真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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正直前半以外は蛇足というか駄文気味······


第六十六話○

 

 

 

 

 あの撮影から一ヶ月の時が流れた。

 けれど現在の家の雰囲気は暗めだ。

 今もリビングの方からはそれを払拭しようとするルビーの声が聞こえてくる。 

 正直俺もルビーと同じ気持ちだ。なんだったらその感情を現在進行形でぶつけているところと言ってもいい。

 だって────

 

 

「······納得いかない」

 

 

 電話口の相手である監督······五反田泰志はしかしそれを一蹴した。

 でも、どこか思うところがあるような、そんな間が一瞬あったように感じたのは気のせいだろうか。

 しかしそんな小さな違和感は次の言葉で吹き飛んだ。

 

 

『────替わりと言っちゃあれだがアイに仕事を振りたい』

 

 

 それも映画の仕事と聞き、一気に期待も高まる。

 

 

 ただ問題が一つ。その条件が────

 

 

 

 

「······俺が演技か······」

 

 

 さらにいくつか監督とやりとりして電話を切った俺は呟く。

 

 

「────アクア?」

 

 

 何してるの? そうルビーが声をかけてきた。

 

 

「ちょっと考え事して、ボーッとしてた」

「考え事?」

「ああ、アイに映画の仕事が来るみた「マジっ!?」······最後まで話聞けよ······」

「そんなことよりほら! 詳しく教えてよ?」

 

 

 能天気な様子でそう言う妹にため息を付きつつ、俺は監督とのやりとりを掻い摘まんで話した。

 

 

「ふーん······つまりママが映画に出る条件がアクアも一緒に出演するってこと? それって何が問題ある?」

「······他人事みたいに言うなよ」

「? 何言ってるのママのことだよ? 全然他人事じゃない。むしろ超自分事!」

「あのなぁ······」

 

 

 思わず手を額に当てるが、続く言葉が出なかった。

 そんな俺の様子に疑問でもあるのかルビーは首を傾げながら尋ねてくる。

 

 

「さっきからアクアは何が言いたいの?」

「別に何が言いたいって訳でもないけど······」

 

 

 いや、実際にはある。ただ、うまくそれを言語化できないだけだ。

 浮かぶのはあの光景。初めて間近で見た父親の演技は今も脳裏に強く焼き付いている。

 すべてを思いのままに動かし、変えていく、そんな瞬間を目の当たりにしたあの高揚感が自分の胸を燻っていた。

 それはまるで、プロ野球選手のスーパープレーを見た幼子のような、そんな自分の中で何が変わる兆し。

 

 

「······まあ、やるだけやってみるか」

「急にどうしたの? 黙ってたと思ったら突然······」

「別にいいだろ。アイのためにもなるんだし」

「変なの~」

「うっせ······」

 

 

 何となく胸の内を言うのに気恥ずかしさを覚えたからか、口調が自分でもぶっきらぼうになってるのがわかった。

 それを誤魔化そうと俺は別の話題をルビーに振る。

 

 

「そういえばアイと父さんは?」

「······」

「いや、何だよその顔······」

 

 

 何とも渋い顔を浮かべる妹。当の本人はそれ以上何も言わず、ただ自分で見てみろとでも言わんばかりにリビングの方に顔を向ける。

 促されるままにドアのすき間から様子を伺うと────

 

 

 

「······なるほど」

「······わかったでしょ?」

「ああ······つまりはいつも通りということだな······」

 

 

  ○ ●

 

 

「────私、駄目だなぁ······」

 

 

 先ほどまでの子どもたちに対する振る舞いとは打って変わり、力のない苦笑を浮かべたアイがぽつりと呟く。

 その顔には悔しさももちろんあるが、それ以上に自身に対する不甲斐なさがあった。

 それを横目に見ながら俺は内心でため息をつく。

 

 

(······まったく────)

 

 

 何で普段は甘えて来るのにこういう時は遠慮するのかと思わずにはいられない。

 だから隣に座るアイを引っ張り自分の腕の中に入れる。

 

 

「ふぇ······? ゆ、夕······?」

「どうした?」

「どうしたって······」

 

 

 何か言おうするアイだが、次の言葉はなく尻すぼみになって途切れる。

 

 

「雨に濡れてなければ手を差し伸べちゃいけない?」

「···! もう······ズルいよ夕······」

 

 

 そう言ってアイは胸に顔を埋める。

 そのまましばしば時間が流れるが────

 

 

「······ちょっと自惚れてたね私。最近は調子良かったから今回も大丈夫って」

「正当な自己評価だと思うよ? それに目に見える結果は得られなかったけど、あの現場でアイは確かに爪痕を残した。身内贔屓なしでね」

 

 

 むしろ身内贔屓があったのは主演女優とその事務所の方だとさえ言える。

 もっともこればっかりは仕方ない。なんなら俺も昔同じ経験したし。······まあ呪術界の後ろ楯ができてからは忖度されることが圧倒的に増えたけど。

 

 

「まあでも、可愛すぎるのも問題だね。流石俺のパートナー()だ」

「もう、何それ······」

 

