スティール・クロニクル ーBruised Soldiersー   作:早坂 将

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もうそつろんいやでち


第三話

その後は先生に誘われた通り、ロトリフ中尉を含めた五人でトランプで盛り上がった。階級を抜きにしての無礼講を告げると、ロトリフ中尉は驚いていた。タクシーの件でガチガチの軍人だと認識していたようだ。ついでに少し八つ当たりしていたことを謝ると、翌日朝食を奢ることで許してもらえた。無礼講にしなければ良かったとこの時始めて後悔した。

 時計が既に日付が変わって三十分経っていることを示しているのに気付いた俺は、今日一日は完全に休みであることを改めて告げ、雪谷を引き連れ部屋に戻った。

 

「そういや雪谷、今日フォード曹長と町を歩いていて見つけたんだが、日本食レストランがあるようだぞ」

 

無理やり連れだされて嫌々歩き回ったが、どこにどんな店があるかは大まかに把握しておいた。その中に日本食レストランを見つけたのだ。そのことを雪谷教えてみると案の定食いついてきた。

 

「本当ですか!?三カ月ぶりに日本米が食えるんですか!?」

 

普段のクールさからは想像も出来ないような大きな声と柔らかい表情で歓喜している。三か月間の缶詰生活は本当につらい物だった。

 

「あぁ。明日の昼はそこで食わないか?奢るぞ?」

 

「奢りだなんてとんでもない!自分の分は自分で払います!」

 

「上官としてほとんど何もしてやれてないんだ。俺が払うよ」

 

「ふっ…」

 

雪谷が突然吹き出した。

 

「…?」

 

俺のどうした?という目線に気づいた雪谷は笑みを浮かべたまま訳を話しだした。

 

「いえ、こういう日本人的なやり取りも本当に久しぶりだと思いまして…。すみません。話の腰を折ってしまって」

 

「気にするな。俺も同じことを考えたさ。よし、明日に備えて今日は休もう」

 

「はい!」

 

寝る準備を済ませて、いざ寝ようというタイミングで、ベッドを譲る俺に反対した雪谷と一悶着あったのは別の話。

 

 

   ‡   ‡   ‡   

 

 

 朝七時、熟睡中の雪谷を起こさないように私服に着替えて部屋を出て、一階ロビーでロトリフを待つ。

 

「おはようございます。お待たせしました。大尉」

 

「俺も今来たところだ。行くぞ」

 

そう言って俺は歩き出したが、ついてくる気配がなかったので振り返る。

そこには困惑した顔でこちらを窺うロトリフがいた。

 

「どうした?」

 

「あ、いえ、本当によろしいのかと思ってしまって…」

 

休日とは言え上官に奢らせることを今更気にしているらしい。おせぇよ。

 

「別にかまわんさ。だが、最初で最後だと思えよ?」

 

「思えってことは二回目もあるんですか?」

 

今度は期待を込めた眼差しで見てきた。全くこいつは…。だがまぁ…。

 

「次生きてまたこの地に帰ってこれたら、あるかもな…」

 

「ますます死ねなくなりましたね」

 

「…せいぜい、死にあらがうことだな」

 

何かを察したような優しげな微笑みを浮かべるロトリフを連れて、今度こそ俺たちは歩き出した。

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 ロトリフと朝食を取った後、ロトリフは、リュートを連れて先生の案内で昨日俺と先生が巡った店を改めて巡るそうで、さっさと部屋に戻り、いつの間にか起きて別のところで朝食を済ませていた雪谷は、トレーニングウェアに着替えてホテル内のジムに向かうところだった。

俺も特にやることがなかったので、三十分ほど食休みをした後、一緒にジムに向かうことにした。

満室の割にはほとんど人はおらず、不自由なく自由に使えそうだった。

午前八時半。念入りに準備運動をしてからランニングマシーンを起動させ、始めはウォーキング程度の速さで歩き、だんだん早くしていく。

大体一時間程軽く走った後、水分補給をしてまた走る。今度はランニングマシーンの機能の一つである、坂道を再現した設定にして、さらに一昔前の陸軍の様にウェイトを背負って走る。隣の雪谷も同じようにして走っている。但し設定は平坦のままだ。

その異様なランニングスタイルに周囲からの目線を感じるが、こんな装備でハイペースで走っていられるのは、軍人しかありえないと判断したらしく、そっとしておく選択肢を選んでくれたようだ。

