九鬼「Jトマホークミサイル、全弾発射完了。着弾まで………3分です。」
橋本「……3分ですか、長いのか短いのか、分からないですね。」
九鬼「Jトマホークは従来のトマホークが巡航速度800キロの所を、3倍の2400キロまで上げている。普通なら15分はかかるから、余裕で探知されちまってお釈迦だ。」
Jトマホークは一般向けにはトマホークの1.5倍の巡航速度と公表されているが、その本当の性能は実に従来のものの3倍。この真の性能を知る者は自衛隊関係者とその他のごく一部の人間しか知らない事実である。
九鬼「だが…」
九鬼「…今の俺達には、あまりにも長い時間だな。」
九鬼は、下を見つめじっと拳を握る。命令とはいえ何の躊躇いもなく人命を塵のように消し飛ばせるミサイルを、実に15発も即時撃ち込んだ。
戦闘経験からすればまだ青い彼にとって、それは恐怖でしか無かった。
九鬼「……もう、戻れんぞ…」
橋本「始めてきたのは向こうです。俺達は自衛隊。国民を守る為には、俺達が鬼神にならなくちゃいけないんですよ。」
九鬼「………すまん」フルフル
橋本「…2尉、いい加減に覚悟を決めてください。俺達は…もう手を汚したんですよ。『自衛官』では無く、もう『軍人』です」
九鬼「覚悟を決めるって、簡単なことなのか……?」
「さっきはあんな啖呵切ったけど、本当は…その、まだ、怖いんだよ。」
「人の命を簡単に奪える、ミサイルを撃ったんだぞ?」
CICには、この2人を始め、重苦しい雰囲気が漂う。
しかし、橋本はそれを一蹴。
橋本「正しい選択なんて、当事者には分かるはずはないんです。それに、それを今言ったところで、ミサイルはノコノコ帰ってきませんよ。俺達はこの日の為に訓練をしたんです。日本人として、日本を守るために。」
九鬼「…橋本、皆お前みたいに、強くはねぇんだ…」
(ミサイルの発射ボタンって、あんなにも重かったんだな…)
橋本「2尉、切り替えましょう。敵の反撃が来ます。」
そういう橋本の両手が小刻みに震えていたのを、九鬼は見ていなかった。
一方その頃………
航空自衛隊築城基地では、敵艦隊発見の報を受け、所属機のF-2、40機余りが緊急発進の準備を進めていた。空自としても海自同様に初の実戦。佐世保の艦隊同様、士気は十分だった。
そのF-2のうちの1機を整備している新人の航空自衛官の2士と、ベテランの1曹の2人は、整備をしながらパイロット達を眺めていた。
整備員「パイロットは、士気は旺盛ですね…」
整備員②「だが、彼らが思う存分に飛び立てるためには、俺達の力がなくちゃいけない。世界一の整備力の見せ所だな。」ニッ
整備員「…彼ら、帰ってこれるでしょうか…?」
整備員②「……」
整備員「…えっと?先輩??」
整備員②「はぁ…そいつは聞かない約束だぞ。」
整備員「…!それはどういうことですか?!」
整備員②「でけぇ声を出すなよ〜…びっくりすんな〜」クビカシゲ
「…敵は中国太平洋艦隊の主力だ。あいつらはおそらく、装備だけを取れば海自さんの艦隊とタメを張れる。」
整備員「そんな…」
整備員②「まぁ、お前さんは1ヶ月前までは高校生だったからな。そりゃ、人が死ぬかもしれない場所へ行こうとしているなんか、信じられねぇよな〜」フフフ
整備員「…なんで先輩は、そんなに余裕なんですか?」
整備員②「さぁな…ただ、俺はこの自衛官人生で、何人も殉職してきた奴らを見てきた。戦闘機乗りで4人、ヘリパイロットで5人、そして…同じ整備員仲間で3人だな。」
整備員「……」
