Jトマホークミサイル到達の1分前、中国海軍側では自らに現在進行形で降り掛かってきている恐怖には気づきもせず、哀れにも索敵を続行していた。
中国海軍太平洋艦隊旗艦 空母遼寧艦内にて…
司令官「しかし、なんとも敵に遭遇せんな。全く…かれこれ2時間は索敵しているというのに、日本海軍にはフリゲートの1隻も見つからんではないか。」
中国海軍太平洋艦隊、第1空母打撃群の司令長官、王(ウォン)海軍中将は敵に遭遇しない現状に、海上自衛隊同じく痺れを切らしていた。
しかし、日本側とはその事情は明らかに異なる。なぜなら、彼自身には中国共産党の本部から圧力をかけられていたのだ。
それもそのはず、近年は国力でも大きな差をつけている日本とはいえ、中国、インド、インドネシアに継ぐ、アジアでは第4の、そして世界第7位の経済大国である故(2032年時点)、今回のこの攻撃はなんとしても中途半端な形にはできないのだ。
中国が今回日本を攻撃したそもそもの要因は、米軍の日本からの一部撤退に起因する。
日本は、2030年に憲法、特に平和主義について記された第9条が大幅に改正された事によって、日米同盟を始めとするアメリカとの安全保障関係も戦後最大級の改変を見せた。
具体的な内容は、自衛隊の規模が大幅に拡大したために(防衛費がこの年から20兆円となり、航空自衛隊は戦闘機の数を10年以内に1500機まで増強、陸上自衛隊は隊員の数を15年以内に40万人まで増強、海上自衛隊は10年以内に新たに水上戦闘艦として、ニミッツ級航空母艦に匹敵する大型主力空母を3隻建造、イージス艦を28隻まで増強。尚、これはほんの一部の改革である)、米軍が日本から段階的に撤退を始めたのだ。
そして、2028年から行われていたこの撤退によって、2031年に沖縄から米軍が完全撤退。それと同時に沖縄には空自の戦闘機部隊として新たに200機の戦闘機が駐留。陸自も大幅に増強されるなど、返って中国側にとって面倒な事態となっているのであった。
その為に、沖縄、台湾を攻略する前段作戦として、まずは海上自衛隊の主力を叩くために本作戦を決行したのである。
つまり、この作戦の失敗は、王海軍中将としては厳罰が下される事間違いなしなのである。何が何でも成功させる必要があった為に焦っているのであった。
王「チッ、そこら辺を飛んでいる敵機を落としておけば、餌に食いつくと思ったんだが…」
遼寧艦長「司令長官。御報告がございます。」
王「なんだ?もう飯の時間か?」
遼寧艦長「あ、いえ…そうではないのですが、少々悪いお知らせでして。」
王「…早く報告したまえ。」
遼寧艦長「先程、前方の防空駆逐艦隊が、何らかのレーダー波を浴びたとの報告がありました。もしかすると、敵艦隊が近くにいるのではないでしょうか?」
王「艦長、君にはこのレーダーが見えんのかね?どこにも敵艦隊など見えんではないか。それともなんだ。レーダーが故障しているとでも言いたいのか?」
艦長「いえ…ただ、万一を想定して、閣下にお知らせすべきかと思いまして…」
王「艦長。少しは落ち着きたまえ。ここは先程巡視船を撃沈した箇所から400キロは離れているんだぞ?そう簡単には見つけられん。」
艦長「はぁ…」
王「確かに、敵は決して侮れん。だがね、いざ艦隊決戦となれば、歩があるのは我々だ。敵が保有しているのは空母と言っても軽空母。アメリカ製の戦闘機がせいぜい10機ほどしか載っておらん。それにな、日本艦隊の切り札とも言える潜水艦対策として、今回は対潜戦に特化した新型の駆逐艦隊も連れてきているのだよ。並大抵の事では、この厚い防御網は突破されんさ。」
艦長「ですが、敵には我々の射程外から我々を狙える、新型のトマホークを所持しています。それが一度に飛んでくる可能性も御座います。やはり、先ほどの駆逐艦への謎のレーダー波は無視できません!」
王「現状としては、私は対艦ミサイルよりも潜水艦の方が脅威だと考えるがね。あのレーダー波を囮として、潜水艦が近くに来ていたならば、それこそ危険だ。対空戦闘の準備は優先度が低い。」
艦長「…しかし、」
この2人の押し問答の最中、艦長の想定していた最悪の事態が訪れる。
遼寧乗組員「艦長!2時の方向より、超低空で接近してくる飛翔体を多数確認!これは…!ミサイルです!ミサイルが来ます!!」
2人「!?」
艦長「くそ!!なんてことだ…!数は!?」
乗組員「40…いや、70以上来てます!」
艦長「何だと…」
(70も、一体どこから!?明らかに近海には敵の艦影はなかった…やはり、長射程の新型トマホークか?だが、70も………イージス艦2、3隻が撃てる数ではあるまい…まさか、敵はとんでもない大艦隊なのではないのか…?)
