大分投稿してない気がするけど、ベツニバレヘンヤロ。
「どうして…どうして…」
項垂れるように…というか項垂れて四つん這いになった湊を、ハジメは可哀想なものを見る目で、ユエはなんとなくで頭を撫でていた。
あの後、湊が自分の姿をようやく認識したあの時、湊はそれはもう盛大に崩れ落ちた、さながら伝説の野菜人を見た野菜星の王子がもう駄目だと絶望するシーンばりに見事に崩れ落ちた。
崩れ落ち、項垂れ、そしてどよーんとした空気を纏った湊はそれはもう落ち込んでいた。
ではそれは何故か? それこそ簡単だ、簡単すぎて多分猿でも解けるくらい簡単でしょうもない理由だ。
それ即ち──
「身長…俺の身長ぉ、俺の…俺の175cmぅぅ…!!」
身長の低落である。
今の湊の身長は大凡150cm届くか届かないか程度の身長しかない、元の身長と比べてみると25cm程違う、その事実が湊をこれでもかと落ち込ませていた。
「…落ち込むところそこなの?」
「そこなんだよアイツの場合、昔っから身長低いの気にしてたからなぁ」
そんな湊の姿に、ユエは頭の上にハテナマークを浮かべ、そしてハジメはそんなユエに苦笑いしながらその疑問に答えた。
ハジメ曰く、子供の頃の湊は身長が低く、それを湊はずっと気にしていた。
身長が低いせいで男子に馬鹿にされたりイジられたりするし*1、守るはずの女子から守られるし*2、しかも挙げ句の果てには図書室の先生に生暖かい目で見られる*3、それが湊的にどうしようもなく嫌だったらしい。
だから湊はそれはもう努力した、無茶苦茶運動して普段通っていた道場でも何時も以上に鍛錬に打ち込んだ*4。
大嫌いな牛乳も飲みまくり、食べたら身長が伸びると言われる食材を食べまくり、その他諸々のことがあってようやくここまでやってきたのだ。
それが…それがまさかの異世界で原因不明の身長低落、まさかの自体に流石の湊も瀕死である、もしかしたらベヒモスの時よりもキツイかもしれないと湊は項垂れた。
それらの話を聞いたユエは、湊に視線を向けて一言呟いた。
「…馬鹿?」
「馬鹿…ではあるな、色んな意味で」
頭は悪くはない、しかしやることは何処か馬鹿っぽい、少なくともハジメの湊への印象今も昔も変わらずこれだ。
ある時は山登りに出かけ、そのまま数日帰ってこなかった、何処に行っていたのかと聞いてみれば海に行っていたと訳の分からんことを言っていた。
ある時はマグロ釣ってくると自転車を漕いで数日帰ってこなかった、マグロは美味かっかたと聞いてみたら熊肉が美味かったと返ってきた。
何故山登りに出かけたのに海に行ってるんだとか、何故マグロを釣りに行ったのに熊肉の感想が出てくるんだ、とかそういう質問は最早野暮である、そういう人間なのだ、目の前の親友は。
今なお項垂れ、ブツブツと何やら呟いている自分の親友は、そういう馬鹿をやらかすのが大好きな、そういう人間なのだ。
「…なぁ湊」
だからこそなのだろうか。
「ぐすっ、なんだよ、オレちょっと今現実から逃げたい気分で──」
「この先にいる魔物無茶苦茶強いってよ」
「何やってんだ早く行くぞ!!」
打てば響くとはこのことを言うのだろう、つい先程までメソメソと泣き言を呟き続けていた我等が男の娘は、ハジメの一言でバッと直ぐ様起き上がり、るんるんと如何にも楽しげな雰囲気を出しながら意気揚々と階下の階段へと向かっていく。
その様、さながら遊園地に向かう子供そのものである、苦笑いしたハジメを誰が責められようか、あまりの復帰の早さにさしものユエも瞳をパチクリとさせている。
「…じゃ、俺達も行くか」
その言葉を合図にハジメは湊を追うように歩き出す、その歩みは不思議と楽しげな様子に思える。
そんなハジメの足取りに、ユエはぷくと頬を膨らませて、一言呟いた。
「…強敵」
ユエの脳内で、湊というライバルが追加された瞬間だった。
「強いの〜♪ 強いのどっこだぁ〜♪」
陽気に鼻歌を歌い、るんるんとステップを踏みながら前へ前へと進む湊を、ハジメは懐かしいものを見るような目で見つめる。
(まるで昔に戻ったみたいだな)
最初の頃の警戒心は何処へやら、湊は強い敵という単語にまるで子供のように浮かれ上がっている、その姿をハジメは咎めることはしない。
油断した者から死んでいく大迷宮、ハジメもユエもそれは例外ではなく、だからこそ彼等は一度たりとも警戒を緩めるということはしなかった。
