翌朝、誠達は【オルクス大迷宮】に入った。
ある程度進むとドーム状の大きな場所で天井の高さは7.8メートル位ありそうな広場に出た。その時壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。
「よし光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」
その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛び掛かってきた。
灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ねずみぽいが・・・二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけは毛がない。
前衛に立つ雫の頬が引き攣っている。
間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃し、その間に香織と恵理、ロリ元気っ子の
前衛の3人の戦いぶりに誠以外の生徒達が見蕩れていると、詠唱が響き渡った。
「「「暗き炎渦巻いて、敵の
三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を焼き尽くす。
「ああ~、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」
気を抜かない様に注意するメルド団長。
「それとな・・・今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」
メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるだった。
そこからは交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。
因みに誠は覇王色で気絶させてから魔石を回収した。金棒を使わないのかとハジメに聞かれたが、「潰れたトマトみたいな物が見たいなら使うぞ?」と言われ思わずその想像をし顔を青くしたハジメは使わないでと悲願した。
そうしている内に一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいが、それは百年前以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流だという。
「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけではなく複数種類の魔物が混在したり連係を組んで襲って来る。今までが楽勝だったからといってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合を入れろ!」
メルド団長の掛け声がよく響く。
「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」
メルド団長の忠告が飛ぶ。
その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ちあがる。そして胸を叩きドラミングを始めた。
「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!」
カメレオンの擬態能力を持つゴリラのような魔物にメルド団長が忠告する。
「グゥガガガァァァァアアアア!!」
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
囲もうとした、光輝、龍太郎、雫をロックマウントの固有魔法‶威圧の咆哮〟を襲い一瞬硬直してしまう。
前衛が硬直している間にロックマウントは傍らの岩を持ち上げ後方組に向かって投げつけた。香織達が準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的な光景に思わず硬直してしまう。
投げられた岩もロックマウントだった。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げ香織達に迫る。その姿は某泥棒三世のダイブである。あまりの気持ち悪さに、香織も恵理も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げ魔法の発動を中断してしまう。
「なに家の妹に迫ってんだ!オラ!」
誠が武装硬化した右足で思いっきりロックマウントを蹴り飛ばす。投げ飛ばしたロックマウントの横を高速で通り過ぎそのままで壁に叩きつけられて絶命する。
「大丈夫か恵理?」
「あ、ありがとう兄さん・・・」
誠が声をかけるがまた気持ち悪さが残っているのか顔を青くしながら礼を言う恵理。
「貴様・・・よくも香織達を・・・許さない!」
気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いした光輝が聖剣を構える。
「万翔羽ばたき、天へと・・・」
「馬鹿野郎!!」
詠唱の途中で誠が髪を伸ばし光輝を殴り、詠唱を中断させる。
「なにするんだ龍波!!」
「それはこっちのセリフだ!こんな狭いところでそんな大技を使えば、崩落する可能性を考えてないのか!!」
「そ、それは・・・」
「誠の言う通りだ。気持ちは分かるが崩落しては元も子もない」
「うっ」
誠に噛みつくが正論を言われ勢いをなくし、メルド団長の追い打ちにバツが悪そうに謝罪する光輝。
ふと香織が崩れた壁に視線を向けると、青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方には大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップスリーに入る。
「素敵・・・」
香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けった。もっとも誠と雫ともう1人だけは気づいていたが・・・。
「だったら俺等で回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けて走る。
「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」
慌てたメルド団長が言うが、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまう。
その時誠は巨大な石造りの橋の上の光景が見えた。同時に騎士団員の一人が青褪めて言う。
「団長!トラップです!」
「ッ!?」
しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり、瞬く間に全体に広がり輝きを増す。そして撤退しようとするが、間に合わず転移してしまう。
転移先は誠が未来視で見た巨大な石造りの橋の上にいた。天井の高さが二十メートル以上あり、橋の下は川などなく、全く見えない深淵の如き闇が広がっている。橋の横幅は十メートルくらいはあるが、手すりどころか緑石すらない。
誠達は巨大な橋の中程にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
「お前等、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで・・・」
「いや手遅れだ。各々の死角を守るように隊列を組め!」
メルド団長が言い終わる前に、誠が言い生徒達は一部を除き隊列を組む。
誠は通路側を睨む。
突如両サイドに、赤黒い魔力の奔流と共に魔法陣が現れ、通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。
赤黒い、血色にも見える不気味な魔法陣は、一度ドクンッと脈打つと、一拍後、大量の魔物を吐き出した。
階段側の小さい無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物トラウムソルジャーが溢れる様に出現すり。ほんの数秒で百体近くになり、尚増え続けている。
しかし反対側の方がヤバいと全員が感じていた。十メートルの魔法陣からは、明らかに他の魔物とは一線を画している体長十メートル級の四足で頭部に兜の様な物を取り付けた魔物が出現した。もっとも近い周知の生物に例えるならトリケラトプスだが、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜に生えている角から炎を放っている。
誰もが足を止め呆然としている中、メルド団長の呟きがやけに明瞭に響いた。
「まさか・・・ベヒモス・・・なのか・・・」