俺の部屋にくっころ女騎士が転送されてきた件について   作:Cassandra

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第二話 迎えた朝

 目蓋の裏に差し込む日の光で目が覚めた。

 大学に行くという運命に抗うべく、しばらくそのまま耳を澄ませていると、窓の外を走る車のエンジン音と風切り音、それに小鳥の鳴き声が聴こえてきた。

 もぞもぞと手を伸ばし、枕元にある携帯で時間を確かめる。

 7時前か。ならもうそろそろ起きなければ───風切り音? 

 もちろん今までそんなものが家の中から聴こえてきた事はない。何か嫌な予感がして飛び起きると、そこには一心不乱に細身の剣を振る少女の姿があった。

 

「ん、起きたか。おはよう」

「ああ、おはよう……じゃねえ! 何で家の中で素振りなんてしてるんだ?!」

 

 すんでの所で理性が勝ち、迷惑にならないようボリュームを押さえたが、そこそこ音量が出てしまった。

 

「日課だからな。だらけていてはいざというとき戦えんだろう?」

「いざというときっていつだよ。今剣を振り回しても───」

 

 そこまで言って気がついた。そういえばミリアは戦禍の最中にいるんだっけか。

 

「いや、何でもない」

「しかし、この家狭すぎないか? 剣を振りかぶることも出来やしない。横薙ぎの練習しか出来なかったぞ」

「日本のアパートは剣を振りかぶる事を前提に作って無いんだよ……とにかくその辺で切り上げてくれ」

 

 これまでくるまっていた布団を押し入れにしまいながら言う。因みにミリアはソファでいいと言って聞かなかった。

 

「むう……まだ回数が少し残っているのだが……」

「止 め て く れ」

「……そこまでいうなら仕方ないか。今日はここまでにしよう」

「やっと分かってくれたか。そろそろ朝ご飯にしよう。

 少し待っててな、ミリアの分を用意するから」

「朝餉か。私もお供してもいいかな?」

「……いや、いいけどな。一人分しか作り置き無いから出来合いになるぞ?」

「もちろんだ、ありがとうな」

 

 そう言って笑顔を見せるその姿がなぜか気はずかしくて、逃げるように台所へ向かった。

 

 

 

 昨晩は疲れていたせいで早めに寝たのだが、ミリアは俺より先に寝てしまった。警戒心が無いのだろうか。それとも俺より疲れていたのか? そんなことを考えていると

 

「そうだ、魔力の供給の件、考え直してくれたか?」

 

 ベーコンエッグを食パンに乗せたものを食べながらミリアが話しかけてきた。

 

「一晩寝た程度で考えが変わるわけ無いだろ……」

 

 俺は昨日の残りのカレーを食べながら答える。

 まあ、しかしいつまでも先延ばしにしているわけにもいかないし、うまく言いくるめて帰ってもらうための方便は考えておくかな。

 

「あ、なら俺からも質問いいか? 気になっていることがいくつかあって」

「ん? なんだい?」

「えっと、一応ミリアは異世界から来たんだろう? なら文化や生活が全然違うんじゃあないか?」

 

 ミリアはそこまで周りの様子に驚いていないし、違和感のある立ち振舞いもしていない。……まあ、素振り《すぶり》はどうかと思うけども。

 

「その事か。まあ、感動してはいるのだがな。だが一応、ここがどのような所であるかは事前に知っていはたんだよ。ここに転移してくる前に映像としてな。他にも応久を説得するのに必要になるかも知れない知識──交通機関の使い方やこの国の文化、応久の生活習慣等──は頭に一通り入れてある」

「……そうか、なら、言語とかもそうなのか?」

 

 個人情報保護法とかも頭に入れてこい、とか言いたいが話が横道にそれそうなので我慢する。

 

