ありふれた異世界で魔獣は笑う   作:富竹14号

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 続けて更新、コメントが欲しいメウw


カリスマは時として邪魔になる

 

 

 イシュタルと名乗る老人に自己紹介された後、湊達は場所を移して十メートル以上はありそうな巨大なテーブルが幾つも並んだ大広間へと通された。

 

 この部屋も例に漏れず煌びやかな作りをしていた、芸術方面に関しては完全な素人である湊から見ても壁に飾られてある絵や調度品、壁紙が選ばれた職人達の技によって生み出された物であることが分かる。

 

 恐らく、晩餐会などを行う場所なのだろう、上座に近い場所に教師である愛子や光輝達カースト上位四人組が座り、後はその取り巻き順に座っていく、因みに湊とハジメは最後尾の隣同士だ。

 

 ここに案内されるまで生徒達が騒がなかったのは未だに今起きている現実に思考が追いついていないからだろう。

 

 イシュタルが事情を説明すると告げたこと、そして何よりカリスマ性MAXの光輝が生徒達を落ち着かせたことも大きな要因だ、その結果として誰もパニックに陥っていなのだから、流石と言うしかない。

 

 本職の自分よりも教師をやっていると、愛子は若干涙目だったが、まぁそこは置いておこう。

 

 

 全員が着席すると、まるで測ったかの様な絶妙なタイミングでメイドが入ってきた…そう、メイドである、男のロマンの具現やら男の子なら一度は会ってみたいと心の底から望み焦がれるであろう本物の生メイドだ、しかも美少女。

 

 断じて某聖地にいるようやエセメイドでも無ければ外国のでっぷりオバハンメイドでもない、正真正銘の美少女メイドがそこにいるのだ。

 

 

 こんな意味の分からない状況であっても男子達の探究心と欲望は

健在…いや、寧ろ止まるところ知らずと言ったところだろう、メイドさん方をそれはもうガン見というか凝視していた。

 

 なお、女子はそんな男子達に氷点下もかくやと言わんばかりの冷たい視線を送っていたが…そんな中でも湊は一人だけ思考に耽っていた。

 

 気になってしまうのだ、この場に来る前に感じたあの視線が。

 

 あれが誰によるモノだったのか、何が自分を見ていたのか、何故自分のことを見ていたのか。

 

 気の所為だろうと自分を納得させようとしても、どうやっても消せない、忘れてはいけないと何かが己に叫ぶ感覚がするのだ。

 

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 

 思考に拭ける湊のことなどお構い無しでイシュタルは言って聞かせるように話し始めた。

 

 その内容は実にファンタジーでテンプレで、そしてどうしようもない程に身勝手なものであった。

 

 

 要約…するのも面倒になった湊は、とてつもなく簡素かつ単略に彼等の説明を要約した。

 

 

 

 まず一つ目、この世界には人間と亜人と魔人*1がいて人間と魔人は何百年と戦争をしている。

 

 二つ目、数は少ないが個々の力が強い魔人が最近魔物を使役し始めた、イシュタル曰く魔力を取り込み変質した野生の動物でその生態は不明、其々が種族に応じた固有の魔法を使う害獣らしい。

 

 本来なら使役出来て一匹二匹が限度、しかしその前提を覆されてしまった、つまり数で唯一勝ってた人間が数で負ける可能性が出てきた。

 

 

 そして最後の三つ目、このままじゃ負ける、助けてください。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するために──」

 

 その様なことを恍惚とした表情で語るイシュタルの姿を、湊はどうしようもないくらい冷めた瞳で見つめていた。

 

 

(……嘘だな、これ)

 

 湊はなんとなく分かっていた、イシュタルの言葉の大半が嘘によって綴られたものであることを。

 

(エヒトっていう()()()が俺達を呼んだっていうのは本当のことなんだろう、魔人族と戦ってほしいってのも本当のことなんだろう…だけど──)

