俺の部屋にくっころ女騎士が転送されてきた件について   作:Cassandra

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第三話 覚悟

 白いコンクリ造りの守衛室。灰色に塗装されたステンレスの机と無骨なパイプ椅子。

 そこに甲冑を着て座り、笑顔で手を振る彼女はあまりにも場違いだった。

 

「──!? ちょっ、ちょっと外に来い!」

 

 とにかく学内にこいつを置いておくのはまずい。受付の人に軽くお礼を言い、ミリアを外に連れ出す。

 

「おいおい、ちょっと乱暴なんじゃないのか? 婦女子に対してこんな路地裏に連れ込むなんて……」

「何が婦女子だ! 何でお前がここにいる!? 家でおとなしくしてろと……」

 

 いや、これは言ってなかったっけか。

 

「何をそんなに怒っているんだ? 私は応久が腹をすかせてはいけないと思ってな、これを届けに来ただけだ」

「! 、俺の弁当……いや、それにしても大学まで来るのはやり過ぎだろ! しかもその服装で!」

「何がまずいんだ? 家にいても手持ち無沙汰だったしな」

「学内で噂になっちまうだろうが!」

 

「あいつは彼女にコスプレをさせて大学に呼び出す変態だ」等という噂がたったら俺は明日から大学に行ける自信がない

 

「……?」

「きょとんとしてもダメだ。すまないけどとにかく帰ってくれ」

「何なんだ全く。──仕方ない。お邪魔虫は帰るとしよう」

 

 心なしか肩を落として帰っていくミリアを見送ると、後ろから声をかけられた。

 

「応久さーん? いやあ本当、いい趣味してますねぇ」

「……五林、お前、いつの間に。盗み聞きとは趣味が悪いぞ」

「盗み聞きとは人聞きが悪いですね。俺はただ、一緒にお昼食べようと応久さんについていったら、見知らぬ女の子を裏路地に連れ込んでるじゃ無いですか。これは面白そうだなーと思って」

「……趣味が悪いってのは訂正しなくて良さそうだな」

「いやぁ応久さんもすみに置けませんねぇ、聞きかじった限りじゃああんな可愛い娘と同棲してるんでしょう?」

「聞いてたんなら話は早いな。弁当はあるから一人でラーメンでも何でも行ってこい」

「冷たいなぁ……まあ良いです。食べ終わったらゆっくり話しましょうや!」

 

 そういって五林はラーメン屋の方向へ歩いていく。

 ……絶対に全部無視してやる。

 

 

 

 無視した。

 学年も違うことであるし、昼休みの間だけ耐えればなんとかなった。ミリアの件は……そこそこ大きい大学ではあることだし、守衛室であった話がうちのゼミまで広がってくることは無いと信じたい。

 現在時刻は8時半。帰路の地下鉄の中である。

 窓の外を眺めるとライトが流星のように通りすぎていく。

 講義の後、バイトに行っていたらこの時刻になっていた。

 しかし……窓の外を見ながらゆっくり考えてみると、ミリアに悪いことをした気がしてきたな。

 あいつはあいつなりの善意で会社まで来てくれたんだ。それを俺は言い分があるとはいえ、ありがとうも言わずに帰らせてしまった。

 これは謝るべきだろうな……その上でこっちの事情も説明するべきだろう。

 しかし機嫌取りってどうするものなんだろうか。甘いものでも買って帰るべきだろうか……しかしミリアの好みなんて分からないしなぁ……

 ──まあ、あいつのことに関しては、分からないことだらけなんだが。

 俺はミリアの言うことをいつの間にか鵜呑みにしてしまっている所があるが、全てが嘘の可能性もあるもんな。

 でもな……あいつが嘘をつけるような人間にはどうしても思えないんだよなぁ……第一あんな突拍子もない嘘、どんなメリットがあってつくっていうんだ? 金目的にしろ、もっとうまいやり方がいくらでもある。不出来な迷惑メール並の杜撰さだ。となると金以外だろうか? うーん……

