「世の中なんて良いことあらへん」
生まれは最悪。家も最悪。逃げて行き着いたとこも最悪。全部最悪だらけ。
ボクが今いる場所は古臭い田舎も田舎。スーパーもない辺境のド田舎だった。ボクはその村の近くの山で捨てられた。なんでそんなことになったとか…………あんまり、覚えてない。恐らく、邪魔だったのだろう。ボクの術式はあるのか無いのかわからないから、そんな奴は要らないと言う事。
まぁボクももう恨んでない。あの家は最悪だった。二度と戻りたくない。
ただどんなに戻りたくなくても、9歳の子供1人で生きられる程世の中は甘くない。普通なら死ぬ。でも、ボクは幸か不幸か普通じゃなかった。
獲物はあった。幼い頃から一人で生き抜く力も身に付けさせられていた。だからその村に着いた時は動物や成ってる果物を穫って生きてた。幸運にもボクの好きな柿もあったから、合間に干し柿作れたのも良かった。
そうやって食い繋いでいたボクはその村に着いた。さっきも言った、辺境のド田舎。余所者を阻害し、村を脅かす物を排除する。
ボクがその田舎に着いた当初はあまり歓迎されなかった。ただ身内が誰もいないと言うと、山奥の小屋を使っていいと言ってくれた爺さんがいた。もう使ってもいないから好きにしろと言っていた。
普通なら薄情だろうけど、生来の影響でボクは一般人にあまり近付きたい気持ちはなかったから、その申し出はありがたかった。
村には嫌な気配を感じていた。ボクが持つ力と同じ嫌な気配。
その力をボクが持っていることーーーーつまり普通じゃないことに村の人等に気付かれたら。
力を見せたら、異端を嫌いそうなこの村は総力を上げてボクを迫害するだろう。最悪気味悪いと殺される可能性もある。
そしてボクの勘は当たってた。
ボクが一人の生活に慣れた頃、そこに出会わせたのは偶然だった。ボクと同じくらいかそれよりも上の子が、寄ってたかって誰かを囲んでた。それが、ボクよりも一回り小さい二人の少女達だった。
それを見て、ボクはすぐわかった。あの二人は持ってる側だと。だからあんな風に虐められる。皆が見えない呪霊を見えてるだけで、気持ち悪がられる。逆に持ってる物を持ってないと、迫害される。
周りより劣っても、優れていても………嫌われる。
ボクはあの家でその様子を何度も見てきた。反吐が出る。
「結局、どこも一緒やったってことか」
呪術師としての
家族も味方もいないこの世界で、ボクは何処で安心できるんだろうか。
「しょーもな。帰ろ…………」
来た道を振り返り、その光景から目を背けて帰ろうとした。巻き添えを喰らったら堪らない。そう思い帰ろうとして、足がその場から動かなかった。
あの二人がかわいそうだとは思った。でも、ボクには関係ない。だからこの場から去って…………何処へ帰る?
