スティール・クロニクル ーBruised Soldiersー   作:早坂 将

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注意!
この作品は思い付きで書き上げたものです。過度な期待はしないで、入渠待ちなどの暇つぶし程度の感覚で読んでください。


序章

遠くの方からくぐもった砲撃音が響いてくる。

 

「こんな時間にも戦闘があるんですね」

 

配属されたばかりの新人ハウンドが呟いた。

 

「虫共には昼も夜の関係ない。そして、それを駆逐する俺たちにもな」

 

そのつぶやきに対し、分隊長と思しき二十代後半の少尉が答えた。

現在地は…、機密事項により詳しいことは言えないが、エジプト某所。時刻は〇一三五(まるひとさんご)。前線を他部隊に引き継いでから三時間かそこらだ。

仮設の救護所は先の戦闘で負傷したハウンドで埋め尽くされていた。そうでない者も連続の戦闘で疲弊し、死んだように眠っている者もいる。

 

「おい!死ぬな!今度子供が産まれるんだろ!な!おい!」

 

声のした方に目を向けると、右胸を引き裂かれ、右腕も無いハウンドが簡易ベッドに横たわっていた。

 

「先生!彼はもう…」

 

「クソッ!」

 

先生と呼ばれた男は処置を中断すると、他のうめき声をあげているハウンドに駆け寄って行く。

 

「おい!待て!こいつを…」

 

「残念だが、そいつはもうだめだ…」

 

途中で声を掛けられ即座に怪我の重傷度を見極める。この軍医、ベテランだな。

 

「それを何とかするのがお前ら軍医の仕事だろうが!」

 

その絶望的な宣告を受け入れられない同僚と思しきハウンドが叫んだ。

 

「この状況を見て同じことが言えるのか!救いを求めてるのはお前だけじゃない!ここにいる全員だ!大体、医者の数も足りていないんだ…!」

 

確かにそうだ。ここにいる一大隊、四百十人はそれぞれがどこかしら怪我をしていた。重傷者は動ける者に運んでもらい、軽傷者は軽傷者同士で手当てをしているありさまだ。かく言う俺も虫の体当たりをくらった拍子に頭を打って怪我をしている。

 

(この戦線もそろそろ限界かもな…)

 

などと一人で考えながらゆっくり休めるところを探していると、

 

「失礼します大尉。大隊長がお呼びです」

 

十代半ばの隊員が敬礼をしながら俺を呼び止めた。一応ハウンドのようだが、こいつは通常戦闘には参加しない連絡要員のようだ。

 

「分かった。ご苦労」

 

短く返して中隊長のいるテントに向かう。正直、早く休みたい。

これから指揮官用のテントを探すのが面倒だと思ったが、幸いにもテントはすぐのところにあった。

 

「御籏(みはた)です」

 

「入れ」

 

テントをくぐって敬礼をすると、各小隊長達が集まっていた。

 

「生きていて何よりだ、大尉」

 

「勿体なきお言葉、感謝いたします」

 

「まぁ楽にしてくれ」

 

大隊長に言われ俺を含めたその場にいる隊員は『休め』の姿勢になる。

 

「諸君、先の戦闘、ご苦労であった。現在我々は戦力三割を喪失し、誠に残念ながら先ほど指令部より、前線からの撤退命令が下された」

 

三割か…まぁ、五割喪失する前に撤退するのは賢明な判断だな。

 

「我々はまだ戦えます!すぐにでも動ける者を集めて部隊を再編成して…」

 

「それは認めん。これは指令部の決定だ。いかなる理由があろうとも、逆らうことは許されない」

 

発言した小隊長は悔しそうに歯を食いしばり、他の隊長達もうつむいている。

 

それをなだめるように、

 

「諸君らに責任はない。私の指揮能力がなく、敵が報告より強大だったのだ」

 

と、落ち着いた声音で大隊長は言った。

 

「撤退の件、了解しました。ですが、それでは私は何のためにここに?」

 

全体、というより各隊長への連絡は済んだ事を確認した俺は、何故呼ばれたのかと確認する。

 

「あぁ、待たせてすまない。君は確か員数外の士官だったね?」

 

「はい」

 

「君に折り入って頼みがある。少人数の部隊を臨時編成し、欧州司令部の技術研究所に向かってほしい」

 

技術研究所?なんでそんなところに?