「言語か、言語は違うよ。いかにこの私が勤勉とはいっても流石にな。数日、下手をすれば数時間で終わる説得のために言語の習得は出来ない」

「なら、どうやって話しているんだ? 話し方に少しクセはあるが、完全にネイティブの日本語だぞ」

「そうか、それは良かった。言葉は魔法によって意味を直接脳に伝えている。一種のテレパシーのようなものだな。私は公国語で話しているつもりだが、君には日本語にきこえている。その逆も然りというわけだ。因みに、この魔法は物理的な意味をほとんど持たないからマナの薄いここでも使えている」

「ふうん、しかし便利な魔法もあるもんだな」

 

 ミリアの服装から勝手に中世ぐらいの技術力を想像していたが、もしかしたら部分的に現代より進んでいるのかもしれない。

 

「逆にいうとここでも使える魔法はこのくらいだがな。訓練すれば応久でも使えると思うぞ。時間はかかるがな」

「あ、ならそうだ、その魔法なら動物とかとも───

 

 

 

「───というわけだな。ごちそうさま。美味しかったぞ」

「どういたしまして───っと、もうこんな時間か」

 

 つい話が弾んでしまった。いつもは一人で食べているからペースが狂ってしまったのかも知れない。急いで支度をしなくては。着ていた部屋着を脱ぎ捨て、最低限の着替える。鞄の中身を軽く確かめ、

 

「それじゃあ俺は仕事に行ってくるから! 昼は冷蔵庫の中身を勝手に食べていいからな!」

 

 返事を待たずに部屋を出た。もうあまり時間的な余裕がない。

 

 

 自動ドアが開き、四角いコンクリの中へと俺を招き入れる。

 朝から炎天下の外とは違って、大学の構内はガンガンにクーラーが効いていた。温度差で風邪を引きそうである。

 携帯で時間を確認する。時刻は9時前。なんとか講義に間に合ったようだ。

 単位には余裕があるが、こんなところで使っていいものでもないだろう。

 

 

 

 

 一限の地学を終え、自販機でジュースを買って飲みつつ、携帯を取り出す。

 二限目は講義を入れていないので、しばらく暇ができてしまった。

 共有のチャットルームにレポート課題が出ていたはずなので、それでもやっておこうか──

 そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられた。

 

「よっす、応久さん。やー、最近は朝っぱらから暑くて嫌になりますねぇ」

 

 彼の名前は五林。大学の後輩だ。がたいの良い短髪で、いかにもスポーツマンといった感じの外見である。なぜどちらかと言うと運動は苦手な俺と良くつるんでるのかはわからない。

 

「おはよう。元気そうで何よりだよ。

 ──確かお前はこの時間講義取ってなかったっけ?」

「ご心配には及びませんよ。休講になったそうです。しかしなんで俺の時間割把握してるんすか。気持ち悪いなあ」

「気持ち悪いとか言うな。傷つくだろ。ってかこないだ自分で言ってたんじゃないか」

 

「そうだったっすかぁ?」などと言って五林はけたけたと笑う。

 

「しかしあれですね。退屈ですね。何か面白い話題とか、変わったこととかないですか?」

「なんだよその無茶振り。特には…………あー、いや、特にはねえよ」

「なんすかその間は。なんかあったんですか? 聞かせて下さいよ」

「ねえっつってんだろ。五林は何か無いのか?」

「やー、俺も特に無いですね。そうだ、昨日棒アイス買ったら根本で棒が折れてくわえながら食べるはめになった話でもします?」

「いらない」

 

 タイトル十割じゃねえかその話。

 

「えー、じゃああれ怖くないすか。あの失踪事件。

 ここの近くで起こってる、若者ばっか消えるってやつです。確か学内チャットにも注意喚起載ってませんでした?」

「そうだったっけか。よく確認してないからわからないな」

「手に持ってるのは携帯じゃ無いんすか。面倒がらずに見てみて下さいよ」

「えー? じゃあ見てみるけどさあ……」

 

 

『今月において、若者の行方不明事件が多発しています。

 行方が分からなくなった者同士に関係性はなく──

 