艦長「くそ!敵への認識が甘すぎた!全艦に達する、対空戦闘用意!繰り返す、対空戦闘用意!!急げ!」
乗組員「艦長、ダメです!ミサイルの速度が速すぎます!対空ミサイルでは間に合いません!!」
艦長「チクショウ!!なら、砲雷長!主砲だ!主砲で迎撃せよ!」
乗組員「ですが、主砲では殆ど迎撃できません!」
艦長「そんな事は分かっている!もうこうなった以上、被弾は避けられん!1発でも迎撃して、生存率を上げるんだ!」
砲雷長「了解!各艦、これより敵ミサイルを迎撃せよ!」
そして、中国艦隊は各個に主砲射撃による迎撃を開始した。しかし、毎分50発も射撃できない主砲では、全部で20発が墜とせて限界であった。
司令長官「駄目か…仕方ない。艦長、各自、向かってくるミサイルに対しては、20ミリ機関砲で応戦せよ。」
艦長「了解!各艦、20ミリ使用許可!各個に迎撃せよ!」
だがしかし、全ての対応が遅すぎた。突如としてのアウトレンジ攻撃に対して、中国艦隊はその警戒網の突破を易々と許してしまった。常に最悪の事態を念頭に置いておいて行動する、軍の常識として当たり前のことを彼らは忘れていたのである。
全ては、王司令長官の冷静さを欠いた判断に起因すると言って良いだろう。
王(何故だ…なぜ奴らは我々の位置を把握できていた??こんなの….近くに索敵機がいたとしか思えん。だが、何処だ??どこにもそんな日本機は………、まさか!)
ここで彼は、自身の作戦の穴に初めて気付いた。
王(あのP-1か!!)
王「そんな馬鹿な…」
中国艦隊からも、P-1の乗員の脱出は確認できていなかった。
王「日本の自衛隊は、命を大切にしているのではないのか…?」
ズドーーーーン……
艦長「!?何の音だ!どの艦かやられたのか!?」
遼寧が必死に迎撃をしていた最中、遠方から地鳴りのような爆音が聞こえる。それと同時に、遼寧を大波がおそった。
この時、見張りの艦橋員達は、信じられない光景を眼下に収めていた。
乗組員「艦長!!艦橋より報告!前衛の駆逐艦3隻被弾!内1隻は轟沈しました!」
艦長「くそ…やられたか…!」
これら3隻の駆逐艦は、艦隊の前衛として防空の任務を担っていた艦達である。これら3隻を初撃で失ったことは、今後の戦いに大きな支障をきたす事となる。
ー遼寧艦橋ー
乗組員「なんてことだ………」
乗組員「防空駆逐艦が、3隻も、あんな風になるなんて…」
彼らの眼下には悲惨な光景が広がっていた。
西側諸国で言うところのイージス艦が、彼らの本業である防空任務を全うできずに次々と被弾。その内の1隻は被弾したかと思ったら、一瞬で船体が爆散していき、その破片の内の大きな欠片が付近の駆逐艦に直撃。その駆逐艦も損傷を被るという、何とも混沌とした様相になっていた。
そして、その付近には、その駆逐艦達の乗組員が何とも悲惨な有様で海へと投げ出されていたのである。
ある者は頭部が吹き飛び、ある者は四肢が欠損。中にはそもそも人なのかも分からないような遺体もあった。
それらを双眼鏡越しに見ていた、遼寧含む各艦の乗組員の士気は当然下がっていく。
乗組員「お、おい…日本軍は、とんでもない奴らなんじゃないのか……?」
乗組員「俺たちも、あんな風に死んじまうのかよ….」
士官乗組員「おい!貴様ら、そんな寝言を言う暇があるなら、さっさと回避行動を取らんか!軍法会議行きになりたいのか!!」