整備員②「まぁ、自衛官やってら、そーいう経験がある奴はザラに居るさ。百里に勤めてる俺の同期は、実際に戦闘機がタッチアンドゴーの訓練中に堕ちていったのを直で見てたりもする。お前さんもこれからそういった経験に一度や二度は遭遇するだろうよ。」
整備員②「ただ、それが今日になるやもしれんってのは、ちと酷だな。」
整備員「これが、戦時中だったら日常なんでしょうか…?」
整備員②「だろうな…人が死んでいくのが当たり前になっちまうんだからね…考えたくもねぇよ。」
整備員②「でもな新人。自衛隊っちゃ、いざという時はその役目を担わなくちゃならねぇ。服務の宣誓で誓ったでしょ?」
整備員「それはそうですが……
」
整備員②「…でも、正直に言うと、俺も怖ぇ。」
整備員「…え?」
整備員②「まぁ、今までは訓練とかの殉職者だったからな。割と受け入れられる部分は多かった。でもまぁ…戦争での戦死者っつうのは…なんともまぁ未知数だからな。かなり怖いとは思うぜ。
それに、こんな経験は皆が初めてなんだ。自衛隊だからって、そんなすんなりとは腑に落ちねぇよ。」
整備員「じゃぁ、皆、同じってことでしょうか?」
整備員②「そうなるね〜」
「それに、今から飛び立つ彼らは、もっと怖いんじゃねぇのか?」
整備員「結構気合が入っているように見えますが…」
整備員②「そりゃアドレナリンだろう。でも、実際は怖いはずだぜ。ホンモノの弾丸とミサイルが飛び交う空に向かっていくんだからよ。」
整備員「だからこそ、自分達が完璧な整備をして、彼らが少しでも生存できる可能性を上げる……」
整備員②「お!わかってきたか!!そういうこったぁ!」
整備員「自分、まだ怖いです。でも、彼らの為にはそんなことも言ってられない……」
整備員②「何だよぉ〜分かってるじゃねぇか」ハハハ
整備員「すみません…なんか、心の内を明かしておかないと、その、不安になってしまって…」
整備員②「いや、こちらこそありがとな。俺もお前に話せて、少しは踏ん切りがついた。頑張ろうか…っと、これで整備は完了だな!ヨシ、新人、戻るぞ〜パイロット様たちが来るぞ〜」タタタ…
整備員「あ、先輩待ってください〜!」
そこで、彼はもう一度自らの整備したF-2の方を振り返る。
整備員(頼んだよ……F-2。あの人達を、勝利に導いて!!)
ー20分後ー
航空自衛隊築城基地には、実に40機ものF-2が大空に今にも飛び立たんとしていた。
耳をつんざくような轟音と、F-2独特の蒼色の洋上迷彩を輝かせ、遥か彼方の敵艦隊をその目に捉えて翼を広げていく。
飛行総隊長「各飛行隊長、準備完了次第報告をせよ。」
第6飛行隊隊長「第6飛行隊、全機発進準備完了。」
第8飛行隊隊長「第8飛行隊、同じく完了。」
飛行総隊長「よし、ではこれより、防衛出動の下令に伴って、我が第8航空団戦闘機部隊は、対馬沖にて展開する友軍艦隊の航空支援を行う。第6飛行隊、各機発進を開始せよ。」
この命令から8分後、築城基地所属のF-2戦闘機全機が、その轟音を豊前の町一帯に轟かせ、日本海へと飛び立っていく。
しかし、まだ築城基地に残留する自衛官達の仕事は、まだ終わっていない。なぜなら、まだ残っている『とある』戦闘機部隊の発進準備に追われているからである。
ー対馬沖、海上自衛隊混成艦隊本隊ー
かが副長「艦長、築城より、F-2戦闘機40機全機が発進完了したようです。あと敵艦隊からの捕捉を回避する為、陸地を超低空で飛行している為にかなり低速です。」
九州地方の陸海空自衛隊各部隊と緊密に連携を取り合っていた海自の艦隊にも、戦闘機の発信情報は届いていた。
