現実世界でアバターまとって無双します ~モンスターが出現する過酷な世界になったけど、どうやらアバターをそのまま使えるらしく、廃ゲーマーだった俺は配信されて謎の最強存在としてバズってしまう~   作:†タック†

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領域外悪性変異金属体四聖獣・白虎

 坂を登り切って見えたモノはその名の通り白い虎――白虎だった。

 ただし、モンスターなので普通の虎ではない。

 最初に驚くのはその巨大さだ。

 普通の虎でも人類の脅威と感じるのに、その倍くらいのサイズがあるのだ。

 そして、もっとも異質なのは――

 

「前は大慌てで気が付かなかったけど、よく見ると身体が機械なんですね……」

「そうか、かおるは知らないのか。WROの四聖獣はモチーフが機械なんだ。正式名称は〝領域外悪性変異(ゾイ・ヴァシズメニ)金属体四聖獣(・スト・ピリチオ)・白虎〟だ」

「なんか、おどろおどろしい感じですね……ギリシャ語ですか……」

 

 白い毛皮に見えていた部分は、細かい金属製のパーツで構成されていた。

 以前の襲撃でチートアバターを斬り裂いた爪も、金属特有の鈍色をしている。

 その姿はまるで海外映画の金属生命体のようだ。

 

「こ、コレ相手に私たち……勝てるんですかね……?」

「大丈夫だ。俺はゲーム内で何度も白虎を倒してきている。事前に打ち合わせした通りにやれば勝率は高い」

「絶対勝てる……とは言い切らないんですね……。私のVTuber人生がここで終わったら恨みますよ~!」

 

 そう言いつつかおるは、やる気が満ち溢れるプロの表情になってスマホをイジり始めていた。

 何だかんだ大丈夫そうだ。

 ふと、桃瀬の方に視線を向けると彼女は震えていた。

 

「桃瀬、大丈夫か?」

「だい……じょうぶ……って言いたいけど、勝手に足がすくんじゃう……」

 

 桃瀬はクラスメイト三人を、目の前で無残に殺されたのだ。

 白虎を見て、そうなってしまうのも無理はないだろう。

 京太はなんと声をかけていいのか迷ったのだが、ゴチャゴチャしたことが苦手な彼女に合わせて短い一言にしておいた。

 

「俺を信じろ」

「…………うんっ!」

 

 その言葉だけですべてが伝わったらしい。

 桃瀬はファイティングポーズを取った。

 最後は渋沢だ。

 

「渋沢、俺を冷静にさせてくれて感謝する」

「いいよ、いいよ。京太くんがパーティーの要だからね~。そこをキチッと正すだけで勝率がグングン高まるわけじゃん?」

「さすが戦略シミュレーションゲームの渋沢だな。戦うための組み立てが上手い」

「いや~、はっはっは! 褒めても加齢臭しか出ないけどねぇ~」

 

 どうやら三人とも心の準備はできているようだ。

 あとは京太が戦闘開始の合図をすれば――

 

「こんて~ん! 地上へ舞い降りてきたお世話系メイド天使、天羽かおるでーす! 今日も皆様に楽しんでもらうぞー! 今日は歌うので曲のリクエストも受け付けてまーす!」

 

 いつの間にか、かおるは配信の準備を進めていたようだ。

 さすがに図太すぎて呆れてしまう。

 

「かおる、お前こんなときでも配信をするのか? しかも歌配信ってお前……」

「当たり前ですよ、撮れ高を狙っていくのが私のアバター強化へ繋がるんですから! それに歌配信は特殊なバフがかかるって噂ですからね! これもすべてパーティーのためです、はい!」

「お前は、ただの配信ジャンキーなだけなんじゃないか?」

「そ~とも言いますね! 配信たのしぃ~!」

 

 相変わらずのかおるに溜め息を吐きながら、京太は投げナイフを取り出した。

 

「えっ、私に投げるんですか!? 可愛いかおるちゃん虐待――略して〝かお虐〟ですか!? リスナーさんだけじゃなく、京太までそういうのに目覚めちゃいましたか!?」

「そんなアイテムを無駄にするようなことをするか……。白虎への釣りに使うんだ」

「釣り?」

「簡単に言えば、離れた敵をおびき寄せる行動だ」

 

 この投げナイフは京太の第二職業アサシンによるスキルで、各種状態異常付与の物を使うことができるのだ。

 ただし、雑魚相手だと状態異常を入れるより攻撃した方が早いし、ボスは状態異常を防がれる可能性が高いので使い勝手はそこまで良くない。

 なので、普段はただの初手の投擲として使われることが多い。

 