 

 

 

 考えがまとまらないうちにアパートの前まで来てしまった。

 まあでも、あいつも子供じゃ無いんだし、ちゃんと謝れば許してくれるだろう。それに、案外怒ったり悲しんだりしてないって可能性もあるしな。

 覚悟を決めて扉を開く。

 

「……ただいま」

「遅かったな」

 

 居間に居るミリアが、視線だけこちらに向けて言う。

 

「今日はその……ありがとうな。おかげで昼飯が食べられた」

「ふん、まあそこに座るといい」

 

 荷物を置いて正座する。微かに彼女は眉根を寄せた。やはりご立腹のようだ。

 

「私が何を言いたいか分かるか?」

「……そうだな。大学までわざわざ来てくれたのに、あの言い方はなかった。すまない」

「本っ当にその通りだ。それに、君が大学に行ってから私は退屈で仕方がなかったんだぞ? 家のものを勝手にさわってもまずいだろうしな」

「そうか、それも悪かった。そこまで気が回らなかったんだ」

 

 そこでミリアはようやく表情を和らげた。

 

「ああ。分かってくれたなら良い。どうやら応久にも事情があったようだしな。これで手打ちにしよう」

「良かった……そうだ、ミリアさえ良かったらこれからどこかに夕食を食べに行かないか?」

 

 これから自炊するのも億劫だったところだ。詫びといってはなんだが、好きなものを食べてもらおう。

 

「おお! それは楽しみだ! ぜひご一緒させてもらうとしよう! ほらほら、早速行こうじゃないか!」

 

 ……ずいぶんと気持ちの切り替えが早いようだ。

 

 

 

 もちろん服は着替えてもらった。

 お詫びとは言っても俺は洒落た店など知らないので、来たのは近所のファミリーレストランである。店内は食事時というのもあって、そこそこ混んでいた。

 

「とりあえず、この写真から食べたいものを選んでくれ。値段とかは気にしなくて良いぞ」

 幸い、財布はそこそこ余裕がある。負い目もあるしな。

 

「うーん……それではこのステーキとパンのセットにするかな。他はどんな味なのかさっぱりわからん」

「良いのか? 帰ったら二度と食べれないんだし、面白い経験になるんじゃないか?」

「むう……それもそうか。なら、応久は好きなものを頼んでくれ。それを少しだけ貰おう。代わりに私のもあげるから」

 

 ……まあ良いか。少しだけ気恥ずかしいけども。

 

「ごゆっくりどうぞー」

 

 店員さんが料理を置いて去っていった。ミリアルの前にはステーキとパン、俺の前には親子丼と味噌汁が置かれている。

 白い湯気が立ち上るそれは玉子がふわふわのまま鶏肉に絡まっており、出汁の良い香りが漂ってくる。

 

「うわぁ……それ、その親子丼? 生っぽくないか? それにぐちゃっとしていてなんだかとしゃぶ……何でもない」

「手遅れだ。意地でも食べさせてやるからな?」

 

 親子丼が食べられなくなったらどうする気だ。中華丼とかにも被害が及ぶだろまったく。

 

「ほら、小皿によそってやるから騙されたと思って」

「……思ったより良い香りだな。いただきます。どれ……」

「…………」

「! ……美味しいな!」

「だろうだろう?」

「うん……うん。この鶏肉もとても柔らかいし、この塩気……食べたことのない風味だ。私は食にはこだわらない方だが、これなら毎日食べたいぐらいだ。ネーミングはどうかと思うがな」

「ネーミング?」

「この料理、親子丼と言うのだろう? 鳥の卵と鶏肉の料理だから親子丼と言うのは少し残酷な気がするぞ」

 

 ──まあ、考えてみると気持ちは分からなくもないか。親子っていう字面からはどうしても愛情とかが読み取れてしまうものだしな。

 独特な感性を持っているものだ。文化の違いだろうか。

 