 

「現在我々が所持している装備品の中に欠陥品と不要なものが含まれていてな。とてもではないが、今の部隊の状況では運ぶには荷物になるのだ…」

 

なるほど。報告に行かせるついでに余計なものを運ばせるのか。

 

「疲労しているところすまないと思うが、頼む」

 

心底申し訳なさそうに頭を下げてきた。そこまでされたら断るわけにはいかない。

 

「お顔をあげてください、大隊長。そのような重要な任務、私には身に余る光栄です」

 

「そうか。済まないが、よろしく頼む。〇七〇〇(まるななまるまる)に出発せよ。それまでに人員の確保と物資を調達せよ。それと、フライトアーマーも持って行ってくれ」

 

「フライトアーマーもですか?」

 

フライトアーマーとは本来空を飛ぶことができないスティールスーツでも飛行することを可能にする装備のことだ。飛行と言っても正確には大型輸送機から飛び降りて滑空する為のもので、例えるなら装甲化したグライダーだ。これを使えばハウンドにも空挺部隊と同じ役割を持たせることができるが、使用できるのは『突撃型』、『高機動型』、『格闘型』だけであり、『重火力型』と『特技型』はそれぞれ重量、構造を理由に装備が出来ない上、高度な技術が必要とされるため三年以上のベテランしか扱いが許されていない。

 

「そうだ。この部隊にはすでに無用の長物だからな…。その後は司令部の指示に従ってくれ。以上だ」

 

「かしこまりました。では、早速行動に移させていただきます」

 

敬礼をしてテントから出る。上官だから敬礼をしているが、本心では殴り飛ばしたい気分だ。現在時刻が〇二一〇(まるふたひとまる)、四時間五十分後には出発しなければならないのだ。しかもその間に人員と必要物資の確保もしなければならない。

 

(寝るなってことかよ…)

 

だが、どんな理不尽な命令でも遂行しなければ、軍人はやっていけないのだ。

たとえそれが自分を囮に使った作戦でも。

 

(今日も長くなるな…)

 

内心悪態をつきながらも、どういう編成をするか考える俺であった。

 あれから二時間、人員を確保し集合時間と場所と伝え、手配しておいた運ぶ荷物の確認のため野営地の端ある武器集積所に俺はいた。本来ならガンラックに立てかけておかなければならない銃が山積みになっているのを見て責任者を呼ぼうとしたが、ライトを当て確認するとその必要はないことを悟った。

虫の爪や牙が突き刺さり、血がベットリと付着し両断された物など、見ただけで持ち主の運命を把握できる代物がわんさかあった。

そのわきを通り過ぎ、電気がついているテントに呼びかける。

 

「御旗です。物資の確認にきました」

 

「あぁ、入ってくれ」

 

入り口をくぐると共食い作業中の技術大尉がいた。

 

「連絡は来ているよ、大尉。左にある山がそうだ」

 

銃を共食い整備しながら顎で左を指す。

人数分の武器弾薬と必要機材、箱から出せれてすらいないフライトアーマー、そして噂の余計な荷物が積まれていた。

本来であればただ荷物を運ぶだけに武装は必要はないが、まだ制圧しきれていない地域の上空を飛ぶため、万が一に備えて最低限の武器弾薬の携行が義務付けられた。

 

「あんたたちは一足先に安全地帯に戻れるのか。うらやましいねー」

 

作業を続けながら技術大尉が言う。

 

「まぁ……、大隊長直々の命令ですから……」

 

受け取り状にサインしながら答える。

 

「………そうかい。まぁ、気を付けてな」

 

「…はい。物資確保感謝します」

 

「おーう」

 

左手を挙げ、最後までこちらを見なかった技術大尉を残し、俺はテントを後にした。

 

 

 

 時刻、〇六五〇(マルロクゴマル)。出発十分前になり突貫工事で作られた簡易飛行場に整列、収集を掛けたメンバーと共に荷物を積んだ後、臨時で手配した民間の【C-2改輸送機】に乗り込む。

 

「こんな輸送機ありましたっけ?」

 

通りすがりの新兵が物珍しそうにつぶやいた。

すると俺らを見送りに来た指令が解説する。

 

「あれは今から百年近く前に日本で設計された輸送機だ」

 

「し、司令!失礼しました!」

 

慌てて敬礼する新兵に苦笑いを浮かべながら楽にしろと言い、懐かしそうに見つめる。

 

