とある自衛官が鎮守府復興してみた   作:うわぐつ24号

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この世界の戦後海軍の設定

米海軍に次ぐ世界2位の規模を誇る。数では米軍に劣るものの、練度では様々な点で米軍を超えている。

所属艦艇は、
原子力空母4隻、通常動力型の中型空母5隻、イージス艦32隻、巡洋艦10隻、駆逐艦42隻、通常動力型潜水艦45隻、
原子力潜水艦5隻
予備役戦艦2隻(大和型戦艦)
その他、戦闘機1500機、哨戒機、輸送機多数

制服は海上自衛隊と同じものを採用。制帽の徽章が帝国海軍のものを使用している。


9話 艦娘の叫び

橋本「え?しかし、この汚部屋を掃除する事が先決かと思うんですが…」

九鬼「いや、そうなんだけどさ、肝心の掃除道具が…無くて」

橋本「あ…」

 

そう。掃除をしようにも肝心の道具が見当たらない。加えて、汚れ具合が今まで2人が見てきたものとは比べ物にならないため、並の掃除では絶対に清潔にならないのだ。

 

九鬼「何とかしたいんだけど、どうにもならんからまずは皆に挨拶をと思ってな…」

橋本「そうだったんですね…しかし…」

九鬼「やっぱ掃除はしたいよなぁ…」

榛名「とりあえず、まずは皆さんにご挨拶をした方が良いかもしれませんよ。もしかしたら皆さんの中で掃除道具を持ってらっしゃる方もいるかも知れませんし…」

橋本「なるほど…それは良いですね!では、艦娘の方に挨拶しましょう!えっと、放送器具は…」

 

橋本は辺りを見回す。もちろんここは会議室。そしてこの廃れた鎮守府で、そんなものが機能しているようには思えない。

 

 

九鬼「…ないな」

橋本「…ないですね」

 

榛名「実は、1年前に青葉さんが配線を切っているんです。何も、もうあの声を聞きたくない、と言って…」

九鬼「青葉…あの重巡の?」

榛名「はい…」

 

榛名は下を向いて悲しそうな顔で答える。どうやら色んな艦娘が彼に苦しめられた事は事実らしい。

 

榛名「よろしければ、榛名が皆さんを呼んできましょうか?」

九鬼「本当!?なら頼みたい!榛名さん、お願いします!!」

榛名「はい!榛名にお任せ下さい!」

 

榛名はそう言い切って、艦娘寮へと向かっていった。

 

残された2人はその場に座り込み、どっとため息をつく。

 

橋本「ハァ……まさか、ここまで酷いとは思ってもいませんでしたよ…」

九鬼「だな…俺も実質はじめましてみたいなモンだし、ここで勤務するとなると…やばいなぁ…」ハァ…

 

2人は先の事の辛さに早速根を上げかけていた。鎮守府の復興。デカデカと掲げたこの目標を達成される日は来るのだろうか…

 

 

九鬼「あ、そうだ。ここの艦娘の名簿とかってある?」

 

しばらく黙りこくっていたが突然、思い出したように九鬼は橋本に問う。

 

橋本「えっと…ちょっと待ってくださいね…」ガサゴソ

橋本「あ、これです」テワタシ

九鬼「うい」

2人は、その資料をマジマジと見つめる。

 

 

 

 

艦娘名簿表(呉鎮守府、2032年3月現在)

 

 

戦艦(以下4名)

 

金剛

 

榛名

 

長門

 

大和

 

 

航空母艦(以下4名)

 

加賀

 

蒼龍

 

瑞鶴

 

鳳翔

 

 

一等巡洋艦(以下3名)

 

最上

 

摩耶

 

青葉

 

 

二等巡洋艦(以下2名)

 

川内

 

那珂

 

 

重雷装巡洋艦(以下1名)

 

大井

 

 

駆逐艦(以下8名)

 

吹雪

 

 

 

 

 

時雨

 

夕立

 

雪風

 

 

総勢22名

 

 

 

 

 

   

 

 

九鬼「…少ないな」

橋本「はい…実は、参考資料に15年前のデータもあって、チラリと見たんですが…」

 

橋本「今の6倍は所属していました…」

九鬼「…」

 

