俺の部屋にくっころ女騎士が転送されてきた件について   作:Cassandra

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第十五話 同盟

 彼が馬上から放った投げナイフは紫髪の女の急所を的確に貫いた。

 リルは慣性で2,3歩走るとそのままうつ伏せに倒れ込む。

 びくりびくりと痙攣する体が動かなくなると、カノープスは口を開いた。

 

「変わっちまいましたねぇ、団長。

 それに応久さんも、ったく俺はとっとと帰れって言ったんだがなぁ……」

 

 木漏れ日がその飄々とした顔を照らす。

 彼は城内と同じく蒼い鎧で身を包んでいた。

 無数の細かい傷で色がくすんでいるので、森の中では案外目立たないものだ。

 

「カノープス……どうして貴様がここにいるんだ? 

 まさか貴様も私と刃を交える気か?」

 

 言葉とは裏腹にミリアの語気は強くない。

 むしろ旧知の友人と話すような口調だ。

 

「おいおいおいおい、まさか、んなことはしないっすよ。もしやるんだったら不意打ちだ。

 正面切ってやったら俺に勝ち目は万に一つもないですって──団長だってそれは分かってるでしょう?」

「それはまあ、確かにそうだな。

 貴様の魔法じゃあ私を倒すことはまずできんしな」

「まあ、癪だけれどもその通り。

 ───しっかしえげつねえなあ団長は。一人残らずバラバラじゃねえですか。

 応久さんもよお、大変だっただろう? こんな人と一緒にいたら命がいくつあっても足んねえよなあ」

 

 ずたずたに裂かれた異形の死体を指して言う。

 確かに思ったよりも心に来た。逃げ出したくなるくらいだ。

 けど。

 

「──いいや、その心配には及ばないよ。

 覚悟の上だ」

 

 カノープスの方へと向き直る。

 

「しかし、敵でないと言うのなら何をしにきたんだ?」

 

 ミリアが剣を収める。

 

「あー、それをこんな血なまぐせえとこで話すのもなんだな。少し場所を変えよう。団長たちの分の馬もあるから付いてきてくれや」

 

 よく見ると、確かに彼は木陰にもう一頭の馬を連れている。

 俺は促されるまま、ミリアの後ろに乗り込んだ。

 

 

 

 馬で駆けること1時間程度。

 洞穴から西へ、アチアへもダキアへも近づかない方向にその村はあった。

 

「ここだ。着いたぞ」

 

 カノープスが馬を慣れた動きで繫ぎながら言う。

 ちょうど家々の影になっており、外から見えづらい場所だ。

 

「これは……ひどいな。廃村か?」

 

 十数軒の家々、そのほぼ全てが半ば倒壊し屋台骨を晒している。

 中には中から木が生え始めているものすらある。

 

「私もここには初めて来るが……やはり戦争のせいだろうな。このあたりは避難も間に合わずに攻撃を受けたあたりだ」

 

 ミリアも続いて述べる。

 

「こっちだ。付いてきてくれや」

 

 カノープスは手を振って促した。

 

 

 数件の廃墟を通り過ぎてカノープスは一軒の家の前で足を止めた。

 庭(と思わしき場所)は腰の高さまで雑草が生えており、窓硝子は煤けきって中も見えない。二階は半壊しており、潰れた場所からも草が生えている。

 

「この家がどうかしたのか? 別に他と変わらない……どころか他より酷いぐらいだが。幽霊でも出そうなくらいだ」

「……俺の家だ」

 

 言うと彼は眉間に皺を寄せてに家のドアを開けて入って行った。

 

「あーあ。拗ねてしまったぞ。意外とデリカシーが無いんだな」

「……お前に言われたくないよ──しかし入って大丈夫なのか? ここ」

「カノープスが信用出来ないか? 

