とある自衛官が鎮守府復興してみた   作:うわぐつ24号

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榛名の記憶を上手く表現したつもりです。(保険)

どうぞ


12話 黒い

榛名「もしお姉様に何かしたら…」

 

榛名「私が殺しますから」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

橋本「…」←部屋の外で盗み聞き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

橋本「2尉、榛名さん…尻尾を出しましたよ」

九鬼「やはりか…話の内容は?」

橋本「榛名さんが寝ている金剛さんに語りかけるように、『金剛お姉様に何かしたら殺す』と…」

九鬼「金剛さんへの強い執着…あの時、話していた事と同じだな」

 

橋本「全くびっくりですよ。2尉が急に『少し榛名さんを盗み聞きしろ』なんて言うから聞いてみたら…」

橋本「あの人、全然こちらの味方ではないじゃないですか」

 

九鬼「…ま、そんな簡単に事は進まないわな」

 

九鬼(これで、ある意味振り出しだな…)

 

 

 

 

 

 

実の話をすると、九鬼は手放しで榛名を信頼していたわけではない。赤井を殺したあの日、榛名から信頼を勝ち取っていたと思っていた九鬼に、一度菅野が釘を刺していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜3ヶ月前、暗殺作戦終了後〜

 

 

 

菅野「九鬼、お疲れ様だったな」

九鬼「はい…しっかし…堪えましたね」ハァ

九鬼「ここの艦娘達…まさかあそこまで酷い有様だとは…」

 

 

 

あの日、赤井の暗殺に成功し鎮守府内の調査を終えた菅野と九鬼はお互いの状況報告のために鎮守府前で合流していた。

 

 

九鬼「艦娘寮が結構大きかった割にはほとんど艦娘はいないし、その他の設備は全てが破壊、又は機能不全になっている…艦娘の方々もとても衛生状態が良いとは言えないですし…」

 

菅野「所々に転がってた遺体、あれは誰なのか分かったか?正直身元も特定できないほどには酷かったが…」

九鬼「恐らく…自分と同じ佐世保の憲兵でしょう。あの腕の腕章…間違いありません」ウツムキ

菅野「…そうか。そいつは気の毒だったな」

 

 

菅野「他人事のように言っちゃいるが…」

 

菅野「これも全部、俺達上層部の責任だ」ギリッ

九鬼「教官は悪くありません。艦娘の皆さんは、教官を見て笑顔になっていたじゃないですか」

菅野「まぁ、ひどく心労した顔だったがな」

九鬼「そ、それはまぁ…否定できませんが」ウグッ

 

 

菅野「かつての戦友達をあんな目に遭わせたんだ。俺はもう…提督失格だよ」

九鬼「…」

 

 

 

菅野「だがな…それ以上に…あいつらが許せねぇ…」ギリッ

 

2人の間にしばしの沈黙が走る。菅野の目の中には確かに汚い笑い声を上げる赤井がいた。

 

菅野の目がほとばしった。何か不味い予感を九鬼が感じ取ったその時、

 

 

 

 

菅野「…‥クソ!!!」ドンドンドン!!

九鬼「!?」

 

菅野は沈黙を打ち壊すように地面に向けて発砲した。

 

その時、鎮守府玄関前で臨時の物資配給に訪れていた軍の関係者も大勢作業をしていたのだが、全員が一斉にこちらを振り向いた。

 

九鬼「……教官?」

菅野「…」フー…フー…

 

彼の顔は阿修羅そのもの。15年という長い歳月をかけて築いてきた自らの鎮守府を、艦娘達との思い出を、ここまでめちゃくちゃにされたのだ。無理もないだろう。

 

菅野「…すまん。ついカッとなっちまった」

九鬼「いえ…その、心中お察しします」

 

 

またもや2人の間に沈黙が流れる。防大時代から勝ち気な性格の菅野を知っている九鬼からすれば、彼の怒った所はさほど珍しくない。だが、ここまで怒り心頭なのは初めてで、下手に発言ができなかった。

 

九鬼(下手に喋れねぇ…)ガクブル

 

 

九鬼が菅野の様子に戦慄していた時、ある1人の将兵が九鬼のもとに駆けてきた。

 

作業員「九鬼中尉、今よろしいですか?」

九鬼「へ?俺?」

作業員「はい。鎮守府内の部屋の配置が分からなくて、出来れば中尉殿にご同行していただきたいのですが…」

 

 

話を聞くと、どうやら食糧の備蓄庫がどこか分からないらしい。これには九鬼が同行するしかないようだ。

 

 

