秦・恋姫†無双   作:aly

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ちょっと台湾で関帝参拝してきたので続きちょこちょこ書いてます。
うっかり関平と周倉も祀ってる廟をスルーしてしまった。反省。


潼関の戦い Ⅱ

 秋を迎えようとしていた。中華の中でも緯度の高い潼関周辺は早くも気温が下がり始めていた。そうなるとどちらの陣営も冬仕度が始まる。豊富なタンパク源となる野生動物を狩り、毛皮で暖をとれるようにする。

 そんな折、ついに補給部隊が砦に到着したという報を曹仁が受け取った。曹純の手配で物資が次々と運び込まれてくる。ほとんどは麦だが、陳登が育てた野菜の漬物や陳留で売られている干し肉もたぶんに含まれている。

 

「ご苦労さまです」

「いやあ、寒くなるのにお腹を空かせるわけにはいかないって流琉が張り切っちゃってさ」

 

 しかしこの補給は有り難い、と郭嘉は兵の士気の差で大いに差が出ると考えた。

 

「喜雨のおかげで豫州の作物の実りがいいらしくて、華琳の出立も早まりそうだってさ。俺たちが出るときにも蔵に次々と糧食が運び込まれてたよ」

「もしかすると華琳様は冬の間に行軍をして春に決着をつけるおつもりかもしれませんね」

 

 しかし郭嘉の予想は珍しく外れることになる。

 12月、曹操到着。并州の鎮圧に出ていた夏侯淵と徐晃も加わりほとんど全軍での参加だった。

 砦の中央にある司令部は、一刀たちに運ばせた大秦石造りの一際頑丈なものである。主だった軍師と将校を集め、曹操は地図を前に思案に耽っていた。

 

「誰か、良い献策はあるかしら?」

 

 曹操の脇から勢いよく手が挙がる。軍師祭酒の荀彧である。

 

「潼関を攻めたところで、我々にほとんど利はありません。西涼の騎馬はほとんど無傷で逃げるに違いありません。その上潼関を抜けて進軍するには我が軍は大きすぎます。おそらく一日以上かかって通過できるかどうかでしょう」

「それで?」

「我々が目指すのは黄河上流です。香風が持ち帰った情報によると、蒲阪津対岸には梁興という武将がいるだけです。こちら側は秋蘭たちがあらかた片づけていますので後背をつかれることもありません」

「うん、シャンが見たときはあまり兵の数も多くなかったよ」

 

 曹操が再び思案する。この遠征での最大の目的は馬騰との闘いであり、馬超が相手ではない。そのためにここで兵を損なうのはよくない。

 

「よろしい。香風、念のためもう一度偵察に行ってくれるかしら? 一刀、真桜。あなたたちも同行しなさい。敵が寡兵なら香風が敵を一掃するから、渡河の準備を行うのよ」

「分かった」

 

 ここでの渡河とは、主に小舟を連ねて川を横断する橋をかけることである。そのため、工兵の李典が必要であり、彼女と徐晃の二人の手綱を握れる一刀が先遣隊に抜擢された。

 

「さて、献策は以上かしら?」

「渡河に気づかれては危険なのは明らかです。敵は渭水を渡って容易に待ち受けることができます。ここは少数の兵を残して砦の兵が減っていることを気づかれないようにすべきかと」 

 

 荀彧は続ける。砦には旗を残しさも誰も武将が欠けていないように見せかけること。斥候の頻度を多くして、ときには小競り合いを起こすことで間もなく関攻めを行おうとしていると欺瞞すること。虚の策が得意な自分が守将として残り、渡河をする本隊には郭嘉を軍師として任ずるべきである。それが彼女の献策であった。

 曹操はしばらく沈黙して、次のように提案した。

 

「いっそのこと本当に攻めましょう。少しでも馬孟起の目を逸らす必要があるわ。華侖、王秀、風に任せるわ。それと今までいなかった者……そうね、栄華と凪も加わりなさい。関を陥落させる必要はないわ。こちらが渡河を成功すれば勝手に置いていくのだから。私たちの動向から目を離さないようにしなさい。桂花は殿として私の後をついてきなさい。いいわね?」

「か、華琳様ぁ~~!!」

「凛、本隊が囮部隊から補給を受けられるまでの物資を計算しておいてちょうだい。今日は兵を休息させるから、明朝出発するわよ」

 

 一人恍惚とした表情で身を震わせている荀彧を抱え、曹操が司令部を去る。その先で何が行われるかは自明の理である。

 

***

 

 軍議の日のうちに夏侯淵と徐晃が出立し、翌日曹操が率いる本隊が潼関と逆にある東門から出発した。

 

「それで、華侖さん? これからの方針は決まっていますの?」

 

 最後に出立した荀彧の部隊を見送りながら、曹洪が曹仁を尋ねた。

 

