ありふれた異世界で魔獣は笑う   作:富竹14号

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 ようやく落とせた…ということでちょいと短め。


奈落の底、その一幕

 

 

 倒れる、火球を真正面から無防備に受けた湊がその場に倒れ込む。

 

 空気が凍る、ハジメも光輝もメルドもその光景に呆然とせざるを得なかった。

 

 ハジメだけではない、メルドも光輝すらも察してしまった、今の火球が故意のものであったことを。

 

 しかし、それが分かったところでどうにもならない。

 

 ベヒモスが…立ち上がる。

 

 

「─────!!!!」

 

 先程よりもより明確に発せられる怒りの咆哮、そして煮え滾るように燃え盛る角を明確な敵へと向ける。

 

 間に合わないことは、誰の目からも明白だった。

 

 メルドも光輝も誰もが間に合わない、先程の湊がとことん異常であったことが如実に現れていた。

 

 ベヒモスが突進を開始する、狙いは当然湊だ。

 

 ハジメは最後の抵抗とばかりに湊を担ぎ上げ、必死になってその場から飛び退く…が、それもまた無駄なこと。

 

 直後、石橋全体を強烈な衝撃が襲う、ベヒモスの突進が橋全体を振動させる。

 

 着弾点を中心にして遂に橋に亀裂が走る、メキメキと今にも壊れんばかりに悲鳴を上げる。

 

 

 そうした果てに、橋は崩れ落ちる。

 

 度重なる強大な攻撃の数々、それらが重なって遂に橋を崩壊させるまでに至ったのだ。

 

 ベヒモスは悲鳴を上げながら崩れる橋へと爪を突き立てるが、絶賛壊れてる途中の橋にそんな耐久度が残ってるわけがないのだ。

 

 ベヒモスは悲鳴を上げることもなく、ただ奈落へと落ちていく。

 

 そしてそれは、ハジメ達も同じだった。

 

 届かない、手を伸ばしても錬成を使っても届かない、まして湊を担いでいる今の自分では到底戻れない。

 

 こんなことがあるだろうかとハジメは自分の無力は初めて呪った、もっと自分が強ければと思わずにいられなかった。

 

 そんな後悔と懺悔に近しい感情を懐きながら、ハジメもまた奈落の底へと落ちていく。

 

 最後にハジメに見えた光景は、香織が自分に手を伸ばしている姿、そしてその飛び出しそうになる香織を光輝と雫が必死になって止めている姿だった。

 

 

 

 

 


 

 

「…いっつぅ」

 

 ふと、痛みに目が覚めた。

 

 身体がズキズキと痛む、硬い地面に寝かされたせいなのかそれとも何らかの怪我が原因か…恐らく後者だろう。

 

「…どこだここ?」

 

 起き上がり、辺りを見回して分かったのは、ここら一帯は先程までいた場所と大して変わりないということだった。

 

 上を見上げてみれば…何も見えない、見えないくらい深い場所に落ちてきた証拠とも言える。

 

 まぁ、落ちる直前に気を失っていた湊にそんなこと分かるはずがないのだが。

 

 さてどうしようかと湊は考える、何せここに来るまでの記憶がまるで無いのだ、どうするべきかと思考するのは至極まともなこと。

 

 

「…まぁ…いいか」

 

 なのだが、この男よりにもよってそこら辺のこと大概素っ破抜くからアホなのである。

 

 まぁいいやと立ち上がり、近場に転がっていた斧槍を手に取って暗い通路を進んでいく、当然灯りは手元に無い。

 

「ハジメもいんのかな…」

 

 薄暗い洞窟を進む中で思い出すのは自分の親友、着前まで一緒に居たし何だったら自分が担いでいたということも相まって自分と同じようにここら辺にいるのではないかと考える、正直そうあって欲しくはないのだが。

 

 何を警戒するでもなくただただ道なりにコツコツと歩いていく、某ダンボール好きの蛇が見たら説教ものだろう。

 

 しかしそんなこと知らぬと言わんばかりに湊は靴音を鳴らしながら通路を進んでいると…唐突にしゃがみ咄嗟に物陰に隠れた。

 

