巨星になったらTSしてでもドラマチックに堕ちたい!   作:夢川支流

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不変の星空。新星未だ無く。

 

 今宵も、あの方は星空の下で剣を振るう。

 私の身の丈ほどもある大剣を軽々と。

 その太刀筋は武骨で荒々しく、型や規則性など度外視で――それ故に美しい。

 戦場で磨き上げられた武は、正に戦士の極致。

 ラモクセイ・グレートスターという男が、数多の戦場を乗り越え至った剣の果てに他ならない。

 

「ラモクセイ様。王宮より文が届いております。太陽の刻印…国王直々の勅命です」

 

 あぁ、本当に嫌だ。こんなモノの為に、この美しい舞を邪魔しなければならないとは。

 この書状の中身は恐らく2つ。王宮内の下劣な権勢争いに加われとの指示、および勢力を拡大しつつある反乱分子の掃討命令。

 あの愚王は本当にどうしようもない。“巨星”ラモクセイ様を、そんな些末事に駆り出そうなど身の程を知らな過ぎる。

 

()()()()()()()()()()()()。多少は味に貴賓さが出るやも知れぬ」

「――は」

 

 ふふ。

 ラモクセイ様らしい対応が心地よい。

 腐った王に諂わず、権力に固執せず、ただ己が武の道を突き進む。 

 こういう方だからこそ、私たちは身命を賭して仕えるのだ。

 

「のぅ、メティス。お主は今宵の星空を如何様に思う」

 

 ラモクセイ様は時折、このような問いかけを口にする。

 意図は分からない。

 でも。

 

「――は。今宵も変わらず、ラモクセイ様と見上げる星空は、この世の何より美しく輝いております」

 

 昨夜も今宵も明夜も。ずっとずっと変わらず美しい。

 叶う事ならば。この星空をいつまでも見上げていたいと、そう願う。

 

「然り。星空も、戦場も、世も。()()()()()()

「ラモクセイ、様…? それは一体……」

 

 ただ、今宵は何かが違っていた。

 いつもは素っ気なくも優しい声音で「そうか」とだけ返すラモクセイ様が、苦渋に満ちた声音で言の葉を紡ぐ。

 その時、何故だろうか。私は凄まじく嫌な予感を感じ取った。大切な何かが音を立てて崩れていくような、そんな感覚に囚われる。

 当然、私は直ぐに真意を問いただそうとした。

 けれど――

 

「メティス。今日はもうよい、下がれ」

「………………は」

 

 一体何をお考えなのですか。その問いかけを発する事はついぞ出来ず。

 そして。

 明夜、星空の下に剣舞は無かった。

 

 

★★★

 

 

 あーーーーーーー! つまらない! 本当につまらない!

 剣を振ってのストレス発散もそろそろ限界だ!

 

「ラモクセイ様。王宮より文が届いております。太陽の刻印…国王直々の勅命です」

 

 出たよ。

 どうせまた、舞踏会に出ろとか、よう分からん式典でスピーチしろとか、そういう系でしょ。

 あーやだやだ。本当つまらないんだよね、あれ。お貴族様の作法やら何やらは難しくてウザいし。いくら豪華でもマナー・ルールに縛られた食事とか美味しくも何ともないし。家でくつろいで食う質素な食事の方が何倍も美味いし。たくさんの人の前で話すのとか苦手だし。

 畢竟、儂は戦場で剣振ってるのが性に合ってるのよね。戦場なら万の軍勢前にしても緊張しないけど、それ以外だと10人でも無理。基本的にコミュ障なんだよ。

 それなのに最近バンバン手紙寄越してくる王様マジ何なの? 空気読めよ。部下の心を労えよ。そんなんじゃ誰も付いてきてくれなくなるぞ。

 第一さ、王都まで遠いじゃん。どれだけかかるか分かってんのかな。移動してる間は集中して鍛錬できないのが心底嫌だ。それで腕が落ちたら最悪なんだよ。儂がこれまで一体どれだけの努力を積み重ねてきたと思ってんだ。

