけど特別なことはいらないのかもしれないなって思っただけだ」
「?」
「アイはあの花の花言葉を知ってるか?」
苦笑いしながら答える周さんの質問にママは首を横に振った。
「まあ割と色んな花言葉があるらしいけど、多分夕は『たくさんの小さな思い出』って意味で置いてると思うぞ」
あくまでも自分の予想と前置きした上で周さんはそう言う。
それを聞いた真昼さんも「なるほど」って納得の笑みを浮かべた。
「確かにそうですね。特別なことはあっても、それはあくまできっかけ。重ねた月日、育んだ時間があって、そんな小さな思い出が積み重なって今の幸せに繋がっている。そう思うと素敵ですし、周くんの言う通り無理に特別なことを書くんじゃなくて、アイちゃんの思ったことをそのまま書いて、これまでの日々のことを伝えて上げたらいいんじゃないですか?」
「────」
「ふふ、もう大丈夫そうですね」
その言葉通り気づけばママは自然と文字を綴り始めていた。
そうして数日後、ママの返事の手紙は無事にパパへと渡されるのだった。
ちなみにカランコエの花言葉はこの話で触れた『たくさんの小さな思い出』の他にも『幸福を告げる』や『あなたを守る』といった意味もあるみたいで、個人的には割とアイ(原作)に合った花だと思ってます。
アクアとルビーと過ごした何気ない日々(の思い出)がアイを変えた。アイにとって二人は紛れもなく幸せをもたらした存在であり、守るべきものの象徴と言える。
なお、いつだか作者がアイの誕生日を十二月十一日と勝手に考えてるとどっか(多分感想の返信)で言ったと思いますが、その理由はアイの命日(誕生日)の数日後に少し早い雪が東京に降ったこと(東京の初雪は平年で一月の頭ぐらい)と、カランコエが十二月十一日の誕生花だから。ついでに言うなら白薔薇も同じ日の誕生花だった。
まあといっても調べたところ誕生花って明確な定めはないみたいなんで、誕生花に関してはあくまで作者の調べた媒体ではとなりますが。
椎名アイ
人生初のラブレターを書いた人。
ちなみに夕がなぜラブレターを書いたのかそのきっかけについては実は知らない。多分そのうちルビーあたりが口を滑らせて椎名家の天気が修羅場の後砂糖地獄となる。
藤宮周・真昼
久しぶりに登場した人たち。きっと後日この二人もラブレターを送り合った。
この話では特にやりとりはなかったが、甥と姪の教育(常識編)を早めにしといた方がいいのではと思ってる。