スティール・クロニクル ーBruised Soldiersー   作:早坂 将

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お待たせしました。あんまり進んでいないような気がしますが、本編どうぞ。


第二話

エレベーターで六階へ上がり、足早に第四士官室に向かう。

 士官室は士官室という名前の響で書斎や執務室のような整理された部屋を想像しがちだが、クリフト大佐の場合は書類が散乱しており、補佐の下士官が一日かけて整理しても数日後には元に戻ってしまうほど整理下手なのだ。

ただ優秀な参謀ではあるため、上も特に注意もせずほったらかし状態が続いている。

ノックして入室すると、先客がいた。

制服と階級章からして中尉の女性ハウンド。

光の加減によっては銀にも見える白髪は背中に届いており、美少女というよりは美人の類の奴だった。

 

「ご苦労。まぁ二人とも座れ」

 

この大佐は周りの目がないと下の者の態度をあまり気にしない性格で有名である。

勧められて座ったソファはホテルのロビーにあるようなフカフカ加減で油断すると意識を睡魔に制圧されそうになるが、これから大佐が話す内容は俺だけでなくあいつら全員の事だから意識を保っていなければならない。

 

「大尉、早速だが紹介しよう。今期士官学校を首席で卒業したリノリア・ロトリフ中尉だ」

 

「初めまして!大尉!第十五期主席のリノリア・ロトリフ中尉です!よろしくお願いします!」

 

さっき座ったばかりなのに勢いよく立ち上がって敬礼をよこしてきた新任中尉の勢いに押されつつ、俺も立ち上がって答礼する。

 

「元気があって何より。御旗(みはた)翔(しょう)希(き)だ。階級は大尉。よろしく」

 

「はい!改めてよろしくお願いします!」

 

きれいな顔してやがる。別に見惚れたわけじゃない。軍関係の伝手である程度戦場の状態を知ってはいるんだろうが、本物の戦場を知らない目だ。こういう奴に限って下らん理想を持っていたりするんだよな。……厄介な奴だ。

 

「うん。自己紹介も済んだことだし、早速話をしよう」

 

大佐が話す態勢に切り替わったのを見て姿勢を正す。

 

「大尉、今回の急な指令を受けてくれたことに感謝している。余計なことは省いて伝えるが、君はこのまま北欧要塞の第一中隊隊長に着任してもらう」

 

俺が隊長?マジかよ?

露骨に嫌そうな顔を隠さない俺に対し大佐は、

 

「君の過去に何があったかは私も聞き及んでいる。だが、そろそろ克服できても良いころ青じゃないか?」

 

「……………そんなすぐに克服できるようなら、トラウマになんてなりませんよ……」

 

トーンを落としたドスを効かせた声で呟き大佐をにらむ俺を見た中尉は息をのみ、冷や汗を流す。

 

「……確かにそうだ。俺もそう思う。だが、司令部の決定だ。流石の俺でも口出しできんよ」

 

俺の無言を了解と見た大佐は続きを話し始めた。

 

「今回君が連れてきた者たちは全員君の部下ということになる。もっとも、正確にはそこにいるロトリフ中尉の部下だがな」

 

おい、ちょっと待て。

 

「……それはつまり…、ロトリフ中尉が私の部隊の小隊長になるということですか…?」

 

「話が早くて助かるよ大尉。中尉には第一中隊第一小隊の隊長を任せることが決まっている」

 

あいつら、っていうより先生が他の指揮官の所に行くのか。会えなくなるわけじゃないけど複雑だな。有能な人材を手放したくはないし、俺が腹を割って話せる数少ない人だからな。

 

「そうですか…。ですが、あのメンバーの中には一人少尉がいますが…、彼はどうするのですか?」

 

一瞬書類に目を移して大佐は答えた。

 

「えーと、雪谷少尉か。彼は第二小隊を率いてもらうことになっているが…、何か問題でもあるのか?」

 

