ありふれた異世界で魔獣は笑う   作:富竹14号

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 三日ぶりに投稿、仕事疲れる。


宝石は無闇に拾わず、まずは殴るようにしましょう

 

 本日未明、大迷宮攻略開始。

 

 まず言わせてもらうと、大迷宮の中は外とは違って非常に静かなものだった。

 

 通路には明かりがないはずなのに薄くぼんやりと発光しており、松明や周囲を照らす魔導具のような物が無くとも視認自体は可能。

 

 メルド曰く緑光石なる特殊な鉱石が大量に埋まっているらしい、オルクス大迷宮はその巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているのだそうだ。

 

 ゾロゾロと生徒達が進んでいく、その様はまるで親にヒョコヒョコついていくカルガモのようである。

 

 暫くするとドーム状の大きな広間に出た、天井の高さはおおよそ八メートル程だろう。

 

 

 そうこうしている内に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉のようなものが湧き出てくる、生徒達がなんだなんだと観察していると──

 

 

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 メルドの声が響き渡る、その声が響くと同時にラットマンと呼ばれた魔物は結構な速さで生徒達に飛びかかってきた。

 

 

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る、ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいのだが、二足歩行で上半身が何故かムキムキだった。

   

 八つに割れた腹筋に膨れあがった胸筋、そしてその部分にだけ何故か毛がない、まるで見せびらかしているかのように何もない、正直な言ってしまうとビジュアル方面で大分キツイ。

 

 せめて某派手好きで祭りの神な忍び御用達の鼠達の様な愛嬌が欲しいものではあるが、当然そんなものはないと言えるだろう。

 

 それは当然正面に立っている光輝達には顕著で、皆一様にうわぁと言いたげな表情を浮かべている、特に雫に至っては頬を引きつらせて若干と言うか明確なまでに引き気味だ。

 

 やはり、普段学校でお姉様だのサムライガールだの呼ばれているものの、実は可愛いかものが大好き雫からして、目の前の鼠もどきは気持ち悪いらしい。

 

 そして、その様子を見ていた湊もまた、うわぁと言いたげにラットマンを直視していた、流石にアレはないと言いたげな顔をしている。 

 

 

 そうこうしている内に間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃し、後方の女子三人は詠唱を開始する。

 

 その中には湊の恋人である恵理もいた、その顔は昨日と打って変わって非常に緊迫としたものだった。

 

 一匹、二匹、三匹と次々と光輝達によって斬り裂かれ潰されていくラットマン達、それでも数は減らずむしろどんどん増えてくる、それでも三人は後ろに敵を通さない。

 

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 そして、詠唱が完了する。

 

 三人同時に完了し発動した魔法、螺旋状に渦を巻く炎がラットマン達を遠慮無しに丸焦げにしていく。

 

 甲高い獣特有の断末魔を響かせながら、鼠もどき達は灰をバラバラと撒き散らしながら絶命した、最早原型も残していない。

 

 しかしそれでもまだ全滅していない、唯一光輝達からも炎からも生き残った最後の一匹が一番近場に居た女子、谷口鈴へと襲いかかった。

 

 それにメルドが反応し、直ぐ様斬り捨てようと剣に手を掛けるが…それよりも速く恵理が自分の持つ杖を思い切りラットマンに振り下ろしていた。

 

 グギャッというラットマンの悲鳴が迷宮に響き、ラットマンはそなまま地面に叩きつけられる。

 

 その様子を見たメルドは安堵し、光輝達は直ぐ様ラットマンにトドメを刺そうと接近し、鈴は鈴で恵理に礼を言おうとした。

 

 しかしまたしてもそれよりも速く、恵理は杖の尖った部分をラットマンに突き刺した。

 

 突き刺した際に悲鳴が響くが、そんなものはお構い無しで引き抜き再び突き刺す、また引き抜きまた突き刺す。

 

 何度も何度も何度も、少なくとも顔面が崩れ内蔵が飛び出て恵理の顔に血が付着するまで、何度も何度も突き刺した。

 