九鬼「教官、行ってもよろしいですか?」

菅野「あぁ。大丈夫だ。だけど、俺はもう帰るからよ」

九鬼「え?もうですか?」

菅野「このことを早く上に報告しないとならん。悪いが、ここでお別れだ」

九鬼「そうですか…」

 

菅野「今回はお前のおかげでなんとか解決できた。改めて礼を言う」

九鬼「そんな水臭いこと言わないでくださいよ!防大時代に私に指導していただいた恩返しですから」ニコッ

 

菅野「フッ…その様子なら、ここを任せてもよさそうだな」

九鬼「え?」

 

菅野「さっきの榛名との会話、聞かせてもらったぞ。俺はあいつの希望の通りに行動する。お前も準備をしておけよ」

 

菅野は鋭い視線で九鬼に言い放つ。

 

 

菅野「お前が、この鎮守府を変えるんだ」

 

九鬼「…はい」

九鬼「榛名さん、そして教官のご期待に、全力でお応えします」

 

榛名からの期待に応える…九鬼のこの言葉が、菅野の脳内で響き渡る。

 

菅野「…いい顔だ。その調子で頼むぞ」ハハッ

 

 

 

 

 

そう言い残すと、菅野は最後に九鬼に紙封筒を手渡した。

 

九鬼「こ、これは?」

 

菅野「この中にこの鎮守府の艦娘の個人情報が記載された書類が入ってる。艦娘の身長、体重、血液型、性格、長所に短所、そして彼女達の過去…とにかく可能な限り全てのデータを載せてある。隅から隅まで目を通せ。まずはあの子達がどんな人柄か…それを叩き込むんだ」

 

九鬼「…はい」

菅野「あと最後に1つ。今のお前は多少は鎮守府の運営をやっていけると思ってるかも知れねぇ。だがな、はっきりと言わせてもらうが…」

 

 

菅野「今の状態の鎮守府にその考えを持ったまま着任すれば、お前は最悪死ぬことになる」

 

 

菅野ははっきりとした口調でそう告げる。その勢いに九鬼はただならぬ異様さを感じ取った。

 

菅野「もう一つヒントをやるなら、『榛名も含めて』、この鎮守府には誰もお前の味方になってくれる艦娘はいないぜ。その中でどうお前が立ち回るか…そこに尽きる」

 

九鬼「」ゴクッ

 

菅野「あの子達を…頼んだぞ」

 

そう言い残し、彼は迎えの車へと姿を消していった。

 

 

九鬼「誰も味方はいない。か…」ボソッ

 

九鬼は考えた。

 

 

確かに、今の鎮守府の状態を考えれば海軍が恨まれているのは致し方ない。

しかし、榛名は彼に対して好意的な態度を取ってくれた。

 

なのに、菅野は敢えて「榛名も含めて」などと言ったのだ。

違和感を覚える。

 

九鬼「じゃあ、榛名さんのあの言葉って…本心じゃないのか…?」ボソッ

 

 

 

誰に届くわけでもない声で、九鬼はそうつぶやいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

3ヶ月前の体験に想いを馳せながら、九鬼は艦娘の情報が書かれた文書を見る。

 

 

九鬼「」チラッ

 

九鬼(戦艦榛名…身体的には健常者に程近いが、精神衛生上では最も危険水域。特に姉の金剛の身体に触れられることに激しい怒りを示す。か…)

 

 

幸いにも2人はまだ榛名の居るところで金剛に触れてはいない。だが、将来金剛の身体に触れるような状況が(健全な意味で)やってくるかもしれない。

 

 

その時に榛名がどんな事をしてくるのか。それは全く分からない。

 

だが、最悪の事態は想定せねばならないだろう。

 

もしかしたら2人を本当に殺しに掛かることだってあり得る。

そうなれば彼らは金剛との関係を築いていくことが大変困難になってしまう。

 

 

鎮守府復興の為には、最終的には艦娘全員と良好な関係を築かねばならない。現状1番近づきやすい榛名と金剛を味方につけない限り、今後は大変厳しい未来になる。

 

この問題から取り組むことがベストだろう。

徐々に外堀を埋めるしかない。

 

 

九鬼「成功に近道はねぇな……」ハァ

 

春の陽気な桜の景色とは相容れない、莫大な不安が九鬼の心に渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

九鬼たちが車から荷物を運び終わって、いよいよ掃除がスタートする。

 

橋本も紺色の迷彩服に着替え終わり、例の大会議室には沢山の掃除道具が運ばれていた。

 

 

九鬼「ほうきに雑巾、掃除機なんかはわかるけど…」

九鬼「よく高水圧洗浄機なんかあったな」ニガワライ

橋本「結構値段張りましたよ」ニガワライ

 

