とある自衛官が鎮守府復興してみた   作:うわぐつ24号

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このお話ではこの世界の艦娘達の歴史について書きました。


3話 屈辱の歴史

武蔵「少佐には、これから呉鎮守府の長官に、そして中尉には副長官となり、そこの艦娘達を守ってほしいんだ」ドン!

 

山本「まぁ、お願いとは言ってもこれは海軍省からの辞令だから、拒否はできないけどね」フフ

 

武蔵「むぅ…提督よ、そんな小言を言われたら決まらないじゃないか」グヌヌ

 

山本「ハハ、それは失礼失礼」ハハハ

 

武蔵「全く…って、2人とも聞いていたのか?」

 

 

九・橋「( ゚д゚)」

 

武蔵「お、おい!どうしたんだ2人とも!」アセアセ

 

山本「あ〜…やっぱ、そうなるよな〜…」アハハ…

 

山本「武蔵よ、考えても見てくれ。つい先ほどまでは艦艇の砲術長だった1人の初級幹部がいきなり鎮守府の長官、そしてただの下士官だったものがそのNo.2だ。この顔になってもおかしくないよ」

 

武蔵「そ、それもそうか…」ウーン

 

 

ーそんな2人の会話を聞きながら、俺は震える足を必死に止めつつ元帥に問う。

 

九鬼「げ、元帥、いくらなんでも少佐の者にこんな巨大な呉の長官に命じるのは、如何なものかと思うんですが…」アセアセ

 

橋本「わ、私も同感であります!部隊の指揮など経験もない私が、いきなり副官なんて…」アセアセ

 

山本「ハハ、大丈夫だ。君達に指揮してもらうのは何も『ここの』鎮守府じゃない」

 

九・橋「?」

 

山本「『あそこの』鎮守府だ」ユビサシ

 

俺たちが疑問の表情を浮かべると、元帥はドックとは真後ろの方向を指差した。しかし、住宅街が邪魔で何も見えない。

 

 

歩道橋を登って背後の住宅街を見てみる。すると、小高い山の頂上に、何やら役所の庁舎のような大きな建物が二棟、そして、野球場のような形のグラウンドがうっすらと見えた。

 

九鬼「…?あれは…」

 

俺が目を凝らして山の方向を見ていると、隣の武蔵が言った。

 

武蔵「あれは、従来の海軍の様々な業務を行う鎮守府とは少しテイストの異なる、呉鎮守府『別館』だ」

 

橋本「別館?」

 

山本「あぁ、先ほども説明した通り、この世界の日本には海軍に艦娘が所属している。そして、彼女達は出撃のみならず、演習やその他の座学も取り行う必要があるから、それらを集中的かつ円滑に進める為に、従来の鎮守府とは別に艦娘専用の鎮守府を各地に設置しているんだ」

 

九鬼「な、なるほど…」

 

山本「そして、君たちが着任するのはあの別館のトップというわけ。これで納得いただいたかな?」

 

九鬼「ですが、艦娘専用といえど、ここは呉です。かなりの艦娘が所属しているのではないですか?流石に私も艦娘に関しての知識だけが何故か無いので、不安なのですが….」  

 

この世界の記憶はあるはずなのに、艦娘関連の知識だけが何故か欠落している。不思議に思いながら元帥に問うと、隣の武蔵から静かな声が聞こえてきた。

 

 

武蔵「これはかなり言いづらい事なんだが、実は…」

 

橋本が武蔵の表情を読み取り、その先の言葉を促す。

 

橋本「実は?」  

 

武蔵「…多くの艦娘が撃沈され、あの鎮守府には20名ほどしかもう所属していないんだ…」ギリ

 

山本「…」

 

山本元帥も難しい顔で黙りこくっている。どうやら只事で失われた命ではないようだ。

 

2人の様子から、俺も何となく嫌な焦燥感に駆られる。怖くなって武蔵に問う。

 

九鬼「武蔵さん、詳しく聞かせてください。」

 

武蔵「…分かった。新たな長官として赴任するんだ。知っておかねばなるまい」

 

生真面目な顔で武蔵は俺に言い放つ。そこから、武蔵はゆっくりとその重い歴史を語り出した。

 

 

武蔵「私たち艦娘は、今から約90年前に、いわゆる前世で戦争にて戦没した艦からこの後世に艦娘として転生してきた。勿論、最初はみんな戸惑ったさ。たしか、一番最初にこの世界に来たのは、深雪だったかな」

 

深雪…特型駆逐艦の4番艦で、1934年に駆逐艦電と衝突して沈んだ艦だったな。あの元気一杯の深雪がこの世界の艦娘で1番古参なのか…

 

