真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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オッパッピーですぜ、読者様
 


第六十五話●

 

 その日の椎名家のリビングはいつも以上に賑やかだった。

 

 

「とうとう明日だねママ!」

 

 

 まるで我が事のように眼をキラキラとさせながらルビーは明日に思いを馳せていた。

 普段から天真爛漫という言葉を体現している彼女がより一層溌剌としている理由は自身の母であり、推しでもあるアイが関係していた。

 

 

「ドラマ! ドラマだよ! ついにママがドラマに!」

 

 

「ちょい役だけどね」

 

 

 当の本人であるアイもそうは言いつつも満更ではなさそうで、先程から何度も同じことを繰り返す愛娘とのやりとりに笑顔で応えていた。

 

 

「愛久愛海はいかないの?」

 

 

 その様子を少し離れたところで見ていた夕はそばにいる息子にそんなことを聞いた。

 

 

「いいよ、俺は。············それよりいいの?」

「んー?」

 

 

 気の抜けたような相槌で「何が?」と伝えてくる父親にアクアは神妙な顔をしつつ、疑問をぶつけた。

 

 

「明日のドラマの撮影、僕たちも行って大丈夫なの?」

「いんじゃない?」

「いや、軽すぎない?」

 

 

 もっとこう、あるでしょ? そんな内心をありありと顔に出した息子の顔に夕は肩をすくめて返した。

 

 

「一応親戚の子どもを預かってるっていうのは以前にも公言してるし大丈夫でしょ。それにねぇ······」

「それに?」

「業界柄、芸能界の人間の関係って複雑な場合もザラだからね。同業者同士そこら辺は基本不干渉が一種の暗黙の了解みたいになってる」

「······夢も希望もないね」

「闇深いのは否定しないよ~」

 

 

 到底一歳児と交わさない会話をしつつ手を動かし続ける夕。その手元は普段よりも豪華な料理が並んでいた。

 

 

「そろそろ完成だね。愛久愛海、ちょっとテーブル拭いてきてくれる?」

「わかった」

 

 

 とくにそれに疑問を持つこともなくアイたちのいる方へと向かっていくアクア。

 それを横目に夕は仕上げへと取りかかりながらも、三人の方に耳を澄ませる。

 

 

「────二人ともそろそろ料理ができるみたいだよ」

「待ってましたー!」

「ルビー、喜ぶのはいいけどテーブル拭くからちょっとどいてくれない?」

「パパのお手伝い? アクアはお利口さんだね~」

「いや、別に······」

 

 

 

 

「────お手伝い頑張ってたから、ママに褒めてもらいな愛久愛海~!」

 

 

 タイミングを図り、夕がリビングに向けて叫ぶ。その顔には悪戯な笑みが浮かんでいた。

 

 

「は······? ちょっ!?」

 

 

 突然のことに一瞬呆けるアクアだが、次の瞬間には泡を食ったように抗議の声を上げる。

 もっともすぐにアイに捕まり、元凶に文句を言う暇もなくなる。

 そんな家族の戯れをBGMに、夕は残りの料理を完成させていった。

 

 

  ○ ●

 

 

「椎名夕です。本日はよろしくお願いします」

 

 

 明くる日、現場入りした夕の声が響いた。

 しかし珍しく、いや、厳密には例の挨拶のこともあってそこまで珍しくもないのだが、現場にいる人間は彼の挨拶に返事を返すことができなかった。

 その理由は当然彼のそばにいる双子。

 

 

「「·········」」

 

 

 普通の子どもに比べれば明らかに成熟した精神を持つ二人だが、流石に向けられる視線が多いからか居心地悪そうにしていた。

 そんな中、三人に歩み寄る一人の男性。

 

 

「久しぶりだな夕」

「おっひさ~監督~」

 

 

 明らかに仏頂面してる中年男性に物怖じのない様子で手をひらひらと振る夕。

 監督と呼ばれたことからわかるように彼が今回のドラマの撮影を取り仕切る人間だ。

 

 

「······で、その子どもは?」

 

 

 監督────五反田泰志は何とも軽い調子の夕の態度に慣れた様子でそう聞いてきた。

 

 

「前にちょっと話したことなかったっけ? 訳あって僕が預かってる子どもだよ」

「ああ······」

 

 

 可愛いでしょ? という夕の言葉をスルーしてその時のことを思い出した五反田。

 

 

「一応言っとくが、撮影中に騒ぐようなら叩き出すからな?」

「炎上させますよ?」

「さらっとなんちゅうこと言うんだテメェは······」

「監督が心にもないこと言うからでしょ。まあ安心してください。その辺はちゃんと言い聞かせるので」

 

 

 ならいい、と頷く五反田。

 

 

 

 

「────苺プロのアイです。本日はよろしくお願いします」

 

 

