スティール・クロニクル ーBruised Soldiersー   作:早坂 将

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本編開始です。
どうぞ!


第一話

 八時間近いフライトの後俺たちは、無事ドイツにある欧州司令部技術研究所に荷物を届けた。

 使えたかどうか聞かれたため、使っているところを見たことがないと正直に話したらかなり悔しがってた。技術屋なら当然な反応だな。

その後は戦闘記録を提出して部隊の詳細情報を報告したところ、早急に後方に撤退させ再編する準備をするといい高級幹部が引っ込み、それと同時に俺を含めた同行してきた人員は翌日丸一日休暇を言い渡されたため、今は言い渡されたホテルの一室で寛(くつろ)いでいる。

 

(明後日にはまた新しい戦場か…、今日一日寝るか)

 

そう思い睡魔にされるがまま襲われようとしたところに、ドアがノックされた。

無視してもしつこくたたいてくる上、だんだん力が強くなって行っている。

数か月ぶりの柔らかいベットでゆっくり寝ようと思ったのに誰だチクショウ。

 

「はい、どちら様で?」

 

怒りを込めた声で扉を開けると目の前には、

 

「ショウ君遅い!女性を待たせるなんて最低な行いだよ?」

 

私服に着替えた先生がいた。

 

「…何の事ですか?」

 

「せっかくの休みなんだよ?やることは一つでしょ!」

 

そりゃそうだ。やることは一つだ。

 

「睡眠ですよね?では…」

 

おやすみなさいと言ってドアを閉めようとしたらすさまじい力でドアを抑えられた!え?見えないスーツでも着てるの?

 

「ち・が・う・で・しょ・!滅多にないんだから楽しまなくちゃ!」

 

普段は見ないまるで威圧するかのような言い方に目が覚めてしまった上に、つい、はいそうですねと言ってしまったせいで泣く泣く町に行く羽目になった。先生は凄く良い笑顔だったけど。

 

   ‡   ‡   ‡

 

「んで、町に来ましたけど、具体的には何するんです?」

 

町に来たものの何をするか聞いていなかったことを思い出し先生に問い掛ける。

 

「んー、ショッピング?」

 

「なんで語尾が疑問形何ですか…?」

 

「だっていま思いついたからね!」

 

駄目だこの人…。

 

「先生…、言っておきますけど俺は徹夜状態なんですからね?本当に無計画ならホテルに帰りますよ?」

 

戦闘による疲労と徹夜のイライラした声で話すと流石にやばいと思ったのか、慌てた様子で否定する。

 

「ごめんごめん!違うよ?ちゃんと計画はあるよ!」

 

今更ながら表情豊かだなーこの人。

 

「で、どこに向かうんですか?」

 

「えーと、最初はね、ここ!」

 

と言って差し出された地図はドイツ語の観光案内。読めるわけがない。

 

「はぁ、……案内頼んます」

 

諦め状態の俺に対し先生は、

 

「本当は男性がエスコートするんだけどね」

 

微笑みを浮かべて俺の手を取り歩き出した。

 

 

 結局その日一日は先生と過ごした。

軽くショッピングモールを回って、レストランで食事を取り、午後三時くらいにホテルに戻った。

部屋の前で別れ際、先生は部屋に入ろうとする俺の袖をつかんだ。

本人も無意識だったらしく、顔を赤くしながら謝って自分の部屋に戻ってしまった。

シャワーを浴びて部屋着に着替え、ベットに横になる。

すぐに睡魔が襲ってくるが今寝たら確実に夕食を逃すことになるので、根性で眠気を抑え込む。

 

(次の戦場はどこだろうか)

 

ふとそんな疑問が頭をよぎった。

 

(どうせどこに行っても地獄だ)

 

頭の中の自分が答えを出した。

 

休む暇なく各地を転戦していたせいか、こんな日にも戦場の事を考えるようになってしまった。

せっかく先生が気分転換をしてくれたのに台無しだ。

 

「クソッ!」

 

飲み物を取ろうと立ち上がったその時、

 

 プルルルルルルルルルル―――――

 

部屋に備え付けられた内線ではなく、士官が持つ軍支給の電話がなった。

これが鳴ったということは上からの呼び出しだろう。

 

 

「はい、御旗です」

 

『御旗大尉、欧州司令部のジャック・クリフト大佐だ。今いいかね?』

 

「はい。大丈夫です」

 

よりによって司令部からか。次の配属についてか?