乗組員「も、申し訳ありません!!」
ー遼寧戦闘指揮所ー
砲雷長「くそ!!ダメだ!キリがありません!艦長!」
艦長「ここまで20ミリで8発撃墜したが、そろそろ弾薬も不味くなってくる…」
乗組員「!!艦長、新たに7発が向かってきます!!」
砲雷長「撃て!!」
砲術士「撃ち方はじめー!!」
毎分3000発という弾を繰り出す機関砲が必死にミサイルを迎撃する。しかし、ここでも中国の横着な性格が出てしまう。
乗組員「ミサイル2発、突破します!」
砲雷長「くそ!!!ダメです!艦長、機関砲が弾切れです!」
艦長「やはりか……」
なんとこの遼寧、20ミリ機関砲に従来の5分の1の弾薬量しか載せていなかったのである。
残りの弾薬を前衛の駆逐艦に移していた為に、遼寧は自ら防空力を削いでしまっていたのだ。
艦長「後で、参謀本部には痛烈な非難の電文を送っておくとしよう。総員、衝撃に備え!!」
ヒューーー……
ドーーーーーン……
刹那、遼寧艦内を激しい爆発と揺れが襲う。地震で例えるならば、震度7を優に超えるであろう激しいものだ。戦闘指揮所内では、椅子から投げ出され、体を強く打ち付け、負傷する者も出た。
「うぅ……」
「あ、あぁ……」
指揮所内では所々からうめき声が聞こえる。飛行甲板に2発のトマホークミサイルを浴びた遼寧は、もはや航空母艦としての機能を喪失していたのであった。
ー同時刻、海上自衛隊護衛艦はぐろCIC内ー
橋本「ミサイル2発、遼寧に命中!!」
橋本の声がCIC内に響く。
中国海軍がJトマホークをまともに迎撃できなかったのは、海自側からも確認できていた。
美山「やはり、Jトマホークはろくに迎撃もされなかったようだ。対空ミサイルも確認できない。」
九鬼「となると、彼らは主砲と機関砲だけで迎撃をしたことになりますね。まさか、ここまで一方的になるとは…」
手の震えがいっこうに止まらない。心臓の音が余計にうるさくなる。
まだ、ミサイルを撃った事実を受け入れることを、身体がまだ否定している。
九鬼「くそ…こんなはずじゃ…」カタカタ…
美山「ついに、一線を超えたな。」
美山「私たちは、自衛隊の歴史を変え、そして、世界のパワーバランスにもこの瞬間をもって大きく変えてしまった。」
橋本「防衛政策の大転換点を迎えた近年、自衛隊は装備、規模を取ればアジアの軍事バランスを大きく変えました。ですが、今回の件で、日本はやろうと思えばいつでもその懐の刀を抜けることを世界に示しました。」
九鬼「国としてはそれは良いことなんだろうが、そのおかげで、また血を流さなきゃならない人間がこの国に生まれてしまった。」
橋本「そして、それは我々です。」
九鬼「…分かってはいたさ。俺たちが任官した時期から、この地域の情勢は怪しくなってきていた。だから、いつかは手を汚すかもしれないことも。」
橋本「…」
九鬼「フフッ、分かってるよ橋本。言いたい事はよ。早く覚悟を決めろって言いてぇんだろ?」
橋本「….…」
九鬼「…難しいもんだな。覚悟決めるってことは。」
はぐろのCIC内は、重苦しい雰囲気に包まれていた。だが、そんな彼らの意思とは無関係に、既に海自では作戦の第二段階、すなわち、航空機によるミサイル攻撃が開始されようとしていたのだ。
かが艦内では、敵艦隊の前衛の大型防空艦の喪失を受け、すぐさま艦載機隊の252飛行隊の出撃を決定した。