 そんな折、現場入りしてきたアイの挨拶が聞こえてきた。その少し後ろにはマネージャーとして同行した斎藤ミヤコの姿もあるが、彼女は夕と双子に気がついたからか顔を引きつらせている。

 

 

「アイさん久しぶりー」

「お久しぶりです夕さん」

 

 

 お互い外行きの笑みと態度で接する二人。

 

 

「······お前ら交流あったのか?」

 

 

 それを見ていた五反田は当然の疑問を抱くが────

 

 

「この子たちが彼女のファンなんだよ。だからCDとか写真集が出る度にサインもらうためにちょくちょく会ってるよ」

 

 

 素知らぬ顔で肩をすくめた夕は、そのままそっとアクアとルビーをアイの前に出す。

 

 

「アイさん、この子たちが話してた二人だよ」

「初めまして、お名前は何て言うのかな?」

「······アクア、です」

「ルビーです······」

 

 

 素敵な名前だねー、と言うアイの目は目線を合わせるために屈んでいるから気づかれてないだけで、今にも二人を抱きしめたくてウズウズしていた。正直、「撮影現場で緊張してる二人かわいい······!」と内心で思っているのが容易に想像できた。

 

 

 

「────全員集まれ、そろそろ始めっぞー·········って、あいつどこ行った?」

 

 

 五反田の声に反応し、各々が集まって来るが、そこに夕の姿がなかった。

 ちなみにアクアとルビーはアイやそのやりとりを見て集まってきたキャストたちに可愛がられていたため、父が消えていたことに気づきもしなかった。

 

 

 

 バンッ!!!

 

 

 すると突然、ドアが勢いよく開かれた。

 

 

「やあやあ、お集まりの皆さま。一つ·········大事なことを忘れていたよ────」

 

 

 芝居がかった口調と共に登場した夕に全員の視線が集まる。ここで言うことと言えばあれしかない。

 

 

 

 

「────どんな人が好みかな?」

 

 

 おおよそ状況にそぐわないその言動。しかしそれが許されるのはこれまで積み上げてきた圧倒的なまでの実績と、一流の役者が持つカリスマ的な存在感(オーラ)を纏うからである。

 故にこそ、二つの意味で周囲は何も言えない────

 

 

「────う~ん······雨に濡れてる女の子に手を差し伸べてくれる人、かな」

  

 

 と、言う考えを否定するかのようにそんな声が響いた。

 どこか気の抜けた口調、されど、夕にも負けないカリスマを感じさせる存在がそこにいた。

 しかし当の本人はどこ吹く風、感情の読めないミステリアスな笑みで佇む。

 

 

 

 

 この瞬間、アイの名がこの場にいるすべての人間の頭に刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 ·········だがその内の三人、二人の関係を知る彼らにとってはただただ遠回しにイチャつく夫婦にしか見えなかったことをここに記しておく。

 

 

  ○ ●

 

  

「······疲れた」

 

 

 到底一歳児がしない眼と声色でアクアはそう呟く。

 先ほどまでキャスト陣たちに可愛がられていた彼は何とかその場を抜け出し、気疲れした心と身体を休めていた。

 

 

「ん? 夕んとこのガキか」

 

 

 振り向くとそこには五反田がいた。

 

 

「えっと、何か御用でしょうか······?」

 

 

 声をかけられたと思えばまじまじとこちらを見てくる五反田に戸惑うアクア。

 しかし、そんなアクアの反応に五反田は片眉を上げる。

 

 

「────いや、あいつに似てるって思ってな」

 

 

 悪かったなと一言謝罪を入れつつ、その理由を五反田は語った。その一方────

 

 

「っ! ま、まあ······親戚ですから······」

 

 

 不意打ちのように言われたことにアクアは動揺しつつ、表向きの関係をアピールする。

 

 

「勘違いしてるようだから言っとくが、顔のことじゃねえぞ? 確かに似てるけどな」

 

 

 そんなかぶりを振る五反田は昔を思い出すように続けた。

 

 

「俺が似てるって思ったのはお前との雰囲気っつーか何というか······まあ、そんなところだ。俺があいつに会ったのは今のお前よりもずっと年齢が上の頃だったが、どこか外見にそぐわないところがあった」

 

 

「ッ!?」

 

 

 今日何度目かの驚愕の顔を浮かべるアクアだが、それに五反田は「そういうとこだぞ」と突っ込んだ。

 

 

「確かにこの業界には早熟な子どもが多いが、あいつは郡を抜いてそういうとこがあったからな」

「い、いえ、別に俺はそんなことは······」

「今までの会話が成立してる時点で少なくともお前の理解力が普通の子どもより抜きん出てるのは疑いようもないだろ? ······つーかマジでその年でこれってどうなってんだ?」

 

 

 アクアの言い訳を一蹴しつつ、最後には首を傾げる五反田。しかし────

 

 

「······まああいつの近くにいればこうなるか」

 

 

 と、最終的になぜか納得していた。

 

