とある自衛官が鎮守府復興してみた   作:うわぐつ24号

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10話まで行きました。日々読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。

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10話 カミングアウト

まだうつろな目を擦りながら、周囲をボーッと見渡す。寝ぼけているかのような振る舞いに、2人は心配したような目つきで見る。

 

九鬼「こ、金剛さん、大丈夫でしょうか…?」

榛名「恐らくまだ意識がハッキリしないだけだと思うので、大丈夫だとは思うんですが…」チラッ

九鬼「?」

榛名「もしかしたら…九鬼さんを認識した時にまたパニックになってしまうかもしれません…」

九鬼「…そうだった…」ガクッ

榛名「と、とりあえず、もう一度お姉様を寝かせます!その後に策を考えましょう!」

 

榛名はゆっくりと金剛に近づいていく。

 

金剛「んー?はるなぁ…?どうしたんデスカァ…?」ウトウト

榛名「お姉様、もう少しお休みしましょう。まだ疲れてるでしょうから」ニコッ

榛名「私のお膝でゴロンしましょう。ね?」ヒザポンポン

金剛「ンーーー……じゃあ、もうちょっとだけ…」ゴロン

 

榛名は優しく金剛の頭を撫でて寝かしつける。小声で「よしよし…」と言いながら金剛を包む。

 

それから間もなく金剛はまたも規則正しい寝息を立てて眠っていった。

 

九鬼(な、何という母性だ…)

殺風景な部屋とはまるで似合わない光景がそこに広がっていた。マリアのようなオーラを出して金剛を包み込む榛名は、九鬼のめには眩しく見えていた。

 

 

 

 

ー10分後ー

 

九鬼「ほ、本当に寝てますね…榛名さん、寝かしつけるの上手いんですね」オドロキ

榛名「九鬼さんが助けてくださったあの日から、私は精神的に安定していたのでよくお姉様を寝かしていたんです。そしたら、どんどん上達してしまって」ニガワライ

榛名「今では10分もすれば夢の中にぐっすりです」ニコッ

九鬼「他の…」

榛名「?」

九鬼「他の主力艦の皆さんも、金剛さんのような感じなのですか?」

 

榛名「いえ…ここまでなのはお姉様だけです。大和さんも怯えていますが、ここまでではありません。ただ、他の方々は…」

榛名「先ほどの川内さんのような感じです」

九鬼「悲しみというよりも、怒りが勝ってるって事か…」

榛名「摩耶さんは、恐らく今九鬼さんと橋本さんが1番あってはいけない気がします」

九鬼(ゲーム内でも気性の荒い艦娘だったからなぁ…こんなことになれば、最悪刺されるかもなぁ…)トオイメ

 

2人は落ちこんだ口調で話をする。

 

榛名「どのみち、その制服を着ているというだけで敵視をされてしまいますからね…」

九鬼「なるほどなぁ……ん?」

 

制服を着ている……そのワードに九鬼はひらめく。

 

九鬼「で、では制服でなければ良いのでは…?」ボソッ

榛名「制服を…着ない?」

九鬼「はい。そうすれば、金剛さんも多少なりとも落ち着いてくれるかと思いまして…」

榛名「しかし、鎮守府の長たる者が制服を着ないなんて出来るんですか?」クビカシゲ

九鬼「今はここは緊急事態ですし、自分にはこれしか思いつきません」

九鬼「それに、なんか言われても全部追い返しますよ!皆さんの為ですしね!」ニコッ

 

榛名「…そうですね」ニコッ

 

少し考え込んだ後、にこやかに、透き通った笑顔で応える。その清々しい笑みに九鬼まで思わず口角が上がる。この笑顔を増やさねば、彼はそう思ったことだろう。

 

榛名「とは言っても、替えの服があるんですか?」

九鬼「はい、ネイビー色の迷彩服があるのでそれで代用しようと思います」

榛名「なるほど…」

 