「えーと、そういうのは今まで秀っちと風にお任せしてたっす。そしたら大体上手くいくっすよ!」

「貴女ねぇ……。ま、大将は部下を使うのが仕事ですものね。それでは風さんを訪ねてきますわ」

「じゃあアタシは砦の周りを巡回してくるっす!」

 

 現在砦に残っているのは大将の曹仁。副将のガイウス。軍師の程昱。そして曹洪と楽進である。兵は八千が残されている。歩兵が五千と弓兵が千、騎兵が二千の内訳である。あくまでも見せかけの関攻めなので兵はかなり少ない。しかし仮に梁興の部隊から伝令が来れば馬超としても援軍を送るだろう。それを阻止するためには兵は割けないと思わせる迫真の攻撃を行わなければならない。

 

「本隊が到着したことはあちらも気づいているので、何か行動に変化がないと怪しまれちゃいますねー」

「数日は到着後の休息と思うかもしれませんけど、それ以上大軍を放置させていては華琳様らしくありませんものね」

「はい。ですので三日後から盛んに斥候を出すことにしましょう。広く行動して防御の隙を探しているフリをしましょうー」

 

 本隊は東門から出て、高地を下ってから黄河を渡河する。その後黄河に沿って北上するのだが、その距離はおよそ200キロメートルもある。一般的に一日15キロメートルが平均的な行軍距離だったので、二週間近くかかることになる。先行した夏侯淵たちはもう少し早く到着し、接敵すると考えられるので敵の伝令が潼関に到達するのは最低でも十日以降になるだろう。

 

「というわけなので、風たちは十日後には関を攻撃できる用意をしておかなければいけません」

「ふつうに歩兵に梯子をかけさせて、弓兵に援護させるのでは……数が足りませんわよね?」

「あちらが騎兵を大量に出撃させて攻城中の兵を攻撃してくるかもしれませんしね~。それにその程度の攻撃でしたら馬孟起さんは援軍を北へ送ってしまうと思いますよ~」

「たしかに……そうですわね」

 

 本命は渡河を行う本隊であり、この砦に残った兵はいわば捨て石である。それで敵の足止めをする難しさを程昱に指摘されて、曹洪は項垂れた。

 

「おう凱烏よう。砦を攻めるのにもっとも印象的なものは何だと思う?」

 

 宝慧に交代してガイウスに声をかける。二人が作戦を練っていると人づてに聞いて到着したところだったので、視線を斜め上にやりながら記憶から正解を導き出す。やや時間をおいて、ガイウスは次のように答えた。

 

「砦そのものに損害を与える兵器が良いでしょう。床弩や霹靂車、破城槌などで扉を傷づけることができれば敵は修復のために人手と時間が必要になります」

 

 これらの兵器は漢でもローマでも一般的な攻城兵器だ。バリスタ、オナゲル、アリエスがローマではそれに相当する。攻城兵器の優れたところは、小勢であっても大きな効果を見込めることだ。程昱はガイウスの回答に満足して飴をひとなめした。

 

「でも、用意した兵器は全て本隊が持って行ってしまいましたわよ? 床弩くらいでしたら陳留にまだあるかもしれませんけど……」

「いえいえ。栄華様、そんなに難しく考える必要はありませんよ。風たちは華琳様が渡河地点に到着するまで暇です。周辺は山なので木はたくさんあります。そしてお兄さんの兵は工兵としても働けます」

 

 飴が指揮棒のように舞う。一つ、二つ、三つと動かしながら程昱がのんびりと論理を提示する。飴の動きが止まった数瞬後、曹洪の頭脳が一つの答えに辿り着いた。

 

「ま、まさかここで一から作るおつもりですの!?」

 

 曹洪の心はしばらく驚きで満ちていたが、しばらくして算盤をはじく音が鳴り始めた。

 軍は金食い虫だ。時間と規模が増えれば増えるほど支出は膨らんでいく。だから孫子も『国を破るは之に次ぐ』という。曹家の金庫番を担う曹洪はこの部分こそが孫子で最も重要だと考えている。その軍を何もさせず駐屯させておくなんて――途轍もなく恐ろしいことだ。斥候を出して敵を刺激するなんて無駄だ。さっきとは違う意味でだ。後方に待機している兵が無駄なのだ。

 

「王秀さん。兵器はどの程度の時間で生産できますか? 必要な兵数は? ここで調達できない物資はどれほどありますか?」

「兵数は工兵指導の下、什や隊の規模で作ります。木材の調達を除けば霹靂車であれば一日に一機、床弩なら三機は作ることができるでしょう。金属板があれば頑丈に作れますが、今必要なのは見せかけの攻勢。縄や木釘で十分でしょう」

 

 ガイウスの部隊はローマ軍にならって必ず斧と鋤を組み合わせたような道具を運んでいる。発注の申請を受理したのは曹洪自身だったので、この部隊にどの程度の道具があるか熟知していた。

 