2人の間にまたしても沈黙が走る。九鬼は両手を顎の前で組んだまま、しばらく黙っていた。

 

九鬼「この6年で、100人以上の艦娘が死んだ計算になるのか…」

橋本「軍艦として考えると、100隻ですね…」

 

その言葉にすかさず九鬼は反応した。

 

九鬼「橋本、艦娘のみんなが来たら、今みたいな発言はすんなよ」

橋本「え?」

九鬼「俺たちは彼女を兵器として見たらダメだ。立派な1人の人間だ」

橋本「…しかし」

九鬼「金剛さんを見て分かっただろう。あんな風に、極限まで行けば人間と同じように精神疾患を患う。怪我だってする。腹も減る。涙だって流す」

九鬼「…それに、体の仕組みは偽装を外せば人間と何の差異もない。内蔵、血管、細胞、筋肉、神経…全て俺たち人間と同じだ。体の中に金属が入ってるわけでもない」

 

九鬼「実際に手術や研究でそれも明らかになってる事実だ。倫理的にも、科学的にも、あの人達が兵器たらしめる理由はどこにもない」

橋本「…申し訳ありません。軽率でした」

九鬼「しょうがねぇさ。艦娘の世間の目は、案外そんなもんだからな。ま、それを変えなくちゃなんだけど…」

橋本「先は、長いですね…」

九鬼「全くだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー20分後ーー

 

コンコンコン

 

九鬼「来たか…橋本、憲兵の腕章つけとけよ。それも制服だからな」

橋本「あ、はい!」

 

憲兵隊はその任を解かれた後も憲兵として勤務を継続する。空挺隊員が空挺部隊を離れても、空挺の資格を持つのと理屈は同じだ。

 

2人は意を決して彼女たちの入室を待つ。しかし、入ってきたのは…………

 

 

 

 

榛名「九鬼さん、すみません…これだけしか集まらなくて…」

九鬼「マジか…」ボソッ

 

入ってきた艦娘の数は、所属している艦娘全員には到底満たない数だった。

 

 

その数、僅かに11名。

 

吹雪、暁、響、雷、電、時雨、夕立、雪風、川内、最上、青葉

 

主力艦である空母、戦艦は誰1人として顔を見せていなかった。

 

 

榛名「残りの方々は、激しく拒絶されてしまって…彼女たちしか集まりませんでした…」

 

橋本「海軍がこの人たちにどんな目で見られているのか、よく分かりますね…」

九鬼「まぁ、予想通りと言ったらその通りだ…むしろ、よくこれだけ来てくれたもんだよ」

 

2人は一息おいて、艦娘皆を眺める。

 

その表情はさまざま。不安で弱々しい表情の者が大半。中には反抗的な表情の者もいた。

 

九鬼と橋本は黒板の下の一段高いところから降りて、艦娘と同じフロアに立った。これだけで艦娘一同、榛名を除いた全員が驚きの表情を見せた。

 

榛名「やはり、そうしますよね…」ボソッ

 

 

ざわつきの冷めない内に、九鬼はその口を開く。

 

九鬼「あー、皆さん、それでは良いですか?」

 

その言葉に反応したのは特型駆逐艦の吹雪。慌てた様子で艦娘に声をかける。

 

吹雪「あ、き、気をつけー!!」

 

その言葉を橋本が制止する。

 

橋本「待ってください!大丈夫です!敬礼は必要ないですから!」

九鬼「だな。皆さん、楽にして大丈夫ですよ」ニコッ

吹雪「へ?」ポカーン

 

艦娘みんなが九鬼達に狐につままれたような顔をする。

 

九鬼「えー、改めまして、本日付でこの鎮守府に配属されました、海軍少佐、九鬼駿斗です」

橋本「同じく、海軍中尉、橋本勇です」

九鬼「我々は前職は佐世保憲兵隊で勤務をしておりました。これからどうぞ、よろしくお願いします」

 

 

「け、憲兵!?なんで…!?」「もしかして、夕立達捕まるっぽい!?」「ど、どうしよう……」

 

艦娘達の間でざわめきが走る。これまでのゲスの極みの赤井中将が死亡し、変わって来たのが憲兵ともなれば、殺人の容疑をかけられたのではないかと思うのも当然だろう。

 