「私も現役の時はよくアレに運ばれたものだ」

 

そんな指令を他所に新兵は不安そうな顔で尋ねる。

 

「そんなに古い機体で大丈夫なんですか?」

 

「改良に改良を重ねているからな。未だ現役だ」

 

すると次に新兵は引き攣った表情で、

 

「それは悪く言えば騙し騙しっていうんじゃ……」

 

「……確かにそうだが……、日本製だけに信頼性は高いぞ。私が保障しよう。乗り心地も良いしな」

 

「はぁ…、そうなのですか……」

 

好奇の目線を送るハウンドもいれば、反対の目線を送るハウンドもいる。

 

「あいつらだけ先に帰還か……。うらやましいぜ……」

 

「せめて重傷者だけでも運んでやればいいのに、あんなガラクタ運んで何する気だろ?」

 

俺たちの任務を知らない連中は口々にうらやましいだのずるいだの文句を垂れているが、誰一人として反論することはなかった。

俺は勿論、同行する隊員たちも残る戦友の事が心配でならないが、内心では安全な地帯に行けることを喜んでいるのだ。

 

『間もなく出発する』

 

ヘッドセットから機長の声が伝達され、これを聞いた同行する航空要員が後部ハッチを閉める。

モーターの駆動音もそうだが、左右の主翼に一機ずつ搭載されているジェットエンジンのおかげで隣にいるやつに話しかけるだけでもヘッドセットが必要なほど機内はうるさい。

 

『帰れるんだ…………』

 

突撃型スーツの頭部アーマーを外して身に着けている本隊最年少の隊員であるシエラ・リュート二等兵の小さなつぶやきがヘッドセットを通じて全員の耳に届く。データだとたしか十六歳だったか。一般募集で最低限の教育だけで最前線に送り込まれるなんて不運としか言いようがないが、生き残っているっていうことはやはり運がいいのだろうか。肩にぎりぎりかからない程度の栗色の髪には所々血が付着し赤黒く固まっている。虫との戦争がなければハイスクールで青春を謳歌していたであろうに。時代ってのは残酷なもんだ。

 

『シエラ二等兵、まだ、作戦行動中ですよ。……そういえば隊長、荷物を届けた後は我々はどうするのですか?』

 

アリスタ・フォード曹長。使用スーツは特技型。背中に掛かる金髪を後ろで結わいてポニーテールにしている。町中を歩けばモデルのスカウトなりナンパなりいろいろ声を掛けられそうな整った顔立ちをしているが、彼女は俺が訓練生の時の教諭の一人であり、結構世話になった人だ。

 

『大隊長の話だと、技術部に荷物を預けた後は、司令部の指示に従えとのことだ』

 

『そうですか……承知しました』

 

『どうせ俺たちはまた戦場に行くことになるんでしょう?隊長』

 

ヘッドセットから聞こえてきたのは今までの英語ではなくはっきりとした日本語。この隊で日本語が話せるのは俺を含め二人だけ。

 

『………そうなるだろうな……、雪谷少尉。…………銃を納めたらどうだ?』

 

雪谷一矢(ゆきたにかずや)少尉、短髪痩せ型。士官教育を終えたばかりではあるが、上位の成績で士官過程を卒業し、実戦でもしっかり生かされているため最初からこのメンツに組み込まれてたやつだ。突撃型Lv2のスーツを着込み、狭い機内なのにも関わらずアサルトライフルを抱えている。

 

『〔スティールスーツを着用している限り、そこは戦場であり、武器の携帯を義務付ける〕と俺は教わりました』

 

『だからってこんな狭いところでそんなもん持つな。暴発したらどうすんだ?それに、武器ならナイフがあるだろ』

 

『…………了解……』

 

全く、真面目なのか不真面目なのか分からん奴だ。せっかくのイケメンが台無しだぞ。

 

『隊長……』

 

アリスタ曹長に呼ばれ向き直ると人差し指でヘッドセットをつつき、親指、人差し指、中指を立てた。

チャンネルを3に合わせろ、の合図だ。

座席左にあるつまみを“3”に合わせると、ブツンという音と共にチャンネルが切り替わり曹長の声が聞こえてくる。

 

『何を仲良く日本語でおしゃべりしていたのかしら?』

 

『別に何も……、強いて言うなら武器をしまえと言いました』

 

『ふーーーーーーん……』

 

『………何か?』

 

『頼りない訓練生が、今では大隊長直々に任務を賜る大尉殿ねー。成長したのはうれしいけど、なんか釈然としないわねー』

 

訓練生時代の俺を知っているこの人は過去と今の俺を記憶を基に比べた結果、一致しないという現実に不信感を抱いてるようだ。

 

『余ってて動ける員数外幹部が俺くらいしかいなかっただけでしょう?それに、俺はただ生き残りたい一心で戦ってただけで、階級なんて、俺には関係ありません』

 

『そっかー、そこは変わってないんだねー。そういえばあの話、どうなったの?』

 

『あの話?』

 

何の話だ?