「ただし、今回は白虎が極端に毒耐性が低いので、最初に毒投げナイフで状態異常を入れておく。――準備はいいな? いくぞ!」

 

 三人が頷いたことを確認した京太は、白虎に向かって毒投げナイフを放つ。

 巨大な身体は的としては当てやすく、見事に命中。

 数発投げたところで、白虎に毒のエフェクトがついたことを確認した。

 いつもよりナイフ投げの速度が上がっている気がする。

 かおるの歌のおかげで、本当に調子が上がっているのかもしれない。

 

「お前の歌、なかなか良いかもしれない」

「~♪」

 

 かおるは歌いながら、京太にサムズアップをしてきた。

 もしかしたら、ゲームでよくある吟遊詩人的なバフ能力があるのだろうか。

 そんな最中、白虎が京太に対して鋭い野生の眼光を向けてきた。

 

『グォォオオオッ!!』

 

 京太にヘイトを向ける白虎は、物凄い勢いで飛びかかってきて前足の爪で斬り裂こうとしてくる。

 

「スキル【神一重】!!」

 

 飽きるほど見てきた攻撃パターンだ。

 以前の襲撃で、ゲーム時代と同じだと確認できたので安心して回避をする。

 

「京太!? 大丈夫ですか!?」

「ああ、これならいける。かおる、お前は心配せずに歌を続けてくれ」

 

 本人以外から見たら、人間を簡単に挽き肉に出来る爪を一身に受ける直前、ギリギリで回避する京太のことが心配になってしまうのだろう。

 しかし、京太自身としては、涼しい顔で難なくこなす。

 

「京君すごい、あの白虎相手に!!」

「さっすがWROのトッププレイヤー……、おじさん感激しちゃうねぇ」

 

 感嘆の声を上げる桃瀬と渋沢を横目に、京太はさらにアタッカーとしての攻撃も行う。

 

「【天撃】!」

 

 この天撃は、京太のメイン攻撃スキルとなっている神一重を発動したときに放てるカウンターワザだ。

 リスクとしてこれを使うと隙もできるのだが、相手の再攻撃タイミングを見極めて使っていかなければヘイトを稼げない。

 ヘイトを稼げないと、他の者が攻撃やサポートなどもしにくくなる。

 常に綱渡りで戦うスタイルなのが、京太の職である背徳天騎士なのだ。

 

「一撃入れた、これである程度のヘイトは稼げたぞ。さぁ、攻撃開始だ! 桃瀬!」

「いくよ! 京君! 必殺技【ピンキートルネードキック】!」

 

 少し離れた場所にいる桃瀬は、ピンキートルネードキックによって距離を詰めつつ、空中回転蹴りを白虎に当てていく。

 GMのときとは違い、かなりの勢いでHPバーがダメージで削られている。

 

「白虎は四聖獣の中でもHPが低く設定されている、どんどん攻撃をしてくれ」

「わかった!」

「いや~、これは楽勝ですね。え? そんなフラグ立てるなって? ご主人様たちは心配性ですね~」

 

 歌と歌の間、生配信でコメント欄と会話をするかおるの声が聞こえる。

 実はそのコメントの突っ込みは正しかった。

 少しHPバーを削ったところで、白虎が大きな咆哮をあげた。

 

『グゥォォオオオオオオオオオオオンッ!!』

「くっ」

「すっごい大音量……」

「鼓膜ないなったですよー!!」

 

 耳への影響だけではなく、身体にも不思議な痛みを感じた。

 これは白虎のスキルの一つで、周囲に回避不可能な音ダメージを与えるものだ。

 油断するとこの一発で崩されてしまう。

 

「これが厄介だから、白虎は速攻勝負になりやすい! 今回も早めに片を付けるぞ! やるかやられるか――だ!」

「一応、おじさんが回復しておくよ~。なけなしのコストを消費して【衛生兵ユニット】を召喚っと……」

 

 白虎戦の少し前――渋沢は何やら周囲の地形を操作していた。

 どうやら戦略シミュレーションアバターの性能として、地形からコストを取り出して、そこからユニットを召喚するらしい。

 その地道なコスト生産から、渋沢はナースキャップをかぶった前時代的でファンタジーなわかりやすい衛生兵を召喚していた。

 

「癒やし系のプリチーなおじさんに回復は任せてチョンマゲ~」

「うわっ、きもっ……ってコメントで言われています」

「ご主人様たち、キミたちも少しずつおじさんになっていくんだよ~、あはは」

 

