ありふれた異世界で魔獣は笑う   作:富竹14号

9 / 14

 大分時間かけたくせに原作とそこまで変わってねぇ!! なんで?


骸骨祭り? 下

 

 

 薙ぎ倒す、薙ぎ伏せる、叩き潰す…そんな音が背後から聞こえる中、ハジメは真っ直ぐと目的の場所まで走る。

 

 視線の先では依然として障壁に突撃するベヒモスの姿が見える、障壁に衝突すればするほどにとてつもない衝撃波と砂塵が周囲を吹き荒れる。

 

 障壁には既に全体的に亀裂が奔り、何時砕かれてもまるでおかしくない、メルド自身も障壁の展開に加わってこそいるが…本職ではない分強度が低いのだろう、焼け石に水と言った有様だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ光輝!! 早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!!」

 

 メルドは噛み潰した表情で光輝を睨みつける、光輝がこうも頑固で我儘だとは思ってもみなかったからだ。

 

 この狭い空間の中であのベヒモスの突進を避けるのは至難の業だ、だからこそ逃げ切るためには障壁を張り、敵にそこから押し出されるようにして逃げる…というのがベストだ。

 

 しかし、それが出来るのはメルド達のような何度も実戦を経験してきたベテランだけだ、実質今回が初実戦である光輝達には到底出来ないことだ。

 

 メルドはその辺の事情やらを掻い摘み、分かりやすくて光輝に説明し、その上での撤退を促した…しかしそれでも光輝は引こうとしない。

 

 どうも光輝の中ではメルド達を”置いていく”ということにどうにも納得出来ないらしい。

 

 そして何よりもメルドを悩ませていたのは、ベヒモスへと向けられた光輝の敵意と戦意の籠もった視線だ、どうにも自分ならベヒモスをどうにか出来ると考えているらしい。

 

 俺なら倒せる、倒してみせる、そしてメルドさん達と生き残るんだ!! ……言葉にすればそんなところだろう、当然そんなことが今の光輝に出来るはずも無い。

 

 若さゆえと言うべきか、少々己の力量を過信してしまっているようだ、素人である光輝達に自信を持たせようと褒めて伸ばす方針を取っていたのが裏目に出てしまっていた。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 しかしそれでも、この中でも比較的状況が分かっている雫が光輝を諌めようと光輝の腕を掴む…が、止まらない。

 

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

 龍太郎の言葉に俄然やる気を出してしまう光輝に雫は苦虫を噛み潰したような表情になった、まるでまたか…とでも言いたげな様に。

 

「いい加減にしなさいよこの馬鹿!! 本当に死にたいの!?」

 

 目を吊り上げて普段なら滅多に見れない程に声を荒げる雫に、光輝はニカリと笑いかけた、俺は大丈夫だと伝えたいらしい。

 

 何年も幼馴染をやってきた雫にはその意味が痛い程伝わった、伝わったからこそ余計に腹が立つ。

 

 忘れていた、目の前にいる幼馴染は挫折という挫折を経験してこずに育ってしまった大馬鹿なのだということを。

 

「雫ちゃん…」

 

 そんな雫を、香織は心配そうに見つめていた…それもそうだろう、香織自身もここまで苛立つ雫は初めて見るのだから。

 

 

 

「天之河くん!!」

 

 

 そんな中で、一人の生徒が光輝の前に飛び込んでくる…そう、ハジメである。

 

 突然で突発で予想外の登場、それによる周囲の驚愕も気にしないで、ハジメは光輝に必死の形相で捲し立てた。

 

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は──」

「ぐだぐだ言ってる場合じゃないだろうがぁ!!!」

 

 暗にハジメを戦力外だと告げて撤退するよう促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

 何時もの苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージを持つハジメ、その普段とは余りに掛け離れたハジメへのギャップに思わず光輝は硬直してしまう。

 

 そんな光輝の様子等歯にも掛けず、ハジメは光輝の胸倉を掴んで更に光輝へと捲し立てる。

 