 

『あれよ、部隊に配属されたら誰が一番先に彼女を作るかって、みんなで競ってたじゃない』

 

『………よく覚えてますね。忘れてましたよ』

 

そんなこともあったっけ。素で忘れてた。

 

『で、どうなの?』

 

『そんな余裕、ありませんし、俺は兵士ですから』

 

『いつ死ぬかわからないから、悲しい思いをさせたくないと?』

 

『えぇ、まぁ』

 

『優しいところも変わってないね。……私、ショウ君のそういうところ、好きだよ』

 

『!?』

 

突然の告白に戸惑う俺。場所ってもんを考えようよ、アリスタ曹長。それに歳だって…………、

 

『冗談はこれくらいにして、そろそろチャンネル戻そうか。それに余計なことを考えようとしたでしょ?』

 

冗談かい。そういえばこの人、訓練生の時もこういうこと言って周りを困らせてたっけ。しかも心まで読みやがった。恐ろしい。

 

『……………ようやく笑ったね』

 

『え?』

 

『久しぶりに会ったのに、ずっと表情硬いままだったでしょ?どう?少しは楽になった?』

 

そういって微笑みを浮かべるアリスタ曹長に俺は……、

 

『そうですね』

 

同じように微笑みを返したのだった。全く、この人にはかなわないな。

こんな状況でもしっかりと周りを見てくれているのは本当にありがたい。あの時から変わっていない……。

 

 

 二一〇二年三月に突如として北欧西部の港町に姿を現した【鋼鉄虫】は、わずか数日で町を壊滅させてしまった。これはのちに【ギャラルホルン】と呼ばれ、人類対鋼鉄虫のファーストコンタクトであり、終わりの見えない人類存亡をかけた戦いの始まりであった。

 四月になると世界各地に鋼鉄虫が発生し、国際保安連盟(国連)は軍隊を派遣し鎮圧作戦を敢行するも、鋼鉄虫の勢いはすさまじく劣勢を強いられることとなり、九月になると遂にヨーロッパ南部の大都市が壊滅、このことがニュースとして世界各地に知らされた結果大混乱となり、国連は安全指定都市を制定し、難民及び移民の受け入れ緩和を各国に求めた。

 人類がもたついている間鋼鉄虫の勢いは衰えず、ギャラルホルンから一年の間に人類はその人口の三十%を失ってしまった。

 しかし翌年一月、国連より鋼鉄虫の調査研究を任されていた機関が、鋼鉄虫の死骸から鋼鉄資源、エネルギーを抽出する技術を発見したことにより、歴史は大きく動き出す。

 技術者たちの頑張りにより、三か月後の四月には【鋼鉄虫資源再利用】(スティールテクノロジー)が確立され、国連の一部と、研究機関を独立させて新たに、【S.I.V.A】を設立。翌月にはスティールテクノロジーを世界に公表し、特定基準の元、民間企業での技術開発を認めた。

 その結果、二一〇六年八月に南アジアの民間企業【NIRVANA社】が初代スティールスーツである、【ラウンドアクター:001】の開発に成功。同年十一月、実戦で戦果を挙げ始めたスティールスーツの活躍に目を付けた国連はNIRVANA社に対し基本技術公表を指示、他の民間企業にも開発を促す。

 翌年一月にはスティールスーツを操る【対鋼鉄虫戦闘員】(ハウンド)とハウンドが中心の部隊、【フロック】が世界各地に配備され、十月の南米での陥落間際だった大都市に大規模ハウンド部隊を派遣し奪還作戦を敢行。作戦は見事成功し、ハウンドの存在が世界的に認知されるようになる。