 直後、その場に急速な速さでナニカが飛んでくる。

 

 それは兎だ、白くふわふわとしてぴょんぴょんと跳ねているモフモフの象徴兎さんだ。

 

 ただし、中型犬並みにデカいし妙に後ろ足が発達しているし、なんなら身体に赤黒い線が何本も走っていて脈打つようにドクンドクンしている…はい完全に魔物ですありがとうございました。

 

 

(…どうしよ、殺すか無視するか…)

 

 兎はフンフンと地面に鼻をつけて嗅ぎ出す姿を見つめ、湊は斧槍を握りしめる。

 

 どれだけ落ちたかは知らないが、間違いなく上の魔物よりは強いだろう、それは気配で分かってしまう。

 

 では殺せないかと言われるとそんなことはなく、恐らく殺せはするであろうということも分かる。

 

 だから悩むのだ、殺すか否かを。

 

(うん、殺そう)

 

 即決、まさかの即決である、先程までの悩む云々の思考は一体何処へ行ったというのか。

 

 兎は未だにスンスンと鼻を鳴らしている、此方に気づいた様子は今のところは無い。

 

 やるなら今だと、本能がそう告げていた。

 

 

「──────」

 

 小さく息を吸い、吐く…ただそれだけ、それだけの行為ではあるが、それを引き金として湊の意識は()()()()()

 

 先程までの油断していた一般的なそれではない、ベヒモスの時のモノとも違う…何処までもただ冷徹に敵を殺す狩人のものへ。

 

 瞳は暗く、冷たく、鋭く細められ、斧槍を握りしめていた手は適度に力の抜けた状態に。

 

 呼吸は薄く、深く、音を殺すように吸っては吐く。

 

 剣をゆっくりと音を立てないように引き抜き、そして──

 

───カラン…

 

 何気無いように、兎の目の前に落ちるように放り投げた。

 

 鉄の音だ、暗い洞窟の中にはよく響く。ましてや兎なのだ、発達した耳は伊達ではない、嫌でも気付く。

 

 兎が視線を剣が落ちた箇所へバッと反射的に向ける、そこへ湊は斧槍を構えて突っ込んでいく。

 

 足音は極力抑えて、静かにされど速く真っ直ぐに兎へと突っ込み、その首を刈り取ってやると言わんばかりに斧槍を振るう。

 

 しかし、流石は兎と言うべきか、ほんの僅かな音から湊の接近を察知し反射的に飛び跳ねることで斧槍を回避する。

 

 そのまま兎はくると一回転した後、空中を踏みしめてそのまま弾丸のような速度で湊へと突撃してくる。

 

 更にその突撃途中で縦に回転、そのまま勢い任せで体勢を変化させライ○ーキックならぬ飛び蹴りを放つ。

 

 風を切り、音を超えてるんじゃないかと言わんばかりの速度で迫るライ○ーキック姿の兎に、湊はギュッと左手を握りしめ──

 

()()()

 

 拳を横から薙ぐようにして振り抜き、兎を壁に叩きつけた。

 

 ドチャァっと生々しい音と匂いが辺りにばら撒かれる、視線を向ければ兎が非常にグロテスクな様子で壁に叩きつけられていた。

 

 腹の部分が横合いから潰され、壁に叩きつけられた影響か腹から飛び出した内蔵が一部壁に張り付いていた。

 

 壁に叩きつけられた兎はそのままズルズルと壁から地面へと引きずられる様に落ちていき、最後には壁から剥がれ落ちて地面に叩きつけられた。

 

 そして湊は、そうやって剥がれ落ちてきた兎の頭を何の躊躇いもなく踏み潰した。

 

 びちゃと地面に血が飛び散る、潰した靴には何の肉片なのやらピンク色の気持ち悪いブヨブヨとしたものがついていた。

 

 それを冷めた瞳で見つめた湊は頭の潰れた兎の死体を洞窟の奥へと蹴り飛ばし、そこから再びしゃがみこんでジッと見つめる。

 

 瞬間、奥から剛風と共に刃が飛んでくる。

 

 それを湊はしゃがみこんだ状態からの急速なダッシュで横に回避し、そのまま姿勢を低くして刃が飛んできた方向へと突っ込んでいく。

 