 やがて魔物が完全に死んだことを確認すると、恵理は鈴に向けて大丈夫? と声を掛ける。

 

 その顔は先程までの緊迫としたものではなく、純粋に友人を案ずる少女の顔に戻っていた。

 

 生まれて初めてみた親友のそんな顔に、そんな行動に、鈴は引くでも怖気づくでもなく、ただひたすらに安心感でいっぱいだった。

 

 返事の言葉も何処か上の空で、その視線は恵理に釘付けになっている。

 

 それはこと迷宮においては絶対に見せてはいけない隙であったが、幸いなことに最早に周囲に敵影は無い、先程の一匹が最後の一匹だったからだ。

 

 その為、その隙をメルドが咎めることはなかった。

 

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド…しかしまぁ、初めての迷宮に初めての魔物討伐…どんな状況であれテンションを上げるなという方が無理な話だ。

 

 頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルドは肩を竦めた。

 

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ? 明らかにオーバーキルだからな?」

 

 焼け焦げるどころか炭になりかけている魔石を手に取り、見せびらかすようにぷらぷらと揺らすメルドの言葉に香織と鈴はやり過ぎを自覚して顔を赤らめ、恵理はテヘヘと笑って誤魔化した。

 

 それからは殆ど一方通行、交代しながらも戦闘を繰り返して生徒達を慣らし、順調に階層を下げていく。

 

 それは湊もまた同じ、光輝達と入れ替わるようにして他の生徒達と共に前へ出ては襲い来る魔物を手持ちの斧槍で真っ二つにする。

 

 迎撃し、そして後方の魔法支援組がトドメを刺す、光輝達と何も変わらない手順で魔物を殺し、その都度交代していく。

 

 そのまま特に問題もなく階層を一つずつ落とし、遂に目的地である二十階層まで辿り着いた。

 

 

 現在の迷宮最高到達階層は大凡六十五階層…らしいのだが、それはあくまで百年以上前の冒険者がなした偉業だ。

 

 その為、今では四十階層越えで超一流と呼ばれ、二十階層を越えれば十二分に一流扱いになる。

 

 湊含む生徒達はこういった殺し合いの経験こそ少ないが、それでも一部を除いて全員が全員チート持ちだ、そこまで行くのに時間は掛からなかった。

 

 まぁもっとも、迷宮で一番恐ろしいのは魔物ではなくトラップの方であるのだが…何せこのオルクス大迷宮には致死性のトラップが数多く存在するというのだ、どの道油断は許されない。

 

 事実、それらを全力で警戒し、調べていない所には絶対に行くなとメルド直々にそれはもう強く、口酸っぱく言われているのだ。

 

 力はそれなりに及第点、優秀で将来が非常に楽しみな逸材達ではあるのだろう、しかしそれはそれとして罠に対する知識や経験がまるで足りていない。

 

 だからこそ、この階層に至るまで騎士団はずっと生徒達を誘導していたのだ、ここまで早くこの階層に降りてこられたのは偏に騎士団のお陰と言えるだろう。

 

 

「よし、お前達、ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる…今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

 メルドのかけ声が、暗い迷宮の中によく響く。

 

 ここからが本番だ、そう言われた気がした。

 

 

 

 この階層に来るまでに、湊は魔物を斬り殺しながらハジメの様子を確認していた、ハジメがどんな戦い方をしているのかを確認しようとしたのだ。

 

 結果として分かったのは、ハジメは某等価交換が主題の錬金術師の劣化verの様な戦い方をしているということだった。

 

 錬成で地面を操作して魔物の動きを止める、止めた魔物を剣で串刺しにする。

 

 弱ってこそいるが相手は魔物でしかも手負い、窮鼠猫を噛むという言葉もある、ハジメのやり方は実に理に叶っていると言える。

 

 そんなハジメを、騎士団の人間が関心したように見ていたことに湊は疑問が氷解したような気分になった。

 