現在、5機が第1波攻撃の為に、発艦が開始されていた。
築城基地の群青色のF-2とは大きく異なる、漆黒に包まれたステルス戦闘機達が、敵にとどめを刺すべく飛び立つ。
ー護衛艦かがCIC内ー
CICではかが艦長と、252飛行隊の司令、浅野2等空佐が、航空攻撃による敵撃滅の作戦の最終打ち合わせに突入していた。
浅野「しかし、驚きましたよ艦長。まさかF-35に『対潜攻撃』を命じるなんて。」
今年36歳のいわゆる「イケオジ」オーラを放つ浅野が、立派な口髭をいじりながら、微笑混じりで艦長にそう言った。
艦長「うむ、私も当初は彼らには遼寧へのトドメを刺すよう命じるつもりだったんだがね。」フフ
艦長も一本取られたような感嘆の意を込めてそう言う。
そして、眼鏡を拭きながらこう続けた。
艦長「まさか、ここに来て井上さんの奇策が出るとは思わなくてね。」
井上。それは、この海自艦隊の対潜ハンターとしての役割を担う、ヘリ空母の呼び声高い護衛艦いせの艦長、井上1等海佐の事である。
彼ははぐろ副長の美山2佐と防大、そして、幹部候補生学校の同期であり、防大を次席で卒業した秀才であった。
海上自衛隊に入隊してからは、10年ほどを潜水艦乗りとして過ごす。
潜水艦そうりゅうの艦長時代には、リムパックにて、米第7艦隊を相手になんと空母を含めた4隻に対して撃沈判定を叩き出したこともある、生粋のサブマリナーであった。
彼の武器はなんと言ってもその卓越した敵探知能力にある。戦闘指揮所では微動だにせず、180センチの長身、鍛え上げられた筋肉を携え、じっと前を見つめるだけ。そして、いざ言葉を発する時は的確すぎる指示のみを出す。仕事人とはまさに彼のような男のことであるのだろう。
そんな彼は5年前から水上勤務となり、あさひ、しらぬいといった対潜特化の護衛艦を率いていた。潜水艦乗りの経験を活かして、常に敵の行動を先読みすることのできた彼は、まさにいせの艦長にはもってこいの人材であった。
ーF-35発艦20分前、護衛艦いせ艦橋内ー
いせ乗組員「艦長、先ほどのイージス艦隊のミサイル攻撃は、40発が敵艦隊に命中!防空駆逐艦1隻轟沈、2隻が大破航行不能、旗艦遼寧は中破です!」
はぐろ達イージス艦のミサイルの飽和攻撃成功の報はいせにも伝わっていた。
井上1佐はその報告に表情一つ変えずじっと耳を傾ける。
井上「…副長、イージス艦隊は、何発Jトマホークを撃ち込んだ?」
いせ副長「えー…、75発であります。」
井上「……75発」
副長「艦長?」
井上「敵の、防空型の艦艇は何隻だ?」
副長「確か…、8隻であります。」
井上「たしか、内新型艦は6隻。そして、残りの2隻もこんごう型と同スペックの対空能力がある…」
眉間にシワを寄せ、敵の真髄に迫る。
何が怪しい。
彼の長年のサブマリナーとしての勘が燻られる。
井上「……なるほど、そういうことか。」
そして、彼は全てを察したかのように口角を上げる。さながらカイジのようだ。
井上「副長、直ちに哨戒ヘリを6機発艦させよ。そして、敵潜の索敵を、艦隊の付近にて行え。発艦完了したら、かがのCICに繋いでくれ。」
副長「え?かがにですか?」
井上「そんな狐につままれたような顔をするなよ、さぁ早く。」
微笑を浮かべ副長を急かす。
ー10分後ー