武蔵「まぁ、あの悲惨な戦場で、無念に散っていった者が大半だったからな。転生したての頃は、まず姉妹艦達や僚艦との再会を喜んだ者達が大勢だったな。」

 

懐かしむ表情を浮かべ、武蔵はゆっくりと語る。

 

武蔵「それから、私達は深海棲艦達との戦争に参加した。今度こそはこの大好きな日本を守ろうと、みんな必死に戦ったんだ。その為に、この世界の日本海軍にも協力して共に奴らの撲滅に注力したんだ。」

 

「その中で、時には傷つきながらも、私たちは何とか奴らを絶滅寸前に追い込み、1955〜2000年くらいまでは、本当に平和でゆったりとした時間を過ごしてね…当時は、沢山のいい思い出を作った物だよ。本当に懐かしい…」

 

ここまでの歴史は比較的に良いものに思える。これだけを聞けば、艦娘が激減した理由が分からない。

 

首を傾げて聞いていると、武蔵が続ける。

 

 

武蔵「…だが、あの日を境に、そんな私達の平和な生活は崩れ去った。それも、深海棲艦によってではなく同じ日本海軍の手によってだ…!」

 

先程までのゆったりとした口調から打って変わり、その美しい顔に怒りを込めて武蔵は言い放つ。そこに、橋本はすかさず噛み付いた。

 

橋本「あの日?何があったのでしょうか?」

 

武蔵「9.11同時多発テロだ」

 

橋本「9.11…前世では過激派のイスラム組織が、アメリカのワールドトレードセンターとペンタゴンで起こしたテロ行為ですね…こちらでは何が?」

 

呟くように橋本が武蔵に聞く。

 

橋本の言う通り、前世はイスラム原理主義組織であるテロ組織のアルカイダが引き起こした同時多発テロ。武蔵の様子から、こちらの世界では少々事情が異なるらしい。

 

 

武蔵「この世界では、それを深海棲艦の航空機が起こしたんだ」

 

まぁ、予想は着く。この世界の人間からすれば、そんな未知の生命体がいるんだから、むしろ種族の壁を越えて団結するだろう。

 

武蔵「だが、問題はここからだ。」

 

武蔵は声を地面に落とすようにゆっくりと言葉を漏らした。

 

武蔵「あの日、実は大西洋にて日本海軍の連合艦隊と、艦娘の艦隊が合同演習を実施していたんだ」

 

武蔵「そして、その時日本海軍の部隊が上空を通る深海棲艦の大編隊を発見したが、彼等はそれをスルーした。」

 

橋本「何故ですか!?見逃すなんて事、あっちゃダメでしょ!」

 

橋本が食ってかかる。

 

武蔵「実は、その海域では15年間深海棲艦の発見報告がなかった。その油断が1つ。それに、敵機の数からして、敵がいても演習部隊では勝てる見込みが無かった。でも、艦娘側からは即座に空母艦娘からの戦闘機発艦が具申されたんだ。しかし上層部の命でそれは叶わなかった。」

 

武蔵「その結果、アメリカへのテロ攻撃を許し、それに加えて敵のニューヨークへの空爆まで許した…」クッ

 

九・橋本「!?」

 

俺たちは驚愕した。なんと前世と同じツインタワーの襲撃に加え、空襲まで行われたとは……

 

武蔵「その結果、ニューヨークは壊滅的被害を被り、1万人が死亡。世界経済までもが一時麻痺したんだ」

 

武蔵「そしてだな、日本海軍は、あろう事か、この一件の責任を艦娘に被せた…」

 

九鬼「…そんな…」

 

そこに元帥が補足する。

 

山本「当時、日本海軍は長年艦娘が大規模に出撃するような機会がなかったからね。海軍の予算の2割を食っていた艦娘諸々の経費が邪魔だったんだよ。そして、艦娘の信頼を地へと落とす事で、それらの予算を艦隊の増強なんかに回そうと意図したんだろう。」  

 

武蔵「アメリカを見捨てた罪、なんてあるはずもない冤罪をかけられて、1人の艦娘に死刑が出されるまでに、当時の国内は荒れたんだ」ハイライトオフ

 

山本「私も必死に説得し、そして佐世保の憲兵部隊を出撃させて、なんとかその演習の時の旗艦だった空母艦娘を救い出せた。」

 

武蔵「あの時の友永大尉の顔、今思い出しても震えが止まらないよ…」

 

山本「それだけ、『飛龍』の事を愛していたんだ」

 