「今回は使い捨てになりますが、次回からは制圧後も維持できるよう計画してください。そうすれば道具の摩耗を考慮してもなかなか優れた方策ですわね。……華琳様には帰還後必ず報告と他の皆さんにも分かる手順を提出してくださいね。さぁ、無駄な時間はありませんわよ! すぐに材料の調達部隊を編成して無駄なくきっちり用意させてください! それと風さんはお昼までに生産できる兵器の内訳と必要な素材の量を把握して計画表を私のところまで持ってきてください。不備がなければそのまま陽動の策まで仔細考えてくださいね」

 

 程昱はとりあえず寝たふりをした。

 

***

 

 潼関の周辺は北側に黄河があるので川沿いには平野がいくらかある。潼関と函谷関という二つに囲まれた平野を関中といい、肥沃な土壌のために昔から争いの種になってきた。一方で南には秦嶺山脈があり、盆地が点々としているだけである。

 

「てやー!」

 

 可愛らしい声に続いてドスンという重たい地響きがその山の一角で鳴った。ガイウスは兼ねてから疑問だった。なぜこの国の女性は恐るべき膂力を持っているのか。馬騰や韓遂に会ったときからの謎である。

 とにかく、今歩兵たちが協力しあってドラブラ(斧)を交互に振って樹木に切込みを入れているというのに、曹仁ただ一人が二、三回の斬撃で大木(兵士たちが伐採しているものの二倍の太さはある)をなぎ倒している。

 

「それそれそれーっ!」

 

 この音は敵陣まで聞こえてはいないだろうか。一応直接は見えないように山へと移動したのだが無駄だったかもしれない。さらに言えばこの一角だけ木の密度が減っているのが目視できる可能性がある。

 

「子孝殿、そろそろ別の場所に移動しましょう。ここだけ禿山になってしまいます」

「たしかに! それはちょっと可哀想っすね」

 

 大人しく作業を止めてくれたので、ガイウスはほっとした。さて、作業の進捗というと予め隊長格に数えさせていたので随時報告が上がってきている。ガイウスが連れてきた二部隊と曹仁の部隊で作業をしていたのだが、木板につけた印を見て唖然とした。なんと曹仁の部隊だけでほとんどガイウスの部隊と変わらない速度で伐採している。

 

「よーし、じゃあ今度はここの木を切っていくっすよ! 陳さんの隊はあっち、黄さんの隊はこっちっす。競争っす!」

 

 いうや否や、曹仁は二つの隊とは別の方角に向かって走り出す。ガイウスは残された二つの隊を見てみた。彼らが伐採する速度そのものは常識の範囲内だ。しかし互いに鼓舞しあい、必要となれば休息を取り合う。ガイウスの部隊が彼を頂点とした機械的な組織だとすれば、曹仁の部下たちは動物的な群れだ。

 

(なるほど。彼女は一人だととても自由な人だけれど、集団の中にあれば良い意味で奔放になれるのか)

 

 ところでこの競争は夕食のおかずを一品賭けているのだが、どうやら大量のおかずが曹仁の下に集まりそうだった。

 

「子孝殿ー! 伐採した木はちゃんと回収してくださいね!」

「えーっ!?」

「でないと競っている結果は一本にもなりませんからね! あなたたちもです!」

「嘘!?」

  

 ちなみにガイウスの部隊は六人一組で、伐採や運搬の担当を兼ねている。既に荷車には縄で縛られた木材が積み上げられ、曹洪の部隊によって輸送が行われていた。

 

「しゅーりょー! 急いで木を集めるっすよ! このままじゃ秀やんにおかずを獲られちゃうっす」

「いえ、私は参加しては……」

「うおーーーっ!!」

 

 こういう団結の仕方も一つの軍隊の形なのかもしれない。巻き込まれたガイウスは空を見上げてそう思った。

 

***

 

 曹仁軍が砦の中でせっせと兵器を生産している頃、馬超は時折潼関を出て自ら偵察を行っていた。

 曹操といえば呆れるほどの大軍を抱えているという。噂によると五万以上の兵をこちらにさしむけたらしいのだが、砦に籠もったまま出てくる様子はない。実は新兵が多くて調練でもしているのか。あるいは痺れを切らして出撃したところを狙っているのだろうか。

 馬超は少しでも情報を肌で感じたいと何度かこうして外に出ている。従姉妹の馬岱はこれに良い感情は抱いていないらしいが(彼女に言わせると大将らしくしてほしい)、関内で悶々としているよりは馬と駆けるほうがずっといい。

 

「将軍! また敵兵です。騎兵が六。斥候です!」

「ちっ、またか……」

 

 ここ最近曹操のところの斥候が増えている。盆地内に広く現れるので、地形の調査をしているのだろう。関を迂回する狭路などはほとんどないし、あらかじめ潰してあるから問題ない。しかし伏兵を置いて何かされては面倒だ。

 

「とにかく斥候を捕まえて何をしていたか吐かせるんだ!」

「はい!」

「あーもう! 頼むから蒲公英が何か敵の策を見破ってくれよー!」

 