榛名「あの!皆さん、一度静かにー!」

 

榛名が思い切って叫ぶ。その声のおかげで皆んなが静かになった。

 

九鬼「ご安心ください。私達は単純に憲兵隊から異動してきただけです。皆さんを逮捕したりはしませんよ」

 

九鬼「前職では、主にここの前任者の犯罪行為を捜査していました」

 

九鬼「3ヶ月前に彼が死亡した際、ここの調査にも訪れました。そこで、皆さんがどんな生活をしていたのか…それを肌で感じました」

 

苦虫を噛み潰したような顔で語る。

 

九鬼「護国の最前線を担う皆さんが、こんな扱いを受けるのはどう考えてもおかしいです。私は、その事実をこの鎮守府での調査でヒリヒリと感じました」

 

 

九鬼「だからこそ、私達2人でこの鎮守府を復興させます。ですから、どうか、我々を受け入れてくださると幸いです。よろしくお願いします」ペコッ

 

橋本(…まぁ、表面上のようなあいさつだな…敵対心の高い艦娘には、変に受け取られてもおかしくない…)

 

この言葉にある駆逐艦娘が反応する。

 

夕立「じ、じゃあ、もう保存食生活しなくていいっぽい?」

 

白露型駆逐艦、夕立である。もともと活発な性格の彼女も、ここでの散々な暮らしのせいで、実に弱々しい雰囲気を醸して出していた。

 

橋本「…はい、まだ食堂機能の復活に時間がかかるので、すぐにではありませんが温かい食堂のご飯を食べられるようにしますよ」

夕立「あったかいお風呂は?」

九鬼「もちろん入れます。なんなら、この後呉の本館の入渠施設にご案内する予定です」

 

 

 

この言葉に、夕立はハラハラと涙を流す。

夕立「うぅ…ありがとう…ありがとう…やっと楽になれるっぽい…」

 

その彼女の背中を姉の時雨がさする。

 

 

駆逐艦の艦娘達は少々頬が和らいだように感じる。しかし、ある艦娘が冷たい口調で言葉を発した。

 

 

「どうだかね」

 

夕立の言葉を遮ったのは、軽巡の川内。鋭い目つきで九鬼と橋本を睨む。

 

 

川内「あんた、白露や村雨がどうやって死んだのか、忘れたの?」 

夕立「そ、それは…」

九鬼「」

川内「…いいよ、じゃああんた達に教えてあげる。彼女たちはね…アイツに殺されたんだよ」

夕立「川内!やめてっぽい!」

川内「…あんたが現実が目を背けているからでしょう」

 

 

川内「ある日、中破して帰ってきた白露は、赤井にひたすら暴言を吐かれながら殴打された。何時間も何時間もね」

 

川内「私はそれを間近で見ていたから、どうやって死んだのかも知ってるわ」

 

川内「最初は大声で反抗していたけれど、ある時から、その声も小さくなっていって…そして、とうとう息もしなくなった…」

 

川内「村雨も同じような感じだった…2人とも、優秀な戦力だったのに…死んだのは海の上じゃない…」

 

 

 

川内「他でもない、あんた達海軍に殺されたんだよ!!!!」

 

川内は一度うつむき、激しい口調で九鬼を責める。その言葉は、怒りそのものだった。

 

 

川内「6年前、直(なおし)がここを離れて海軍航空隊に戻った。その後に来た司令官2人は…2人は…とんでもない奴らだった…」

ギリギリと怒りを噛み潰しながら川内は話す。

 

川内「着任初日、馴れ馴れしくそれまでみたいに飛びかかった夕立に腹蹴りを喰らわせて、それに反抗した金剛もぶった…それから、私たちは結託してアイツらに歯向かったけど…あの日……」

 

またしても俯いた川内は、床に雫を落としながら続ける。

 

川内「海防艦の子達が、10人全員殺された……」

 

橋本(10人、全員を…!?)