「いえ、問題はありません。彼はむしろそろそろ部隊を率いても良いころかと思っていました」

 

実際奴の戦闘経験と実績を見ても十分だと判断している。本人には言ってないけど。

 

「君が薦めるのなら間違いないのだろうな。よし、正式に決定としよう。ここでの話はこれだけだ。明後日午前七時に第四飛行場の要塞行の輸送機に便乗しろ、北欧要塞到着時に要塞司令官から詳しい説明があるから、そこで聞いてくれ」

 

「承知しました」

 

いくらか言いたいことがあったが、既に要塞指令官に話が行ってるってことはここで俺が何を言おうと決定事項は覆らないということだ。

もうこの散らかった部屋に用はないので、回れ右してドアノブをつかんだ時だ。

 

「あ、あの!」

 

中尉が声をあげた。

 

「お?どうした?」

 

もう終わったと決めつけていた大佐は目を丸くして中尉を見た。

 

「まだ私の宿泊先をうかがってないのですが……」

 

「あ」

 

困惑した声で中尉が尋ねた。反応からしてマジで忘れてたなこの大佐。

ただ俺には関係なさそうなので止めていた手を動かしてドアを開けた途端、

 

「待て、大尉」

 

まさか案内よろしくってか?

 

「中尉の宿泊先は、お前さんたちが泊まってるホテルと同じだから案内頼んだ」

 

「……承知しました…。」

 

何てことだ。荷物が増えた……。

 

 

   ‡   ‡   ‡   

 

 

「お待たせしてすみません!大尉!」

 

「心配するな。待たされるのには慣れてる」

 

部屋を出た後、俺がフロントでホテルまでの車を手配している間、どうやらここに着いたばかりで荷物をまとめてなかった中尉を待つことになった。

 

「こういう時は『今来たところ』って返すのが正解ですよ?」

 

「…仮にも上官を待たせておいてその態度は何だ?」

 

「失礼しました…。大尉…」

 

「ふん、行くぞ」

 

俺の予想外のぶち切れ具合に本気で落ち込む中尉。悪いな、徹夜状態は特に機嫌が悪いんだ。

 車に乗ってからは特に渋滞に巻き込まれることもなく、スムーズにホテルに着いたが、フロントで中尉のチェックインをしようとした時、予想外のことが起きた。

 

「……何だって?」

 

「えっと…、ですから、『リノリア・ロトリフ』様が宿泊される予定はありません…。」

 

「日にちがずれていたりとかは?」

 

「それもありません。当ホテルでは宿泊されるお客様はコンピューター管理していますが、そもそも名前がヒットしないので…」

 

中尉の宿泊予約がされていなかったのである。あのクソ大佐、予約したつもりになってただけで忘れてやがったな?

 

「部屋は空いてますか?」

 

「申し訳ありません。満室です…」

 

なんてこったい。これじゃ中尉だけテント泊になっちまう。

チラッと後ろの中尉を見ると、……今にも泣きそうな顔をしていた。しかたねぇ。

 

「追加の仮設ベットは余ってますか?」

 

「それなら…はい。余ってますが…」

 

しめた。

 

「仮設ベットを一つ貸してください。あと雪谷少尉を私の部屋に移してください。そうれば部屋が一つ空きますよね?」

 

もうこれしかねぇな。

 

「確かにそうですが…、軍の士官には個室を充てるという規則がありまして…」

 

「このままじゃ士官学校を主席で卒業したエリートを公園のベンチで寝かせることになるぞ?五ツ星ホテルとしてそれが許されるか?」

 

「………責任者と相談してきますので少々お待ちください……。」

 

 受付嬢が引っ込んですぐ、責任者らしき初老の男が出てきて話し合った結果、俺の意見がそのまま通り、中尉はベンチ泊をせずに済んだ。急だったためいろいろ料金がかかるようだが、全部大佐に回しといた。これくらいは許されるはずだ。

 

「大尉、ありがとうございます」

 