 無理だってば! と両手でバツを作る馬岱の姿を幻視する。いくら一族で一番賢いとはいえ、そこまで変わらないのだった。

 

***

 

 斥候を大量に放って敵の目を欺く第一段階を数日続けていた頃、早馬が洛陽側の東門から駆け込んできた。息を切らして差し出された竹簡が門兵を経由して司令部に届けられる。荀彧からの伝達であった。

 

「梁興さんはうまくやっつけたみたいですねー」

 

 すらすらと目を通した程昱によると先遣隊は上手くやったらしい。明け方に渡河をし、梁興が気づいた頃には目と鼻の先に徐晃がいて殲滅された。そこまで詳しく記載はされていないが、とにかく明日(これは伝令の到着を加味した日程だ)には渡河を開始できるということだった。

 

「いよいよこっちも本番っすね」

「ええ。馬孟起をここに留めますわよ」

 

 このとき砦の中では床弩が十二機、破城槌が二機、霹靂車が二機完成していた。また、破城槌を守るための屋根付きの車も二台生産済みだ。

 

「ではでは。まずは兵器を安全に運ぶための手段が必要なんですがー」

 

 程昱がちらりとガイウスを見る。

 

「こちらから潼関に向けて、わずかな距離ではありますが地面を均しています。その先は進みながら必要に応じて整地が必要でしょう。これと同時に床弩を守る壁を作る必要があります。あらかじめ調べた起伏に隠れて一気に作業します」

 

 本来であれば道を舗装したかったと愚痴るガイウスであったが、この時代においては道路整備を盛んに行っていたのはローマだけである。敵の行軍速度を高める弱点もあるが、それ以上に物資や援軍の移動速度が格段に優れていることがローマという国を軍事的にも経済的にも強めていた。そのため、折衷案として石をどけて土を平らに押し固めることとなった。

 

「まずは床弩で始め、敵兵を砦から出します。もちろん床弩を守るために歩兵を出しますので、白兵戦が始まるでしょうね」

「騎兵も出てくるっすよね?」

「かなりの可能性で出てくると思います。とはいえ混戦になれば潼関からの射撃が出来なくなるのは大きいですよ」

 

 攻城戦で最も厄介なのは高所からの射撃である。また、別の出入り口から出撃した兵による奇襲も恐ろしいが潼関ではあまり気にしなくてもいい。とにかく、射撃を防ぐことで兵器の運搬を安全に行うことができる。

 

「騎兵はお兄さんに凌いでもらうのが一番でしょう。というわけで、華侖様」

「何っすか?」

「潼関を攻めるのは華侖様が一番重要になります」

「アタシ!?」

 

 飛び上がらんばかりに驚く曹仁。それも無理はない。曹操軍の戦といえば夏侯姉妹や徐晃がほとんどの戦果をあげてきた上に、最近では張遼という戦力もある。あくまで戦場の一駒としての働きばかりをしてきた曹仁にとって重要な立ち位置というのは初めてのことであった。

 

「床弩以外の兵器はどれも大きいので車輪をつけていますよね? でも潼関までの道のりにはそのままじゃ進めないところがたくさんあります」

 

 最初の数百メートルは整地こそしたものの、その先や特に潼関周辺は堀があたり高低差が設けられていて兵器を十分に近づけられない。

 

「そこで華侖様には兵器を関に近づけるための道を作ってもらいます。戦場での作業ですから凪ちゃんを護衛につけますけど、きっと大変でしょう。でもでも、これはとても大事なお仕事なので第一功といっても過言ではないと風は思います」

「お、おお……!」

「歩兵は栄華様が指揮されるので、じゃんじゃん石を投げて破城槌をぶつけてくださいね」

「ほえぇぇ……」

 

 固まっていた曹仁の口から声にならないため息が漏れ出る。しかしやがて目がキラキラと輝き出す。

 

「任せるっすよ! 今までいっぱい木を斬ったり土を掘ったりしたっすからね! どんと任せてほしいっす!」

「よっ、大将! ――おうおう宝慧、調子がいいじゃねぇか。ということで、堀を埋めたり関の近くでの作業の仕方は今日のうちにお兄さんに聞いておいてくださいね」

 

 張り切る曹仁。整った軍備。定まった決行時間。いよいよ潼関での戦いの火ぶたが切られようとしていた。

 

***

 

 敵の斥候が減って、それも潼関付近に集中してきている。これは迂回路を諦めて正面突破を狙っているという表れだ。砦の上に立ち、馬超は目を凝らして曹操の砦の方角を眺めていた。少数の斥候と違い、大軍が陣を出たとあれば目の良い馬超なら目視できる。もちろん斥候も放っているが斥候同士の戦闘になって帰ってこないこともあるから、彼女は自分の目で確かめたいという気持ちで物見をしている。

 そこへ馬岱が上がってきた。

 