金剛「ほ、本当にお二人も掃除をされるんですか…?」

九鬼「任せてくださいよ〜、掃除なら菅野教官に叩き込まれてますから」フンスッ

 

橋本「やっぱり自分たちが使う場所ですから、綺麗にしておきたいですしね」

 

2人の屈託のない表情には金剛達も引き下がるしかなかった。

階級が指揮官の中では低い方とはいえ、自ら掃除をする将校というのは、金剛達にとっては違和感が拭えないようだ。

 

 

九鬼「うし、それじゃ始めるか。橋本、まずどっからやる?」

橋本「そうですね…はじめにざっと床のゴミを掃除機で吸い取って、その後に雑巾がけ。落ちそうな血痕は激◯ちくんで落としましょう」

 

橋本「その後で床に血液痕などからの感染症を防止するための抗菌剤を自動クリーナーで散布、壁などの汚れを落としつつ、落ちそうにない血痕が多そうなので、それらは高水圧洗浄機を使って落としましょうか」

 

九鬼「オッケー!グッドだな」

九鬼「目標は…2時間以内に全部片付けようぜ」

橋本「了解。では、行動開始ですね」

 

これからの段取りの確認が終わると、2人は軍人らしく互いを向いて直立不動の姿勢をとる。

 

 

九鬼「では事後の行動にかかれ。分かれ」ケイレイ

橋本「は!」ケイレイ

 

 

2人はすぐに掃除機(コードレス)を手に取りゴミの吸引にとりかかった。

 

 

榛名「あ、あの!榛名もやります!」

九鬼「あー…それなんですけどね、榛名さん結構疲れてるんじゃないですか?」

 

榛名が慌てた様子で九鬼に迫ったが、迫られた九鬼は落ち着いた様子で榛名にそう返す。

 

 

榛名「へ?」

橋本「言われてみれば、お会いした時から榛名さん、目の下のクマが凄いですもんね」

 

榛名「く、クマ…?」

金剛「確かに、榛名凄く疲れてそうですネ。そんな状態ではあなたが危ないですヨ?」

 

そう。九鬼達は今の今まで気が付かなかったのだが、かなり青黒くなったクマが榛名には出来ていた。

 

やはり、健康的な方とは言え、精神的疲労はかなり溜まっているようだ。

 

榛名「お姉様…で、ですが!ここは榛名にもやらせてください!」アセアセ

 

 

金剛にも言われると流石に少々狼狽えたが、それでも榛名は引き下がらない。

 

そんなに榛名に、同じく疲労が抜けきっていないであろう金剛が諭すように語りかける。

 

金剛「榛名…あなたが頑張り屋さんなのは良いこと。そんなあなたに私は助けられてキマシタ。でも、少しくらい休んでも大丈夫デスヨ?」

 

ここまで姉に言われてしまっては、流石に榛名も大人しくせざるを得ない。

 

榛名「お姉様……分かりました。では、申し訳ないのですが、お任せしてもよろしいでしょうか?」

 

 

九鬼「勿論ですよ!我々に任せてください!」

橋本「お二人分の寝袋を廊下に置いていますので、お好きに使ってください」

 

金剛「え?わ、私はやりますケド…」

榛名「お、お姉様!…その…」

金剛「?どうしたンデスカ?」

 

金剛は一瞬キョトンとしたが、榛名の様子を察して引き下がった。

 

金剛「フフフ、榛名は甘えん坊ネ。じゃあ、一緒に寝ましょうカ」ニコッ

 

榛名「…はい」

 

 

2人はそう言って部屋を出た。

 

だが、榛名は本当に金剛と寝るために彼女を引き止めたのか…

それは、先ほどの榛名の独り言を聞いてしまった以上、真意は別にあると思ってしまうのは必然だろう。

 

橋本(なんだろうか…さっきの榛名さんの小言を聞いてしまったから、あの人の腹の中が分からなくなってきたぞ…)

 

橋本は納得のいかない面持ちで、少しの間扉の方を見つめていた。

 

 

   

 

 

 

 

 

ーーー

 

榛名(なんとか金剛お姉様を一緒に連れ出せた)

榛名(あの2人に任せるくらいなら、こうしたほうがまだ良かったですね…)

 

寝袋に入りながら榛名は眉をひそめて金剛の身を案じる。

 

まだ金剛は眠いのだろう。虚ろ虚ろと瞼が閉じてきている。

 

 

 

ーーーー

 

 

未だに消えない金剛お姉様の腕の痣が痛々しい。

目を閉じれば、瞼の裏にはアイツの憎い顔が浮かんでくる。

 

ある日突然私達の日常をことごとく壊していったあの男の、嘲笑うような目を、忘れられる日が来るのだろうか?