鍵を受け取りフロントを後にし、エレベーターに乗った時、中尉が突然礼を述べた。

 

「別に気にするな。俺も雪谷少尉も同郷だから仲が悪いわけじゃない。それに第二小隊の隊長になるにあたって少々話すこともあるから丁度良かった」

 

「ですが……」

 

「細かいことは気にするな。直前での計画の変更なんて良くあることだし、これから配備される北欧要塞は最前線中の最前線だ。これくらいの事を気にしてたらきりがないぞ」

 

「……分かりました……」

 

早口でまくし立てたのと最初のタクシー待ちの件があってか、彼女がこれ以上話しかけることはなかった。

エレベーターを降りて左に曲がってすぐの所に俺らの部屋がある。

先ずは俺の部屋の隣にある雪谷の部屋へ行き、移動の事を伝えるようとノックをしようとしたが、違和感に気づき手を止める。

 

(女の声?)

 

微(かす)かにだが女の声がするのだ。それも笑い声が。

俺が知っている雪谷は女を笑わせることが出来るほどトーク力はない。ていうかコミュ力もないはずだが…。

 

「大尉?どうしたのですか?」

 

後ろの中尉が怪訝そうな顔で聞いてくる。

 

「あ、あぁ、なんでもない」

 

内心の戸惑いをうまく隠して返事を返すも、なんか変な汗が出てきた。

改めてノックをすると、返事が来たから俺が入室することを伝える。

 

「丁度隊長を待ってたところです。早く入ってください」

 

何故だろう?ヤな予感がする。

だが、伝えなければならないことの方が重要なため、入らなければならない。

 

「雪谷、お前の部屋についてなんだが……」

 

ドアを開けながら要件を伝えようとしたが、俺は途中までしか言えなかった。

 

「ショウくんおかえりー。待ってたよー」

 

「隊長、おかえりなさい」

 

「曹長、二等兵、ここで何をしている……?」

 

雪谷の部屋に全員集合してたのだ。こればっかりは予想してなかった。

 

「いやー、最初はシエラと二人でトランプしてたんだけど、二人じゃあんまり盛り上がらなくてね。だからユキタニくんの部屋で三人でやってたところなんだー。結構盛り上がっちゃって。ババヌキっていうの?単純なルールだけど面白いね。早く四人でやろうよ!」

 

部屋着に着替えたイケメンと美女と美少女が一人ずつ。遊びの誘いはうれしいが、優先順位は変わらない。

 

「お誘いはうれしいですし、後で俺も混ざりますけど、その前に皆に紹介する人がいる」

 

「え?もしかして彼女?」

 

「あなたは俺の親ですか…?」

 

「でもショウくんなら…」

 

そういって頬を赤くする先生を放っていて中尉の紹介を始める。

 

「これから行動を共にするリノリア・ロトリフ中尉だ。中尉、挨拶を」

 

左に一歩ずれて場所を空け、後ろにいた中尉が前に出る。

 

「初めまして!第十五期主席のリノリア・ロトリフです!次の配備先では私が皆さんの隊長を務めさせていただきます!よろしくお願いします!」

 

中尉が教本通りのきれいな敬礼をすると、くつろいでいた三人も立ち上がって敬礼をする。

 

「雪谷一矢、階級は少尉です。よろしくお願いします…」

 

「アリスタ・フォード曹長です。よろしくお願いします」

 

「えっと…!シエラ・リュート二等兵です!よろしくお願いします!中尉!」

 

挨拶も済んだところで俺も伝えるべきことを伝える。

 

「皆、そのまま聞け。次の配属について説明する。我々は明後日明朝〇七〇〇に。第四飛行場から物資と共に要塞に向かう。向うでの人事だが、フォード曹長とリュート二等兵はロトリフ中尉率いる第一中隊第一小隊に配属される。雪谷少尉は第一中隊第二小隊の小隊長だ。隊を率いるのは初めてだろうがお前ならやれるだろう。がんばってくれ」