かが艦長「…どれほどかかりそうか?」
副長「おそらく…40分ほどです。」
かが艦長「かなりかかるな…それまでに、如何に損害を抑えるか…」
40分。それは、音速を超えるミサイルの飛び交う現代の艦隊決戦にとっては長すぎる時間であった。それまで、ほぼほぼ航空支援が受けられない事は、最悪の場合、容易に制空権を握られてしまうこととなってしまう。
そして、その状態を憂慮した、かが砲雷長の大西2等海佐が意見具申をした。
大西「艦長、先程のイージス艦のミサイル攻撃で、敵が反撃してくるのは必然です。ここは、こちらに被害が出る前に252飛行隊を発艦させておくべきかと。」
「駄目です。」
とある者が大西に反抗した。
彼は、このかが乗組員でありながら、252飛行隊の司令として乗艦している航空自衛官、浅野2等空佐である。
実際にF-35の戦闘機パイロットであり、模擬空戦では空自トップクラスのエースの1人であった。
浅野「F-35Bは垂直離着陸型のSTOL機です。その為、着艦時に莫大な燃料消費をしてしまう。つまり、Cタイプ程の航続能力が無いんですよ。上空待機させるなんて尚更です。」
大西「浅野2佐、敵艦隊は強大だ。先ほどの攻撃でも、何発敵の防空網を突破できるか分からん。それに、艦隊決戦ともなれば被害が出るのは不可避。それが艦隊唯一の航空戦力まで及ぶとなると、大きく不利になってしまう。」
浅野「そうです。敵が強大だからこそ、今はまだ発艦させるべきではありません。今、発艦作業をすると一時的にこの艦は戦闘行動が取れません。そんな無防備な状態を作るのは、敵の攻撃力をある程度削がないと、認められません。」
大西「その為の護衛艦達じゃないのか?」
浅野「大西2佐、その考えで敗戦したのが、ミッドウェーです。」
大西「……」
艦長「大西2佐、君の考えも十分に理解できる。だが、やはりミッドウェーの悲劇は繰り返してはならん。ここは、堪えてくれ。」
大西「…了解です。」
艦長「ひとまず、252飛行隊は待機を続行。対空警戒を厳にして、引き続き宜しく頼む。」
そうして大西、浅野は両方とも配置に戻っていった。
艦長「あ、そうだ。大西君、Jトマホークを発射して、どれくらい経った?」
大西「はい、ええ…2分40秒です。」
艦長「もう少しか…」
その艦長の一言で、改めてかがのCIC内に緊張が張り詰める。それは、ミサイルを発射したイージス艦の一隻、はぐろでも同じだった。
ーはぐろCICー
CIC内では、九鬼、橋本を含め、全員がモニターを食い入るように見ていた。
橋本「!ミサイル全発、着弾コースに入ります!」
九鬼(頼む……当たってくれ!)
橋本「敵艦隊、迎撃ミサイル発射!」
美山副長「まぁ、当然だろうな…」
九鬼「何発突破できるか…」
九鬼は、人命を奪うことに対する恐ろしさと未だに戦いながら、自衛官としての責務に全力を尽くしていた。
その頃、中国艦隊上空では両軍のミサイルがまさに雨霰のごとく降り注いでいた。
中国艦隊は海自のP-1を撃墜して以降、近辺の海域への警戒を強めていた。
しかし、遥か彼方の水平線から超低空で接近してきたJトマホークにはレーダーが探知せず、日本側の思惑通りに対応が後手後手になったのだ。
そんな遠距離からのステルス攻撃に、中国艦隊はなす術がない。
75発のトマホークミサイルに対して、迎撃できたのは35発。
そして、これを突破した40発が、ついに敵を食い荒らすのである…………
次でプロローグの修正も最後にします。同時にプロローグ最終回にする予定です。