海軍は陸軍と同じく深緑の迷彩服を使用しているが、憲兵隊は一般部隊と見分けがつくという理由でネイビー色になっている。これならば赤井が着ていたものとは異なるデザインとなるため、フラッシュバック防止には大いに役立つはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

ー九鬼、廊下で着替え中ー

 

 

九鬼「どうですか、これ!これなら大丈夫でしょう!」

 

ネイビー色の迷彩服を纏い、カッチリとした感じというよりは少々カジュアルさが増して、現場感満載の見た目となった。

 

九鬼「掃除の為に持ってきてたんですが、まさかこんな感じで役に立つとは」ハハハ

榛名「これなら、お姉様も大丈夫そうですね!」

金剛の頭を軽く撫でながら榛名も相槌を打つ。

 

 

金剛「うぅん……」パチッ

榛名「ん?あ、お、お姉様!すみません…起こしてしまい…」

金剛「お、おはよう榛名…」ムクッ

金剛「私、どれくらい寝てた?」

榛名「15分ほどですね」

金剛「そう…」ゴシゴシ

 

九鬼(そういえば…なんで金剛さんは標準語で話してるんだ?さっきの一瞬だけ片言だったけど、この世界の艦娘が俺の知る艦娘と同じなら、今後は片言混じりの日本語のはずだ)

九鬼(これも赤井の野郎が絡んでくるのか…?)

 

金剛「あ、あの…」ジー

九鬼「へ!?俺ですか?」

 

考え事をしていた九鬼は気がつくと金剛に見つめられていた。それもほんの少しだけ不安な表情を浮かべて。

 

金剛「その…先程はご迷惑をお掛けしてしまって…えと、申し訳ございません」

九鬼(記憶はあるんだな…なら、まだ末期というわけではなさそうだ。良かった…)ホッ

 

九鬼「大丈夫ですよ。自分は見ていないので分からないですが、この鎮守府の現状を考えれば大体何を赤井にされたのか、想像はできます」

金剛「もしかしてですが、その格好はなにか私のことと関係が…」

九鬼(し、正直に言うしかないか…)

 

 

九鬼「なにも金剛さんだけではありませんよ。榛名さんも含めて制服だと何かと赤井を彷彿とさせてしまうかもしれませんし、迷彩服でも通常の深緑だとアイツも着用していたかもしれません。だったら、憲兵しか着ないこの迷彩服で良いかなと」

 

九鬼「それに…私も先ほどまではそこまで配慮できていませんでしたしね。榛名さんの言葉がないと、堂々巡りをするところでした」ニガワライ

金剛(たしかに、人はさっきまでの九鬼さんと変わっていまセンガ、不安感はほとんど感じない…やっぱり、あの服だからだったんデショウカ…)

 

金剛「ご配慮ありがとうございます。確かにそこまで恐怖心は感じないです」ニコッ

金剛(笑顔なんて、いつぶりデショウカ…)

 

硬い笑みを浮かべながらも、友好を築こうとするその姿勢に、なんとか九鬼は安心をする。

 

九鬼「無理はなさらないで下さい。自分は皆さんに危害を加えるつもりは毛頭ないですが、皆さんの心の傷は計り知れない。だからこそ、自分の気持ちには正直にして下さいね」ニコッ

 

 

金剛(そんなこと言われたのはいつぶりでしょウカ…なんだか、直を思い出しマス…)

金剛「そういえば、私達の理解者は、いつも『あの戦争』を戦い抜いてくれた人達ばかりデシタネ」ボソッ

 

九鬼「あの戦争?」

金剛「え!?あ、いやなんでも無いです!」

 

思わず口に出てしまったのだろう。実際、山本や菅野、また山口多聞などの前世の海軍軍人は彼女達の良き理解者だと言えるだろう。

 

彼女たち艦娘は前世の記憶を悪夢として見る事がよくある。迫り来る米軍機の群れが、必死に迎撃する水兵達を機銃掃射で撃ち抜き、彼らが悲鳴を上げながら死んでいく夢。また、沈む瞬間に大爆発を起こし息絶える夢など、多岐に渡る。