副長「艦長、かがに繋がりました。」
かが艦長「こちらかが。井上1佐、どうかしたのか?」
井上「…艦長、F-35は、もう発艦されましたか?」
かが艦長「いや、まだであるが…どうかしたのか?」
対潜専門の井上が、航空機の事に関する質問を投げかけてくるのは大変珍しかった為に、かが艦長はしばし呆気に取られていた。
井上「でしたら、252飛行隊は、対潜攻撃に投入するよう、意見具申をします。」
かが艦長「!何だと?!」
かが艦長は、思わず声を大にしてそう言った。当たり前である。今まで、敵の水上艦隊を叩く為に彼等を載せてきたのだから。
井上「艦長、不思議に思いませんか?敵へのミサイルの命中数を。」
かが艦長「…なるほど。少々出来過ぎてはないかというのかね?」
井上「仰る通りです。」
それから、井上は10年以上の潜水艦勤務からの独自の見解を述べる。それは、まさに革新的とも言えるアイディアであった。
井上「恐らく、敵はJトマホークのその圧倒的なステルス性、そして極々超音速の性能についていけず、出鼻を挫かれた。そして、我々の意識を水上戦闘に『敢えて』移しているのではないかと。」
井上「確かにJトマホークは素晴らしい対艦ミサイルです。ですが、中国艦隊の防空型艦艇は、そのほとんどが我が海上自衛隊のまや型護衛艦よりも新らしいもの。恐らく、レーダーでは探知できず、突如として艦隊の防空網が破られた時に備えて、最新の極短距離艦対空ミサイルを撃つ事だって出来たはずです。ですが、それをしなかった。彼らが本気になれば、75発の内、良くても10発しか敵には届かないはずです。
つまり、最新の駆逐艦達を犠牲にしてまで敵がやりたいこととは何か……」
そこで、かが艦長は納得がいった。
かが艦長「我々の心臓部を一気に突くこと、だな。」
井上「その通り。我々にイケイケの空気を生み出し、そこを潜水艦からの近距離雷撃で一瞬で勝ちをもぎ取る。本当に我々が目を向けるべきは海中なんです。」
かが艦長「…やはり君には頭が上がらんね。コイツは、帰投したら君に一杯奢らねばだね。」
井上1佐の驚くべき推察力に、かが艦長は脱帽しその頭をポリポリと掻いた。
かが艦長「よし、では、その作戦で行こう。井上1佐、敵潜水艦隊を発見次第、直ぐにその位置と数を送ってくれ。」
井上「了解。」
かが艦長「やはり、彼は素晴らしいサブマリナーだ。そうは思わんか?副長。」
彼に未だ感動していた艦長は、その感動を余りにも共有したくて副長にぼやいた。
副長「そうですね。米第7艦隊司令部から、『海中のシモ・ヘイヘ』と呼ばれただけに、頭のキレも海自には勿体ないくらいですよ」
井上の凄さには、皆が感嘆していたのである。
それから5分して、井上の読み通りに、敵潜水艦をやむなくして発見。しかし、その数は彼等の想像を凌牙していた。
井上「何とまぁ…こりゃ、飛んだ大博打じゃないか…」
いせの艦橋内にてその報告を聞いた井上1佐は、彼にしては珍しく目を見開き、そして感情を乗せてそう発した。
井上「…誰も気付いていなければ、この艦隊は1時間後には海の藻屑だ…」
先程までの驚いた顔とは一変。鋭い眼光で水平線の先を見やる。
海自艦隊に迫っていた潜水艦の数、
実に11隻。
ーかがCIC内ー
こちらも同様、その桁違いの多さに声を漏らす艦長達だった。
かが艦長「11隻か…こりゃあ、敵さんやりおったな…」