 そんな冗談めいた渋沢の言動だが、能力の方は本物だ。

 衛生兵の回復によって、全員のHPが持ち直していく。

 コストの関係もあって召喚を連発はできないのかもしれないが、それでも様々なタイプのユニットを選べるという汎用性は非常に高い。

 コストさえ潤沢なら、そのアバターは恐ろしい性能になるだろう。

 

『ゴァァアアアアア!!』

 

 少し余裕のなくなったような白虎が、獣声をあげながら爪での攻撃を仕掛けてくる。

 

「スキル【神一重】!」

 

 鋭くパワーのある爪は、京太の背後にあった鉄骨を簡単に斬り裂いていた。

 回避に成功していなければ、京太も同じようになっていただろう。

 しかし、本人はそんな雑念を捨ててスキルを放つ。

 

「スキル【大天撃】!」

「おぉ、京太の新しいスキルが!! 新必殺技は撮れ高ですよぉー!」

 

 大天撃――それは天撃の二段階目のカウンタースキルだ。

 天撃の二倍のダメージが出るのと同時に、しばらく京太自身が二倍のダメージを受けるようになってしまう。

 京太がこれまで使わなかったスキルだが、使わなかったのはそれなりのリスクがあるからだ。

 

『グゥオオオ!?』

 

 盾役とは思えないダメージを叩き出し、白虎は怯んだ。

 動きの止まった敵へ、桃瀬は最適な必殺技を放つ。

 

「チャンス! 必殺技【ピンキー激烈脚】!!」

 

 システム的に表示されるヒット数が爆発的に伸びていく。

 すべて当てて百回もの攻撃を叩き込むことができた。

 

「ひゅ~、京太くんと桃瀬ちゃん、息ピッタリだねぇ。おじさん、青春で目が眩しいよ~」

「た、たまたま運が良かっただけなんじゃないですか!? そうに違いありません! こら、ご主人様たち、かおるが置物の役立たずとか言わないように! いるだけでPT強化に貢献しているし、これから成長して伸びしろもあるんですから!!」

 

 すっかり野次馬のような渋沢とかおるの声が聞こえるが、京太はスルーした。

 ボスと戦っているときに野次が入るのは、ゲーム時代で死ぬほど経験しているからだ。

 酷いときはスキルや魔法のエフェクトを連発されて、処理落ちで妨害されたこともある。

 それにくらべれば問題はない。

 

『ゴガァッァアアアアアア!!』

「うあっ!」

「リアルだと耳に結構来るな」

「一瞬、ミュートにしてご主人様の耳を守るかおるちゃんです! ご主人さまたちの鼓膜を破るのは、私のホラー配信の悲鳴だけなのですよ!」

 

 二度目の大きな咆哮によるダメージ、それぞれのリアクションをしているが、攻撃のペースを崩されて厄介なパターンだ。

 それに渋沢によってHPは回復するのだが、意外と音というのは精神的なダメージもあって、食らい続けると人為的なミスを誘発する可能性もある。

 

「――速攻で勝負を決めるしかないな!」

『グォオオオオオオオオオ!!』

 

 大きな咆哮直後の爪による攻撃、これは普通の盾なら油断して食らってしまうだろう。

 しかし、WROをリアルのように情熱を持ってプレイしていた京太にとっては回避可能・反撃可能だ。

 

「スキル【神一重】・【権天撃】!!」

「すごい! 一気に削った!!」

 

 流れるような回避からの、カウンタースキル三段目の権天撃を放つ。

 これもダメージと被ダメージ効果がアップしている。

 大きく白虎が怯み、ついにはダウン状態となった。

 

「残りもう少し! 削りきっちゃうよ!! 密かにゲージを溜めていた――超必殺技【ピンキーファイナルワイルドラッシュ】!!」

 

 桃瀬が怒濤の乱舞ワザを仕掛けた。

 白虎がダウン状態から起き上がるまでの間にすべての打撃、蹴りがヒットしていく。

 

「かなりギリギリです、倒しきれるか――」

 

 超必殺技のすべてが終わり、HPバーに注目が集まる。

 

「くっ、削りきれなかった!!」

『グルゥオゥ……グオオオオオオオオッッ!!』

 

 一ミリほど体力が残っていた。

 白虎は再び爪を京太に突き立てようとしたのだが、なぜか京太は微動だにしない。

 集中力が切れたのか、油断したのか、周囲は焦る。

 

「京太!!」

「京君!?」

「いや、もう終わっている。討伐完了――……〝支配地域解放〟だ」

 

 京太は白虎に背中を見せて、その場をあとにした。

 不思議なことに白虎は爪を振り上げたポーズのまま固まり、しばらくしてフッと力が抜けたかのように地面にズシンと倒れた。

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