「今のところ、軍は出てきてないみたい。でも砦の中の雰囲気がいつもと違って物々しい感じがするって斥候の人が言ってたよ」

「やっぱりそうか。ということは今日中には戦になりそうだな。夕刻になれば太陽が西に落ちるから曹軍には不利だ。きっと昼頃には出てくる」

「うわ、お姉さま賢そう」

「うるさい。蒲公英も集中しろ」

 

 馬超の精神は研ぎ澄まされている。潼関を抜かれれば長安は近く、涼州が戦場になる。漢中からの補給も山脈を越えて長安へ至るルートは使えなくなるので、西側にある漢陽を経由しなければならなくなる。とある理由から敵を武威に近づけたくないため、この一戦に神経を尖らせていた。

 

「うん。ごめんなさい」

 

 馬岱の表情も、いつもの朗らかさは幾分薄れているように見えた。

 しかしこのとき、既に曹仁軍は動き出していた。明け方のまだ薄暗いうちから、床弩隊が分解した兵器を持って障害のある地点へと移動していたのだ。間もなく組み立てが終わろうとしている。

 馬超たちが気を引き締め直したころ、ついに離れた敵の砦から軍が姿を現した。横四列に並んだ歩兵たちが、整然と行進していく。彼らが歩いた道は踏み固められ、これからの兵器の運搬を容易にする狙いもあった。

 

「来た、来たぞ! 蒲公英、まずは歩兵を関の前に並べろ! それから弓兵をここに集めろ。一斉射してひるんだところを攻撃だ!」

「わかった!」

 

 馬超は続けて厩舎へと駆けだした。毎日世話をしている軍馬たちの調子は上々だ。愛馬の一頭である黄鵬は、彼女の様子を見て戦の気配を感じ取ったのだろう。静かに佇んで彼女が触れたてのひらの温もりを感じていた。

 

***

 

 曹仁軍の砦から出てきた歩兵は四千。全戦力の過半数を投入している。しかし馬超からは十万はいるであろう曹操軍の先陣がわずかに出てきたに過ぎないというふうに見えている。これは程昱の予測だが実際に馬超らはそう考えていた。

 砦を築いた丘陵から平野へと歩兵部隊が進んだころ、馬超は千人の騎兵を率いて前哨戦を勝って勢いをつけてやろうと潼関を出た。そのあとから歩兵が三千出てきて砦の前で横陣になって布陣する。

 

「やはり相手は戦力を小出しにしてきましたね」

 

 歩兵部隊二つのうち、一方を率いるガイウスが隣を歩く曹洪に話しかけた。

 

「ええ。まさかこちらの戦力がこれで手一杯とは夢にも思わないでしょう。というか看破されていたらお姉さまたちが危険ですわよ」

「つまり本隊の動きはまだ伝わっていないということです」

「よい知らせですわね。これからあなたがあれを相手にしなければいけないことを考慮しなければ、ですけど」

 

 騎兵の相手はガイウスが担う。程昱の作戦で決まったことだ。縦列の前方は盾と長槍で武装した兵が占めているのは馬に対抗するためである。一方後ろの半数は身軽な剣や矛などを持った兵が行軍している。こちらは曹洪の部隊だ。

 

「そろそろ目視できる距離まで来ましたね。では私は部隊の指揮を行います。子孝殿もご武運を」

 

 ガイウスは近くの兵に手で合図を出す。するとラッパを持った兵が甲高い音を鳴らした。陣形変更の合図だ。ガイウスの部隊は五百人の横陣に移行して、盾を構えて土を踏みしめた。眼前からは土埃をあげて大勢の馬が縦に連なって駆けてくる。横陣を食い破るつもりなのか、あるいは進路を変えて横や後ろから襲いかかる算段なのか分からない。ガイウスは別の兵に指示を出した。

 

「私はここだ。孟起」

 

 大地から高く掲げられた一本の旗。西の字が記されたガイウスの牙門旗である。馬超はそれを見ていくつか考えていたプランを捨てた。「あの野郎! アタシへの挑発か!」と叫ぶや否や、馬の速度を上げる。

 

「小細工なしでぶっ潰す。お前たち、付いてこい!」

 

 待ち構えるガイウスには馬が一気に翼を広げる様子が見えた。錐行の陣である。縦に伸びていた騎兵が横に広がることで出来る三角形のような陣形で、高い突撃力がある。馬超は容易にガイウスの策に乗り、正面から衝突することを選んだ。

 双方の距離が十メートルを切ったとき、歩兵は空に掲げていた槍を正面へと振り下ろした。いかに戦場に慣れた馬といえども、突然障害物が目の前に現れれば驚く。馬上の兵が態勢を立て直そうとしている最中を、ガイウス隊の兵たちは槍で突く。しかし馬超のように優れた将兵は勢いを殺すことなく歩兵の陣へと殺到した。

 

「盾押せー!!」

 