 

 困った困った、とおどけたように言うとアイもおかしそうに笑う。

 

 

「······夕」

「ん?」

「ありがと」

「別に大したことはしてないよ」

「そんなことないよ。夕がそこにいるだけで安心する。だから初めての仕事(ドラマ)でもいつも通りにできた。······あれ、やっぱり原因は夕?」

「え、急な風評被害?」

 

 

 キョトンとした様子で呟くアイの台詞に思わず突っ込む。脈絡が無さすぎてとんだキラーパスを受けた気分だ。

 けれどそれに彼女はクスリと笑った。

 

 

「────だって夕には一番可愛い私を見て欲しいから」

 

 

 思考が一瞬停止した気がした。いや、確かに可愛すぎたのが問題とは言ったけど······

 

 

「ふふ」

「······ッ」

 

 

 気づけば俺の胸にあったアイの顔が自分の顔と······いや、それよりも少し高い高さにあった。

 小悪魔は笑顔を浮かべ、その顔はゆっくりと近付いてくる。

 

 

「────私を可愛く(駄目に)した責任を取ってね······困ったパートナー(旦那様)?」

 

 

 甘く耳元で囁かれた言葉が、香る甘い匂いが、柔らかく安心する温もりが、脳を強く揺さぶる。

 

 

「············そういうとこだぞ」

 

 

 何とかそう言い返すも────

 

 

「そっくりそのまま返すよ」

 

 

 あえなく一蹴され、なんとなしに俺は敗北を悟った。

 

 

(心配してたけど、杞憂過ぎたかな······?)

 

 

 自分が思うより、ずっとアイ()は強かだったようだ。

 

 

  ○ ●

 

 

「────それで話って何だい愛久愛海?」

 

 

 リビング戻るとさっそく映画の件について父さんたちに相談しようと話を持ちかけた。

 

「······」

「~~♪」

 

 

 ······が、それはそれとして両親の距離が近い。

 いや、いいんだよ? 普通に夫婦仲が良くて何よりだけどさぁ······

 

 

(いや、もう考えるのはよそう······)

 

 

 そう気持ちを切り替えて、俺は監督とのやりとりを二人にも話す。

 それに対する反応は以下の通りだ。

 

 

「······その年でバーターか。まあ売れっ子子役とかならなくはないんだろうけど」

 

 

 と、父は苦笑し────

 

 

「ほへぇー、流石私の息子!」

「ちょっ、アイ······!?」

 

 

 一方のアイはそう言って俺の頭を撫でて来た。加えて────

 

 

「アクアだけずるい!」

 

 

 と、ルビーがこちらに飛び込んで来るし、それを見た父さんも場の雰囲気に乗っかって家族四人で揉みくちゃとなってじゃれ合い始め、さっきほどまでの暗い空気はすっかり無くなっていた。

 

 

「────それで? そういう話があったってのはわかったけど、愛久愛海はどうしたいの?」

「······うん、出てみてもいいとは思ってるんだけど·········」

 

 

 問題は俺が事務所に所属しないといけないということだ。監督曰く、事務所に入ってない子役を使うとうるさいらしい。

 とはいえ、そこに関しては子ども(中身はともかく)の俺ではどうにもならないことだ。

 それに大前提として二人の隠し子ということは秘密だし、事務所に所属するにもそこら辺のことを加味してどうするかという問題がある。もっとも前世の記憶があるといっても芸能界の事情には明るくないため、完全に丸投げするしかないのだが。

 

 

「所属は······苺プロにしようか。斎藤さんに話を通さないと」

「父さんの事務所じゃないの?」

 

 

 入るとしたらてっきりそうだと思ってたから意外だった。

 そんな疑問に対する父の答えはというと·····─

 

 

「俺んとこの事務所は完全に俺のためだけに存在してるからね。つまりどっぷり呪術界と繋がってて······まあつまるところ色々と面倒」

 

 

 まとめれば呪術界との繋がりが強すぎるせいで父さんの事務所に所属すると例え無名の子役だとしても悪目立ちするらしい。

 

 

「······前々から思ってたけど呪術界の権力ってそんなに強いの?」

「『権力って素晴らしい!』って時々思ってしまうくらいにはね」

 

 

 演技だとわかるのに演技とは思えない悪い笑顔を作る父。だからからか先ほどの監督との話を思い出した。それは撮影の日に詳しく聞けなかった父さんの芸能界での評判の話────

 

 

  ○ ●

 

 

『────あいつの評判だぁ?』

 

 

『うん、この前の撮影の日にちょっと言ってたけどあれってどういうこと?』

 

 

『······何でそんなこと聞く?』

 

 

『何というか、あの時の監督の顔がただ単に演技のことだけを言ってるって感じがしなかったから』

 

 

『はぁ······察しがいいのも考えもんだな。·········まあ役者には必要な能力だし、これなら期待できそうだな······』

 

 

 ため息混じりにそんなこと言われた。最後の方はぼそぼそとしてよく聞こえなかったが、声音的に呆れと期待が半分半分というところだろうか?