 大丈夫だ。彼は私が一番信頼している兵士だからな」

 

 ……まあ、カノープスにおいていかれてしまったため、入れとは言われていないがついていくしかないだろう。

 幸いなことに玄関まで続く道は獣道のように雑草が分けられている。

 軋む扉を開けて俺たちは中に入った。

 

 

 中に入ってみて驚いた。

 意外なほど清潔だった。

 光があまり入ってこないため薄暗いが、廊下は十分に手入れが行き届いており、ホコリ一つない。

 雑貨などはあまりないが、靴べらやスリッパなど最低限の物は機能的に揃えられている。

 

「こっちだ。居間でゆっくり話そうや。

 ……階段は上がるなよ。外から見たまんまだからな」

 

 奥からカノープスの声が聞こえる。

 

 

 居間に入ると同時にカノープスが天井のランプを付けてくれた。

 暖かい光が部屋を照らす。

 居間も変わらずに手入れが行き届いている。

 柔らかそうなソファに質のいい木のテーブル、椅子。どれも新品というわけではなく、程よく使い込まれている。

 唯一窓ガラスだけが古ぼけてくすんでいるが、それ以外は過ごしやすそうな生活感のある部屋だ。

 

「まあ座れや。今茶を淹れてくるから」

「……あ、いや、お構いなく」

 

 言われた通り、ソファに腰掛けて数分待っていると、エスニックな香りのするお茶が出てきた。

 白磁のティーカップもシミ一つなく、綺麗に磨き上げられている。

 付け合せにクッキーのような焼き菓子まで付いている気の利きようだ。

 

「……お茶なんて出せたんだな」

「そりゃ馬鹿にしてんのか? 

 一応直属の上司も居るんだ、茶ぐらい出すさ」

 

 カノープスも対面の椅子にどかりと腰掛ける。

 

「……何でこんなに外はボロボロなんだ?」

「おいおい少しは考えてくれよ。外まで掃除にしちまったら野盗が入るだろうが。

 この家はあくまで戦争で棄てられた廃墟の一つ。そう思わせた方が都合が良いんだよ」

「それなら住み替えたほうが早いんじゃ……」

「……みなまで言わすな」

 

 カノープスは茶を啜った。

 

「……すまない」

「謝られる程のことでもねえけどな。

 ……さてと応久さんよ、どうだったね? 血塗れの戦場ってやつは」

 

 真っ直ぐにこちらを見据えて言う。

 

「……思ったよりもきつかったな。

 今でも手が震えるぐらいだ」

 

 地面を紅く染め続ける切断された肉体を、目から光が永遠に喪われるその瞬間を、思い出すだけで吐き気がしてくる。

 

「だよなぁだよなぁ? 裏切り者として追われてるってこたあ、この戦争のからくりには気付いたんだろ? 元いた平穏な世界に帰りたくなったんじゃあねえか?」

「いや──」

 

 言いかけた所でミリアに遮られた。

 

「──おい! 今のは聞き捨てならないぞ! カノープス、お前まさか前々から知っていたのか!?」

 

 テーブルに乗り出してミリアはまくし立てる。

 

「あー、まあ言っちまえばそうっすね」

「どうして言わなかったんだ!?」

「だってよお、以前の団長はまさに忠臣って感じでよ、正直に言ったら俺のほうが裏切り者扱いで斬られかねなかったっすからねぇ」

 

 うっ、とミリアは口ごもった。

 

「そんなことは……いや……そうかもしれんが……ならばそれとなく証拠とか置いておいてくれても……」

「いや、そうしたんっすよ? だけどあんた全部綺麗に無視するんだからなぁ。まるで都合の悪いことから目を逸らすみたいに」

「うっ……」

 

 ミリアは途端にばつの悪そうな顔をする。

 思い当たる節があったのだろう。

 

「……それは……確かにすまなかった。だがな、一人でもそれなりにやりようはあったのではないか?」

 

 ミリアが再び座り混んで言う。

 

「それがここに俺が来た理由っすね。色々根回しはしたんですけど、一人だと難易度が高すぎるんですわ。同じように気が付いたやつは次々死んでいくしよぉ。

 ……要するに、俺の計画を団長たちに手伝って欲しいんですよ」

「カノープス、お前がアクトル側の人間でないという証拠はあるのか?」

 

 これは俺だ。彼は合流したタイミングが良すぎる。

 アクトルから指示を受けて追ってきたと考えても不自然でない。

 