「まあともかく、気に入ってくれたようで何よりだよ。別に俺が作った訳じゃないけど。もう少しやろうか?」

「いや、それは別にいい。もう一つ頼むからな」

 

 えぇ……確かに金額は気にしなくても良いとは言ったけども……

 

 

 

 ファミレスから出る頃には、夜もすっかり深くなっていた。

 ミリアはデザートに食べたアイスでご機嫌である。何でも、あっちではめったに食べれない高級品なんだとか。

 

「──なあ、ミリア、ちょっと良いか?」

「うん? どうした?」

 

 前を歩く彼女がくるりと振り向く。

 

「ふと気になったんだが、ミリアはいつもは戦場で戦っているんだよな?」

「ああ、その通りだが」

「それなら、いつも死と隣合わせ……ってことだよな。怖くは無いのか?」

「…………勿論怖いに決まっているだろう。なんとか誤魔化しているだけだ」

「誤魔化してる?」

「ああ、私は負けるわけにはいかないんだ。私が負けたら沢山の人が死んでしまう。大切な人を失って悲しむ人はもっと多い。そんなことは絶対に見過ごせない。看過できない。

 ───それに、名誉のためというのもあるだろう。私がここで逃げたら部下の皆が、後世の人が、何て思うだろう。そんな気持ちも、無いとは言えない」

「……」

「……私の国はな、今、とても貧窮しているのだよ。戦争のために、大量の税を使っている。勿論、それが悪いとは言わないが……名誉ある職についている私はまだしも、国民の中には明日食べるに困る者も多い。今日だって罪悪感があったぐらいだ。そんな中、私が死への恐怖なんかに屈していてはいけないだろう? 

 ───おっと、話しすぎてしまっただろうか。退屈だったなら謝るよ」

「いや、退屈だなんてことは無いよ。俺は──俺の国はほとんどの人がそうだが、死を身近に感じることが少なくてな。平和ボケっていうんだろうが、それで気になったんだ」

「…………平和ボケなんて言ってほしくはないな。それは私がなんとしても手に入れたいものだ。それを当たり前だと思っていてほしい」

 

 どこか寂しそうな面持ちで彼女は話す。

 

「そうか……うん、よし、決めた。5日間だっけ? 美人が看病してくれるってのも悪くないだろ」

「応久、それって……!」

「ああ、魔力ぐらい、いくらでもくれてやる。ただし、明日は休みで明後日はバイトを入れてしまったから、明後日から休みを取ることになる。それでも良いか?」

「勿論だ! これで胸を張って帰還できる……! ありがとう。我が国を代表して感謝しよう!」

「そこまでいわれると照れるな。そういう感謝とかは全部終わってからで良いよ」

「そんなことをいわれても仕方ないだろう! いやあ、今日は良い夢が見れそうだ!」

 

 

 

 そんな二人から200mほど離れた電柱の裏に、二人をじっと見つめる一つの影があった。初夏だというのに男は厚手のコートを羽織り、フードを目深に被っている。身長は190センチを優に越えるだろうか。それだというのに華奢な印象は全く受けない。

 男が凝視を止め、踵を返そうとしたその時、男は懐中電灯に照らされた。

 

「君、少し良いかね? 最近物騒だからね。少し質問させてもらうよ」

 

 警官である。右手は既に拳銃のホルスターに添えられている。

 

「……だから言ったんだよ兄さん。この季節にコートは怪しすぎるって。

 そんなことを言っても仕方ないでしょう。私達は隠さなくてはならないのですから」

「何をブツブツ言っているんだ? まずは身分が分かるものを見せてもらえるかね?」

「この人、歳を食い過ぎだよ。送ったら怒られちゃうし、逃げてあげる? 

 優しいですね。しかし、私達は背格好を見られています。逃げたら仕事がしづらくなってしまいますよ」

 

 彼はマントを翻した。

 

「! 何をする! 止め──」

 

 十数秒後。

 明かりのついたままの懐中電灯だけがころころと暗がりを照らしていた。

 

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