気付いていなければどうなっていたかを考えると、考えるだけでゾッとする。
艦長「よし、252飛行隊に下令!直ちに発艦し、敵潜水艦を対潜ミサイルにて撃沈する。また、護衛艦あさひ、きりさめ、あけぼのに下令、アスロック対潜ミサイルを敵潜水艦隊へ発射!」
再び自衛官達が実弾を敵に向かって撃つ時である。再び艦隊全体が緊迫した空気に包まれる。
ーかが飛行甲板ー
全長248メートルの、空母としてはかなり小型のその全通飛行甲板に、漆黒の狩人、F-35Bが5機、発艦体勢へと入った。
慌ただしく作業を進める飛行整備員たち、発艦後の攻撃に向けて各艦と連携を取り合うCICの自衛官たち、それぞれが役割を全うしていく。
252飛行隊長「浅野司令、252飛行隊第1小隊、いつでも発艦できます。」
ついに敵の裏の主役を叩く時。浅野2佐は、発艦開始の合図を出す。
その瞬間、唸るような轟音を吐き出しながら、F-35B5機が敵潜水艦隊に向けて発艦した。
作戦はこうだ。まずはいせの対潜哨戒ヘリのキャッチした敵情報を基に、護衛艦あさひ、きりさめ、あけぼのの3隻がアスロック対潜ミサイルを発射。この攻撃で敵潜を混乱させ、そこを252飛行隊の対潜攻撃をもって撃沈するというものであった。
それと同時に、別動隊ももうじき敵の水上艦隊に牙を剥く頃である。
航空自衛隊築城基地、第8航空団所属、F-2戦闘機部隊40機、
そして、最新の日英伊共同開発、実験的に極一部の実戦配備として駐機していた、F-3戦闘機隊5機の計45機が、トドメを刺すべくして向かって来ていたのだ。
かが艦長「あさひ、あけぼの、きりさめ、対潜戦闘用意!対潜ミサイル発射はじめ!」
この3隻から計10発のアスロック対潜ミサイルが発射された。
綺麗な放物線を描いたこれらのミサイルは、いずれも敵潜の目前で自爆。予想通り、気づかれていないと考えていた中国潜水艦隊は混乱を極めた。
ーF-35飛行隊ー
2番機「しかし、なんか盛り上がりに欠けますねー….俺たち空母乗りの初出撃がまさか潜水艦狩りなんて。」
飛行隊ではそんな談笑をしながら敵艦隊へと向かっていた。
3番機「まぁまぁ、先輩。そう言わないでくださいよ。それは、ここにいる全員が同じこと思ってますって。」
2番機「この貴重なF-35を、鯨狩りに使うとは、艦長さんも贅沢だな〜」
機体を優しく撫でながら、パイロットはつぶやく。
3番機「幾ら海自が潜水艦ハンターとはいえ、11隻も一撃で屠るのは無理がありますよ。ここは、我々がパパッと決めちゃいましょう!」
飛行隊長「お前たち、お楽しみなところ悪いが、そろそろ攻撃ポイントだ。気持ちを切り替えろ。」
飛行隊長が2人に釘を刺す。
それもそのはず。彼等は今から、鉄の鯨と、その乗組員たちの尊き命を沈めるのだ。シューティングゲームの感覚でミサイルは撃つものではない。
4番機「隊長、後15秒で攻撃ポイントです!」
5番機「カウントダウン始めます。15…14…13…12…11…」
5人に緊張が走る。5番機の数える1秒が、恐ろしく重く感じる。
5番機「8…7…6…5…4…3…」
全員の発射ボタンを触る指が震える。彼等もまた、命を守る為に、命を奪うことへの残酷な現実と闘っているのだ。
5番機「2…1…今!」
飛行隊長「ファイヤ!」
次回で必ず完結させます。どうかお待ちください。