【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~   作:月城 友麻

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27. 命がけの肥料

「コイツもついこないだまでは鼻タレ小僧じゃったのに、今じゃもうすっかり老人じゃ」

 

 レヴィアは少し寂しそうにニヤッと笑いながら肩をすくめた。

 

「レヴィちゃんはな、昔、ワシのじいさんの友達だったんよ。でも見た目は当時と一緒、オカシイよね?」

 

 苦笑しながらオディールに同意を求めるガスパル。

 

「一緒じゃないわ! あの頃から二センチは背が伸びたんじゃ!」

 

 レヴィアは怒るが、ガスパルは両手のひらを上に向けて首をかしげる。

 

 悠久の時を生き抜くドラゴンと人間とではスケールが違うのだ。だが、そんなに長い時間を生きてもなお子供のような感性を失わないレヴィアに、オディールはクスッと笑った。

 

 

         ◇

 

 

「早速なんですが、今、こんな感じで畑を耕したところなんです」

 

 オディールは傾いた太陽のオレンジ色に染まる丘を指さした。

 

「ほぉーー……。こりゃあすごいことだよ。どれどれ……」

 

 ガスパルはそう言うと畑に近づき、土をひとつかみ持ち上げて両手でもみほぐす。

 

「なるほど、土壌構造はいい感じだよ」

 

 ジッと土の様子を眺めながらそう言うと、いきなり土を口に含んだ。

 

 えっ!?

 

 オディールは思わず声が漏れた。

 

 ガスパルは真剣なまなざしで、味覚と嗅覚を総動員して微妙な土の成分を分析していく。

 

 その農業に対する執念ともいえる凄みに、オディールは圧倒される。農業というのはこういう世界なのだ。オディールは彼の真摯な態度に接し、自分がこれまで農業を甘く見ていたと深く反省する。

 

 ガスパルはペッと土を吐き捨てた。

 

「肥料が足りんのと少し酸性が強いよ。肥料と石灰を()かんとならんよ」

 

「うーん、肥料と石灰……」

 

 オディールは腕組みをして考えこむ。

 

「石灰はワシらが何とかしてやろう、な、レヴィちゃん?」

 

「な、我も手伝うのか!?」

 

「なーに、石灰岩に火を吹いてくれればいいだけだよ、カッカッカ」

 

 楽しそうに笑うガスパル。

 

「お主、ドラゴンブレスは神聖な物であって、そう簡単には……」

 

「昨日お風呂沸かしてたじゃん!」

 

 オディールはニコニコしながらレヴィアの背中をバンバンと叩いた。

 

「い、いや、あれは……」

 

「レヴィちゃん、湯沸かしよりは神聖な仕事だよ、カッカッカ」

 

 ガスパルはレヴィアの真紅の目をのぞきこみながら嬉しそうに笑う。

 

 レヴィアは口をとがらせてジト目でガスパルをにらむ。

 

「で、肥料は嬢ちゃん、あんたの出番だよ。頼んだよ」

 

「へ!? 肥料?」

 

「あんた天候を操れるそうじゃないか、雷をバンバン落とすんだよ」

 

「雷……? なんでそれが肥料に?」

 

「あー、窒素酸化物を作るんか……」

 

 レヴィアは感心したように言った。

 

「なんか知らんが昔から雷が落ちたところは肥料たっぷりで育ちが良くなるんだよ。嬢ちゃんにはバンバン落としてもらうよ」

 

「え、じゃあ……、落としてみましょうか?」

 

「あー、雨もよろしくな。空に生まれた肥料分がちゃんと降り注がんとイカンのだよ」

 

「わ、わかりました……」

 

 オディールはそう言うと畑の上空に向かって両手を上げる。夕暮れ時の白みがかった砂漠の空は澄み通り、とても静かだった。

 

「【龍神よ、天の恵みをかの地に降らせたまえ】【雷神よ、その猛き闘志を解き放て】」

 

 祭詞が畑に響きわたる。

 

 どこからともなくモコモコと雲が湧き上がると、空が暗雲に覆われていく。

 

 パラパラと小雨が降り始め、ゴロゴロと雷鳴が響いた直後だった。ピシャーン! と向こうの丘に眩しい閃光が走り、地面が揺れる。稲妻が落ちたのだ。

 

「おぉ、これは凄いよ!」

 

 ガスパルはパチパチと拍手をしながら大喜び。

 

「お主の力は何度見てもチートじゃなぁ……」

 

 レヴィアはちょっと悔しそうに腕を組んだ。

 

「ふふーん、じゃ、どんどん行くよ! 【雷神よ、その猛き(いかずち)の雨を降り注げ】」

 

 オディールは満面に笑みを浮かべながらノリノリで空へ向かって両手を伸ばし、不穏な祭詞を唱える。

 

 直後、天も地も閃光で埋め尽くされた。

 

 辺り一帯に落雷の嵐が吹き荒れ、まるで爆撃機から空襲を受けている戦場のようなすさまじい衝撃が地震のように大地を揺らす。

 

「あわわわわ」「ひぃ!」

 

 みんなが頭を抱え、小さくなって嵐の過ぎ去るのを待つ中、オディールは、きゃははは! と一人怪気炎を上げる。

 

 ツンと鋭い焦げた匂いが飛び込んできて、生きた心地のしない時間が続き、みんな青くなって震えるしかなかった。

 

 肥料という意味では成功かもしれないが、危険すぎる農業にみんな参ってしまう。

 

「嬢ちゃん! もういい、もういいって!」

 

 ガスパルは必死に頭を低くしながら叫ぶ。

 

 しかし、オディールは碧い目をキラキラと輝かせながら激しく明滅する天を仰ぎ、幸せそうな笑みを浮かべるばかりだった。

 

 激しいエネルギーも肥料も生める、これが【お天気】スキルなのだ。

 

 オディールは改めて【お天気】スキルの無限の可能性に気づき、小雨を浴びて全身濡れながらも女神からの力強い贈り物に心から酔いしれていた。

 

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