 隊長格の命令で最前列の兵士たちが盾を掲げて前進する。続く二列、三列の兵士たちもその背に盾を押し当てて前列の兵士たちを前に押し出した。

 

「槍、突け!!」

 

 後列の兵士たちが隙間を縫って槍を突き出す。押し出された盾によって突進の勢いを削がれた馬に穂先を突き刺さる。痛みを感じて暴れる馬に、練度の劣る兵たちは次々と落馬していった。

 騎兵最大の武器である突進力が削がれたこのタイミングで、曹洪はガイウス隊の背後から全速力で駆けだして膠着した戦線を抜け出した。

 

「うわっ、お姉さまの兵を抜けてこっちに来た!?」

 

 馬岱が少し慌てるも、潼関前に並べた兵数は曹洪の兵より多い。何より馬岱率いる弓兵が関の上にいるのだから圧倒的に有利である。

 

「騎兵の側面を攻撃しようとしてるのかな……? よし、歩兵を半分前進させて!」

「はっ」

 

 関の防御が薄くなるが、騎兵が挟撃されるよりはいい。敵の攻勢が強ければ騎兵が急いで帰ってくれば防衛には十分だ。そのため、騎兵の無事が何より重要だと馬岱は考えた。

 しかし、実際には曹洪隊は馬超の騎兵を歯牙にもかけずに前進を続けた。そうなると二つの歩兵がぶつかってしまう。退くか、戦うか。馬岱が悩む間にも曹洪隊は接近してくる。

  そのとき、馬岱の下から大きな衝撃音が鳴り、立っていた足場が揺れ動いた。

 

「な、なに!?」

 

 慌てて壁を掴んで身体を支える。衝撃は二度、三度と続く。馬岱は状況を確認できないでいた。

 

「床弩隊、攻撃始めました! 敵歩兵転進!」

「ええ、ええ。見えていますわよ。ならば我が隊はその側面を食い破って差し上げなさい!」

 

 兵器の組み立て後の床弩隊に命じられていた攻撃のタイミングである。それは曹洪隊が護衛に間に合う距離へ到達することだった。

 ついにその時が来た。兵士たちは機械式の弩の弦を数人がかりで張り詰めた。矢は弓のものとは違って、先端を鋭く加工した棒のようなものである。左右に設けられた木製のハンドルを回すことで、てこの原理で弦が張られていく構造になっている。ちなみにローマのバリスタは動物の腱を使った弦をねじることで射程と命中精度を向上させている。李典がいればそのような兵器も出来たかもしれない。

 

「何だ!?」

 

 この攻撃にいち早く気づいたのは馬超のほうだった。馬は音に敏感なので、この攻撃に大きな影響を受けた。明らかに興奮しすぎている馬を宥めながら背後を見ると、関に何かが刺さっている。土壁には亀裂が入り、正面に控えている兵にも被害が出ているようだった。

 馬超の判断は早い。すぐに部隊を反転させて関に戻ろうとした。しかし後列が付いてこない。

 

「何をやっている! もたもたしてたら追いつかれるだろ!?」

「いえ、それが敵は槍を……ぐっ!!」

 

 馬超のそばに控えていた兵の胸から穂先が飛び出し、彼は血を吐き言葉を続けることが出来なかった。馬超は唖然とその様子を眺めていた。しかしその間にも空から飛来した槍が次々と騎兵に襲い掛かる。速く駆けることができた者、運がよかっただけの者が難を逃れることができた。しかし、大半の兵馬は何かしらの負傷を追って減速を余儀なくされる。

 これは予め程昱から授けられていた策だった。床弩が攻撃を始めたときか曹洪が前進したときのどちらかで必ず馬超は反転する。そこを攻撃するには投擲武器を使うのがよい。

 彼女はガイウスが短槍や石を投擲することを多用しているのを知っていたので、盾に短槍を収納できるようにさせていた。ガイウスは床弩の攻撃が始まった段階で、すぐさま槍を置いて短槍を手にするように命令した。その結果、馬超たちは大きな被害を被る。

 

「アタシたちは敵の弩兵を狙う! 誰か蒲公英に伝令を出せ!」

 

 しかし、このときすでに彼女の騎兵は半数を切っていた。

 

***

 

 さらに後方。馬超と馬岱のまったく気づかないところで新たな兵が砦から進軍を開始した。曹仁の工兵と楽進の歩兵である。曹仁隊は鋤を持ち、岩をどけては兵器が安全に通れる道を作っていく。彼女自身も土で衣服を汚しながら作業に参加している。特に力が強いということもあり、雄たけびをあげながら地面に埋まった岩を移動させていく姿は圧巻である。

 

「将軍の拓いた道を整えろ!」

「床弩隊だけに手柄は渡すなよ。曹将軍に捧げんだ!」

 