運動をしていると意外なほど時間が経つのが早く感じる。チラっと左手首に巻いてある、全世界の軍や警察組織で使われている日本製腕時計を見ると、既に十一時半になっていた。

隣で黙々と走る続ける雪谷に時間を告げ、撤収の準備をしていると、受付にいたスタッフたちが、本来有料であるはずのスポーツドリンクやらタオルやらをサービスでくれた。その時いろいろ声を掛けられたが、要約すれば、「応援してます!」との事だった。

 さっさとシャワーを浴びて私服に着替えて、二人揃ってホテルを出ると、砂漠でも頭上にいたとは思えないほど優しげな太陽が輝いていた。

十月の肌寒い気温にはちょうどいい温かさだ。

 

「方向はどっちですか?隊長?」

 

まるで散歩前の犬の様に、早くいこうと暗に急かす雪谷に笑いそうになるが、ここはこらえる。

 

「落ち着け、場所は覚えてある。行こう」

 

この時ばかりは俺も普段より早いペースで歩いてしまった。日本人の本能ってやつの恐ろしさを今更知ることになった。

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 比べるのは間違いかもしれないが、ホテルのジムと比べ、日本食レストランはかなり混んでいた。二百人程収容できる店内は、家族連れやカップルで一杯だった。二人だったから良かったものの、これは先生たちもいたら諦めざるを得なかっただろう。

 大通りに面した窓側の奥の席に案内された俺達は、日本語と英語とドイツ語で書かれたメニューを受け取り、開く。まぁ、食べたいものは大体決まっているけどな。

 

「俺、マグロ海鮮丼と肉餃子で」

 

雪谷はメニューを開いて一秒もしないうちにターゲットを見つけ出したようだ。

 

「じゃぁ俺は……、焼鳥丼と軟骨のから揚げだな」

 

とりあえず四品だけ決めると呼び出しボタンを押す。

混雑具合から時間がかかると思っていたが、思いのほか早く店員が来た。アジア系で名札にはローマ字で「Akino」と書いてあるから、日本人だろう。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 

英語で聞かれたが、

 

「マグロ海鮮丼と焼鳥丼を一つずつ、肉餃子と軟骨のから揚げも一皿ずつ頼む」

 

日本語で返すと安心したような表情になった。

 

「日本の方でしたか。ドイツにはお仕事で?」

 

日本人をあまり見かけないせいか、話しかけてきた。

 

「あぁそうだ」

 

簡潔に返す。

 

「もしかして、軍関係ですか?」

 

声を潜めて核心をついてきた。偶然か知らんが、なかなか感がいいな。

 

「ハウンドだ」

 

こちらも声を潜め正体を明かす。ここで身分証の提示も忘れない。

 

「―――!」

 

何かを言いかけたが、すかさず次を言う。

 

「三カ月ぶりの日本食だ。一番うまい米を頼む」

 

「料理長に伝えます!」

 

店員が厨房に消えた後、数人の店員がちらちらとこちらの様子を窺ってくるのを感じ取ったが、ここは日本人のハウンドが珍しいという事実があるため我慢する。

 

「良かったんですか?迂闊にハンドであることを告げても」

 

機密にかかわらないかどうかを心配している雪谷に、俺は少し裏技を教えることにする。

 

「いいか雪谷。ハウンドとは全人類の希望だ」

 

「はい」

 

「確かに大きな声で主張することではないが、こういった場面では大いに役立つ」

 

「ど、どのように」

 

もし軍服を着ていれば、訓練学校の座学のような雰囲気を醸し出している(主に雪谷が)が、ここはレストランだ。

 

「日本から遠く離れたヨーロッパで、日本食レストランを経営してる日本人と関わりを持てば、帰ってくるたび、他の客とは一味違うサービスを受けれるってもんだ。ほら、来たぞ」

 

「!?」

 

話して居るうちに注文したメニューが席に届けられる。だが、明らかに量がおかしいし、合計四皿であるはずなのにテーブルに並べられた料理は六皿だ。

 

「お待たせいたしました。マグロ海鮮丼大盛りと肉餃子、焼鳥丼大盛りと軟骨唐揚げです。こちらとこちらは料理長からのサービスです。」

 