 

 

 

(人間族を救ってほしいって部分は、絶対に嘘だ)

 

 湊は直感的に理解した、そのエヒトと呼ばれる存在が空想上の神と呼ばれる存在とは程遠い存在であることを。

 

 感じるのだ、あの時に感じた視線とはまた別種のそれ、どうしようもない程の悪意に満ちた気配を。

 

 そして湊は確信していた、これは勘違いや気の所為等で済ませられるものでは断じてないことを。

 

 更に言ってしまえばイシュタルの様子もその湊の確信に拍車を掛けていた。

 

 とにかく胡散臭いのだ、恍惚とした表情にしろ神の意志やら神託やらを絶対視している目の前の老人が。

 

 何せそれは傍から見たら狂信者のソレなのだ、信用しろと言う方が無理があるのだ。

 

 何故なら、神の意志を絶対視するということはつまり、その神が碌でもないことをやらかそうとしても喜々として従うということなのだから。

 

 

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 

 そのことを危惧したのかそれとも別のことなのか…口振り的に恐らく後者であろうが、イシュタルの語るそれらに猛抗議をする人間が現れた、我等が愛子先生だ。

 

 

 ぷりぷり、フンスフンスと鼻息を荒らげて怒りを顕にする愛子だが…悲しいかな、全くと言って言いほど迫力というものがない。

 

 それもそのはず、何せその当の愛子は身長150cm程の低身長に加えて童顔だ、ボブカットの髪を跳ねさせながらあくせくと生徒の為に動く姿を湊も良く目にしており、その姿を他の生徒や教師陣はその何時でも何処でも一生懸命な姿と大概のことは空回ってしまう残念な姿のギャップから保護欲を掻き立てられていた者も少なくなかったのだ。

 

 良い教師なのだろうと湊は思う、実際湊自身も何度か当の本人に助けてもらったこともある。

 

 しかし、だからこそ湊は思う…今の愛子はことこの様な場に於いては途方もなく無力であると。

 

 

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

 場に静寂が満ち空気が重くなる、誰も何を言われているのか分からないと言いたげな表情をしている中で、湊はやはりとイシュタルへ向ける視線を鋭くした。

 

 予想はついていたのだ、帰れないだろうということは。

 

 神の意志を絶対視し、疑うことを万に一つも考えないであろう目の前の老人がそんなものを用意している訳がないと、予想はしていたのだ。

 

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子が叫ぶ、その表情からはどうしようもない事実に対する怒りと焦りが滲んで見えた。

 

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

 

(そんなこったろうと思ったよ…!)

 

 自分の予想が半ば当たってしまっていたことに、湊は顔を強張らせるが、それだけではない。

 

 湊は気がついてしまった、呼べたなら還せるという言葉で気がついてしまったのだ、目のの前の老人が何をしようしているのかを。

 

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 先程まで平静を保っていた生徒達も、流石にその事実を聞かされてしまえば平常ではいられない、一人がパニックに陥りそれが次から次へと伝染していく。

 

 幸いにもハジメや雫、光輝と言った一部の人物だけは他の生徒よりも平静を保てていたが、それを目にした湊は悟った…マズイと。

 

 イシュタルを見てみればその瞳の中には侮蔑の色が混じっていた、大方エヒトに選ばれておいて何故喜べないのか、とでも考えているのだろうが…それだけではない。

 

 その瞳は間違いなく笑っていた、まるで計画通りとでも言うように。

 

 

 パニックは収まらない、生徒達全員が家に帰りたいと喚き怒り嘆いている。

 

 そんな中で、バンっと光輝が机を叩いて立ち上がる、その音にビクッと生徒達は反応し、光輝に注目する。

 

 光輝は自分に注目が集まったのを確認すると徐ろに話し始めた。

 

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 

 ギュッと拳を握ってそう宣言する光輝、その歯が無駄にキラリと光っている様に見えた。

 

 それと同時にそのカリスマ性が遺憾なく何時も通りに効果を発揮した絶望的な表情を浮かべていた生徒達に活気と冷静さが戻り始めたのだ。

 

 光輝を見る目は何処かキラキラと輝いており、希望を見つけた漂流者の様な顔をしている、女子生徒の半分以上は熱っぽい視線を送っているが、湊からしてみればそれどころではなかった。

 

 

(クッソ、やられた!!)

