ありふれた異世界で魔獣は笑う   作:富竹14号

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 今回は無茶苦茶短め、というか長くしたらエタる気がした。


月の下

 

「オルクス大迷宮…大迷宮かぁ」

 

 

 ベットに倒れ込みながら、ふと独り言ちる。

 

 オルクス大迷宮、この世界において七大迷宮と呼ばれる物の一つで階層が深くなるにつれて敵が強くなる類のよくあるオーソドックスなタイプの迷宮だ…チョコダン*1かな?

 

 地上の魔物よりも遥かに手強い魔物が巣食っており、その代わりにその魔物から取れる魔石も良質、その為なのか傭兵やら冒険者やらに非常に人気である…と。

 

 そこまで考えて思ってしまう、果たしてこのままそんな所に行って大丈夫なものなのだろうかと。

 

 何度か実地訓練で魔物の相手はしているが、恐らくそんなものとは比べ物にならない程に深く恐ろしい生き物が居る場所が迷宮だ、であるなら今まで通りにはいかないだろう。

 

 光輝がいるから大丈夫では済まされない、一つの油断が容易く無数の命を奪い取るような場所なのだ、勇者である光輝であろうとそれは変わりない。

 

 下手をすれば全滅もありえる…まぁ、今回はメルド団長達もついてきてくれるらしいから、流石にそうはならないのだろうが。

 

 それに、今回行くのは二十階層までと団長から聞いている、そるが一般的にどれほどの深さなのかは知らないが、ひとまずそうだということだけは覚えておこう。

 

 ごろんと寝返りを打つ…やっぱり今日は寝れない日らしい、全然眠くならない。

 

 身体を起こして宿を出る、目指すは適当に月が見えそうな場所。

 

 そう考えて色々街を回ってみたが、月が見える所はあっても大体ガヤガヤと騒がしかった為、居座る気にはなれなかった。

 

 そう思って騒がしくない方へと足を運んでみれば、静かだと思っていた場所に決まって人が団体様で居て、しかもガヤガヤと騒いでいる。

 

 別に騒がしいのは嫌いじゃないけど、今日に限って言えば話は別だ、今日は一人で居たい。

 

 そうこう考えながらあっちへほいほい、こっちへほいほい…何処に行っても人が居る、酒を飲んでたりキスを交わしていたり、まぁまぁ嫌だった。

 

 そうこうしている内に辿り着いたのは、朝方に世話になった我等が訓練施設だった。

 

 人が居なくて静かで、しかも周りに障害物になりそうな建物が無いから月がよく見える、非常に良い月見スポットとも言える。

 

 

「よいしょっと」

 

 適当な場所に腰掛けてだらーんと月を見上げる。

 

 昔からそうだ、子供の頃から眠れない時とか不安な時は何時も月を見上げてた。

 

 理由は分からない、分からないけど不思議と心休まる気がした。

 

 

「………しまった、何か持ってくればよかった」

 

 ただ月を見ている、それを暇と思うことはないが如何せんここは外である、しかも夜真っ盛り。

 

 であるなら飲み物の一つも欲しくなる、具体的には緑茶とか飲みたいし和菓子も食べたい。

 

 だったら適当な店で茶菓子でも買いに行こうかと思うものだが、どういうわけか俺はそういう思考には至らないのである。

 

 無いなら無いでそのままのんびりと眺めていよう…結局はこの結論に達するのが俺という人間だ。

 

 そのままのんべんだらりと何を考えるでもなく月を眺めて、ただ時間が過ぎるのを待った、眠くなるのを待ったとも言う。

 

 時たま欠伸を噛み殺したり、鮮血を使って血を飛ばして適当に遊んだり、はたまた斧槍やら剣やらをぶん回してみたり、まぁ適当に適当を重ねて時間が過ぎ去るのを待った。

 

 そうこうしている内に、どれだけ時間が経ったのかは分からないが、少なくとも眠気を感じ始めた。

 

 そろそろかなと、腰掛けていた場所からよっこいしょと腰を上げ、宿に戻ろうかなと足を動か──

 

「やっほ〜、湊く〜ん」

 

 そうとして止めた、背後から非常に聞き覚えのある声が聞こえたからだ。

 

 振り返るとそこには馴染み親しんだ姿が、満面の笑みを浮かべる幼馴染こと【中村恵理】の姿があった。

 

「随分とのんびりしてたね、びっくりしたんだよ? 部屋に行ってみたらもぬけの殻だったんだから」

 

 びっくりしすぎて王都中探し回っちゃったよと恵理は何でもないように言った、その顔を大量の汗で濡らしながら。

 

「…あ〜…ごめん、手間掛けちゃって」

「いいよ…で? 何してたの?」

 

 そう言って、恵理は先程まで俺が腰掛けていた場所に腰を下ろし、その隣をポンポンと叩いた、隣に座れってことらしい。

 

 大人しく恵理の隣に座り、再び月を見上げる。

 

「…月が綺麗だねぇ」

「そうだな…綺麗だなぁ」

 

 唐突にぼやく恵理の言葉に素直に返す、雲一つ無い夜空の上でまん丸で大きな月が淡く夜を照らしている…これが綺麗じゃないなら何と言えばいいのやら。

 

 

「…意味分かってる?」

「分かってる、愛してるって意味なんだろ? 今更じゃないか」

 

 愛してる…なんて言葉、何回言ったかなんてもう覚えていないのだから。

 

 

「……ねぇ、湊くん」

「ん?」

「……死なないでよ、死んじゃったら私も…僕も死ぬから」

 

 

 俺が死んだら死ぬ…そう言う恵理の瞳に光は無い、まるで何時かのあの日、初めて恵理に会ったあの日のように。

 

 その瞳の奥に、俺は今にも壊れてしまいそうな何かを感じた。

 

 

「…死なないよ、俺だってまだ生きていたい」

「……そう」

 

 死なない、それはきっと難しいことだ、特にこの世界では特にそれは顕著だろう、何せそこかしこに魔物という名の死の使者達がうろちょろしてるんだから。

 

 それでも俺は死なないと断言する、だってそう思ってないと生きるものも生きられないのだから。

 

「湊くん…生きてよ、例え()()()姿()()()()()()()

 

 そう言って恵理は俺へと向き直って俺の手を両手で包み込んだ、例えどんな姿になってもこの手を離さない…そう意思表示するみたいに。

 

 …あらら、駄目だな…こういうことされたらこっちもその気にならざるを得ない。

 

「…分かった、何が何でも生きるよ…()()()()()()()

 

 そう言うと、恵理は良かったと安堵の息を吐いて、唐突に此方に向けて急接近してきて──

 

──チュッ

 

 唇に暖かくも柔らかい感触がした、数秒経ってキスされたのだと察した。

 

 ほんの数秒、軽く触れ合うようなキス、顔を離した恵理の顔は仄かに赤く染まり、その表情は色気と初々しさが混じった少女の顔をしていた。

 

 今更そんな表情をするほど浅い関係性でもないだろうに…あぁもう可愛いかよ。

 

「約束だよ湊くん、これで死んじゃったら人形にしちゃうから」

 

 そう言ってテヘッという風に笑う恋人に、俺は愛おしさを必死に表に排出するように、静かに笑った。

 

 それほどまでに、愛おしかった。

 

 

 

*1
チョコボと不思議なダンジョンのこと、作者はセーブの仕方が分からなくて毎回最初からやり直していた苦い思い出がある。





 悲報、メンヘラちゃん光堕ち…原作のアレは一概にそうとは言えないけど光輝が悪いんや、あいつがトドメ刺したのがいけないんや、責任取れ(迫真)
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