 

川内「それから徐々に歯向かう子達も減っていった…でも、それをいいことにアイツらの横暴はどんどんひどくなったんだよ」

 

川内「体罰は当たり前、大破撤退しようものなら何時間もぶたれ、凌辱され、傷つけられる。金が無駄だからとあらゆる施設の整備を怠って、艦娘は入渠も補給もままならないまま出撃させられる…その結果、優秀な艦娘はどんどん力尽きた…」

 

川内「上がらない戦果、沈み続ける艦娘……自業自得なのに、責任転嫁を繰り返して…どんどん過激になっていった……」

 

 

川内「そして……赤城、比叡、陸奥が一斉に沈んだ時、とうとうアイツは…アイツは……!!」ポタポタ

 

川内「神通を…神通を…」

 

 

 

 

川内「うわぁぁぁあああああ!!!!!」グワッ

 

とうとう限界が来たのだろう。川内はそこまで話すと、ついに怒りに任せて九鬼を殴り倒した。これまでの虐待で既に体はボロボロだが、ぶつけようのない怒りが彼女を動かしていた。

 

 

 

川内「返せよ!!!神通を、みんなを返せよ!!!!」ボコッ

 

馬乗りになってひたすら久鬼を殴り続ける。感情に任せて、ドカドカと。

 

 

川内「何が復興させるだ!!なんで今まで助けにこなかったんだ!!」ボカッ

九鬼「…」

 

川内「憲兵のくせに!!何もできてないじゃないか!!!100人死んで復興なんて……そんなの……」

 

 

 

川内「もう…全部……遅いじゃないか……」

 

川内「ぅあぁ……ウグッ………あぁあ…」ポタポタポタ

 

九鬼を殴るのをやめ、とうとう力尽きたように泣き崩れる。それが九鬼の胸の中というのはお構いなしだ。泣き崩れた川内は悔しがるように嗚咽を繰り返す。

 

榛名「…川内さん、もう、大丈夫ですから…」グスッ

榛名初め、艦娘達は川内の行動に涙を流していた。それだけ、みんなの中に深い悲しみがあるということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから橋本の指示で艦娘達は一旦それぞれの部屋に戻された。橋本その後、麓のホームセンターへと掃除用具の買い出しに単身向かった。

 

 

殴られまくった当の九鬼は、艦娘達が帰った後に榛名に手当てをしてもらっていた。

左頬にグーパンチを集中的に受けたため、真っ青な痣ができている。

 

九鬼「いてて……」ズキズキ

榛名「かなりやられちゃいましたね…」コオリアテ

九鬼「ただ、川内さんの力がかなり弱ってましたから…まさか、ここでそれが効くとは…」

榛名「はい…大きな痣ができてますが、それ以外は大丈夫そうですね」 

 

九鬼「……川内さん、相当追い詰められていたんでしょうね」

榛名「川内さんだけじゃ、ないんです」

榛名「金剛お姉様も、大和さんも、特に主力艦の方々はトラウマが大きいんです。その、強姦などを数多くされていますから…」

九鬼「榛名さんも、ですか…?」

榛名「」コクッ

九鬼「…すみません、嫌な記憶を掘り起こしてしまって」

榛名「いえ…ただ、その時から金剛お姉様は私を庇うようになったんです。そのおかげで、私はなんとか生き永らえました。ただ、金剛お姉様が精神を病んでしまって……」

 

榛名「川内さんも、お姉様のように神通さんと那珂さんを守っていたんです。でも、その努力も打ち砕かれて…」シュン

九鬼「なるほど…」

 

九鬼は改めて海軍、そして憲兵でありながら艦娘を救えなかった自分に激しい怒りを覚える。

川内からの言葉はまさにその通りだった。彼女に会うのは初めてだったが、自分の仲間になる者に大きなトラウマを背負わせてしまった、その事実がとても嘆かわしい。

 

九鬼「くそ…!なんで、なんで救えなかったんだ…」ギリッ

 

榛名「直さんからチラッと聞いたんですが…当時の海軍は悪名高い将校達が強力なパイプで繋がっていたそうです…だから、九鬼さんのせいではありませんよ…」

 

九鬼「…すみません」

榛名「…」

 

2人の間にしばし沈黙が流れる。血のついた殺風景な会議室は、深い悲しみと後悔の念で満たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅん……はる、な…?」ムクッ

 

榛・九「!?」

 

金剛「私は…一体…?」

 

榛名「お姉様…!?」

 

 

深い眠りについていた、金剛が目を覚ましたのだ。




読んでいただきありがとうございました。これからもお願いいたします。
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