「そこは信用してもらうしかねえなぁ。

 だがまあ、王様の味方がこの戦争のからくりを団長に気が付かせようとするか? とは聞いておきたいが」

「応久、私の目が節穴でなければ、彼はそう悪い人間では無いよ。彼との付き合いも長いが、彼は口こそ悪いが性根は優しい人間だ」

「いやぁ、王様の悪行を見抜けなかった訳だし節穴なんじゃあないっスかね?」

 

 カノープスがけたけたと笑う。

 混ぜっ返すな、とミリアは釘を刺しておいてから彼女は

 

「とにかく、私としては信用しても良いと思うが……判断は応久に任せる。三人なら楽になるとはいえ、もともと私達二人で計画は進めるつもりだったしな」

 

 と、続けた。

 疑い出したらきりがないが、森の中を追いかけて来たときのカノープスは完全に俺達の意識外だった。

 投げナイフの切っ先を俺に向けても良かったはずだ。

 それに、ミリアに勝てないと言っていたのは本当かもしれないが彼には馬があった。俺を殺した後、逃げおおせるぐらいは楽に出来ただろう。

 

「……ミリアがそう言うなら俺も信用するよ。全面的に協力しよう」

「そいつは良かった。仲良くしようぜ? 相棒。

 ──ほら、毒なんて入っちゃいねえから茶にも手を付けてくれ。冷めちまう」

 

 嗅いだことの無い香りから恐る恐る手を伸ばす。

 ──美味しい。

 それは仄かな苦味と酸味が混ざりあい、それでいて雑味のない見事な味だった。

 

 

 

 

 ガラスが曇り切っているため、外の様子を伺うことは出来ないがしばらく前から差し込む光が無くなっている。

 きっと外は真っ暗なのだろう。

 

「───と、こんなところか。しかし団長も無茶な計画立てるっすねえ。穴だらけじゃねぇっすか」

「まあ確かに正直、厳しいところもあると思っていたよ。君がいてくれて助かった。カノープス」

「決行は三日後の夜か。それまで練習しないとな」

「よし。そんじゃあ俺はもうメシ食って寝ますけど団長はどうしやす?」

 

 カノープスが席を立つ。

 

「私達もそうしようかな。私はまだ体力に余裕があるが応久はもうきついだろう。今日はもう休んで、明日に備えるとしよう」

 

 そんなことは──と言おうとして気が付いた。全身が怠い。

 ミリアの言うとおり、かなり疲れているようだ。

 

「決まりだな。流石に携帯食しかねえが勘弁してくださいよ?」

 

 

 

 暫くしてカノープスは携帯食を俺たちの分まで用意してくれた。

 乾パンとカロリーメイトを混ぜたような味がした大きめの保存食だ。

 野草とスパイスが挟んであり、そのまま食べるより数倍美味しかった。

 

 

 ここで今日は寝てくれ、と言われて通された部屋も、勿論手入れが行き届いていた。

 それなりに広いのにどうやって一人で掃除とかしているのだろうか。たまに来る別荘のような場所になっているからそこまで荒れないのだろうか? 

 

「ベットは2つあるからよ。少し小さいが、まあベットで寝れるだけありがたいと思ってくれ。

 ──念のため言っとくが、残念なことにこの家は壁が薄いからよお、変な気は起こさず早めに寝るこったな」

 

 意地の悪い笑みを浮かべて彼はそう続けた。

 

「──心配してくれてどうもありがとう! 貴様もさっさと寝ろ!」

 

 ミリアに頬を張られたカノープスはひらひらと軽く手を振って出ていった。

 天井のランプが部屋を薄ぼんやりと照らしている。

 タンスの上には人形やぬいぐるみが置かれていた。子供部屋のような雰囲気だ。

 彼が言った通りベットは2つともやや小ぶりだった。

 柄はピンクを基調とした華やかなものだ。カノープスには似合わない。

 複数あるベットといい、他にも住んでいた人が居たのだろう。

 ミリアにおやすみを言ってから片方のベッドに入る。

 慣れない場所だというのに意外なほどあっさり俺の意識は消えていった。

 

 

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