 

「────いや、それで納得されるってあの人は周りからどう見られてるんだ······?」

「何だお前、あいつの親戚なのにあいつの評判とか知らないのか?」

 

 

 思わず素の口調が飛び出るアクアに五反田はそう尋ねる。

 

 

「一応ドラマとかは一通り観てますよ。でも基本的には妹と一緒にアイの出る番組を観ることの方が多いので」

「ああ、あのアイドルか。そういえばファンだか何だかって言ってたな。まあ顔は良いし、光るものもある。夕とも交流があるなら将来的には(・・・・・)結構良いところまでいくかもな」

 

 

 推しであるアイがなかなかに評価されてることに我が事のように誇らしく思うと同時に、やや含みのある五反田の物言いに首を傾げた。

 

 

「わからないって顔してるな早熟ベイビー」

 

 

 そう言う五反田はよっこらせと立ち上がると、おもむろに歩き出す。

 

 

「丁度この後の撮影はあいつのシーンだ。折角だからよく見ておけ」

「······」

 

 

 振り返らず背中越しに手を振って歩いていくのをアクアは見送った。

 

 

 

 

『────いいからとっとと準備しやがれクソ主演っ!!』

 

 

 なお、五反田が立ち去った数分後にそんな叫びが聞こえたとか聞こえなかったとか。

 

 

  ○ ●

 

 

「······何か疲れてない?」

「言うな早熟ベイビー······」

 

 

 眼前にはこの後の撮影に向けて忙しくなく動く役者やスタッフたちが準備をしているが、当の監督である五反田は既に疲れている様子だった。

 

 

「はぁ、まったく······撮影の内外問わず振り回しやがって」

「それがさっき言ってた評価の話? でも撮影外はともかく、撮影内もってどういうこと?」

「そのまんまの意味だ。あいつは監督······いや、演出泣かせな役者だからな」

「?」

 

 

 そんなやりとりをしていると、撮影の準備が整ったと告げられる。

 

 そうして今日何度も聞いたカチンコの音が撮影の始まりを告げた。

 

 

「っ────!」

 

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 否、空間が、世界が塗り替えられたと言ってもいい。

 

 そしてその変化はあっという間に現場全体に広がる。

 

 

 その中心にいるのは紛れもなく夕だった。

 彼の一挙手が、一投足が、そのすべてが、すべからく周囲を動かす。

 共演する他の役者を、それを照らす照明、果てはカメラの角度さえ、すべてが椎名夕という役者、いや、人間に動かされ、気づけば彼の作り出す空間に適応(没入)させられていく。

 

 

 アイの演技は周囲の視線を強く吸い寄せる。それはさながら夜空に突如現れた綺羅星の如く。

 だが、夕の演技はそこに留まらない。

 夕焼けの中心は紛れもなく夕日であるがそれだけではない。夕日によって染められた幻想的な景色、普段と異なる様相は、煌めく星ほどの鮮烈さがなくとも、不思議と人の心に焼き付く。

 夕の演技の心髄、それは自身に限らず、周りの演者、果てはその空間そのものにさえ視線を惹き付けさせること。

 

 

 故に────

 

 

(主導権が、変わった······?)

 

 

 現場においてその主導権を握るのはあくまで監督といった制作サイド。

 しかし、夕の演技はそれを覆す。

 制作陣(裏方)キャスト陣(役者)、使う側と使われる側、どちらの立場も、その関係も、等しくすべてが椎名夕を中心に振り回される。

 

 

 本来なら到底許されない暴走であり暴挙。

 

 けれど、それを体験した者は皆口を揃えて言う······魅せられたのだと。

 

 椎名夕の演技()に宿るその熱量()に、未知の可能性、まだ見ぬ作品(世界)を幻視してしまう。

 

 誰よりも独りよがりな演技をしているはずなのに、気づけば誰もがその演技()熱くさせられている(化かされている)

 

 やがて()は伝染し、作品に携わった者たち全員が、一つの未来(世界)を共有し、演技()を超越したリアル(本物)として世界を変えている。

 

 

「────芸能界を夢見れても、芸能界に夢は見れないはずだが······」

 

 

 夕がいればそれができる······そう思わされてしまう。

 

 

 だからからか五反田は思う。監督として、いや、一人のクリエイターとして。

 

 

 

 ────あの景色に星も加わったら······

 

 

 

 カットっ! という音をどこか遠くに感じながら、そんな未知の世界を夢想するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで七ヶ月と一日ぶりの投稿な訳ですが、いやはや呪術も推しの子も終わっちゃいましたね~。
仕事の忙しさでなかなか描けずにいる内に二つが終わって、描こうにもロスになってそのままズルズル投稿できずにいましたが、作者はこうして何とか生きています。
ようやくロスってた後遺症? も治り始······めたと思うので、目指せ二週に一回更新を目標に頑張っていきたいと思います!
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