 

あの男に復讐できなかったこの無念は、どうすれば晴らすことができるのか?

 

もう、あの頃の平和は戻ってこないのだろうか?

 

当たり前の日々ってそもそもなんだったんだろう…

 

誰が味方で、誰が敵なのかも分からない。唯一信じられるのは、隣でスヤスヤと眠る金剛お姉様だけ。  

この人だけは死なせられない。

絶対に、死なせられない。

 

 

榛名「あなただけは…絶対に…」

少しずつ瞼が重くなってくる。お姉様の寝顔を見られて心が安心してきた。

 

睡魔に逆らわず、寝てしまおうかな……

 

 

あぁ…フカフカで気持ちがいいなぁ…

 

 

久々にねむられそう…

 

榛名「スー…スー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

  

 

 

 

 

 

?「…い!………きろ!!」

 

榛名「……??」

?「…きろ!!……えんのか!!…るな!」

 

 

視界が真っ暗だ。何が起こってるんだろう…?

 

 

 

?「…を…ているんだ!貴様!…の分際で!」

 

?「起きろ!!!兵器の分際で居眠りなど許さんぞ!!!」

 

 

 

兵器の分際…?どういうことなの?

 

?「お前に言っているのだぞ榛名!!!」

 

 

はっきりと聞こえてきた、野太く悪行染みた声に意識が覚醒していく。

 

…待って、この声はもしかして……

 

恐怖が引きずり起こされるこの感覚、まさか…これって…

 

 

 

 

赤井「貴様、いい加減にしろ!!!」グシャッ

 

榛名「ウグッ」

 

 

あれ…?い、たい…?痛い……何なの…?これ…

 

今、お腹を…蹴られた…?

 

 

赤井「フンッ。兵器のくせに、相変わらず血の色は赤なのだな」

 

 

苦し紛れに見上げると、そこには今最も忌むべき対象とも言える外道がいたのだ。

 

榛名「…あか、い…?」

 

 

そこにいた人間。それは、私達呉の艦娘を地獄へと落とした張本人、赤井義明がいた。

 

どっぷりと太った腹周りは、はち切れんばかりになって身につけている軍服からでも分かるほどに大きい。

 

額には常に脂汗が浮き、頭は薄っすらと髪が後退している。清潔感の欠片もない人間。

 

そして、倫理の欠片もない人間。

 

毎日のように艦娘を無謀な作戦で送り出し、残留している者は性処理の対象としてこき使う腐れ外道。

 

 

榛名(でも、どうして…?長門さんが仕留めたはずでは…?)

 

榛名「!!?うっ…!?」

 

 

視界が歪み、同時に下腹部に激痛が走る。

今まで何度も経験してきた耐え難いこの痛み。

もう味わわなくても良いと思っていたのに、なぜこんなことが…

 

 

榛名(何…が、起こって…「おい」

 

赤井「貴様…今、私を呼び捨てで呼んだか…?」

榛名「…え?」

 

何が起こっているのか、全く分からない。ついさっき温かい寝袋で寝落ちたはずなのに、なんでコイツがいるの…?

 

 

赤井「貴様…どういうことだ!!!」

榛名「ヒッ…」

 

この圧迫感、間違いない。なんだかわからないけど、コイツは確かに赤井だ。

 

このとても人が居るような空間とは言えない、ボロボロの執務室、鼻をつんざくキツイ香水のニオイ、壁に飾られたいけ好かない肖像画。

何もかもがあの頃の鎮守府だ。

 

 

 

赤井「貴様…上官に無礼を働くだけでなく、無視まで決め込む気か?」

 

榛名「へ?あ、いや…その…」フルフル

 

赤井の言葉を体が認識するたびに芯から震えが起こる。

 

やっぱり駄目だ。体が、心が、この男に対するトラウマで支配されてしまっている。

 

榛名「えと…そ、その…」カタカタ

 

何かを口に出そうとしても、喉元で言葉が消えていく。

この男を前にすると、憎悪も怒りも無力。

 

久々に分かったのだ。

 

私は、この男を前にすると何もできなくなる。赤井が視界に入れば、すべての思考が停止してしまう。

何をしようとしても無に帰してしまう。

 

 

赤井「…まぁいい。お前がその態度であるなら、ケジメを姉が付けるだけだからな」ニヤッ

 

榛名「ま、さか…そ、んな…」

 

勝利感漂う赤井の不敵な笑み。これがこぼれる時は大抵誰かを傷つける時なのだ。

 

赤井「なぁ?金剛」グイッ

 

金剛「…ウゥ…」グッタリ

 