 

その辛い経験を共にした彼らは、時に彼女達に寄り添って慰めてくれる者達だった。

 

しかし、この世界の者たちはその歴史を知るはずがない。ここはいわばパラレルワールドであるため、知るよしもないのだ。

 

だからこそ、艦娘達は時よりそういった所で距離感を感じてしまう。そんな状態の中で赤井をはじめとしたクズと出会ってしまった。この世界の海軍軍人に嫌悪感や忌避感、憎しみやトラウマを抱くのは当然であったのだ。

 

このような金剛の思いが、つい言葉になってしまった。

 

この人もどうせ理解なんてしてくれない。若干の落胆の思いを抱いたが、その金剛の気持ちは思わぬ形で打ち砕かれる。

 

 

 

 

 

九鬼「昭和19年、10月25日」ボソッ

 

 

金剛「…え?」

 

 

九鬼「戦艦金剛、台湾沖にて米潜水艦の攻撃を受けて沈没」

 

 

金剛「そ、れは……」

 

帝国海軍の記憶を持つ前世がある彼らではない者から聞いた、彼女の最期。聞くはずもないと思っていたその記憶は、確かに金剛の前世が終わった瞬間の歴史だった。

 

榛名「九鬼さん…どこでそれを…?」

 

2人とも、激しく衝撃を受けたのだろう。呼吸すらも忘れているほどには、微動だにしていない。

 

九鬼「俺の知る、金剛さんの最期です」

 

金剛「ど、どういうことですか!?あなたはこの世界の歴史しか知らないはず!それなのに…なんで私の事を…」

 

弱っているはずの金剛も声を大にして詰める。あの戦争を経験していない遥か未来の世代の九鬼が金剛の最期を語ることを、彼女の本能が受け入れていなかったのだ。

 

 

九鬼「これは榛名さんにも言っていないことなんですが…まさか、こんなに早い時期にカミングアウトすることになるなんて、思っていませんでしたよ」ニガワライ

 

 

 

九鬼「私は…皆さんと同じ、いや、皆さんが戦った『大東亜戦争』が終わってから87年後の前世から来た者です」

 

榛名「は、87…年…?」

 

榛名は口をパクパクさせながら声を漏らす。先ほどまでの空気と一変、異様な雰囲気に大会議室は包まれていた。

 

榛名「つまり…今の日本ほどに文明が発達した別世界の現代からきた…のですか?」

九鬼「」コクッ

 

金剛「そ、そんな…ことって…」フルフル

 

榛名「にわかには信じがたいですね…」

九鬼「自分も何が何だか…分からないんですよ…」

 

金剛「因みになんですが…いつこちらに?」

 

九鬼「…今朝です」

 

金・榛「け、今朝!?」

2人は揃って声を上げる。ある程度経験を積んで…とかではなく、まさかの初日からここというのは流石に驚くものがある。

 

九鬼「今朝、山本元帥にお会いしたんです。その時に私達がこの鎮守府に配属された理由を聞かせてもらいました」

九鬼「その時に、『むしろ君達のような転生してきた者の方がやりやすいかもしれない』とも言ってくださったんです」

 

榛名「なるほど…そんな事が…」

九鬼「すみません。なので、今の自分の自我は、この世界の自分と、前世の自分の自我が混在している状態なんです」

 

九鬼「あの時皆さんを助けた自分ではもうない。その状態で、皆さんと分かり合えるのかどうか…そこが凄く引っかかりまして…」

 

うつむいた九鬼は顔をしかめてつぶやく。転生初日に鎮守府の長官、それも前世では架空の存在であった艦娘の部隊を率いるなど、彼には不安要素が多く残っていたのだ。

その彼の気持ちを、榛名はうっすらではあるが感じ取っていた。

 

 