 

 生徒達の様子を見て湊は悟った、タイミングを見誤ったことに。

 

 生徒達全員が希望を持ってしまっている、光輝が言った救済さえ終われば帰れるかもしれないという言葉と光輝自身の無駄に発揮されるカリスマが生徒達に活気を与えてしまった。

 

 これはマズイと湊は考える、最悪でこそないがそれでも悪い部類の展開であると。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

 そんな湊を他所に何時ものメンバー達が次々と光輝に賛同していき、後は当然の流れと言わんばかりにクラスメイト達も賛同の方向へと傾いていく。

 

 愛子だけは「駄目ですよ〜!!」と涙目が訴えかけてこそいるが、何度も言うように彼女はことこういう場面に於いてはほとほと無力、しかも流れを作り出したのはあの光輝なのだ、最早どうしようもない。

 

 そして、それは湊もまた同じだ。

 

 もっと早くに口を出すべきだったと、タイミングなんて読まずに無遠慮に戦争に参加することの危険性を訴えかけるべきだったと後悔するが、最早この流れは誰にも止められない。

 

 今更湊が戦争に関しては言ったところで光輝のカリスマがその全てを弾いてしまうのだ、そしてクラスメイト達は光輝が言うならと危険な戦場へ自ら足を踏み入れてしまう…今のクラスメイト達の状態ははっきり言ってそんな状態だ。

 

 それに……イシュタル達のこともある。

 

 あの狂信者達がエヒトに選ばれたというとてつもない名誉をドブに捨てようとする人物を相手に今の様な態度を取るとは思えない、しかもそれを周りに伝染させようというのだ、事故に見せかけて殺そうとするくるいはするだろうと半ば確信に近い印象を湊は持っていた。

 

 

 そういったこともあり、結局は湊は何も言えずに全員が戦争に参加する羽目になってしまった。

 

 恐らくクラスメイト達は、本質的に戦争をするということがどういうことなのかを理解出来ていないのだろう。

 

 きっと、今にも崩れそうな落ちそうな精神を無理矢理保たせる為の一種の現実逃避と言えるのかもしれない。

 

 そんなこと等お構い無しに、イシュタルはクラスメイト達の樣子に非常に満足そうに頷いている。

 

 その笑みを見て、湊は無性に目の前の老人の顔面に拳を叩き込みたくなった。

 

 湊は気づいていた、イシュタルが事情説明をする時…いやそれよりももっと前、台座で生徒達が狼狽えていたその時点から生徒達のことを観察していたことに。

 

 そうでなければ彼処までスムーズに物事が進む訳がない、見られていたし見抜かれていたのだ、光輝が台座で教師である愛子を差し置いて生徒達を落ち着かせたその時点で、この集団の中心に誰が位置し、誰が最も影響力が持つのかを。

 

 正義感の強い光輝が人間族の悲劇を語られた時の反応は非常に分かりやすかった、その後は意図的に魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していたのも拍車をかけた。

 

 今頃光輝の頭の中では、魔人族は人を人とも思わない鬼畜の怪物ということにでもなっていることだろう。

 

 そうなってしまった、そうなる風に仕組んだイシュタルへ、湊は頭の中の危険人物のリストにその顔を記憶した。

 

 

 近々、その命を奪い取る時の為に。

 

 

 

*1
正確には人間族、亜人族、魔人族だが湊は面倒臭すぎて全て略称した





 勇者のカリスマは時として非常に邪魔になると思いました…まる。
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