 奥からノシノシと重い足音を響かせながら、白い毛皮が特徴的な巨大な熊が姿を現す…が、そんなのどうでも良いと言わんばかりに湊はその巨大な熊の足元をスライディングの様にして潜り抜ける、途中で投げた剣を拾うのも忘れない。

 

 潜り抜けた先で素早く片膝立ちの態勢に移行し、回転しながら大熊の両足を剣で深く斬りつける。

 

 ブシュと斬りつけられた足から血が流れ落ち、ガクッと跪くように足を折る。

 

 しかし、流石に魔獣の意地というやつか足が斬られたことなぞ何のそのとでも言いたげに振り返って直ぐ様反撃しようとする大熊に対して、湊は振り返った大熊の目に剣を一閃した。

 

「グォォォォォァォォオォォ!?」

 

 振り抜かれた剣の残光を追うようにして血が飛び散る、大熊が余りの痛みに大口を開けて悲鳴を上げる。

 

 痛みに悶えて口を大きく開けて苦しむ大熊に、湊は遠慮無く大熊の口の中目掛けて斧槍を突き刺した。

 

 ドシュッと鈍い音を鳴らして斧槍が口内へと突き刺さる、目に続いて口内を貫かれた大熊は痛みに悶えることすらせずに暫し動きを止めた。

 

 痛いだろう、憎らしいだろう、今すぐにでも目の前の敵を殺してやりたいだろう…しかし出来ない、進めば死ぬと本能が叫ぶのだ。

 

 だから踏み出せない、一歩前へと進めない、爪を振るえない、何故ならそれをしてしまえば喉にある牙が己を殺すから。

 

 しかし大熊は分かっていなかった、進もうが進むまいが結局結末は同じであるということを。

 

「…うすのろ」

 

 斧槍から手を離して身体を大きく捻って拳を大きく振りかぶる、湊がその態勢に入った瞬間、大熊は悪寒を覚えた。

 

 舌がズタズタになるのも、首に喰い込む痛みも無視して、大熊は目の前の存在を屠らんと爪を振るおうとするが…最早遅い。

 

 振りかぶった態勢から速度を乗せて湊は斧槍の柄に向けて掌底を叩き込む。

 

 パァンという乾いた音を鳴らしながら叩き込まれた掌底は、寸分違わず斧槍へ力を送り込み、そのまま勢い良く振り抜かれた。

 

 振り抜かれた掌底によって斧槍は更に奥へと突き進み、爪を繰り出そうとしていた大熊の口内を容易く貫通し、大熊の命をどうしようもないほど呆気なく吹き消した。

 

 グラリと揺れ、前に倒れ込もうとする大熊の死体を湊は足蹴にして止め、手放した斧槍を握り込んで思い切り引き抜く。

 

 ドクチャッと肉のはち切れる様な音を鳴らしながら引き抜かれた斧槍は何処の部位やら肉片やらがこびりつき、大変グロテスクな様相と化している。

 

 更に引き抜かれた箇所から噴水のように血が大量に吹き出し、雨のように湊の身体へ降り注ぐ、血の雨とは正にこれのことだろう。

 

「…汚いな」

 

 そう呟いて斧槍を一振りし、湊は再び洞窟をコツコツと歩き始めた。

 

 ハジメはここにはいない…そんな妙な確信を胸に秘めながら。

 

 

 

 そして湊は最後まで気が付かなかった…歩き去る自分の後方、つい先程まで自分が隠れていた物陰の右手側、そこから自分を見つめるナニカの存在を。

 

 そしてそれが、湊が魔獣を殺す姿をキラキラとした目で見つめていたことに、湊は全く気が付かなかった。

 

 

 ソレはついていく、湊の後をシュルシュルと低い音を立てながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





爪熊さん

 原作のハジメの左腕をモグモグした個体とは別個体、ハジメが戦ったのとは違って風爪を飛ばせる。

 原作序盤のハジメを大いに苦しめてくれたが、今作ではうちの主人公に瞬殺された、目とか口とかの急所があるのが悪い。


蹴りウサギ

 ハエを叩くオバハンみたいな感じで殺された。



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