「見てよアレを!! 皆がパニックになってる! 訓練の成果をまるで活かせてない!! 君が、リーダーの君が!! こんな所で油売ってるからだッ!!!」

 

 光輝の胸倉を掴みながらハジメは指を指す、その方向には今尚パニックから立ち直せず、トラウムソルジャーに囲まれて右往左往しているクラスメイト達の姿があった。

 

 今まで多少なりとも積み重ねてきた訓練などさっぱり忘れたかのように誰もが好き勝手に戦っている。

 

 効率的に敵を倒せていないからその間に敵が増えて、それに混乱してまた余計な動きが増える。

 

 未だ死んでいないのは、スペックの高さ故なのであろうが、それも恐らく時間の問題、その内少なくない犠牲が生まれるだろう。

 

 だからこそ──

 

 

「君が必要だ天之河くん! 一撃で苦境を切り抜けて、恐怖も何もかも取っ払うだけの力が!! それが出来るのはリーダーの君だけなんだよ天之河くん!! 前だけじゃなくて後ろもちゃんと見て!!」

 

 呆然と混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

「ああ、分かった、直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇぇぇーー!」

 

 

 すいません、先に撤退します…そう言おうメルドへ振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

 暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う…半ば咄嗟にハジメが前に出て錬成による石壁を作り出すが…そんなものは意味が無いと言わんばかりにあっさり砕かれ吹き飛ばされる…多少は威力を殺せたようだが…それでも多少は多少だ。

 

 ベヒモスが咆哮する、それは息吹を持って周囲の埃を吹き飛ばした、その姿には油断など一欠片も無し。

 

 倒れ伏し、呻き声を上げるメルドと騎士三人…とうやら先程の衝撃波の影響で身動きが取れなくなっているらしい。

 

 光輝達も光輝達で倒れてこそいたがすぐに起き上がる。

 

 メルド達の背後に居たこと、そしてハジメが咄嗟とは言え作り出した石壁は思った以上の効果を発揮していたらしい、光輝達がすぐに動けているのがその証拠だ。

 

 

「ぐっ……龍太郎…雫、時間を稼げるか?」

 

 光輝が問う…その問いに苦しそうでこそあるが、確かな足取りで前へと出る二人。

 

 先程とは文字通り訳が違う、メルド達が動けない以上、今動ける自分達でなんとかするしかない…ある意味で光輝の望んだ通りだろう、背負い込んだ責任は先程とは段違いなのだが。

 

 

「やるしかねぇだろ!」

「なんとかしてみるわ…!!」

 

 二人がベヒモスに突貫する、その姿を見届けた光輝は近くにいる香織に指示を出す。

 

 

「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!」

 

 光輝の指示に頷いた香織はメルド達の元に走り出す、ハジメは既にメルド達の元で戦いの余波が届かないように石壁を作り出している…気休めだが、無いよりかは余程マシだろう。

 

 

 そして光輝は、今の自分が出せる最大威力の技を放つ為の詠唱を開始する。

 

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――『神威』!!!」

 

 

 詠唱と共にまっすぐ突き出された聖剣から極光が迸る。

 

 技の系統としては先の天翔閃と同系統だが、威力が段違いだ…橋を震動させ、石畳を抉り飛ばしながら極光はベヒモスへと直進する。

 

 龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している、ギリギリだったようで二人共ボロボロだ…この短い僅かな時間だけでも受けたダメージは相当なものらしい。

 

 放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスへと直撃した。

 

 弾けるように、光が辺りを満たし光輝達の視界を白く塗り潰し、激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

 

 

 龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

 

 それもそうだろう、何せ先ほどの一撃は正真正銘『勇者』天之河光輝の切り札だ、残存魔力の殆どは当たり前のように持っていかれている。

 

 その背後では、治療が終わったのかメルドがゆっくりとではあるが、なんとか起き上がろうとしていた。

 

 

 そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われ──

 

(…違う…まだだ……)

 

 瞬間、ハジメの背筋に悪寒が走る。

 

 埃の動きがおかしい、吹き払うというよりまるでゆったりと動く何かのようにゆっくりと此方に向かうように動いている。

 