「…………」
今更、何処へ帰るんだろうか。たった今ボクの居場所は無いって気付いたばっかりなのに。安心できる場所はない、わかっていたのに。
「なんや。ボクって要らない子なんかな」
ボクはそう吐き捨て、振り返って走り出した。自身の力を最大限利用した全力疾走。そのまま集団の真ん中へと向かう。
「てや」
ついでに通り過ぎる時に何人かの子等、蹴っ飛ばして。
「がっ!?」
「うわぁ!!? な、なんだよ!?」
邪魔な子等全員蹴り飛ばしながら、勢いんまま渦中の中へと辿り着く。ボクは吹き飛ばされた子や驚いてる子を無視して、真ん中で蹲る女の子ら見る。
「なに……?」
「……?」
一人は色素の薄い茶髪の子。土埃が沢山付いたボロボロの薄着を着ている。殴られて目が腫れたのだろう、片目だけ開いてボクを睨む。
もう一人は真っ黒な髪の子。茶髪の子よりまだ酷くないけど、肌見える箇所の殆どが殴られたり蹴られたりした跡がある。怯えながら、不思議そうにボクを見ている。
ボクはそんな彼女らに声を掛けた。
「逃げるで」
「「………えっ?」」
二人揃って声が出ていた。仲は良いのだろうけど、今はそんな事どうでもいい。
逃げると言っているのに、対した反応を見せない彼女ら。だけど、もたもたしていたら危険だからその子等の手を取って、来た道を逆戻りして走った。
「ちょっ!? な、なに!?」
「わわっ………!?」
いきなり走り出して転けそうになる彼女ら支えながら、早歩き程度に走る。ある程度慣れただろう頃には自分達で走り出してくれたけども…………もう少し距離を稼ぎたかった。
「あ! アイツら逃げたぞ!!」
「追えよ!」
あの阿呆等、ボクの襲撃から立ち直るとすぐにボク等を追いかけて来た。なかなかに良い足をしている。良いもの食べてる証拠だろう。
それに比べて手を引かれて走る彼女等はお世辞にも褒められたものじゃない。あんまり栄養を取れていなかったんだろう。細い腕が握ってるだけで折れそうだ。
当然、足も速くない。このままだと追い付かれる。
「君ら、このまま走り。真っ直ぐ進んだ山道に小ぃちゃな小屋があるから、そこに逃げ込むんや」
「え、アンタは……?」
「ボクは足止めや」
だからボクはそう彼女らに告げ、走るのを止めて後ろを振り返った。
「ほら、行き。せっかく逃げれるんや。逃げれる時に逃げとかんと」
背後で立ち止まった二人にそう声掛けた。
二人のうち、どちらかが何か言いかけた声が聞こえたが、それを遮るようにもう一人が声を被せた。
「一応、感謝はしとく」
「ほな、大事に貰っとく」
そう言うと二人が走って離れていく音が聞こえた。
同時に追い付いてきた彼等がゾロゾロとボクの前で立ち止まった。とても怖い顔で6人の子がボクを睨み付けている。
「お前、さっきはよくもやったな……!」
「お前もあの化物達と仲間か! 気持ち悪いんだよ!」
あらら。こんな初対面の子等に罵倒浴びせられるのは悲しなくなる。……嘘だけど。どうでもいい。
「………なに笑ってんだよ! 気味悪い目ぇしやがって!」
「ヅッ!」
頬に強い衝撃。ボクよりも体格のいい奴に思いっきりぶん殴られた。ボクのひ弱で軽い身体は簡単に吹き飛ばされた。口の中で鉄の味がする。後から来る口内炎が嫌だな。
倒れたボクは、今度は蹴られる。また蹴られる。踏まれる。
思ったよりも痛かった。慣れてるとは思ったけど、あの時は加減されていたのかもしれない。いや、僕が力を使っていないせいで年相応の耐久力になっただけか? あの酷い人達が手加減なんて甘い事しないだろうから恐らくそうだろう。
「親父が言ってたぞ!! アイツらは忌み子だって!」
「テメェ等みたいなやつがいるせいで、村がおかしくなっちまってるんだろうが!」
「ア"ッ!?」
痛い。
思いっきり踏まれた腕が変な方向に向いている。殴られた痛みとは違う、継続的な痛み。熱。冷や汗が止まらない。
でも、本当はどうでもいい。苦しいのは慣れっこだった。痛いのはもう諦めた。
生きるのに疲れた。ずっと要らない子だった。だから、最期に何か残したくて二人を助けた。
さっきの二人。あれは未来のボクだ。ボクもいつかここの住人に