ならば眼の前の彼にもそれを伝えるべきで、或いはそんな彼を囮にするか切り捨てるかして自分達の安全を確保するべきなのだ。
ましてや今いる階層は丁度100層、上層の到達点と同じ階層なのだ、警戒し過ぎることに越したことはない。
更に言ってしまえば、この階層は螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている柱が無数に存在している広大な空間という如何にも何かありますよと言わんばかりのコテコテのラスボス的な空間なのだ、警戒しない方がおかしい。
だからこそ、湊の様子は異常の一言で、ユエもあれ良いの? と言いたげな目線をハジメへと送っている、暗に早く切り捨てた方が良いと目が物語っていた。
まぁ、確かに? 自分達の安全を考えるのなら? 目の前の親友をとっとと切り捨てるなり囮にするなりした方が? 安全マージン的に良いのかもしれない。
だがしかし、ハジメとて人の子だ、邪魔する奴等は全部ぶち殺すとかサーチ&デストロイだとか今死ね! すぐ死ね!! 骨まで砕けろぉ!!! だとか笑いながら叫び散らかしたりしてこそいるが、流石に小学校時代からの親友を切り捨てられるほど終わっていないのだ。
ましてや自分を助ける為に階層ぶち抜いてまでやってきた男である、ここで切り捨てたら自分の中にある本当に大事なナニカが死ぬ気がしてならなかった。
だから、作戦上必要な時以外は、基本的にそんなことはするまいとハジメは決めているのだ。
なお、親友が自分から罠に引っ掛かった場合は別とする。
「…ありゃ?」
そう…今のようにだ。
湊の足元に魔法陣が展開される、今までの物とは違う美しい翡翠色の魔法陣だ。
美しい碧のヒカリを放ちながらバチバチとスパークし、そこから更に湊以外を拒絶するかのように湊を中心として四方の障壁が展開される。
そしてそれらの障壁は蕾が閉じるように狭まっていき──
「ごめんハジメ! また後で!」
という湊の言葉と共に、完全に閉じた。
閉じられた蕾のような障壁がボロボロと崩れ落ちていく、崩れ落ち穴だらけになったその先に湊はいない。
何処かに飛ばされたか、それとも塵すら残さず消し飛ばされたか…湊の言葉的に恐らく前者であろうとハジメは推測する、そうであってくれと希う。
「ハジメ──」
「あぁ、分かってる…
ハジメとユエの短い返し言葉、紡がられたそれと同時に今度は赤黒い魔法陣がハジメ達の前方へと現れる。
バチバチと地面に電流が奔り、それらを伝って脈打つように地面を鼓動させる。
地面が盛り上がる、無数の何かが地面から飛び出し、その後に一際大きな巨体が跳ね上がるようにして地面へと降り立つ。
六本の首に鋭く手足の爪、自分達等容易く噛み砕くだろう牙に赤黒い瞳。
その容貌、さながら六ツ首の怪物、さながらギリシャ神話の怪物ヒュドラ。
吼える、六ツ首を荒げ、眼科の挑戦者を喰らわんとその瞳をギラつかせる。
そんな怪物を相手にハジメは躊躇いもなく銃口を向け、不敵に笑みを浮かべた。
「悪いけど、今の
烈日の殺意と共に、ハジメは引き金を引いた。
銃声が…鳴り響く。
「ここに落ちてきてからずっとさ、誰かに見られてる気はしてたんだよ」
白一色の花畑に声が響く、無数に舞う白い花弁の真っ只中で紅い斧槍を携えた少年が、湊がなんでもないように呟く。
「ただ見られてるだけだったから無視してたけどさ、それはそれとして大分鬱陶しかったから、その内どうにかしようって思ってたんだ…助かったよ──」
──自分から出てきてくれて。
そう言い放った湊の周囲を、大きな物体が波打つように塒を巻き、周囲の花弁が勢い良く吹き荒れる。
するりするりと塒を巻き、ただ花の音だけが周囲に響く、地面を擦る音も抉る音もしない、ただ花が舞う音だけが微かに湊の耳に届く。
それは蛇だ、白い蛇、白にも赤にも緑にも…角度を変えれば様々な色に変色して見えるであろう鱗を身に纏い、その図体は確実にあの魔獣を越している。
舌をシュルシュル、チロチロと出し、純粋無垢にも思える程に美しく輝くエメラルドの瞳が真っ直ぐと湊を見つめている。
そんな蛇に、湊は斧槍を地面に突き刺し、そのまま大きく両手を広げて、まるで親が子供を呼ぶように、優しく語りかけた。
「──おいで、殺してあげる」
その言葉と同時に、白蛇は湊へと襲い掛かる。
それに対して湊は、ただ笑みを浮かべていた。
魔獣vs白蛇…ふぁい!