といって指をさした先にあるのは、これまた大盛りの回鍋肉と野菜サラダである。

単に肉を盛っただけでなく、戦闘糧食では不足しがちな食物繊維や各栄養素などをバランスよく摂取できるメニューである。

 

「悪いな。気を使わせちまって」

 

「いえいえ!店長の指示でもありますから、お気になさらず。ごゆっくりどうぞ」

 

と言い残し店員は用意していたチップも受け取らず帰ってしまった。

 

「こういうことが起きるんだ」

 

「………………職権乱用…………?」

 

「人聞きが悪いことを言うな。俺は一切頼んだり命令したりしてないぞ?これは店側のサービスの一環だ」

 

「はぁ…」

 

いまいち納得していなさそうな雪谷の反応を受け流しつつ、料理に箸を付ける。

 

「まぁ、何かと理由を付けてサービスしたがるのが日本人ってやつだしな。こまけぇ事は気にすんな。冷める前に食うぞ」

 

「分かりました。いただきます!」

 

 長い事缶詰しか食ってなかった俺たちには、このレストランの料理は一生忘れられない味になり、絶対にまた来ると二人で誓うのであった。

 

 

   ‡   ‡   ‡   

 

 

 それぞれが思い思いの休暇を過ごした翌日、俺たちは予定通り第四飛行場に到着していた。

 輸送機は暖機のためエプロンに出ており、俺たちは格納庫で、搭乗命令が来るのを待っている段階だが、途中何が起こっても良いように全員がスティールスーツを着用し、最低限の戦闘に必要な装備を身に付けている。

 

『御旗大尉、管制室まで来てください』

 

無線で呼ばれる。あと少しで搭乗予定時刻なのに、何かあったのか?

無線は全員に聞こえていたようで、怪訝そうな表情を浮かべている。何か嫌な予感がするな…。

エレベーターを上がって管制室近くにあるブリーディングルームに通された俺は、待機していた通信士から、今後起きることが予想できることを告げられた。

 

「出発直前にわざわざすみません、大尉。二日ほど前、北欧要塞から連絡があり、出現したフレズベルクを取り逃がし、ロストしたとの事です。妨害電波を探知したエリアを捜索していますが見つけられていません。ロストした空域が、丁度今回の大尉方の乗る輸送機の進路と被っていまして、途中警戒せよ都の事です」

 

フレズベルクとは、蛾の姿をした飛行型の鋼鉄虫で、飛びながら妨害電波を発したり、幼虫をまき散らしてくるボスタイプの虫だ。

こいつは、同じ鋼鉄虫以外の飛行物体には体当たりを仕掛けてくる習性があり、出現情報が入るとその空域は討伐するまで飛行禁止になるはずである。

 

「現在北欧要塞では度重なる襲撃によりすべての物資が不足しており、これ以上補給を止めるのは要塞として機能が止まるとの上層部の判断により、作戦を強行することが決定しました」

 

俺の疑問を先読みした通信士が理由を話す。

 

「下手したら体当たり食らって全員死ぬってことを理解したうえでの命令か。上の連中は今の人類の状況を理解しているのか?」

 

一人の兵士の命でさえ無駄には出来ない状況なんだぞ。

 

「中止の要請は我々もしたのですが、今更変更は出来ないと…」

 

将校たちの都合の押し付け合いに板挟みにされ心底困り顔の通信下士官にこれ以上文句を言うのは間違ってる。

指示を出した指揮官を呼び出してもらい、危険性を訴えて抗議するも、要塞は既に明日食べる食料にも困っているほど消耗していて、負傷者の治療も満足に行えていないと改めて伝えられた。

 

「君らが要塞に向かっている間、我々も警戒を続け、捜索と討伐隊を向かわせる。飛行中少しでも電波に異常が発生したら速やかに報告してくれ」

 

「私たちハウンドは地上じゃ最強ですが、輸送機で運ばれてる間は何もできません。要塞が危機的状況なのは承知しましたが、フレズベルクが見つかっていない以上、部下の命を預かる指揮官としても作戦の強行は納得できません」

 

今作戦の指揮官である少佐は、顔の皺を増やしながらため息をつく。

 

「……私も君と同じ立場なら断固反対するだろう。だが、要塞へもすでに連絡済みだし、中止の連絡をしようにも、電波障害の影響で通信が出来んのだ……」

 

「鱗片が撒かれてるってことじゃないですか!少なくとも飛行可能まで回復してる証拠ですよ!」

 