赤井は汚い笑みを残したまま左手で後ろに横たわっていた金剛の髪を掴み、引っ張り上げた。

 

赤井「姉として…妹の粗相は責任を取るべきだろう?えぇ金剛?」

金剛「は、るな…にげ、て…クダサイ……」

 

ボロボロになり、全身傷だらけ、意識も朦朧としていた金剛は力を振り絞って榛名を逃がそうとする。

 

榛名「あぁ…や、やめ…て」フルフル

赤井「あいにく今日は第7駆逐隊の奴らの特攻が無事成功してだな、俺も気分が良い。今日は金剛だけで勘弁してあげよう」

 

  

赤井は歪んだ笑みの後にポケットからメリケンサックを取り出し、金剛を掴んでいない右手にはめる。

 

もう何をするかは言うまでもない。

 

 

榛名(やめて…やめて…)

 

 

視界が歪む。空気がはち切れるような感覚が襲ってくる。

 

心の底の恐怖が、器からどんどん溢れてくる。

 

 

 

    

 

 

 

 

グシャッ

 

グシャッ

 

 

 

 

 

あぁ…

 

血が…舞っている………

 

視界が…赤く……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

ここは……

 

 

 

次に視界が晴れた時、私は夜の海に立っていた。

 

 

でも、決して平和な海じゃない。

 

遥か遠くには黒煙と炎が見える。

 

空を見上げれば、深海棲艦の艦載機が零戦を撃ち落としている。

 

 

そして…一歩先には、オレンジ色の髪をした見慣れたショートカットの金剛型艦娘。

 

 

榛名「比叡…お姉様…??」

 

 

そこには、ボロボロの艤装を纏い、こちらに背を向けて、血だらけになった姉、比叡がいた。

 

 

だが、彼女と話す事は出来ないと悟った。

 

 

 

こちらをゆっくりと振り返る比叡は、もうこの世に生きる者の目をしていなかったのだ。

 

右足、左腕は吹き飛び、右耳も欠損している。全身が赤黒く染まり、肌色が占める面積の方が少ないほどだ。

 

 

榛名「そ、そんな……比叡…お姉様…」

 

 

比叡はゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

比叡「ねぇ、榛名。教えてよ」

 

 

 

比叡「なんであの時、一緒に来てくれなかったの?」

 

 

 

 

比叡「私と霧島を囮にして生き延びるなんて…」

 

 

 

 

比叡「恥ずかしくないの?」

 

 

 

 

比叡「榛名。なんとか言ったらどうなの?」

 

 

 

 

 

 

比叡「答えてよ」

 

 

 

 

比叡「…答えろよ」

 

 

ハイライトの消えた真っ黒な目の中に、優しく明るい、金剛型のムードメーカーであった比叡は、もういなかった。

 

 

榛名「ち、ちが…い…ます…」

 

榛名「榛名は…そんなことなんて……榛名は…」ポロポロ

 

 

絶望の中で必死に出てきた言葉に、意味なんて無いことは分かっていた。

 

でも、それでも…

やっと会えた姉と話がしたかったのだ。

 

涙の止まらない榛名に、比叡は反応を示さない。

 

 

 

比叡「………………………」

 

 

 

 

比叡「…許さない」

 

 

 

 

 

比叡「許さない許さない」

 

 

 

 

 

比叡「許さない許さない許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡「お前だけ幸せになるなんて、許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





榛名の記憶パート①……第7駆逐隊に深海棲艦への特攻作戦が下令された日の記憶。
駆逐艦娘の中でも非常に高い練度を誇る4人は全員が突入成功。戦艦タ級を2隻撃沈。戦艦棲姫を大破させる戦果を挙げた。
そのためにこの日の赤井は上機嫌だったのだ。


パート②…金剛型戦艦4名を主力とする呉艦隊が、深海棲艦に奪われた小笠原諸島を奪回するための作戦での出来事。

この日は赤城、加賀、蒼龍を上空直掩として派遣していた。
しかし、既に練度の高い艦載機を失い制空力が低下していた為、艦隊を守り切れなかった。
一方の敵は基地航空隊も活用した大編隊、そして大艦隊で迎撃。
多数の被弾を受けて帰還不能となっていた比叡は榛名の、霧島は金剛を庇い轟沈。

結局帰還できたのは金剛、榛名、赤城、加賀、蒼龍、青葉、最上、川内、北上、吹雪、時雨、雪風の12名のみ、無傷は時雨と雪風のみだった。(出撃した艦娘は35名ほど)


ちなみに比叡の本文の恨み言は榛名の中で脚色されてます。




読んでいただきありがとうございました。
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