 二一〇八年三月に派遣、採用、育成機関が整備され、同年六月にこれまで軍人のみの採用であったハウンドを、民間からも採用し始め、それぞれの想いを胸にせめて一矢報いたいと願う若者たちが志願、ハウンドの人数は急増し、人類対鋼鉄虫の戦いは激化の一途をたどっていくこととなる。

 

 

 以上のことはどこの国の教科書にも共通して記載されていることだ。

 俺がハウンドとしての戦闘訓練をやり始めたのは十二歳の時だ。

もともと孤児だった俺は政府が運営する孤児収容施設に預けられ、一般志願制限年齢である十五歳になるまで一般教育と並行して戦う術を身に着けた。十五歳になる年になるとエスカレーター式に士官学校に入校し、通常は三年かけて身に着けるところだが、エスカレーター組は基礎は完璧なため二年間で卒業し、指揮官や、各種要職に就くこととなる。

 そんな息をつく暇もないほどの忙しさの中、俺は当時一般科目(英語)職員として来ていたアリスタ先生に出会った。

 入校して一年後の春、仲の良かった一般受験で来た奴らと空教室で駄弁っていると、新任教師特有の元気さで「もう寮に帰る時間ですよ」と注意されてしまった。

『口うるさいのが来た……』と友人達と目配りをして、一般科目とはいえど教師の命令を無視したことがばれると軍人の教官たちに何されるかわからないから、その時はしぶしぶ従った。

 翌日も同じ空教室で駄弁ってたら来た。そして同じことを言われて退散する羽目になった。

こんなことが一週間続いたせいか、顔と名前を憶えられてしまい、授業でも指される回数が増えてしまった。

 そして一か月後、また同じ空教室で駄弁っていると、今度は注意ではなく話しかけられた。確か、内容は「一般とエスカレーターなのに随分仲がいいのね」だった気がする。

エスカレーター組はその生い立ち上、一般入校者から避けられることが多い。むしろ友人関係になること自体が珍しい。教室が分けられていてカリキュラムも違い、合同授業はおろか食堂まで違えば関わりを持つこと自体が難しいだろう。正直これは学校の作りが悪い。

【幼少時代から暗殺者のような教育を受けた連中】と陰で言われていることも原因のようだが、こっちだって好きでそうなったわけじゃないし、他はともかく俺は別に一般入校者を軽蔑しているわけでもない。近づけば避けられ、話しかければ反射的に謝られるのは意外と傷つくものだ。

 話を戻そう。勿論最初から仲が良かったわけではない。入校して半年たってから試しに話しかけてみた時は警戒されたし、帰り際の教室は一気に静かになってしまった。

 俺がわざわざ一般の校舎まで出向いて一般生徒を観察した結果、半年たってようやく馬が合いそうな連中を見つけ、声を掛けたら当人たちには警戒され、クラスメイト達は通常の三倍くらいの速さで教室から撤退。あの速さが戦場で生かせたら指揮官としては大満足だろう。

 俺と当人達以外誰もいなくなった教室が静寂で包まれる中、俺はこう切り出した。

 

『メカニック好きなのか?』

 

当人たちは予想もしない質問に呆気にとられていたが、三人の内の一人、横にでかい奴が、

 

『何か文句でもあんのか?』

 

と高圧的に聞いてきたため、

 

『別に。性能ももちろんだが、せっかく扱うのならかっこいい方がテンションも上がるよな』

 

と答えたらひょろい奴が

 

『暗さt…エスカレーター組もスーツの外見気にすんの?』

 

と問い、

 

『少なくても俺は。重火力Lev2のちょんまげはいらないと思う』

 

の答えに、メガネが、

 

『やっぱりそう思うよな。俺もあれはいらないと思う』

 

という会話が発展していき、気づけば最初の気まずさどこへやら、寮の門限ギリギリまで話し込んでいた。

 その教室での一件以来、俺はその三人と頻繁に会うようになった。

昼休みの中庭だったり放課後の空き教室だったり時間と場所は違うときもあったが、基本的には放課後の空き教室だった。

 そんな中アリスタ先生に会ったわけだが、俺が初めてアリスタ先生を見て思ったことは、「この人なんでこんな所にいるんだろう?」だった。

 なぜなら普通は士官学校という特殊性を考慮して、派遣される教員は勤続十年以上のベテランが基本なのだが、アリスタ先生は俺らが見ても新人だとわかるくらい新人オーラを醸し出していた。