 

 

 

 

『────はっきり言えば異常だよ』

 

 

 唐突に監督はそう言い放った。

 

 

『異常?』

 

 

 あまりに端的に言われた言葉に首を傾げる。けれど正直だからどうしたというのが俺の感想だ。なぜなら────

 

 

(父さんがおかしいなんて割と今さらだし)

 

 

 もちろん尊敬はしてるし、親としては百点満点と言える人であるのだが、それはそれとしてやはり変わり者ということは純然たる事実でしかない。

 しかしもちろん監督はそんなこと露知らずに話を続ける。

 

 

『あいつの芸能界での地位は確かに高い。年齢を考えれば破格ってもんだ。······いや違ぇな────破格過ぎる』

 

 

『そんなに? 正直売れてる芸能人ならそれぐらい普通に思うけど』

 

 

『言っただろ? 破格過ぎるんだよとにかく。それに売れてるって言っても、言い方悪いがあいつは本来使われる側の人間だ。それが何をどうしたのかほぼほぼ確定してる企画やらに口出ししてあまつさえそれを打ち切ったことさえある』

 

 

 明け透けなく芸能界の闇とも言える裏事情と共に父の異常さが語られていく。

 場合によっては、否、間違いなく芸能界のお偉いさんの不興を買う行為にも関わらず、干されるどころか逆に相手の方が失脚したことすら過去にはあったらしい。

 多分間違いなく、呪い関連で何かあったのだと想像がつくが、傍目から見れば真意の見えない行動でしかない。けれど────

 

 

『······その割に監督は普通に接してない?』

 

 

 そう、明らかに行動基準がわからず何をするかもわからない人物のはずなのに、把握できる範囲でこの人は至って普通に父さんと接していた。

 そんな疑問に監督は面倒そうに『あん?』と返事をして────

 

 

『んなもん簡単だ。あいつは俺が認めた役者だ。こと演技に関してはどこまでも真摯に向き合う、それが椎名夕だ。理由なんてそれ以上でもそれ以下でもない』

 

 

『確かに普通に現場の人たちからも慕われてたしね』

 

 

『どういうわけかわからん発言力も現場ではほとんど使わず、むしろ変な上からの横槍をよく突っぱねてるからな。現場の人間からしたら働きやすくてたまらないだろうな。実際アイのシーンも本来ならもっとカットされるはずだったが、夕がいたからそこまで露骨にならなかった』

 

 

『あれで露骨じゃないの······?』

 

 

 さらっと付け加えられた事実に顔をしかめる。

 

 

『まあな。撮影の日にも言っただろ? 夕と交流があるなら良いところまでいくかもって』

 

 

『······』

 

 

 確かに言ってた。というかあれはこういう意味だったのか。

 

 

『────あー······そういえば逆にこのままいくとこの先やっていくのが難しい奴がいるな』

『急にどうしたの?』

 

 

 突然監督は思い出したようにそんなこと言う。

 

 

『別に深い意味はねぇから気にすんな。ふと思っただけだ。······まあ当日は面白いことになりそうだがな』

 

 

『急に不安になってきたんだけど······?』

 

 

 俺は一体何を期待されてるんだ?

 

 

  ○ ●

 

 

「────ん、あれ? 急に黙り込んでどうしたの愛久愛海?」

 

 

「······いや、ちょっと監督の言ってたこと思い出してた。映画の出演者が何かあれらしい」

 

 

「出演者? ······ああ、あの娘か」

 

 




椎名夕
本編では特に触れてないが所属事務所は高専に入学してしばらくして今の呪術界がバックにいるところに移っている。事務所の人間は基本的に信用できる補助監督たちで、もともと芸能界に憧れていた(けど見えてしまったりその他にも色々あって断念な)ため、感謝されているとか。
ちなみに現場に湧いた呪霊を都度祓っている影響か、一部では歩くパワースポット扱いされてる(本人は知らない)

椎名アイ
原作よりは出演シーンが長かった人。息子が自分と同じ事務所所属となるため喜んでる。
······なおストロベリー社長の胃のことは何も考えてない。

椎名愛久愛海
夢の種が芽吹き始めたかもしれない人。アイが喜ぶから自分自身でもどんどん水を与えるが、作者としては彼の将来をどうするか地味にまだ悩んでいる。
ちなみに芸名は原作通り星野アクア。

椎名瑠美衣
なかなか出番を出せない人。作者の技量不足、マジでスマン。いつかフォーカスする場所頑張って作るから許せ。

五反田泰志
夕のお陰で割と外野に振り回されないで仕事できてる人。ただし夕本人に振り回されてるからプラマイでゼロか若干プラス気味。

あの娘
はてさて何を舐めてる子なのだろうか?笑
ちなみにどう扱うか悩んでいる。
具体的にはネタ寄りにいくかシリアス気味にいくか。


二週間を目標としたのに更新が二ヶ月以上空いてすみません。もしかしたら次は本編じゃなくて番外編を出すかもです。


 
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