そう考えるとあの二人には悪いことをしたかもしれない。この地獄に居続ける理由を作ってしまったのだからーーーー
「ーーーーなんや。コイツに殺されるよか、マシやろ」
見えた光景にボクは再び笑った。笑ってしまった。
ボクを蹴る少年等の一人。彼が突然消えた。蹴る彼等は気付かない。気付かずボクを蹴る、踏む。
また一人、消える。
その隣の子が異変に気付いたのか、後ろを向いた。そして、固まった。
「「ッ〜〜〜〜〜!!!!??!?」」
宙に浮く消えた二人の少年。それが身動きも取れない状況で苦悶の声を上げ、身体を引き千切られていた。
一人、また一人とボクの身体を蹴るのを止めて振り向き、その光景に動きが止まる。何もない空間に二人の仲間が苦しみながら身体を引き千切られる状況に、わけがわからなくなっているのだろう。
でもボクには見える。二人の身体を掴み、食い千切る異物。
目玉が三つに大きな口を持ち、毛むくじゃらな身体に熊よりも大きな腕と爪。口を開けて二人を貪り食うその姿はまさに怪物。
一般人には見えない、ボクのような異質な人間にしか見えない
この村に来てから時折感じていた呪力はコイツだったようだ。
『つぅぅうめたぁぁああぁぃぃぃぃぃ!!!!』
気色悪い雄たけびを上げる呪霊。ボクが何人いても倒せないだろうソイツ。
周りの子等も生命の危機を感じたのだろう。その呪霊を今更になってようやく見ることができたらしい。
「ひぃぃぃ!!!?!? ば、化物だぁぁああ!!!!」
我先にと逃げていく彼等。ボクは、彼等に蹴られて腕の骨が折れたのか立ち上がれない。つまり逃げられない。
そして残念なことに、逃げる彼らなど放っておいて呪霊は真っ直ぐボクを見ていた。元は人間だっただろう肉を何度も咀嚼しながら、その三つの目がボクを凝視する。何故かその視線は下卑た気持ち悪い色をしていた。
そして呪霊にとって食べ物を食べ切ると、漸く倒れて動けないボクに爪の尖った腕を伸ばしてきた。
食われるのだろう。
「………なんや、つまらん人生やったな」
生きるのに疲れたが、こんな死に方をしたいわけでもなかった。
でも、逃げられないから諦めが勝った。だから、そんな言葉が出たんだと思う。
「諦めるのは、まだ早いんじゃないかい?」
男の声が聞こえた。
直後、ボクを掴もうとした大きな手より更に大きな手が突然現れて、その呪霊を掴んでいた。
掴まれた呪霊は抵抗する暇も無く、その大きな手によってすり潰されていく。
ゴリゴリと音がして手足がある程度無くなると、突然黒いチリの塊みたいになって、ボクの頭上を流れていく。
「危なかったね。遅くなってすまない………怖かっただろう?」
その行く先を目で追いかける前にボクの身体が宙に浮いた。いや、誰かに持ち上げられたのだ。
持ち上げたのは、さっきから話しかけて来る男の声。黒い………変な形の服を着た、これまた変な前髪の胡散臭そうな男の人だった。
「さっきの………お兄さんのペットが、倒してくれはったん?」
「ああ。そして、私の呪霊が視えているようだね」
「………ってことは、お兄さんもあるんやろ? ………
あの家の人間か。それとも他の家の? 少なくともこの男の人はとてつもなく強い。それだけはボクにもわかる。なら、あの家の関係者の可能性も十分ある。
まだ気付いてないか? いや、呪力があることはバレてしまっている。
家に引き戻される? それとも、あの時みたいに暴力を振るわれる? でもボクにはもう抵抗する術はない。なら、バレないよう祈ることしか………
「安心すると良い。私は君に、危害を加えないさ」
だけど、彼はボクを見て………優しく笑った。先程の胡散臭い笑みが嘘だったかのように。
いつの間にか震えてたボクに気づいて、安心させるようにとても優しく微笑む彼。
その笑みに気が抜けてしまった。それとも、久しぶりに優しくしてもらったから信用してしまったのか。
「ボクは、ギン。ただの、ギンや。お兄さんの名前は?」
気付けば、ボクは彼に聞いていた。
「私は夏油傑だ。会えて良かった、ギン」
そう笑う彼にボクも本音を言った。
「スグル………変な名前やね」