 

「朝餉の薪にでも焚べておけ。多少は味に貴賓さが出るやも知れぬ」

「――は」

 

 この世界に転生して早50年。ただただ、ひたすら我武者羅に剣だけを振るってきた。娯楽、恋愛、結婚……あらゆる全てを蹴散らして剣だけに生きた。

 それというのも、儂はずっと「巨星」に憧れていたから。前世からずっと、ずっとだ。

 前世を暮らした地球という星。そこでは、美術、音楽、コメディ、スポーツ、政治、経済、漫画映画演劇……あらゆる分野に巨星と呼ばれ敬われる者たちがいた。その道を純粋に極めた星もあれば、新たな地平を切り拓いた星もある。共通するのは、彼ら彼女の登場以前と以後では価値観や基準が変わるということ。彼らは文字通り、世界を変えて見せた存在なのだ。

 前世の儂は、液晶画面の向こうに見た巨星たちの強烈な輝きに魅入られた。……より具体的には、()()()()()()()()()()()()

 大きな星は死する時に強烈な光を発するというが、それは人間も同様。人の身にて巨星と呼ばれた者達が去り行く時、人々は心にぽっかり大きな穴があいたような、自らの大切な一部を失ったような心地に囚われ、その偉大さを知る。あまりにも切なく苦しい痛みと共に痛感するのだ。

 その大きさを知った上で。しかし、新星たちは負けてなるものかと輝きを放つ。彼らはその光で新たな時代を切り拓いていくのだ。

 そんなドラマ性に焦がれた。どうしようもなく心惹かれてしまった。自分も巨星として時代を築き、そして新しい可能性に次代を託して散りたいと強く願った。

 ――前世の儂は、そんな巨星たちに憧れた有象無象の一人。巨星になろうとして足元にも及ばなかった凡人の一人に過ぎない。

 自分にも何かの才能が有るはずだと信じて、叶わぬ夢を見続けて。あらゆるモノに挑戦を繰り返し、その果てに才無き己に絶望して。

 ……でも、多分。その時点で儂は間違えていたんだろう。真に偉大な星にならんと欲するならば、たった1つを極めなければならなかったのだ。それなのに、色々なモノに手を出した挙句、全てが中途半端に終わった。

 そのまま何も成せずに若くして死んだ儂の一生は、どうしようもなく無様で間抜けなものだった。儂の死で喪失を味わった者は数名程度だったことだろう。

 だけど――

 

「のぅ、メティス。お主は今宵の星空を如何様に思う」

 

 何の因果か、儂は剣と魔法の世界に――この変わらぬ星空の世界に転生した。

 それ故、儂は今度こそ巨星に至ろうと足掻いた。己の全てを戦に捧げて剣を振り続けた。それ以外の全てを捨てて、剣だけに生きてきた。

 そうして。50年を経て、ようやっと「巨星」と呼ばれるに至ったのだ。

 残念ながら、それは恐らく誰かの模倣でしか無かった。戦国時代やら中世ヨーロッパやら、過去に名を馳せた英傑たちが既に通った道に過ぎず、所詮は紛い物に過ぎない。

 それでも。それでも、事実として至った。世界中から巨星と称される存在に儂は成ったのだ。

 あとは新星たちに打倒されて道を譲るだけ。儂とは異なる「本物」に至る可能性を秘めた新星たちに。それを見るのが最後の楽しみだった。

 それなのに――

 

「――は。今宵も変わらず、ラモクセイ様と見上げる星空は、この世の何より美しく輝いております」

 

 駄目だ、こりゃ。

 この金髪娘、最初は儂のこと「絶対ぶっ殺すー!」とか息巻いていたのに、今じゃコレだよ。模範的な忠臣だよ。あの頃のギラギラはどこ行ったのさ。

 光秀みたいに本能寺してくれるかなって期待して手元に置いておいたのにさ。いつのまにか蘭丸になっちゃった。家康や秀吉に該当する人物もどこにもいないし、どうすりゃいいんだ。