 湊はずっと疑問だったのだ、何故錬成師が非戦闘職だの何だの言われているのだろうと、可能性だけで言う間違いなくトップクラスで戦闘にも非戦闘にも役立ちそうな能力なのに…と。

 

 それが今分かった、恐らく誰もが見たことがないのだ、錬成師が戦っている姿を。

 

 騎士団…この世界の住人にとって錬成師はそのままイコール鍛冶師なのだ、だから誰もそういった用途以外で錬成を使おうとしない、何故なら錬成は鍛冶師の使う技という先入観があるからだ。

 

 だからそれはもう意外だったことだろう、戦闘に錬成を使うというハジメの発想そのものが、地面を僅かにでも操って魔物を縫い付けたという事実そのものが。

 

 

 ハジメ自身は未だに自分は無能と認識しているのだろうが、これからはそうもいかなくなるだろう。

 

 何せハジメは見せてしまったのだ、よりにもよって経験豊富な騎士団員達に、錬成という役に立たないと思われていた能力の可能性、その一端を。

 

 そうして彼等は確信する、この少年もまた神の使徒の一人なのである…と。

 

 なお、当の本人は疲労でひーこらとしているものとする。

 

 

 

 

 

 

 

 小休止を挟み、一行は遂に二十階層の探索を開始した。

 

 迷宮各階層は数キロ四方、未知の階層ならば全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるのが普通だ。

 

 現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはまずないし、トラップに引っかかる心配もない…ただし、それは何処ぞの誰かが馬鹿をやらかさなかった場合の話なのだが。

 

 まぁそれはそれとして、二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた、この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

 そこまで行ってしまえば今日の訓練は無事終了、ゲームよろしく目的地まで行ったらテレポで外に出られる…なんて都合の良い仕様も神代に存在したらしい転移魔法の様な便利な物は現代には存在しない為、また元来た道を戻る必要があるが…まぁそれはそれというやつである。

 

 一行は、若干弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

 すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が徐ろに立ち止まった、訝しそうにするクラスメイトを尻目に剣を抜き放って戦闘態勢に入る、どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。

 

 壁と同化していた体は今や褐色となって二本足で立ち上がり、そして胸を叩いてドラミングを始めた、どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ…カメレオンの生態持ったゴリラってなんだ?

 

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 メルドがそう言い終わるが否や、ロックマウントは光輝達へと飛びかかり、メルドが言うようにその太く厚い腕を大きくへと振り下ろす。

 

 振り下ろされた剛腕を龍太郎は拳を突き出すことで弾き飛ばす、拳を弾き飛ばされほんの僅かに体勢を崩したロックマウントを光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

 それを見たロックマウントはその瞬間をチャンスと感じたのか、その場から後方へと大きく飛び退き、そして仰け反りながら大きく大きく息を吸った。

 

 その直後──

 

「グゥガガガァァァァアアアアァァァァァーー!!」

 

 

 

 部屋全体が震動していると錯覚する程に強烈な咆哮が、ロックマウントから発せられた。

 

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 光輝達の身体にヒリつくようになピリピリと衝撃が走り、ダメージこそ無いが肉体が硬直してしまう。

 

 これぞロックマウントの固有魔法”威圧の咆哮”だ、魔力を乗せた咆哮で僅かではあるが一時的に相手を麻痺させるという割と厄介な能力である。

 

 当然、そんなものをまんまと食らった光輝達前衛組はほんの一瞬でこそあるが硬直してしまう。

 

 そんな隙だらけの姿を晒している光輝達へロックマウントはさぁ突撃……するのかと思いきや、何故かサイドステップして傍らにあった岩を持ち上げ、香織達後衛組に向かってそれを投げつけた…それも見事な砲丸投げのフォームで。 

 

 素晴らしいフォームだ、きっとその道の人間が見ても素晴らしいと評価する様なフォームをしている、きっと高得点が狙えるに違いない。

 