 見事な一体感で部隊は前進していく。午前中には曹仁隊は最初にガイウス隊と馬超隊が戦闘した地帯まで到達した。ここまで来ると潼関で戦闘と続けていた馬岱の目にも巨大な兵器が映る。馬超もまた曹洪隊と戦っていたところでその姿に気が付いた。

 

「床弩だけならまだしも、あれに近づかれたら潼関はもたないぞ……」

 

 すでの兵を割くだけの数はなかった。潼関の内にはまだ騎馬はいる。関に籠城しては使いどころがなくなってしまう。投入するなら今しかない。しかし潼関を守る馬岱はその判断を下さなかった。潼関が完全に破られないように修繕するのに全ての兵を投入していたからだ。ありったけの木や岩を使って穴を塞いでいくのに人手はあればあるほどいい。

 

「なにしてるんだ蒲公英は……! 誰か伝令を出せ! 騎兵を全部投入してあの兵器を破壊するんだ」

 

 兵を一人離脱させながら馬超は駆ける。平野に入ったことで運搬速度が上がった曹仁隊と接触するのは時間の問題である。しかしこの展開は予測されたことでる。大型兵器は最優先で破壊対象になる。したがって、馬超と一戦交わしたガイウス隊が進路を塞ぐように布陣しているのも当然のことだった。

 

「くっ……お前たち、このまま一点突破だ! アタシが穴をあけてやるから進めぇえ!!」

 

 接触の瞬間に、馬超は巧みに馬を操って跳躍させた。彼女たちに向かう槍を自身の十字槍『銀閃』で絡めとり、盾を足場にしてさらに高く跳んだ。続く兵にそのような芸当は出来ないが、槍を失った兵を突き殺して隊列を崩して一点突破を図る。四段構えに布陣させてたとはいえ、一点に集中されてはひとたまりもない。両翼が囲い込むように動き出したときには、馬超たちの多くがガイウス隊の防壁を突破していた。

 

「これでさっきの借りは返したからな! そしてこの兵器をぶっ壊してアタシの勝ちだ!」

「ええ、まぁここは勝ちを譲りましょう。ここは」

 

 進軍しながらの宣言に、ガイウスは作戦通りに事が進んでいることに安堵して次の命令を下した。

 

「我々は攻城兵器の行軍を加速させる工兵となる! 盾を用いて大地を均せ。堀を埋めよ」

 

 部隊は反転して潼関へ向かう。目前の敵に夢中になっている馬超はそれには気が付かない。さあ鎧袖一触だと意気込んで槍を振り上げる。しかし敵の工兵たちはただひたすらに兵器を前進させようとしている。

 何かおかしい。馬超が周囲の気配に集中したとき、それが風を切って飛来するのを感じた。

 

「不意打ちの気弾を避けるとは見事」

「お前……」

 

 兵器の陰、岩の裏、茂みの中。至る所から兵が現れる。

 

「私は曹孟徳様の臣、楽文謙。この兵器には指を触れさせない」

「はっ、知らない名前だな」

「しかし貴様の兵も随分傷を負っているようだ。私でも十分に倒せるぞ」

  

 馬超の率いている騎馬は三百ほどまで減少していた。一方で楽進の伏兵は千人はいる。単純な兵力の差では勝ち目が薄いことを馬超も理解している。ならば切れる札は一つ。

 

「いいぜ、だったらアンタを倒してその勢いでぶっ壊すだけだ!」

 

 馬の腹を蹴る。相馬黄鵬は命令に瞬時に反応して一気に加速しながら駆け始めた。数秒の間に楽進を槍の射程に入れる。

 

「おらぁ!!」

「はあああっ!!」

 

 真っ直ぐに突き出された槍の柄に気を纏った楽進の拳が叩き込まれる。その反動で彼女は馬の進路から外れる。

 

「ふっ、てやぁあ!」

 

 旋回して戻ってくる馬超に気弾を放つ。黄鵬のすぐ後ろでいくつもの土煙が立ち昇るが、涼州の優れた馬がすんでのところでかわしていく。やがて旋回を終えて楽進のほうへ向かってくるころには的は小さく当てづらくなる。楽進は気弾を眼前の地面に放って自ら斜め後方に吹き跳んだ。

 

「これで狙いやすい!」

「ちいっ!」

 

 幾つも乱射される気弾を十字槍を回転させて防ぐ。離れても接近しても厄介な敵に馬超は沸々と闘志が湧き上がるのを感じた。

 

「いいぜ。それなら馬上で戦わないでこの槍の腕を見せてやる!」

 

 馬超は軽々と馬から飛び降りると、受け身をとって楽進の前に降り立った。黄鵬は賢く二人のそばを離れいく。その背に気弾を撃とうかと思ったが、楽進は目の前の馬超に集中することにした。すでに二人の間合いは槍の届くものだったからだ。

 鋭い突きが幾条もの軌跡を描いて楽進を襲う。曹操軍で最も早い刺突を放つ張遼のものにも劣らない点の嵐に、楽進は手甲でいなし、身体をひねって回避を試みる。それでもわずかに触れた場所から鮮血が舞って彼女に新しい傷を作った。