 まるで…まるでそこにいる何かが此方に向かっていて、その風圧によって埃が動いているような…そんな動き方で──

 

 それを認識したと同時に、ハジメは光輝達に叫んでいた。

 

 

「まだだ天之河くん!! まだ()()()()()()()!!!」

 

 ハジメの絶叫にも近いその言葉に、光輝達はえっ? とでも言いたげな疑問符を浮かべた顔を浮かべ、メルドはその言葉にサッと顔を青褪めさせ、同時に光輝達に向けて叫ぼうとした。

 

 しかし…もう全てが遅い。

 

 瞬間…《《無傷》のベヒモス》が咆哮と共に埃を吹き飛ばすかのような速度で光輝達へ突撃してきた。

 

 完全なる不意、完全なる奇襲、反応は遅れ回避も不可能、防御なんてそれこそ以ての外……即ち詰みである。

 

 反応が遅れた、間に合わない、光輝達は呆然と自分達へ迫るベヒモスを、迫る死の気配を呆然と見つめ続け───

 

 

「馬鹿じゃねぇのお前等!?」

 

 そんな言葉と共に、背後から何かが飛来する。

 

 飛来した何かは光輝達の真横を通り過ぎ、風を引き裂く矢のようにベヒモスへと突き進み──

 

「ガッ…!?」

 

 ドスリという生々しい音と共に、深々とベビモスの片目に突き刺さった。

 

 唐突にやってきた強烈で激烈な痛みに、ベヒモスは目の前の獲物を殺すことすら忘れて痛みにのたうち回る。

 

 そんなベヒモスを呆然と見つめていた光輝達は、ついさっきまで自分達は死にかけていたのだという事実に戦慄し、その身体を震わせる。

 

 しかし、現実はそんな彼等に容赦なんてしてくれないし、待ってもくれないのだ…それをベヒモスを止めた誰かはよく理解していた。

 

「走れ馬鹿!! 死にたいのか!!!」

 

 再び声が響く、先程と同じで切羽詰まったような声だ。

 

 半ば反射的にメルドとハジメは背後を振り返った…そして、振り返った先には大量の剣やらを槍やら地面に突き刺した状態で此方を怒りの形相で睨みつける湊の姿があった。

 

「ぐだぐだすんな!! 早くこっち来い!!! お前等が居ないと俺もハジメも逃げられないんだよ早くしろボケェェっ!!!!」

 

 そう絶叫でもするように叫ぶ湊は、唐突に近づいてきたトラウムソルジャーの頭を斧槍の柄を突き立てることで粉砕する。

 

 

「聞こえたな!? ボサッとするな早く逃げるぞ!!!」

 

 メルドの思考は一瞬だった、未だ痛みに悶えるベヒモスに疲労困憊でこそあるがまだまだ動け、なおかつベヒモスの脅威を肌で感じ取った光輝達…そして香織の回復のお陰で動けるようになった自分と団員達……逃げるなら今だと本能が叫んだ。

 

 その言葉に咄嗟に反応するようにしてハジメは走り出した、光輝達に急いでと大声で言うのも忘れない。

 

 ハジメの行動にはっとした光輝達はそれに続いて退避を開始した、その頃には既にベヒモスは痛みから立ち直り、憎悪に燃えた瞳で光輝達…正確に言えばその先で油断無く佇む湊を睨みつけた。

 

「ーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」

 

 怒りの咆哮、角が激しく燃え盛り周囲に衝撃波が巻き起こる程の絶対の怒り、それは今なおクラスメイト達の元へと後退している光輝達へと容易く届く。

 

 動きが止まる、後ろを振り替えざるを得ない、それほどの殺気と怒気…しかし──

 

「見るならこっち見とけ…!」

 

 湊がそれを許さない。

 

 手首にスナップをきかせ、身体を大きく捻らせて、近場に刺していた剣複数本をベヒモスへと投げつける。

 

 複数の風を切る音が光輝達の耳元を掠め、投擲された剣全てがさも当然の様に未だベヒモスの片目に突き刺さったままの剣へと殺到していく。

 