 例の一カ月を過ぎた辺りからほぼ毎日のように会っていたもんだから次第に先生まで雑談に加わってきた。

 話題は成績だったり、私生活だったり…。恋愛について聞かれた事も時々あった。いろいろイタイ所を突いてくるもんだから、仕返しに生徒内の先生の評価や彼氏の有無を聞いたら思いっきり照れた後、激しく落ち込んだ。やり過ぎたとは思っているが後悔はしていない。

確かその時の話がヒートアップして、『部隊に配属されたら誰が最初に彼女を作るか』っていうくだらない勝負になったんだっけな。

 思い出話が長くなってしまった。

とまぁ、アリスタ先生とは彼是(かれこれ)五年くらいの付き合いがある。今回選んだ連中の中では最も信頼している。

 

『…尉?………尉?御旗大尉!』

 

『…!……二等兵、どうかしたか?』

 

いかんいかん。悪い癖が出てしまった。

 

『あ、あの………、その………』

 

まるで天敵に見つかったリスかネズミのようにびくついてる二等兵。そんなに怖いか俺?

 

『リュート二等兵、言いたいことがあるならはっきりと言え。別に怒ったりしないから』

 

『はい、えっと……、到着時間まで休んでもよろしいでしょうか……?連日の戦闘で体があちこち痛くて……』

 

〝休ませてほしい〟か。まぁ、当然の主張だな。実際俺も疲れてる。いや、俺だけじゃなく、みんな疲れてるんだ。

そのことを士官として兵に教えねばと答えようとした時、

 

『リュート二等兵、今は任務中と言ったはずでしょ?それに疲れてるのはみんな同じなの。隊長なんて常に最前線にいて一歩も引かずに戦ってたのよ?』

 

言おうと思っていたことを言われてしまった。だがまぁ…、

 

『到着までまだ時間がある。休みたい者は休め』

 

『え!?でも隊長……』

 

『休める時に休まなきゃ身が持たんぞ曹長。それに次俺たちが配属される所も休めるとは限らないからな』

 

『……了解…』

 

『ありがとうございます…!』

 

何か不満げな先生とは対照的に心底嬉しそうな二等兵。雪谷少尉も堅物ではあるが、さっきの俺の言い分に納得したのか、異論はないらしく眠るようだ。

 

『はぁ…、ショウ君ちょっと新兵に対して甘いんじゃないの?』

 

『そうですかね?さっき言ったのはあくまでも俺の経験からですが?』

 

『彼らが寝てる時に何か起こったらどうするの?』

 

ごもっとも。寝てたら何にも対応できないから危険ではある。

 

『疲労困憊の状態で対応する方も危険ですが……、どっちもどっちですね』

 

『私は止めたからね?なんかあっても私は悪くないよ?』

 

『それはないですよ先生。話を聞いてしまった以上は関係者ですよ?』

 

『はぁー、これだから最年長は困るなー』

 

クスクスとお互い小さく笑う。

 

『なんかこの状況、前にもあった気がしますね』

 

『そうだね。みんな元気かな?』

 

この場合のみんなとは士官学校時代駄弁ってた連中の事だ。

 

『あいつらなら問題ないでしょう。俺がアドバイスしたんですから。もしかしたら次の配備先にいるかも知れないですよ?』

 

『あ、そう考えると何か楽しみになってきた』

 

『俺もです』

 

こんな他愛もない会話は何カ月ぶりだろうか。

もしかしたら年単位かもしれない。

 

『戦い疲れは心も体もだるくなるくらい疲れるけど、話し疲れは心地いい疲れね』

 

『そうですね』

 

『んー、じゃあ私も、ショウ君のお言葉に甘えて休ませてもらうわ』

 

大きな伸びをして力を抜いた先生は、さっきより少し疲れが出た表情で告げた。

 

『了解。お休み、先生』

 

『お休み、ショウ君』

 

願わくば、次の戦場が最後の戦場に―――……。

 




始めまして。早坂将と申します。
ハーメルンでの投稿は初めてとなります。
これの他に小説家になろう様にてサバイバルゲームをテーマにしたオリジナル小説もUPしています。ていうかそっちが中心ですので、こっちは不定期になることをあらかじめお知らせさせていただきます。さらにあるハーメルン作者様とある作品のコラボSS計画も現在進行中です。
この物語は完全に未完成で、半ば思い付きで書いていますので、友人と毎回チェックはしますが矛盾点が出てくる可能性があります。その時はご指摘いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
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