フレズベルクが電波障害を引き起こすのは鱗片が原因だ。鱗片は、飛ばなきゃ散らない。

損傷を負わせ、撃退したと聞いていたが、損傷は思ったほど深くなかったようだ。

少佐が何か言おうとしたタイミングで、大佐の階級章を付けた別の将校が部屋に入ってくる。

高階級の割には見た目が二十代と若く、オールバックで固められた金髪と、その人を見下すような目つきは、恐らくコネで上ってきた将校だろう。

 

「御旗大尉、こんなところで話している暇があったらさっさと輸送機に乗り込め」

 

「…大佐、お言葉ですが――っ!」

 

この無能にも一言言おうと口を開いた途端、俺は頭に衝撃を受けた。左頬を殴られたのだ。

 

「黙れ!貴様らは命令通り、要塞への補給任務を成功させればいいのだ!余計な口答えなんかせずに従え!」

 

こいつの首をこの場で刎ね飛ばしたい衝動に駆られるが、この馬鹿の血でこの場と俺の経歴を汚すわけにもいかない。ここはこらえるしかない。

 

「……大尉、すまん……。命令だ、行ってくれ…。」

 

制服も表情もくたびれた壮年の少佐は、小さな声で俺に命令を出す。

 

「………承知しました……」

 

敬礼をして退出する。

エジプトから帰ってくる時もそうだが、どうしてこうも俺をイラつかせる指揮官が多いのか。軍隊という絶対的な階級社会に在籍している以上、上官からの命令は絶対であるし、それは理解している。

地上作戦であるなら、命令内容を歪曲して、自分のやりやすいようにできるからまだ従える。だが、輸送任務の様に飛行機に揺られて移動するのは自分で反撃が出来ないうえ、俺より階級が下でもパイロットの判断が絶対であるため俺は意見程度しか出せない。

俺一人なら飛んでも構わないが、自分の部下たちの命を他人に預けるような真似は、したくない。

 

「隊長、何かあったんですか?」

 

いろいろ考えている間に格納庫へ戻ってきた俺に、雪谷が声を掛ける。

見れば、全員がどこか不安そうな顔をして俺を見ている。

さっきのやり取りをそのまま話すわけにもいかないから、フレズベルクが出没することを告げる。

案の定これ以上にない衝撃を受けているようだった。

 

「隊長…!フレズベルクって!出没する時点で飛行禁止じゃ…!」

 

先生が驚愕と恐怖が混ざった顔をして俺が抗議したことと同じことを言ってきた。全員が同じことを思っているだろう。

 

「何度も抗議したが、覆らなかった。それに、要塞の物資がもう限界だそうだ。俺たちが飛ぶしかない」

 

「そんな…!」

 

ロトリフ中尉も力のない声を出した。

 

『御旗大尉以下四名、搭乗を開始せよ』

 

全員が納得していない中、遂に登場開始の指示が出る。

 

「当然だが俺も納得していない。だが、やれと言われた以上、従うのが軍人の務めだ。示された条件の中で最善をつかむしかない。すでに賽は投げられた」

 

努めて落ち着いた声で訓示した俺は、一人ずつ顔を見て最後を締めくくる。

 

「指揮官の任務は部下を守り任務を遂行する事。それは諸君らの協力も必要だ。俺一人では何もできん。頼めるか?」

 

「「「「はっ!」」」」

 

四人がそろって敬礼を向けてくるのに対し、俺は微笑を浮かべ短く答礼し、実質今日から指揮する部下に最初の命令を下す。

 

「よし!搭乗開始!かかれ!」

 

装備を身に付け輸送機に乗り込む部下たちには、先ほどの不安な表情はなく、全員が凛々しく兵士の顔をしていた。

 




お久しぶりです。早坂です。一応生きてます。
輸送機墜落までと言ったな、あれは嘘だ。

卒論からの現実逃避のためにちょこちょこ書き進めてたら遅くなってしまいました。(言い訳)
当の卒論は提出期限まで一週間を切っているのにも関わらずまだ半分にも達していません。(これ提出できるか)もうわっかんねぇな。
就活も残っているので次はいつUP出来るか分かりませんが待っていただければ幸いです…。

読んでいただいてありがとうございます。ご意見ご感想114514。心よりお待ちしています。


次回は墜落までですかねー。何かあればまたお知らせしていきます。ではまたーノシ
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