 ──行方が分からなくなった時刻は22時以降と共通しており、学生の皆様に置かれましても──

 

 ──とみられております。行方不明となった方の中に本校の学生は含まれてはおりませんが、深夜の外出は極力避け──

 202x年 7月○日 ☓☓大学 総務係』

 

 

「けっこうニュースでもやってますよ? 神隠しだーだのなんだの言って。俺なんか割と不安だったりしますけどね。年齢とかドンピシャだし。応久さんはそうでもないすか?」

「そうだなあ。うーん……あんまり怖くはないかな。蒸発したやつはほとんど夜に出歩いてたやつらしいし、早めに帰れば大丈夫って話だったろ?」

「そんなこと言ってもなぁ、痕跡すら全く残ってないってのは怖くないです? 巷では宇宙人の仕業なんて話も上がってるぐらいっすよ?」

「そうねえ。確かに気を付けておいた方がいいかもしれないな。早めにバイト切り上げるとするか」

 

 ミリアを一人家に残しておくのも不安ではあるし。

 

「そうした方がいいっすよ。俺は応久さんが急に居なくなったら悲しくて泣いちゃいます」

「ふざけたこと言ってるんじゃねえよ。──せいぜいお前も気をつけろよ」

「お気遣いありがとうございます。んじゃそろそろ俺は失礼しますねー」

 

 自販機で飲み物を買って、五林は出ていってしまった。

 俺も少し早いが、講堂に行って待っていようか。

 俺は空き缶をくずかごに投げ入れると、pcを持って階段を登った。

 

 

 

 っと、もう昼休みか。集中してると時間の流れが早いな。

 

「さてと、弁当弁当っと……あれ?」

 

 自作の弁当がない。どうやら家に忘れてきてしまったようだ。今朝はちょっとばたばたしていたからな。

 仕方ない。学食にするとしよう。

 一人で食べるのもなんだし、五林にLINEでも送ってみるか。

 

 

 ──よし。あいつも空いているようだ。

 

 

「やー、しかし珍しいですね。いつもお手製の弁当じゃないですか」

「ああ。ちょっと忘れてしまってな」

「LINEじゃ言いそびれましたけど、今日ぐらいは学食じゃなくてどっかで食べません? 近場ならとっとと戻ってこれますし」

「うーん、まあ間に合うならいいか。どこに行くよ?」

「隣に最近ラーメン屋が出来てたんで、そことかどうすか? 行ったやつ曰く、そこそこ美味しいらしいですよ?」

「ん、ああ。そこで構わないぞ」

 

 ラーメンか、暫く食べてないな。旨そうだ。

 

「よっしゃ、そうと決まれば早速いきましょうよ。俺、腹がへって腹がへって」

 

 と、その時ポケットの携帯が激しく震えた。見ると、知らない番号から電話が来ている。

 

「電話ですか? どうぞ遠慮しなくていいっすよ」

「いや、これ見覚えない番号だし、多分迷惑電話だろ。ほら」

「どれどれ? ──あーこれ確かこの大学の守衛室っすね。取っても大丈夫っすよ」

「え? 何かやったかな俺」

 

 彼の言葉を信じて震え続ける携帯を取る。

 

「はい。間宮ですけど……」

「間宮君、お客様がいらっしゃいましたので、正門前守衛室までお越しください」

「……はい。分かりました。今向かいます」

「はい。それでは」

 

 電話が切られる。なんだろう、凄く嫌な予感がする。

 

「どうかしました?」

「ちょっと受付に用事ができた。すまんが行ってくる」

「あ、なら一緒に行きますよ、どうせこれからメシなんですし……って行っちゃったよ」

 

 

「すみません、間宮です」

「間宮君ですね。あちらでお客様がお待ちです」

「おっ、応久! やっと来たか! 待ちくたびれたぞ!」

 

 ──そこには、笑顔で手を振る、ミリアの姿があった。もちろん、家に初めて来たときと同じく、甲冑姿で。

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