橋本(飛龍…あの艦娘の飛龍か。そして、友永大尉というのは、彼女の艦載機の飛行隊長だろうか…まさか、友永大尉まで転生しているのか?もう、メチャクチャだなぁ…)

 

武蔵「それからというもの、五十六を含めた少数の幹部を除き、海軍内には艦娘不要論、そして艦娘兵器論を唱え出す将校が激増し、この呉鎮守府をはじめほとんどの艦娘施設で虐待や性被害が多発し出した。これが、ここ10年間くらいの我々艦娘を取り巻く環境だ」ギリ

 

 

橋本「それで、現在呉には20名の艦娘が居られると仰いましたが、元は何名ほど?」

 

山本「…90名だ」

 

橋本「…え?」

 

橋本「よ、4分の1以下じゃないですか…!」

 

九鬼「…」 

 

武蔵「舞鶴や佐世保にもいわゆる『ブラック提督』が着任していたが、呉は特に酷かった。なんでも、『特攻作戦』を多用したからな」クッ

 

山本「前世で多くの特攻隊員達を見ていた彼女たちに、また同じような事を今度は彼女達自身にしてしまった。本当に、悔しいね…」

 

橋本「で、でも元帥なら止められるのでは…?」

 

山本「私のような艦娘に温和な将校は、一時期かなり命を狙われていてね…それに、彼らが根拠もないスキャンダルを持ってきたりで、そもそも艦娘達にすら関われなかった時期もある。」

 

武蔵「だが、横須賀鎮守府だけは五十六達温和派の根城だったからな。ここだけは平和はなんとか保たれたんだ。かく言う私も、横須賀所属だ」

 

橋本「なるほど…だから武蔵さんは、元気なのですね」

 

山本「ここで本題に戻そう。なぜ君たちのような若手が、階級も決して指揮官クラスに及ばない君達が鎮守府の長官クラスになったかを伝えておく」

 

橋本「ゴクッ」

 

 

山本「今から1ヶ月前、呉鎮守府別館の長官だった海軍中将、『赤井義明』が呉所属の艦娘に殺害された。その呉の空白を埋める後継人が君達だ」

 

橋本「!殺害!?」

 

武蔵「あぁ、だが先に言っておくが、これは艦娘達による計画ではない。五十六達、ひいては海軍大臣直々の作戦なんだ」

 

隣の元帥がゆったりと話す。

 

山本「今年3月に海軍大臣だった将官が、新たに海軍航空隊総飛行隊長に任命されてね。彼の命令で、海軍航空隊総司令部が厚木から岩国に移動したんだ」

 

橋本「だ、大分ハチャメチャなお方ですね…」ハハ…

 

山本「まぁね…実際、私も彼の制御にはかなり苦労するよ…」

 

武蔵「だが、それなりの優しさも兼ね備えていて良い男ではないか」ハハ

 

橋本「ちなみになんですが、その方のお名前は?」

 

武蔵「彼の名前は『菅野直』。五十六と同じく、帝国海軍からの転載者だ」

 

 

橋本(2尉から聞いたことあるな…たしか、総撃墜数72機、日本海軍を代表するエースパイロット、そしてかなりの荒くれ者と…)

 

 

九鬼「…海軍中将、菅野直…」ボソ

 

山本「…ほう」ニヤ

 

九鬼「元帥、少しだけですが思い出しました。こちらの世界の私の事を」

 

橋本(2尉、なんだが少し怒っている…?いつもより、雰囲気が重たい…)

 

 

九鬼「橋本、俺が海自の警務官だった事、覚えてるか?」

 

橋本「え?は、はい…覚えてますが…」

 

九鬼は3等海尉だった頃、はぐろに着任してすぐに自衛隊の警察である、警務官の教育課程に入校していた。そこで7か月間警務隊の教養と素質を身に付け、海上自衛隊佐世保地方警務隊本部に配属。その任務も兼務しつつ、はぐろで勤務するという異色の経歴持ちだった。

 

 

九鬼「俺はどうやら、ここでも軍の警察やってたらしい」

 

橋本「つまり、憲兵でしょうか?」

 

九鬼「あぁ、俺は海軍兵学校出た後に半年間教育受けて、そこから『海軍憲兵隊佐世保地方隊』に配属された。そこで、俺は菅野中将と出会っていた」

 

橋本「!本当ですか!?」

 

山本「本当だよ」

 

九鬼「…」

 

山本「なんせ、彼を呉の長官に推薦したのは、菅野君自身だからね」 

 

九鬼「とはいえ、これは『今の』俺の記憶じゃない、もう1人の俺の記憶だ」

 

 




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