 一本二本とベヒモスの潰れた大きな眼球に突き刺さり、それらの痛みにベヒモスは再び痛みに悶える。

 

 しかし流石と言うべきか、立ち直りは先程よりも余程早い、痛みに悶えた時間はほんの少しと言ってもいい。

 

 しかしそれでも、時間は稼いだ。

 

 

「撃てぇ!!」

 

 声が響くと同時に、あらゆる属性の攻撃魔法がベヒモスへと殺到する。

 

 ハジメの視線の先には団員のアランが生徒達へと指示している姿があった、当然その周りにはトラウムソルジャーは一匹たりとも存在していない。

 

 あんなにパニックになってたのにどうやってとも考えるが、そんなものは後回しとハジメは無我夢中で駆けた、止まれば死ぬと分かっていたからだ。

 

 夜空を堕ちる星のように、色とりどりの魔法がベヒモスへと降り注ぐ。

 

 光輝の神威が効かなかった以上、ダメージには欠片も期待出来ないが、それでも足止めにはなると判断したのだろう。事実ベヒモスの進行速度は僅かにではあるが遅くなった。

 

 そしてそれは、後退しているハジメ達にいけると確信させるに足る要因だった。

 

 転ばないように、当たらないように頭を下げながら全員が全速力でクラスメイト達の方へと撤退していく。

 

 一番最初にメルトが、それに僅かに遅れて雫が、その後に続くように光輝と龍太郎、香織が次々とクラスメイト達の元へと後退していく。

 

 残すはハジメだけ、その当のハジメも残りあと僅かといった距離まで迫っていた。

 

 背後から追い縋ってくるベヒモスへの恐怖を堪え、一秒でも早く辿り着く為に体力も気にしないで走る。

 

 あと少し、あと少しで辿り着ける、あと少しで生き残れる。

 

 そう考えて僅かに頬が緩んだハジメは、しかしその光景を前にしてその表情を凍らせた。

 

 無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球があからさまにクイッと僅かに軌道を変えた…ハジメの方へと。

 

 ハジメは嫌でも察してしまう、自分が狙われていると。

 

 なんでと驚愕と困惑が脳を駆け抜ける中、それでも時間は止まってくれない。

 

 咄嗟にその場に踏み止まるように足を強く踏みつけ地を滑るようにして止まろうとするハジメではあるが…残念かな、人は急には止まれないのだ。

 

 瞬間、火球がハジメに直撃し、その身体はつい先程走り抜けた場所へと強制的に戻されてしまう。

 

 ダメージはそこまでではない、しかし火球の直撃により起こった衝撃波が原因で三半規管やられてしまい、平衝感覚がバグってしまっていた。

 

 その為、立ち上がれこそしてもフラフラと身体が揺れ、満足に走ることすら叶わない。

 

 そしてそれを、迷宮の怪物は決して見逃さない。

 

 目を潰され、魔法で思うように進めず、しかも潰れた目にまた剣を突き刺された…それらの要因が重なって、最早ベヒモスの沸点は頂点に登りかけていた。

 

 なんでもいいからぶち殺したい……ベヒモスの心情を表すなら、そんなところだろう。

 

 そして、目の前に獲物がのこのこと近づいてきた、しかも見るからに弱った状態で。

 

 ならば…することは一つだろう。

 

 頭部が、角が赤熱と化し、それを盾にでもするようにしてベヒモスはハジメへと突進を開始する。

 

 頭がふらつき、視界が霞み走ることも出来ない…そんな最悪に近い状況であっても、ハジメはベヒモスの接近は察知することが出来た…出来たところで何が出来るというわけでもないが。

 

 あっ、これ死んだ…とハジメは何処から他人事の様に眼前の死へと目を向ける、怒りの形相で此方に突っ込むベヒモスの姿が見えた。

 

 そして…それを呆然と見つめる自分の横を、自分の親友が横切っていく姿が見え──

 

(…えっ?)