 そんな綺麗なフォームで投げられた岩は咄嗟に動けない前衛組の頭上を軽く越えて香織達に容赦無く迫る。

 

 そんな状況で香織達が取った行動は準備していた魔法での迎撃だ、魔法陣が施された杖が岩へと向けられる。

 

 そうしていざ発動しようとしたその矢先、香織達はピシリとその肉体を硬直させてしまう。

 

 それもそのはず、何せその投げられた岩もまたロックマウントだったからだ。

 

 空中で滑空しながらそれはもう見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織へと迫る…その姿はさながら何処ぞの泥棒が美女に飛び込む時の姿勢そのままだ、何処からともなく「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである、しかも妙に目が血走っている、正直気持ち悪い。

 

 これには流石の香織も…というかそれを目撃した女子全員が「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった……まぁ普通である。

 

 その様子を見たメルドは何やってだと言わんばかりに剣を引き抜き、ロックマウントを斬り裂く……よりも速く突如として飛来した人影がロックマウント(小)を上段から真っ二つにした。

 

 そう、我等が湊さんである。

 

 ロックマウントは(小)を斬り裂き、その勢いのまま斧槍を地面へと叩きつけたその瞳は殺意で爛々と輝いており、その見つめる視線の先にはロックマウント(本体)が存在した、ロックマウントはたじろいだ。

 

 

 そして、そのロックマウントを睨みつけるその目が如実に語っている、即ち「お前ウチの彼女に何してくれてんだ…?」 と。

 

 

 

 

 その視線を、その殺意を真っ向から受け止めしまったロックマウントはその時……生きることを………諦めた。

 

 

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、おいこら馬鹿者!」

 

 そしてそんなロックマウントへ空気を読まずに大技を叩き込んだ馬鹿…そう、我等が勇者こと光輝である。

 

 メルドの言葉など何のその、詠唱によって強烈な光を纏った聖剣を大きく振りかぶってロックマウントへと大上段から振り下ろす。

 

 瞬間、光を纏っていた聖剣からその光自体が斬撃となってロックマウントへと襲いかかる、当然逃げ場もクソもない。

 

 曲線を描いた極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。

 

「ふぅ~」と如何にも一仕事終えたと言わんばかりに息を吐き、イケメンスマイルを携えて、光輝は香織達へと振り返った…どうやらこの男、香織達が魔物に怯えていたと勘違いしているらしい…いやまぁ確かに怯えてはいたが恐らく意味が違う。

 

 香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した、もう大丈夫だ! とでも声を掛けようとしたのだろうか…しかしそれは笑顔で迫っていたメルドの拳骨と無言で近づいていた湊の蹴りで無力化された。

 

「へぶぅ!?」

 

 ほぼ同時に、しかもモロに入った二つの打撃。

 

 拳骨はそのまま光輝の頭へ、湊のヤクザキックは光輝の腹へと吸い込まれるようにして直撃した。

 

 湊とメルドはお互い顔を見合わせるようにして見つめ合う、どっちから先に言う? と言った様子だ。

 

 そんな中、徐ろに湊はお先にどうぞと言わんばかりに後ろに一歩引いた、どうやらメルドの要件を優先するらしい。

 

 そしてそれを汲み取ったメルドは一つも頷くと、光輝を叱りつけ始めた。

 

「この馬鹿! 気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使っていい技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルドのお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝、そこへ香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める…それとついでに香織が光輝へと治癒魔法をかけた、流石に蹴りと拳骨の同時攻撃には同情したらしい。

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

 

「……あれ? 何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。

 

 まるでインディコライトが内包された水晶のようである、香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな、大きさも中々だ…珍しいな」

 

 グランツ鉱石、それは言わば宝石の原石みたいなものだ。

 

 特に何かしら効能があるわけではない、ないのだがその涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方にそれはもう大人気であり、加工して指輪やらイヤリングやらペンダントやらに加工して贈ると大変喜ばれるらしい、求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとかなんとか。