 

『それはよかった。悪いが今から本部まで来てくれ。配属と人員について話がある』

 

やっぱりな。

 

「了解しました。すぐに向かいます」

 

『よし、六階の第四士官室で待ってるぞ』

 

「はっ」

 

はぁ…、休暇とは何だったのか…。

急いで制服に着替え先生の部屋に行きドアをノック。

 

「はい?」

 

「御旗です」

 

名乗った瞬間ドアが開いた。反応はえー。

 

「珍しいわねーって…、どうしたの?」

 

明るい笑顔から一転、俺が制服を着ているのを見て、怪訝な顔をする。

 

「本部から配属と人員について話があると言われました。俺がいない間あいつらを頼みます。」

 

「分かったわ。………時間はどれくらいかかりそう?」

 

「分かりません。夕食の時間までに戻らなくても気にせず先に食べててください」

 

「……分かったわ。あーあ、せっかくみんなで楽しく過ごせると思ったのに……」

 

本当に心底残念そうだ。

 

「これも臨時とはいえ、指揮官の務めです」

 

「まぁそうね。行ってらっしゃい」

 

「はい。いってきます」

 

先生と別れフロントに行き、事情を伝え車を手配してもらって本部に向かう途中、

 

「大尉さん、今までどちらの戦場に?」

 

仕事柄普段から軍人を乗せてるためか、階級の見方を知ってる若い運転手が聞いてきた。

 

「アフリカの某所、としか言えませんね」

 

「アフリカって、激戦地じゃないですか!戦況はどうなんですか!?」

 

 正直聞かれたくない事を聞かれた。

悪意がないのは分かってる。

興味本で聞いてるだけだ。

仕事が終わった後の酒の肴にでもするのだろう。

運転手の表情を見れば尚更わかる。  

自分が戦地に行けない分、【人類の存亡を掛けた戦い】の話題に飢えてるのだ。

この場で「人類が優勢、もうひと押しで勝てる」と言えたらどれほど楽だろうか。

本当の事を言えず、さらに嘘を付けなかった俺は、

 

「申し訳ありませんが、私がいた戦線に関する情報は機密事項です。何かあれば本部が各種メディア

を通じて報道するでしょう。それまで待ってください」

 

と、冷静を保って早口でまくし立ててごまかすしかなかった。

こういった対応に慣れている運転手も、

 

「そうですか。報道が楽しみです。アフリカには友人がいるんですよ。フェルナンド・メッサーって聞いたことないですか?確か伍長だったと思うんですが?」

 

「さぁ、知らな……」

 

知らないと言おうとした瞬間、断片的な記憶がフラッシュバックする。

太陽が頭上で輝く中、虫の体液や仲間の血を浴びてもなお前進する人類。

それを阻むように地面から這い出てきて襲い掛かってくる鋼鉄虫。

その地獄絵図の中、混線した無線で確かに聞こえた言葉。

 

 

『フェルナンドが食われた!援護を!』

『メッサー伍長は手遅れだ!諦めろ!』

 

 

 自分の事で精いっぱいで忘れていた戦場の一コマ。

この時の無線の人物の名前が聞き間違いじゃなければ、フェルナンド・メッサー伍長は虫に食われて戦死したということになる。

 

「大尉さん?どうかされましたか?」

 

運転手の問いかけにはっとした俺は、

 

「あ、いや、すまんが聞いたことがない名前だな。恐らく違う部隊だろう」

 

と、またしても嘘と真実を混ぜた答えをするしかなかった。

 

「そうですかー。まぁ、奴はなんだかんだで生きてますよ。『幼馴染と結婚するまでは絶対に死なねぇ!』って本人の前でずっと言ってましたからね!そんでもってその幼馴染も幼馴染で顔を真っ赤にしながら『ありがとう』なんて、見てて腹が立つくらいでしたよ!」

 

「そうか。ところで本部まであとどれくらいだ?」

 

正直、これ以上聞きたくなかった。

無理やり話題を変えたことに特に何も感じていないのか、

 

「もうすぐですよ」

 

と変わらない口調で返してきた。

 

「ところで大尉さん、日本人かい?」

 

「…そうだが…?」

 

「中国と朝鮮が落ちてアジアの先進国は今じゃ日本だけ。島国っていうのはうらやましいですねー」

 

「……そうだな」

 

島国は文字通り周りが海で囲まれているため、水を、特に海水を苦手とする鋼鉄虫は海を渡ることが出来ない。【天然の要塞】といったのはどこの誰だったか。まさしくその通りなのだ。ここまで劣勢になるとは思っていなかった人類は、近々アジア司令部を日本に、欧州司令部をイギリスに移す計画もある。

そのため、アジアなら日本、ヨーロッパならイギリスに難民が殺到し、治安の悪化が国際問題となってしまっている。

 

「あー、そろそろ着きますよ」

 

窓の外には数百年前の城を改築し、いたる所に対鋼鉄虫用の罠が仕掛けられた欧州司令部があった。

 

「お疲れ様です。着きましたよ」

 

「ご苦労」

 

ドアを開けてチップを多めに渡す。

 

「こんなに!?良いんですか?」

 

案の定驚愕した表情を浮かべる運転手。

 

「いいんだ。友人の無事を仲間と祈ってくれ」

 

これも嘘だ。

本当の事を言えなかった自己満足の罪滅ぼしだ。

 

「―――――!」

 

これ以上運転手の顔を見たくなかった俺はそのまま回れ右をして本部の出入り口に向かう。

出入り口のガラスに写った運転手は俺が建物に入るまで、見よう見真似の敬礼を送っていた。

 

 




読んでくださりありがとうございます。早坂将です。
序章に引き続き本編が開始されました。
今後は三千~五千文字程度に収まるように書こうと思っていますのでよろしくお願いします。
誤字や脱字がありましたらご報告していただけると幸いです。
次話のUPはいつになるか分かりませんが、またお会いしましょう。
ではまたーノシ
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