 

「然り。星空も、戦場も、世も。何も変わらぬ」

「ラモクセイ、様…? それは一体……」

 

 儂に取って代わろうって気骨のある奴が全然いない。卑怯だなんて言わないから、暗殺者ダース単位で送ってくるくらいの野心を見せてくれよ。

 誰でも良い。超新星となって儂を超える輝きを放ってくれ。この儂を踏み台にして強烈な光を放ってくれ。誰か――

 

 

★★★

 

 

「……というわけで。頼んでいた()()()()()をくれ、リーン」

「頭わいてんじゃねぇか?」

 

 黒髪の魔女リーンリル・クロスケルト。彼女とも随分と長い付き合いになる。かれこれ40年くらいか。

 口の悪さと10才程度の幼い見た目は出逢った頃から変わらない。この身が巨星となった今、軽口を投げかけてくれる唯一の存在でもある。

 

「自分を超える…つまり殺す新星を探すって時点でイカれまくりなのに、その上さらに女になりたいとか意味不明過ぎるだろうが」

「この姿のままで行ったら直ぐにバレるじゃん。本人目の前にして“ぶっ殺します♪”って息巻く奴そうそういないじゃん」

「だったら若返りでも良いだろうが」

「いやいや。良くあるじゃん。何も持たない少年が一人の少女と出逢って強くなる……みたいな王道ボーイミーツガール。そういう可能性も面白いなって」

「その場合、その仮想新星くんは愛した少女を殺す事になるんだが」

「良いんじゃない? そのくらいの覚悟が無きゃ時代は背負えないでしょ」

「端的に言ってゴミ過ぎるな」

「でも嫌いじゃない、そうだろ?」

「……ふっ。そうだな。出会った時からずっと、お前は妾を退屈させない」

 

 そう言うと、彼女は錠剤がたくさん入った瓶を渡してくる。

 

「ほらよ、頼まれてたもんだ。それと……」

「サンキューサンキュー。では早速」

「あ、馬鹿。最後まで聞け!」

 

 渡された瓶を開け、錠剤を1つ出して飲む。

 ……お? なんだか体が熱いな。凄まじい熱だ。炎龍マーズの火炎攻撃を食らった時以来の高熱………おおおおおおおおお!!!!!!???????

 

 

★★★

 

 

 いや、凄まじい痛みだった。

 戦場でも中々経験した事の無いレベル。剣を10本突き刺されて、魔法を雨の如く浴びせられた時が一番近いかもしれない。

 

「流石に激痛過ぎるでしょ、これ」

 

 発言した声はちゃんと変わってるな。自分の声だと良く分からないけど、明らかに高くなっている。

 

「そりゃそうだろ。体の構造全てを変形させるんだからな。むしろ、あの痛みを気絶もせずに耐えきったお前に戦慄している」

「ま、巨星ですし。そのくらいはね」

 

 会話を交わしながら鏡を見る。

 年老いて総白髪になっていた髪色は変わらないが、なるほど、結構なスレンダー美女じゃないか。

 元々の翡翠の眼も変わらず。ただ――

 

「なぁ、随分と高身長じゃない? こういう時ってロリになるのが定石じゃないの?」

「それは何の定石だ……。お前の筋肉ダルマの巨体を無理やり女にしているんだ。これでも筋肉を圧縮したりして相当頑張っているんだぞ」

「あー、そういうことか」

「胸を生活に支障が出るくらいの超爆乳にすれば、その分だけ背も小さく出来るが、やるか? 戦闘とか絶対無理だけどな」

「いや、ごめんなさい。これで良いです。無茶言ってすみませんでした」

 

 是より始まるは、(ワシ)の物語。

 女戦士ジュピテルの新星を探し育む旅路である。

 

 

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