キス   作:ハマムマフシー


原作:BanG Dream!
タグ:R-15 ガールズラブ BanG Dream! 百合 宇田川巴 美竹蘭
巴は、とてもずるいよ。

百合、初投稿です。pixivにも投稿しています。

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キス

 

 

 

 

「……ん」

 

 意識が覚醒したものの、あたしは目を開けはしなかった。ゴロンと寝返りで体を横に向ける。まだ寝ていたいような気がしたから。

 

 けれど、一度覚醒した意識は、部屋に籠った初夏の熱気を捉えて不快感に襲われる。

 

 どうやっても二度寝はできそうになかった。身体はこれ以上寝るなということらしい。あたしは目を開いた。

 

「すぅ……」

 

 巴の顔が、目と鼻の先にあった。もうそれは、鼻先と鼻先が触れ合ってしまいそうな距離に。一瞬、ドキリとする。同棲を始めてから早二か月ほど。いつも一緒に寝ているのに、未だに慣れない。

 

 巴は穏やかな寝息を立てて、すやすやと眠っている。あたしは、巴を起こさないように身体をゆっくりと起こす。窓から入ってくる光が眩しい。いつもの巴なら、あたしが目を開ける頃には起きているから、まだ寝ているというのはとても珍しい。

 

 ただ、それも仕方のないことだと思う。最近の巴は目に見えて忙しそうだったから。昨日は、商店街のお祭りで演奏する太鼓の練習に行った後、夜遅くまでバイトをしてから帰って来ていたし、一昨日は大学のサークル活動。更に、ライブがそろそろ近いからと、今週はいつもよりバンド練習の日も多かった。体力には自信があるという巴と言えど、流石に疲れているのだと思う。

 

 あたしは手を伸ばして、起こさないように巴の頭を優しく撫でる。

 

 巴のトレードマークである真紅の髪は、艶がかっていてサラサラしている。それが心地よくて撫でたり髪に指を通したりしても気づかないくらいに、巴はすやすやと眠っている。

 

 巴の寝顔を見るのは、久しぶりかもしれない。巴が皆のいるところでウトウトしていることは稀だし、一緒に寝ていても、あたしの方が早く眠りに落ちてしまうから。よく皆がいる時にウトウトして、モカに寝顔を盗撮されるあたしとは大違いだ。

 

 一枚、撮っておこうか。あたしはそう思い立って枕元にあったスマホを取る。左肩を下にしてあたしの方を向いている巴に合わせて、寝そべりながらスマホを構える。そして、巴の正面からパシャリ。シャッター音で起こしてしまわないか心配したけれど、大丈夫だったようだ。巴はまだ穏やかな寝息を立てて眠っている。

 

 あたしは、身体を再び起こして撮った写真を眺める。巴は、寝ていて気が抜けている時でさえ、顔は凛々しいままで。長い睫毛も、スッと伸びた鼻梁も、みずみずしい唇も。巴の顔を構成する全てが、巴を魅力的にしていた。

 

 綺麗に撮れたし、AftergrowのグループL○NEにでも貼っておこうかと思ったが、やめた。やっぱり、巴の無防備な姿を見るのは、あたしだけがいい。

 

「んん……」

 

 身体を起こして写真を眺めていたあたしの横で、巴が少し唸って寝返りを打って仰向けになる。

 

 暑いのか凛々しい顔が少し歪んでいる。すると巴は、パジャマの一番上のボタンを寝ぼけたまま外し、服をはだけさせた。血色の良い白い肌。そこから浮かぶ鎖骨。さらに目線を下にやると、呼吸でゆっくりと上下する二つのふくらみとその谷間が。あたしは、艶やかさに息を飲んだ。同時に、いくら同棲までしているとはいえ、見てはいけないものを見ているような背徳感に苛まれて目を背ける。自分の心臓の音が、やけにうるさく聞こえた。

 

 もういっその事、起こしてしまおうか。スマホ画面に表示された時刻を見ながら思った。もう十一時半を回って、十二時が近づいている。もう太陽も上りきった昼間だし、巴も暑そうにしていて寝苦しそうだし。

 

 あたしは、巴の方を振り返った。服がはだけたところを見ないように目線を外して、巴の顔を一直線にじっと見る。そうすると、今度は唇に目を奪われる。みずみずしく潤っているそれは、今の巴の状況と相まってあまりに蠱惑的だった。

 

 まだ、巴は起きていない。いつもは、求めるのが苦手で、されるがままのあたしでも。今なら。そう思ったあたしの鼻先は、巴の鼻先数センチの所にあった。あと、もう少し。

 

「……蘭?」

 

 その瞬間が訪れる寸前に、瞼を引き結んだあたしは、巴のその声に飛び上がって、そっぽを向いた。

 

「ね……、寝ぼけてただけだから!」

 

 言い訳にもならない言葉を思わず並べる。声も裏返ってしまっていた。顔がかぁっと熱くなっていくのを感じていた。

 

「もうこんな時間かぁ……。ちょっと寝すぎたな」

 

 ただ巴は何もなかったかのように、寝起きの少し覇気がない声でそう言う。ちらっと横目に見ると、巴はんんーっと伸びをして言った。

 

「蘭。何か食べたか?」

 

 そうやっていつもの調子で話しかけてきて、

 

「……いや。まだ」

 

「わかった。何か作る」

 

 蘭に確認を取ると、そのまま部屋を出ていった。気にしてない? それとも、ほんとに寝ぼけてると思われた? ……気にして、テンパっていたあたしが何だか馬鹿らしくなった。あたしも、巴に遅ればせながら部屋を出た。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 あたしは、巴が作ってくれた朝食……、もとい昼食を黙々と食べながら、巴の様子を窺っていた。

 

 さっきのあたしは、顔から火が吹きそうなくらい恥ずかしかったけれど、巴が気にしている様子は無い。それはそれで何だか悔しい。食べながら、巴の方をチラチラ見ていたら、巴と目が合う。

 

「……どうした? アタシの顔に何か付いてるか?」

 

「別に……」

 

 つっけんどんな口調でそう言って、あたしはまた黙々と食事を続ける。

 

 ……いけると思ったんだけどな。さっきの光景がまた頭に浮かんでくる。……また、顔が熱くなってきた。あたしは、顔の火照りを誤魔化すように、茶碗に残っていた二口分くらいのお米を一口で頬張る。巴もほぼ同時に食べ終わったようで、食器を持ってキッチンの方に向かった。あたしもそれに続く。

 

 巴が流し台に食器を置いて横に避ける。続いてあたしが食器を置いて、スポンジを手に取る。食器洗いは私の仕事だ。洗剤をスポンジに付けて泡立てる。

 

「蘭」

 

「何? ……!」

 

 巴が声を掛けてきたから、横を向いた。すると、何故か巴の顔が至近距離にあって、更に唇に乗る柔らかい感覚。何が起きたか、分からなかった。

 

 僅か数秒の後、離れた巴は少し顔を赤くして言った。

 

「これが、欲しかったんだろ?」

 

 あまりの不意打ちに、あたしはしばらく言葉が出なかった。朝のあれ、ちゃんと見られてたんだ。恥ずかしさで頭が爆発しそうだし、そもそもあたしから行きたかったのにと悔しくなってくるし、感情がぐちゃぐちゃだ。

 

「バカぁ」

 

 きっとこう言ったあたしの顔は、酷いことになってるだろうな。

 

 巴は、とてもずるいよ。

 

 

 


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