 

「ぐうっ……」

 

 思わず膝をつきそうになるのを堪えて楽進は氣弾を放って後ろに跳んだ。接近戦での不利は確実だった。

 今度は馬超が不利な間合いである。大地に爆ぜる氣弾が幾つも飛んでくる。たとえ避けても石礫が下から襲い掛かる上に、槍に氣を込めなければまともに打ち合うこともできない。しかし楽進は少しずつ消耗している。無尽蔵に放てるものではないのだ。

 

「どうしたどうした! もう終わりか!?」

 

 馬超が次第に楽進へと距離を詰めてくる。あと数歩進めば槍の間合いだ。

 

「負ける、ものか!」

 

 楽進が前に跳ぶ。傷つくことを躊躇わず、槍のさらに内側の間合いへと滑り込んだ。膝蹴りが馬超の腹を撃つ。一瞬くらりときたが、馬超は槍を両手で握りしめ、楽進の猛打を槍の柄で防いだ。しかし馬超の槍は十字槍。持ち手を短くすることで刃を楽進に振るう。互いに打ち身と切り傷を負う膠着状態となった。

 

***

 

 二人が必至の攻防を繰り広げている頃、曹仁はついに潼関目前まで迫っていた。

 霹靂車の底部に石が積まれて固定される。そして投石側の棒に取り付けられた腱の糸が巻き取られて力が貯められ、重石の乗った棒の反対側が空高く上がっていく。その状態の兵器が三機揃った。発射準備の完了である。

 

「うてーっす!」

 

 曹仁の命令で腱の固定が外される。重石が重力に従って降りてくる。てこの原理で拳大のいくつもの石が入った籠が勢いよく振り上げられ、三機分の投石が潼関を襲った。

 床弩とは比べ物にならない衝撃。土壁を突き破って関の内側まで飛来した投石によって兵が数人死亡した。

 

「うわあ! これヤバい! ヤバいよお姉さま!」

 

 今まで均衡していた破壊と修復のバランスが一気に崩れた。関の上から飛来物に注意しながら馬岱が外を覗くと、投石器のほかに新たな兵器がこちらに進んでくる。屋根に隠されてはいるが、間違いなく破城槌である。進路上には堀があるが、今や大量の土が投げ込まれている。あの兵器が潼関に辿り着くのは時間の問題といえた。

 

「お姉さまー!!」

 

 馬岱の悲鳴が聞こえたか聞こえていなかったか。おそらく単純に投石の衝撃音に気が付いた馬超は一刻も早く楽進を振り払って関に戻る必要があることに気づいた。馬超たち涼州の兵にとって、このような速さで移動する攻城兵器は未知のものだった。だから馬超は見誤った。楽進とは相対せずにひたすら兵器を追っていかねばならなかったのだ。

 

「黄鵬ーー!!」

 

 愛馬の名前を呼び、馬超はぐっと身構えて楽進の蹴りをあえて受けた。肺から空気が漏れ出る。骨が無事なのかもあやしい。しかし楽進自身によって距離を得ることができた馬超は、馬の背に飛び乗って駆けだした。一気に戦場を駆け抜け、堀さえも飛び越えて入城する。

 楽進もまた無傷ではいられなかった。ほとんど気力で耐えていたといってもいい。馬超が去ったことを確認すると足をよろめかせ、天を向いて倒れ込んだ。

 

***

 

 馬超の帰還によって涼州軍は士気を取り戻した。弩を用意して霹靂車を操作している兵士たちを狙い、その発射を遅延させた。また、破城槌に対しては床弩によって傷ついた穴から弓を射ることで工兵たちを狙撃する。こうして曹操軍の攻撃を遅らせている間に壊滅的な被害を受けた箇所の修復を急いだ。

 こうして戦が一時的に膠着したときのことである。潼関の後方から涼州兵が駆けてきた。梁興の兵である。

 『梁興軍壊滅』という報せは馬超たちを沈黙させた。竹簡によれば黄河上流で梁興を倒して進軍しているのは曹操本隊であるという。目の前で苦戦していたのはわずかな兵でしかなかったのだ。

 馬超は馬に飛び乗った。馬岱はなんとか静止しようとしたが、覚悟を決めた彼女の目を見て無駄だと悟った。

 

「蒲公英、お前は兵を率いて長安まで退け。もう潼関を守っている意味もない」

「でも! 渭水で守り切ればまたここで守れるよ! いったん奪われたら取り戻すのは難しいのはお姉さまだって分かってるでしょ?」

「いいんだ。ここからは西涼の戦い方でやろう。楼杏の助言は助かったけどもういいだろう」

 

 必要なことは全て伝えたとばかりに馬超は馬を走らせた。

 この後彼女は渡河を行う曹操の前に現れることになる。そして警戒する許褚を後目に啖呵を切って去ったという。

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