榛名「それなら…尚更安心できますね」ニコッ

九鬼「え?」

榛名「だって、私たちの本当の過去を知ってくださる方なんですよ?なんだか一気にお近づきになれた気分です」フフッ

九鬼「…」

榛名「この世界の海軍の人間は、あの戦争を知りません。だから、良くも悪くも帝国海軍をまんま受け継いでいるんです」

 

 

金剛「…だから、いざとなれば特攻も厭わない」ボソッ

 

榛名「…」

九鬼「特攻…ですか…」

 

金剛「私たちが参加したレイテ沖海戦‥.あの時、特攻隊が出撃しました」

榛名「こちらの世界の海軍は、あの特攻を…艦娘で…実行したんです…」

 

九鬼「艦娘特攻…あの噂は本当だったのか…」

 

 

彼が憲兵中尉として佐世保に勤務していた時、呉の鎮守府で艦娘による特攻が行われているかもしれない事案が上がっていた時期があるのだ。

 

九鬼(そういや、ある日突然呉の戦果がありえないほど跳ね上がった時期があったな…まさか、あの時か?)

九鬼(まぁ、まだそこらへんは深掘りすべきじゃないな…今すれば、金剛さんもパニックを起こしかねん)

 

九鬼「あの悲惨な歴史を勉強している身として、断じて特攻などしない事は、約束できます」  

榛名「戦後の方からその言葉を聞くのはなんだか新鮮ですね」

金剛「直や五十六達は当時を戦っている者の視点から話していたからね。なんだか、そう言われてみれば新鮮かも」

榛名「というより、九鬼さん。こちらの世界に転生したということは…」

九鬼「まぁ、そういうことになりますね…」ニガワライ

金剛「…だとしたら、どうして?」

 

九鬼「まぁ、自分も戦死した、ということなんですかね」

榛名「戦死…未来でも、戦争が起こってしまったのですか?」  

九鬼「おそらく、偶発的な戦闘に近いんでしょうね」

金剛「何があったのか…教えてください」

 

 

ということで2人に何があったのか、その一部始終を話した。海上自衛隊と中国海軍の空母機動部隊同士が偶発的に戦闘状態に陥ったこと、海自が終始圧倒して戦闘を終えたこと、そして…はぐろが撃沈されたこと。

 

 

 

九鬼「とまぁ、こんな感じですかね」

榛名「そんなことが…」

金剛「九鬼さんも、大変な事があったのですね」 

九鬼「自分はすぐに死ねたので、まだマシですよ。ただ…」

 

九鬼「あのゴミどもに散々辱めを受けた挙句に特攻で殺される彼女達のことが…悔やんでも悔やみ切れない」ギリッ

 

九鬼「だから、生き残ったみなさんは絶対に、絶対に自分達が笑顔にして見せます。こんなこと言っても説得力ないですけど…」

 

九鬼「自分達を、信じていただけないでしょうか?」

 

それまで言ったことのない強い決意の言葉。この言葉に、九鬼は一片の嘘もない、心からの決意だった。

 

榛名「私達と同じく、死というものを経験している方ほど、信頼を置ける方はいませんよ」 

 

九鬼「え?」

 

榛名「九鬼さんは、死ぬことがどういうことかを肌で実感された方です。だから、死ぬってどういうことか…それが、わかってると思うんです」

榛名「だから、戦場に出る艦娘達に、精神的に寄り添えると思うんです」

榛名「今は無理かもしれませんが…絶対に皆さんからの信頼を勝ち取れるはずですよ!」

 

九鬼「榛名さん…」

 

金剛「わ、私も…」

 

金剛が自信のなさそうに声を上げる。

 

金剛「私も…その、く、九鬼さんのことを…信じます…えと、榛名がここまで信頼を寄せているので、大丈夫なのかな…と思いまして…」

金剛「それに、あの話を聞いていても、凄く信用できるんです。ここまで誠実な海軍の方は…凄く久しぶりです」

 

 

硬い笑みを浮かべて金剛は答える。まだまだなこともとても多いが、まずは2人から信頼を勝ち取れたことは彼にとって大きく前身だろう。




読んでただきありごとうございました。
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