 

 

 意識が急激に覚醒していく、あり得ない光景が目の前にある。

 

 だってそうだろう? 生徒達と自分との間にどれだけ距離があると思っている? ましてや魔法が入り乱れる中で光輝どころかクラスメイト中最速と言ってもいい雫よりもなお速くここまで辿り着く…あるのだろうかそんなことが。

 

 全てがスローモーションに流れていく、先程まで死を前にしていたからだろうか、まるで走馬灯で見ているみたいに時間の経過が遅く感じる。

 

 そして、その時間の経過も次第に元の速度へと戻っていき──

 

 

「オォォオォォォァァォォォァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッッッ!!!!!」

 

 咆哮が前方で響き渡った。

 

 突撃したベビモスを、湊は斧槍を振るって堰き止める。

 

 重苦しい金属音と並外れた衝撃波が一体に広がり、ベヒモスの突進に真正面から受けて立った湊の足が破砕音と共に地面へ沈む。

 

(おっっもっ…!?)

 

 ギリッと歯を食いしばる、ほんの少しでも気を抜けば即座に潰れてしまいかねない程の重量感、なるほど流石は現最凶の魔物だ、並大抵のものではない。

 

 それでも──

 

「ィィアアァァァアァァァァァァァォァッッ!!!!」

 

 

 逃げられない理由(ハジメ)がそこにある。

 

 足を一歩、前へと突き出す、踏み出した足が亀裂と共に沈む。

 

「鮮血ゥッッ…!!!」

 

 唱える、自分が唯一持つ才の名を。

 

()()…! 自分の全部…!!)

 

 よくある展開だろう、何処かのゴム人間も目が開いているのかどうかも分からない真面目な術師も同じようなことをしていた。

 

 血液の流れを爆発的に早めて、身体能力を爆発的に向上させる…鮮血は血液を操る技能、それ故に湊はそれらが出来るのでは? と考えてこそいた。

 

 まぁ最も、今回のはぶっつけ本番なのだが。

 

 身体が燃えるように熱い、心臓が今にも破裂しそうな程にうるさい、全身が痛い。

 

 鼻から、目から、耳から、少なくとも人間にとって重要な部位から溢れ出るように出血していく、副次効果で血液が増えていなけれび既に死んでいたであろう程の出血量。

 

 

 しかし、そんなことは知ったことかと言わんばかりに、湊は己の四肢に力を込めた。

 

 足から身体へ、身体から腕へ…足りない分は血液をぶん回し、無茶を無茶のままに押し通す。

 

 無茶に無茶を重ね、それでもなお止まる気のないこの男の姿に、ベヒモスは感じるはずの無い怖気を感じ取り、ほんの少し…ほんの少しだけ臆した。

 

 そして、そんな分かりやすい隙を見逃すこの男ではない、臆して僅かに緩んだその力の隙間に、これでもかと力を注ぎ込む。

 

 拮抗は一瞬、その一瞬の内に、湊はベヒモスの頭部を頭上に跳ね上げた。

 

 いや、頭部だけじゃない、ベヒモスの身体全体が仰け反るように宙に浮く、振り切られた湊の斧槍が物語っている、それだけの一撃だったのだと如実に。

 

「ッッッ!!!」

 

 その直後に、振り切られた斧槍を翻し湊はクラスメイト達の元へと一直線に走り出す、道中でハジメを拾うことも忘れない。

 

 時間切れだ、魔力が切れかけているのだ、これ以上鮮血は使えないし使えても持って一秒そこらである。

 

 肉体も先程の無茶でボロボロだ、これ以上は冗談無しで死ぬと湊は直感していた。

 

 じゃあ逃げるしかない、幸いにも魔法は未だ撃たれ続けているし自分も走るくらいは出来る、最悪一秒だけの鮮血に全てを注げばいいのだ。

 

 そう考えながら、骨の軋む音を上げる身体に鞭を打ち、痛みで意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって耐える湊の眼前に…魔法が…先程のハジメの時と同じ火球が、目の前に広がった。

 

(……嘘やんお前…それは流石に引くわ)

 

 心中でそう呆れたように言葉を溢し、湊の意識はぷつりと暗転した。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。