 

「俺が小隊長…」

 

雪谷が驚いた表情で日本語で呟く。

 

「大尉はどちらに配備されるのですか?」

 

先生が不安げな目で問い掛けてくる。

 

「俺は……、第一中隊中隊長だ…。結果的に向うに行ってもお前たちが俺の部下であることには変わりはないな」

 

「そうですか…。安心しました」

 

言葉では安心したと言っているが、表情はまだ不安げだ…。

 

「そういうわけだ。詳しい話は要塞到着後、要塞指令官から直接伝えられる。以上だ」

 

俺が最後に言い伝えると緊張した空気が霧散するのが伝わってくる。

 

「ふー、ショウくん中隊長になるんだ。ユキタニくんも小隊長なんて良かったじゃない!」

 

さっきまでの不安げな表情はどこへやら、先生は花束のような笑顔を咲かせて言ってくる。

 

「小隊長…、間違いないんですよね?隊長?」

 

雪谷が確認するように聞いてくる。

 

「あぁ、俺も推しておいた。間違いなくお前は小隊長になる」

 

「―――!」

 

「奮い立つか?」

 

「はい―!ありがとうございます!」

 

「構うな。お前にはそれだけの知識と技量がある。期待してるぞ」

 

「はっ!」

 

最敬礼を送ってくる雪谷を受け流し、改めてリュート二等兵と親交を深めている中尉を呼ぶ。

 

「何でしょうか?大尉?あ、中隊長の方がよろしいですか?」

 

「どちらでも構わん。……ロトリフ中尉、必然的に第一小隊の隊長であるお前が俺の補佐の役割もすることになる。もし分からない事があってもそのままにしておくな。自分で解決できそうにない時は俺か、そこのアリスタ曹長でもいいから聞け。主席のプライドなんか戦場じゃ何の役にも立たないからな」

 

「はい。ありがとうございます大尉。改めて、これからよろしくお願いします!」

 

中尉が差し出した右手を俺は強く握り返すと、先生はどこからかカメラを取り出し握手している俺と中尉に向け、シャッターを切った。

 

 

   ‡   ‡   ‡    

 

 

この後、雪谷に部屋の移動の話をしたら、気持ち悪いくらいの即答で返事をよこしたから、すぐに荷物をまとめさせた。っていってもこいつはほとんど荷解きをしていなかったから五分も掛からなかったが。

 

部屋を移動する直前、中尉が雪谷に礼を述べた後何やら話し込み、三回ほどうなずき合った後戻ってきた。

 

「何を話していたんだ?」

 

普段口数が少ないだけに、雪谷が誰かと積極的に話していた内容が気になった俺はすかさず歩きながら日本語で聞いてみた。

 

「格闘、特に剣術が得意だと言っていたので、手合せを申し込んできました」

 

なるほど、〝お突き合い〟をする訳か。

 

「そうか。日本人として恥じない戦いをしろよ」

 

「分かってます。必ず勝ちます」

 

やる気も士気もバッチリで頼もしいことこの上ない部下たちばかりでよかったと、心の底から思った瞬間であった。

 




どうも早坂です。
気が付いたらメインのはずのサバゲーオリジナル小説の執筆をせずにこちらを書き進めていました。
オリジナル小説ってなかなか進まなくて大変です。本当に。ちょこちょこサバゲーにも行ってゲームを録画して参考映像は溜まっているんですけど行動パターンがほとんど同じなので困ってます。今度は友人にカメラを託すか…。
って、ここでサバゲーについて語ってもしょうがないですね。w

ていうわけで本編二話目です。通算すれば三話目ですね。
時々情報をチェックしていたのですが、ようやくお気に入りが一件になりました!
夜魅夜魅様、ありがとうございます!
ナメクジ並のペースになってしまうと思いますが、UPしていくのでよろしくお願いします!

次話ではあらすじ通りの輸送機墜落辺りまでを書きたいと思っています。

ではまたーノシ
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