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。

 

 そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた…まぁもっとも、雫ともう一人だけはそれに気がついていたわけなのだが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルドだ。

 

「待て大介!! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 焦ったようにメルドが檜山を静止するが、それを聞こえないフリをして檜山は鉱石の場所まで向かう。

 

 メルドの焦りも当然だ、再三言うがこと迷宮において最も危険なのはトラップだ、魔物ではない。

 

 だからこそ、〝フェアスコープ〟呼ばれる魔力の流れを感知してトラップを発見できるという優れ物が必要になるのだ。

 

 迷宮のトラップ自体はその殆が魔法を用いたものである為、八割以上はフェアスコープで発見できるのだが索敵範囲がかなり狭いの、だからこそスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要になる。  

 

 そしてその経験者の言葉をガン無視して鉱石に手を伸びしている檜山の行動は、文字通り自殺行為以外の何者でもないわけで。

 

 メルドが檜山を追いかけるがそれでは最早間に合わず、それと同時に騎士団の一人がフェアスコープで鉱石付近を確認し、その顔を青褪めさせた。

 

「団長──」

 

──トラップです!!!

 

 その言葉をメルドが認識した瞬間、檜山は遂に鉱石に触れた。

 

 檜山がグランツ鉱石に触れるのとほぼ同時に部屋全体に魔法陣が瞬く間に広がっていく、その様は宛ら何時かの再現だ。

 

 メルドが素早く部屋から出ろと生徒達に指示しようとするが…時既に遅し、メルドの言葉は間に合わない。

 

 部屋の中が光で満ちる、その場に居た全ての人間の視界を白色に染め、ほんの一瞬の浮遊感に包まれ…空気の変わる感覚と共にその場に落ちた。

 

 ほんの少しの尻の痛みに顔を顰めながらも即座に立ち上がり、湊は周囲を見渡した。

 

 クラスメイトの大半が尻餅をついていたが、メルドや騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしていた。

 

 どうにも先程の魔法陣は罠に触れた哀れな獲物を転移させる為の物だったらしい…現代の魔法使いにはまず出来ないことを平然とやってのける辺り、神代の魔法は頭がおかしい。

 

 彼等が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。

 

 ざっと百メートルはありそうだ、天井も高く軽く二十メートルはあるだろう。

 

 橋の下には川などなく、全く見えない深淵の如き闇が広がっている、落ちれば正に奈落の底とでも言うべきか。

 

 橋の横幅は大凡十メートル程度、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく奈落のそこに真っ逆さま。

 

 そんな恐ろしい恐ろしい奈落の一歩手前、その巨大な橋の中間に湊達はいた。

 

 橋の両サイドにはそれぞれ奥へと続く通路と上階への階段が見えた、そこから上階へ上がれるらしい。

 

 

 

「お前達! 直ぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け!急げ!!!」

 

 唐突にメルドの雷のような号令が響き渡った、その顔は険しく歪んでおり檜山に対して怒りの表情を向けていた。

 

 突然の指示でこそあるがそれでも生徒達はわたわたと動き出す、こんな状況なのだ、誰だって動き出すだろうそれは。

 

 しかし、ただ転移して終わりで済むならこんな馬鹿みたいに危険視されていないのだ、ならば当然脱出などさせようはずがない。

 

 階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

「…ベ……ベヒモス…」

 

 

 そ巨大な魔物を呆然と見つめ、囁くように、呻くように呟かれたメルドのその言葉は…恐ろしい程に明確に、明瞭に生徒達の耳に届いた。

 

 その呟きを聞いて、その意味を理解出来る生徒は…少なくともこの場に於いて一人だけ。

 

 

「…やってくれたなあんなろぉ…」

 

 湊は一人そう呟き、斧槍を強く握りしめた。

 

 

 

 今…全てが廻り出した。

 

 

 





 殆ど原作と変わらないって正直どうなのだろうか…ボブは訝しんだ。
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